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3/29/2008

脳内即興曲

ジャズに名曲はなく、名演奏あるのみ

と野川香文が言ったように、ジャズの特徴は、毎回違うアドリブ演奏にある。
では、そんなアドリブ演奏は脳のどこの活動に支えられているのか?

最近PLoS Oneに報告された論文によると、アドリブ演奏をする時、ちょうど額の奥に位置する前頭葉の一部がより強く活動することがわかった。

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研究では、ジャズミュージシャン(ピアニスト)の脳活動をMRIで測っている。そして、次の二つの条件で、脳活動を比較している。

第一に、いわゆる「コントロール」と考えているもので、4分音符をドレミという順番で弾く。あたえられた課題曲を弾いているのと等価と考えて良さそう。第二の条件は、「アドリブ」で、4分音符だけども自由なメロディーを弾く。

この2条件のときの脳活動を比較している。研究ではさらに、リズムの制約のなしで、コントロールとアドリブの脳活動も比較しているが、結果はほぼ同じだった。(なので、省略)

ちなみに、実際の演奏例がこちらにある。(特にAudio S4を。スウィングしてます!)

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では、スウィング中の脳(Swingy Brain?)はどこが活動するか?

論文のFigure3にまとめられている。暖色がアドリブ>コントロール、寒色がその逆。

まず、アドリブを弾いている時に強く活動した脳の場所はどこか?
前頭前野内側部(medial prefrontal cortex)なるところ、特にその先端(吻側)がより強く活動していたらしい。ここは「ブロードマンの10野」といわれるところでもある。

他には、感覚運動処理に関わるいくつかの場所も強く活動している。それから、論文ではそれほど強調していないが、小脳の一部も強く活動していた。

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逆に、アドリブ演奏時、活動が弱かったところはどこか?(あくまでコントロール時との比較)
意外かもしれないが、上の前頭前野内側部を除く前頭葉の広い部分の活動が、弱かった。逆に言うと、単調な課題曲を弾いた方が、前頭葉の広い場所で活動が増えていたことになる。

その前頭葉の広い部分には、前頭葉でよく研究されている背外側部、それから眼窩前頭前野、さらには、内側の後方全般、といったところが含まれる。

さらに、海馬や扁桃体といったいわゆる「辺縁系」といわれるところも、アドリブ演奏時に活動が弱かった。課題曲演奏時に比べて。

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この研究はいわゆるクリエイティビティに関わる脳活動を調べた研究と位置づけられそうだ。非常に面白い。

このデータをそのまま理解すれば、前頭葉の先端部分の活動を高めれば、アドリブ演奏のような創造的な活動ができるのかもしれない。

一方で、前頭葉が活動したからといって、創造性を鍛える方向で頭が良くなる、という考えはNGである、とも解釈できるかもしれない。なぜなら、アドリブ演奏時には広い前頭葉の活動が、単純な作業の時より活動が弱くなっていた、と解釈できるから。

非常に興味深い。

ちなみに、海馬などの辺縁系の活動が低かったことに関しては、解釈が難しいようだ。また、自分が読んだ限り、小脳の活動については何も議論していないようだが、もしかすると、伊藤正男先生が主張されてきたことと大いに関連があるかもしれないなどと思った。どうなのだろう?

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この研究、面白いが問題もありそうだ。
例えば、「創造」と「でたらめ」の区別。

今回の研究ではミュージシャンがやったから、あたかも創造的に弾いたと一意に解釈するのはそう無理はない。

が、より厳密に考えると、アドリブとランダム演奏は区別されるべきだが、それを「客観的」にはできていない。そもそもランダム演奏という条件を設定していない。アドリブとランダムを区別するためには、創造性を「測る」必要があるわけだが、創造性は単純なモノサシで測れる代物ではないから創造なのであって、大きな壁が存在する。

とにかく、今後このような研究はどんどん発表されるだろうが、創造性とは何か?どう評価するか?という問題がつきまとう気がする。脳科学ではこれまで一部の人しか真剣に考えてこなかった「脳の活動」をみんなで深く考えていかないといけないのかもしれない。

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文献
PLoS ONE. 2008 Feb 27;3(2):e1679.
Neural substrates of spontaneous musical performance: an FMRI study of jazz improvisation.
Limb CJ, Braun AR.
今回紹介した論文。

Nat Rev Neurosci. 2008 Apr;9(4):304-13.
Control of mental activities by internal models in the cerebellum.
Ito M.
最近、伊藤正男先生が書かれた総説。
内部モデルのコンセプトを発展し、小脳におけるメンタル活動について、実験事実を踏まえながら仮説を展開、そして精神疾患との関係についても考察されている。自分が読んできた範囲の文献で、小脳は意外な場面でよく顔を出すと思っていたが、その理由を考える上でも非常に参考になる気がした。

wikipediaのCreativityという項目もなかなかお薦め。

さらに、自分が知っている範囲では、Zekiもcreativityに関連するエッセーを書いている。

3/15/2008

EarthとBrainの相似性

地球上にはいろんな美しい地形がある。
そんな地形をGoogle Earthを使って旅できる。
(方法:このページのリンクからplacemarkファイルをダウンロードし、Google Earthで旅する。)

そんな地形を見ていると、脳のことを知っている人は「眼優位性コラムocular dominance column)」を思い出すかもしれない。イメージはこちら
脳のシワを想像する人もいるかも。

EarthとBrain。

スケールは違うけど、ちょっと似ているところもある?

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参考文献
Trends Ecol Evol. 2008 Mar;23(3):169-75. Epub 2008 Feb 5.
Regular pattern formation in real ecosystems.
Rietkerk M, van de Koppel J.
あのアラン・チューリングが初めて言い出したらしいscale-dependent feedbackというルールで、地形の規則的パターンの形成を説明できる、と主張しているようだ。非常に興味深い。

3/08/2008

効率的な学び方

最近サイエンスに掲載された論文によると、同じことを反復して学ぶより、思い出す方を重視した方が良いらしい。

研究では、外国語単語の勉強(覚える)と試験(思い出し)をするとき、各単語について、
1.繰り返し勉強・繰り返し試験
2.繰り返し勉強のみ
3.繰り返し試験のみ
4.一回きり勉強と試験
という条件で成績を比較している。
すると、1が良いのは良いとして、2,4より3の条件が良かったらしい。さらに、1と3の結果は同じだった。つまり、一旦覚えたら、再勉強はあまり効果はないと解釈できる(一方、2と4の結果は同じくらいひどかった)。

さらに、1の場合、勉強と試験の両方をやるから、3の方が時間を節約できる。なぜなら再勉強時間はいらないから。ということで、一回勉強したことは、思い出すことにウェイトをおいた方が効率的、ということになる。

もちろん、現実社会では、なかなか「勉強」と「試験」を明確に区別できないかもしれない。けど、次の例はどうだろう?

例えば、資格試験の勉強をする時。
一通り教科書を読んだら、教科書を繰り返し読むより、練習問題を解き漁った方が良い、と考えられる。(それで本番の試験に落ちたら、、、この論文の著者たちにクレームしてください。。。)

例えば、統計の勉強。
教科書で一旦統計の基礎知識を身につけたら、実際にその知識を使う問題に取り組んだ方が良いかもしれない。これは経験的に真のような気がする。

では、スポーツはどうだろう?
練習だけたくさんするより、ゲームで実践感覚も身に付けたほうが良い。とよく言われることと近いかもしれない?

とにかく、一旦理論を身に付けたら、理論を繰り返し学ぶより実践重視にシフトした方が、結果的には、身に付けた理論の定着には良いのかもしれない。

リアルワールドや脳は、そう単純ではないにしても、信じるものは救われる。。。

今回紹介した論文
Science. 2008 Feb 15;319(5865):966-8.
The critical importance of retrieval for learning.
Karpicke JD, Roediger HL 3rd.

2/09/2008

Rhythms without the Brain

周期的に変化する環境に対して、とある生物がその周期的な変化を読み取って予測的に対応できたとしたら、その生物は「知的だ」と言って良いのではないか?北大の研究チーム最近報告した研究によると、アメーバ(粘菌・変形菌)が、環境の周期的な変化を記憶・期待しているかのように振る舞うことがわかった。

その研究で調べたPhysarum polycephalum変形菌(粘菌)の一種で、多核細胞の「スライム」だ。通常、乾いた環境になると、その粘菌の動きは遅くなる。そこで研究では、粘菌の生息環境の乾き具合(温度と湿度)を実験的に変化させて、粘菌の動く速さを測っている。


粘菌の「期待」
乾いた環境にすることを、例えば1時間周期で三回繰り返す。その時、その1時間周期のリズムにあわせて、粘菌の動きが遅くなる。さらにその後、粘菌がどう動くか調べたところ、まるで1時間周期のリズムを覚えたかのように、同じリズムで動きを変化させる(遅くする)ことがわかった。環境変化は実際には起こっていないのに、周期的な変化をまるで期待しているような動きを粘菌がみせた。


粘菌の「記憶」
続いてその研究では、その周期的な環境変化を起こした7-10時間後に、再び1回だけ乾いた環境にしている。面白いことに、その時は1回しか環境を変化させていないのに、7-10時間前に起きた1時間周期のリズムをまるで記憶して期待しているように動きが周期的に遅くなることがわかった。


粘菌の中のリズム
さらにこの研究では、この現象を説明する力学モデルを提唱している。そこでは、それぞれ異なるペース(周波数)でリズムを刻んでいる複数の振動子を仮定している。実際に粘菌は様々なリズムで動くのに基づいている。そのモデルは、その様々な動きを実現するための化学反応が粘菌内部で起こっている様子をイメージすれば良い。粘菌の中にいろんなリズムでスウィングしている振り子がたくさんいて粘菌本体の動くペースを決めているイメージ。


リズムと「期待」
そのモデルで環境変化を起こすとどうなるか?

環境変化によって、バラバラだった振動子たちの「位相」(振り子の場所)が揃う。その環境変化がリズムを持っていれば、振動子たちはそのリズムにあわせてシンクロする。振動子たちが一旦リズムを刻みだすとしばらくそのリズムが維持される。

これは、1時間周期で3回乾いた環境に変化させた後、しばらく粘菌の動きがリズムを刻んだ現象を再現したことになる。


リズムと「記憶」
では、しばらくした後に1回だけ環境変化を起こした後、どうやって粘菌は予測的な動きができたか?

その振動子のモデルが一つの解決策を教えてくれる。そのモデルでは、もともと異なる周波数で振動する振動子が複数いた。周波数Aで振動する振動子たち、周波数Bで振動する振動子たち、、、。上述のように、周期的な環境変化を繰り返したら、振動子たちの位相が一旦揃う。しかし、振動子たちはもともと異なる周波数でリズムを刻んでいるから、環境変化がないとすぐに位相がずれてしまう。

一方、同じ周波数で振動する振動子グループの場合、一旦揃った位相はなかなかズレない。もともと位相こそ違えど、同じペースで振動していたから。

その振動子グループごとに位相を揃えた状態で再び環境の変化が一回でも起こると、簡単にすべてのグループの位相が揃いやすくなる。こうして、粘菌の記憶的・予測的な動きを説明できるのではないか、とその研究から考えられそうだ。

ここでは、振動子たちのシンクロしたリズムが「予測」を、振動子グループが一旦位相を揃えたことが「記憶」に対応する。


知的な「脳ナシ」
もちろん、実際の粘菌の中でそのような振動子に対応する化学反応が起こって粘菌の動く早さを決めているかはよくわからない。これは今後の研究の課題になるだろう。

さらに、そのような粘菌の記憶・期待のような能力が、自然界で生きていく上でどう役立っているのか、それも今後の課題だろう。いずれにせよ、粘菌が外界に対して適応的に振る舞えるポテンシャルを兼ね備えているのは間違いないようだ。

最後に、この粘菌の「知性の源」がヒトの知性と進化的にどうつながるのか、今後の研究が注目される。

知的に振る舞うには、必ずしも脳はいらない。


参考文献・参考情報
Phys Rev Lett. 2008 Jan 11;100(1):018101. Epub 2008 Jan 3.
Amoebae anticipate periodic events.
Saigusa T, Tero A, Nakagaki T, Kuramoto Y.
今回紹介した論文情報。このグループは以前、粘菌が迷路の最短経路を解けることも発見している。

Nature. 2008 Jan 24;451(7177):385.
Cellular memory hints at the origins of intelligence.
Ball P.
ネイチャーで紹介された記事(直リンク)。「同期現象」で有名なStrogatzのコメントも紹介されている。

変形菌の世界 : 国立科学博物館 植物研究部

変形菌の見つけ方・飼い方なども紹介されていて超充実。

「振動子」のイメージを得るには、フーコーの振り子(ウィキペディア)

12/08/2007

人工内耳と脳の適応 パート1: 人工内耳とは?

人工内耳と脳の変化・可塑性をテーマに少し調べてみる。
今回はまず人工内耳そのものを中心に説明する。後半少しと次回、人工内耳と脳の可塑性のテーマを扱おうと思う。

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そもそも人工内耳とは何か?

人工内耳cochlear implant)は、失われた聴覚機能を取り戻すための装置のこと。現在、世界中で11万人以上の人がその恩恵を受けていて(文献)、小さな子供から大人まで、幅広い年齢層に適用可能。静かな環境なら、健常者とほぼ同等に会話を認識できるまで回復するケースもあるそうだ。

この人工内耳は、内耳の蝸牛cochlea)にある聴覚神経auditory nerve )を電気的に刺激し、音の信号を脳まで伝える手助けをする。最近注目を浴びている神経プロスセティックス(neuroprosthetics)の中で、50年以上の歴史を持つ先駆的かつ最も成功している例でもある。

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では、人工内耳はどう機能するか?

英語版ウィキペディアにかなり詳しい解説がある。この記事によると人工内耳は次のパーツから構成される。

マイクロフォン・・・空気の振動をキャッチして電気信号に変換する。
スピーチプロセッサー・・・電気信号にフィルターをかけて、適切な音信号に整える。
トランスミッター・・・プロセッサーで処理された音の信号を、電磁誘導を利用して内部装置(レシーバー?)へ伝える。

レシーバーとスティミュレーター・・・受け取った信号を、神経を刺激するための電気信号に変換する。
電極・・・最大22本で、直接聴覚神経を電気的に刺激する。


音はどう処理されて聞こえるか?
通常、音の振動情報は、まず内耳の蝸牛で電気信号に変換される。その際、蝸牛の有毛細胞
hair cells)が音の振動情報を電気信号に変換する。そして、その電気信号が聴覚神経を伝わり、脳内のいくつもの神経核での処理を経て、最終的には大脳新皮質、特に聴覚野へ伝えられる。その結果、音が「聞こえる」、と考えられる。

大雑把にまとめるなら、
音による振動→有毛細胞→聴覚神経→神経核→大脳新皮質
と書いて間違っていないか。

その入り口の蝸牛(多くは有毛細胞)に、先天的、あるいは後天的に異常が生じて聴覚障害を負った場合、なおかつ、聴覚神経そのものは機能できる場合、この人工内耳は威力を発揮する。つまり、音の振動信号から神経パルスへ変換する部分に異常が生じただけなら、その変換部分を人工内耳と置き換えよう、というロジックである。

つまり、
音による振動→人工内耳→聴覚神経→神経核→大脳新皮質
という聴覚信号の新しい流れを作ることで、人工内耳は機能する。ちなみに、補聴器は音の振動を単に増幅する(大きくする)だけなので、音の情報の流れを変えるわけではない。発想が全く違う。

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では、人工内耳を取り付けると脳の中でどんな変化が起こるのか?

新しい情報の流れができたら、脳が受け取るべき信号は、本来受け取る信号とは若干違うはず。それでも聴覚機能が回復するということは、その人工内耳からの信号に脳が何らか適応しているはずである。脳が変化しているはずである。脳が潜在的に持っている脳力を発揮しているはずである。

脳がどれくらい・どのように変化するのか詳しくわかれば、より効果的な人工内耳による聴覚機能の回復法を考えることができるかもしれない。

最近オンラインで公開された「人工内耳と脳の可塑性(Cochlear implants and brain plasticity)」というタイトルの総説に多くの情報が集約されている。そこでは、人工内耳と脳の可塑性に関連した実験証拠がいくつも紹介されている。主に大脳新皮質の聴覚野、その中でもはじめに聴覚信号を処理する一次聴覚野での可塑性に注目している。

そこでは次の3つのトピックを扱っている。
1.動物実験に注目した一次聴覚野の変化
2.実際に人工内耳を取り付けた方の臨床報告
3.ピッチ知覚(音の高低の知覚)、会話の知覚を調べた心理物理実験と聴覚野の変化との関係

これらの3つのトピックに関する膨大な研究を集約している。

それらの研究結果から総合すると、直接的な因果関係はわからないにしても、聴覚野の変化と人工内耳による聴覚機能の回復に対応関係があるのはコンセンサスが得られていると思ってよさそうである。

今回はここまで。
次回は動物実験に注目して、具体的な研究を紹介しようと思う。できれば、人工内耳以外の聴覚系神経プロスセティックスの話も扱おうと思う。

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参考情報

Hear Res. 2007 Sep 1 [Epub ahead of print]
Cochlear implants and brain plasticity.
Fallon JB, Irvine DR, Shepherd RK.

上で少し紹介した総説。膨大な研究がまとめられている。決して読みやすいとは言い難い。が、人工内耳と脳の可塑性の情報を知るには良い情報源になる。

やはりウィキペディア。特に英語版の充実ぶりは感動的。
例えば、

cochlear implant
sensorineural hearing loss
cochlea
hair cell
auditory system
neuroprosthetics

各ページ上のリンクからさらに情報を調べられる。

11/29/2007

記憶と危険な分子

「記憶と分子」というテーマに絡んだ論文で、最近目に留まったトピックを二つ。

メラトニンと夜間学習の非効率性
メラトニンの働きを抑えれば、学習効率が上がるかもしれない。

最近サイエンスに掲載された論文。夜に放出量が高まるメラトニンのせいで学習効率が落ちる、ということを示した論文。メラトニンは脳の松果体pineal gland)というところで産出される物質で、サーカディアンリズムと同調して放出量が変化する。研究では、昼間に行動するゼブラフィッシュをモデル生物として選び、メラトニンの情報伝達が夜間学習の非効率性を説明するのに、必要かつ十分だということを明らかにした。

人でどれくらい当てはまるかはもちろん不明だし、なぜ・どうやってメラトニンが学習の邪魔をするのかも不明。風が吹けば・・・の「風」の一つにメラトニンあり、という感じか。けど、もし人でも当てはまるとすると、一夜漬けほど効率の悪い勉強法なし、ということになるか。

文献
Science. 2007 Nov 16;318(5853):1144-6.
Melatonin suppresses nighttime memory formation in zebrafish.
Rawashdeh O, de Borsetti NH, Roman G, Cahill GM.


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ZIPで記憶消去

サイエンスに、しかも2年連続で出ているネタ。

PKMzなるタンパク質(PKCというタンパク質の触媒部位)の働きを抑えるZIPというケミカルがある。そのケミカルを脳に投与すると記憶喪失のような状態になることがわかってきた、という話。

昨年の論文では、海馬。最近の論文では、大脳新皮質での研究。ラットの脳にZIPを直接投与して、長期記憶に対する効果を調べたら、大雑把に言うと、記憶が消えることがわかった。

ポイントは、PKMzの働きが阻害されると、記憶ができてから数週間から1ヶ月という長期記憶までもが阻害されるという点。従来のドグマは、短中期:タンパク質合成・修飾など→長期:神経回路の構造的変化、とでも言ったら良かったわけだけど、そう単純ではないかも?という問題を提起したところが超面白い。つまり、長期記憶のフェーズでも特定のタンパク質の活性が大事ですよ、ということになるか。

逆のケミカル、つまり、長期記憶増強剤が見つかると大儲けできそう。(いろんな副作用がありそうだけど。。。)
少なくとも、「過去の記憶をすべて消して真っ白になりたい」と危険な希望を持っている人には朗報かも?

文献
Science. 2006 Aug 25;313(5790):1141-4.
Storage of spatial information by the maintenance mechanism of LTP.
Pastalkova E, Serrano P, Pinkhasova D, Wallace E, Fenton AA, Sacktor TC.

記憶の基礎となる現象の長期増強(
LTP)。海馬のLTPZIPによって抑えたら、海馬が関わる空間学習が阻害されたという話。この時点では、生きた脳でのLTPと学習の関係を示したという点で注目を浴びたのではないかと思われる。

Science. 2007 Aug 17;317(5840):951-3.
Rapid erasure of long-term memory associations in the cortex by an inhibitor of PKM zeta.
Shema R, Sacktor TC, Dudai Y.

こちらの論文がより重要。味覚の条件付け学習の長期記憶には島皮質が関わっていて、そこに
ZIPを注入したら、1ヶ月前の記憶すら消えてしまう、という恐ろしい話。

11/25/2007

自分の脳活動を覗いてコントロールする:リアルタイムfMRI

例えば何かを体験している時、自分の脳のどこがどう活動しているのか?
そんな脳の様子を自分自身で覗くことはできないか?
自分の脳を自力でコントロールできるようにはならないか?

そんな疑問・望みに一歩近づけるかもしれない技術がリアルタイムfMRI

fMRIは、脳活動に伴って起こる血流の変化を検出して、非侵襲的に脳活動を計測できる技術。それを「リアルタイム」でやって、脳のここがこれくらい活動している、という情報をその脳の持ち主に教えてやろう、という技術がリアルタイムfMRI

現時点では、実際の脳活動が起こってからその結果を知るまでには、10秒近くかかる。原理的にどう頑張っても数秒の遅れは必ず出る。だから、ここでの「リアルタイム」というのは、遅れはあるけど、連続的に脳活動を計測・解析し続ける、という意味に近い。「まさに今」、という意味のリアルタイムではない。

それはともかく、そんな面白い技術が今注目を浴びていて、例えば、自分の脳活動を知ることで痛みの感じ方が変わったり、トレーニングによって自分の脳の一部をコントロールできることがわかってきた。

そんなリアルタイムfMRIに関する総説がTrends in Cognitive Neuroscienceに掲載されている(こちら)。そこでは、リアルタイムfMRIの原理と限界、技術的課題の話からその実践例、そして将来の応用性についてまとめられている。

自分の脳活動の一部を自分でコントロールする術を身につけることで、医療に役立てたり(例えば慢性痛、一部の精神疾患の治療)、脳機能の向上に結び付けたり、さらには脳の働き方をより深く理解しようというわけだ。

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参考文献

Trends Cogn Sci. 2007 Nov;11(11):473-81. Epub 2007 Nov 7.
Reading and controlling human brain activation using real-time functional magnetic resonance imaging.
deCharms RC.

今回紹介した総説。
MRIのことに詳しくなくても読めるようにわかりやすく書かれている。関連文献の宝庫でもある。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Dec 20;102(51):18626-31. Epub 2005 Dec 13.
Control over brain activation and pain learned by using real-time functional MRI.

deCharms RC, Maeda F, Glover GH, Ludlow D, Pauly JM, Soneji D, Gabrieli JD, Mackey SC.

上の総説と同じ著者による研究。
リアルタイム
fMRIによって痛覚が変化することを示した論文。具体的には、rostral anterior cigulate cortex(rACC)の活動をリアルタイムでコントロールするようにトレーニングすると、痛みの程度とrACCの活動を連動させられるようになることがわかった。さらに、慢性痛の患者さんが同様のトレーニングをすることで、痛みが和らぐことに成功した。

J Neurosci. 2007 Jul 11;27(28):7498-507.
Direct instrumental conditioning of neural activity using functional magnetic resonance imaging-derived reward feedback.
Bray S, Shimojo S, O'Doherty JP.

リアルタイム
fMRIを使って、自分の脳活動を学習によって変化させられることを示した論文。具体的には、体性感覚野の一部の活動があるレベルに達したら報酬を与えるように実験参加者をトレーニングしたら、できました、という内容。有名なFetz実験のリアルタイムfMRI版。

Neuroreport. 2004 Jul 19;15(10):1591-5.
Brain-computer interface using fMRI: spatial navigation by thoughts.

Yoo SS, Fairneny T, Chen NK, Choo SE, Panych LP, Park H, Lee SY, Jolesz FA.

リアルタイム
fMRIをブレーン・コンピューター・インターフェースとして応用した研究例。

Magn Reson Med. 1995 Feb;33(2):230-6.
Real-time functional magnetic resonance imaging.

Cox RW, Jesmanowicz A, Hyde JS.

オリジナルのコンセプトを唱えた論文。

10/20/2007

心トレ:パート1


先日、ダライ・ラマ14世がブッシュから賞をもらって話題になった。

実は最近、マンハッタンのラジオ・シティー・ミュージックホールで講演会を開催していたそうで、ニューヨークタイムズ紙によると、このほかにもこっそりマンハッタンを訪問しているとか。

実は、ダライ・ラマは、脳科学にも絡んでいる。
今回はそれをネタのきっかけにしてみる。

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神経科学者の自分にとって、最も記憶に残っているダライ・ラマ関連の出来事は、おそらく2年前、ワシントンDCで開催された学会の講演会。チベット仏教のトップが、アメリカの神経科学学会に登場した。なかなかすごいことだ。

少し調べてみると、実は、その前から神経科学者と絡んでいることがわかる。

4年前のサイエンスに掲載された記事によると、MITで開催されたミーティングで、ダライラマが登場している。そのミーティングでは、神経科学者とダライラマを含む仏教徒が参加して、今後の「心の科学」について議論を繰り広げたようだ。

この記事でも少し紹介があるが、少なくともこの頃から、仏教、瞑想(meditation)が超まじめな研究対象になりつつある。

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ということで、瞑想と脳の関係を調べた研究をいくつかピックアップしてみる。

仏教の修行僧と普通の人の脳の働き方はどう違うのか?
普通の人が瞑想に取り組むと、どんなメリット(御利益)がありそうか?

そんな問題に取り組んだ科学的な研究が、いくつか見つかる。
今回は、前者の修行僧の脳に関する話。

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修行僧の脳活動~高まるガンマ波

瞑想のベテランの脳活動を凡人と比較しよう、という研究がある。
Richard J Davidsonの研究グループが、2004年2007年に論文を発表している。

いきなり横道にそれるが、このグループにMatthieu Ricardが共同研究者として参加している。実はこの人、上のサイエンスの記事によると、分子生物学で博士号を取った後、「出家」。その後チベット仏教徒になったそうだ。つまり、仏教徒と神経科学者(Davidson)の強力なリンクとなっている。

「余剰」な博士号取得者を抱えている昨今、研究者をやめて出家したり、全く別の業界へ進路を変える人が増えるのは、実は、数十年後に全く新しい科学とリンクができる種になったりするのかもしれない。。。大きく脱線。

話を戻す。

そのDavidsonたちの2004年の論文では、瞑想中の修行僧から脳波を計測している(宗教家がヘッドギアをつけている様子をイメージすれば良い?)。すると、瞑想中、凡人より強いガンマ波が観察されたそうだ。

研究では、1週間だけ瞑想トレーニングを行った一般人とガンマ波を比較している。ちなみに、修行僧の強いガンマ波は、前頭葉と頭頂葉で観察された。さらに、瞑想の修行期間が長いほど、そのガンマ波が高まることも明らかにしている。

一般的に、ガンマ波は、寝てる時でも多少発生する脳のリズムだが、特に、注意、知覚など、いわゆる脳が高度なことをやっている時に強く発生すると考えられている。そんなガンマ波が、修行僧では瞑想と同時に強く発生しているようだ。そして、修行を重ねるほど、そのガンマ波は強くなる。

修行僧は、瞑想中、高レベルの集中ができていて、それに合わせて強いガンマ波が出ている、と理解すればよいか。

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修行僧の脳活動~修行による省エネ化と不動心??

最近発表された2007年の論文では、MRIを使って脳活動を計測している。

まず、修行僧と瞑想未経験者との脳活動を比較している。これは上の研究と近い。

さらに、もう一グループの一般人の脳活動も調べている。そのグループでは、特定の脳領域を活動させることができた人、その上位者には賞金が与えられる。瞑想中のモチベーションを高めるためらしい。(修行僧のモチベーションとは全然違いそうだが。。。)

そんな3つのグループで瞑想中の脳活動を調べると、集中力を維持する時に活動するとされる脳の場所のうち、一部の活動が修行僧で高まっていることがわかった。面白いのは、修行僧を、修行期間の長さによって、「熟練者」と「未熟者」に分けて調べたときの結果。意外にも、熟練者の脳活動は、凡人のそれに近いことがわかったようだ。

つまり、集中力維持に関わる脳の活性度と、瞑想の修行時間との関係の変化は、逆U字型になる。修行時間と共に、活性度が上がって、下がる、ということになる。

もっと噛み砕くとこう(*正確な表現に欠けています。)、

修行フェーズ1:はじめ、なかなか脳を活性化できない。集中できない。
修行フェーズ2:脳が活性化する。集中力も高まる。
修行フェーズ3:無駄な労力(脳活動)を省いて集中力を維持できる。

この研究ではさらに、瞑想中に、音を鳴らして、脳がどう反応するかも調べている。結果は込み入っているが、扁桃体の反応だけ取り上げてみる。扁桃体は不安・恐怖などどちらかというと負の感情と密接に絡む場所。

不安をあおる音を鳴らした時の扁桃体の活動は、修行僧の方が一般人より低いことがわかった。さらに、修行期間が長いほど活動しなくなるようだ。特に、右半球の扁桃体でその傾向が見つかった。

解釈は難しいが、例えば、扁桃体は学習にも関わるので、修行が足りない人ほど活動した、という解釈は一応矛盾はしない。

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研究の問題点

この二つの研究、いろんな問題を抱えていて、荒削りな感じ。なので、どこまで信用して良いかは、今後の研究を待たないといけない。

例えば、修行時間と脳活動との関係を調べたデータ。
修行時間が長いということは、それだけ高齢ということにもなりそう。
とすると、修行時間が長いと、どこどこの脳活動がどうこう、というデータ、ひょっとしたら、単に加齢による脳活動の変化でしかない、という可能性もある。その可能性を全く排除できていない。

他には、どの(誰の)脳活動と比較すべきか、という問題もありそうだ。
長年修行を続けた人は、一般人とは全く違う環境で生活してきたわけで、年齢をそろえて比較すれば良い、という単純な話ではないかもしれない。特に
MRIで計測している信号は、血流の変化と直接的には結びつくだろうから、長年の食文化の違いなど、粗を探せばきりがない気もする。

今後は、そういった問題もクリアしながら、何が本当で何が間違っているか、はっきりさせていく必要がありそうだ。

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二つの論文から学ぶこと

最後に、結果を真に受けて、少し想像力を働かせて考えてみる。

上の二つの研究では、脳波計測、MRIという異なる方法を採用している。

今仮に、脳波は、神経細胞たちのリズム・協調性を反映していると考えてみる。
一方、
MRIで計っている脳活動は、脳の何らかのエネルギー消費量を反映していると考えてみる。

前者の2004年の研究では、「悟り」に近い(修行時間が長い)程、高いガンマ波が見れ、後者の研究では、エネルギー消費量はむしろ少ないという結果を得ている。脳は活動するほどエネルギーを消費しそうだから、一見、矛盾するような気もする。

けど、ひょっとしたら、「高いガンマ波」とは、神経集団の協調性が非常に高まっている状態かもしれない。とすると、「悟り」に近い修行僧の脳では、相当の省エネ化が進んで、意図的に脳を高効率で働かせることができるようになっているのかもしれない。もしそうだとすると、二つの結果は矛盾しないように思える。

さて、そんな「スーパーエコノミー脳」を作るには、どれくらい修行が必要か?

論文によると、平均で44,000時間の瞑想トレーニングした修行僧で、「省エネ化」が見られている。ということは、寝食わずで5年強修行すれば良いことになる。一日2時間のトレーニングを毎日続けるとしたら、なんと60年。出家しろ、ということらしい。。。

それはともかく、修行僧は内観能力に長けている気もする。とすると、一人称的な主観的報告と、脳活動という客観的データとの対応関係を掘り下げて調べていく研究として、なかなか魅力的な研究のような気もする。今後の研究に注目しておきたい。

次回は、スーパーエコノミー脳にならなくとも、瞑想が一般人にどんな御利益をもたらすのか、それを科学的に調べた論文を読んでみる。

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参考文献

Science. 2003 Oct 3;302(5642):44-6.
Buddhism and neuroscience. Studying the well-trained mind.
Barinaga M.

ダライラマも参加したMITで開催されたミーティングの紹介記事。今回紹介したDavidsonRicardの研究も登場する。なかなか示唆に富んでいて面白い。

Ricardによると、世捨て人は実験に参加したがらないそうだ。。。わかる気もする。とすると、実験に参加している人は、修行が足りない??

Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Nov 16;101(46):16369-73. Epub 2004 Nov 8.
Long-term meditators self-induce high-amplitude gamma synchrony during mental practice.
Lutz A, Greischar LL, Rawlings NB, Ricard M, Davidson RJ.

2004年の脳波計測の論文。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Jul 3;104(27):11483-8. Epub 2007 Jun 27.
Neural correlates of attentional expertise in long-term meditation practitioners.
Brefczynski-Lewis JA, Lutz A, Schaefer HS, Levinson DB, Davidson RJ.

今年発表されたごく最近の論文。上で紹介した他にもいろんなデータを記載している。

James H Austinの本2冊。
Zen-Brain Reflections: Reviewing Recent Developments in Meditation and States of Consciousness

Zen and the Brain: Toward an Understanding of Meditation and Consciousness

2冊ともまだ読んでいない。けど、禅と脳科学との関係を議論した本として有名なので一応紹介しておく。前者の本は、昨年出版された本で、後者の第2版的な内容になっているようだ。

10/06/2007

バクテリアと脳の進化

今回は少し気楽なエントリーに。

主なメッセージは、脊椎動物の脳が持っている一部の機能は、バクテリアに由来するかもしれない、ということ。なんとなく怪しい匂いがするが、ひょっとしたら、ひょっとする。

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今回のエントリーのキーワードは、遺伝子水平伝播
まずその話をして、後半、脳科学から「脳内ホルモン」というスパイスを絡めようと思う。

遺伝子水平伝播」、英語では、horizontal gene transferlateral gene transferと呼んで、HGTと訳す。以下、HGTと呼ぶことにする。日本語wikipedia英語版にもエントリーがある。

普通、遺伝子は親から子へ伝わる。その「垂直」方向に対し、HGTは、「水平」方向、つまり似た種、似てない種間でDNAが伝わる。バクテリアや古細菌(archaea)では、頻繁に起こっている。

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このHGTについて面白い記事・論文を探してみる。
例えば、
GoldenfeldWoeseという人が、ネイチャーに寄せたエッセーがある。

このエッセーによると、HGTは、種(species)、生命体(organism)、進化(evolution)のコンセプトを揺るがす、とある。ちょっと極論な気もするが、それくらい重要なコンセプトなようだ。

そのエッセーの中身を見てみる。

まず、「種の危機」について。
確かに、バクテリア間で
HGTが起こりまくると、バクテリアのゲノムはモザイク状になって、種という定義がもはや成り立たなくなる、という主張は一理ある。

「生命体の危機」については、ウィルスの例を取り上げている。確かに、一ウィルスのアイデンティティは?に対する質問、専門家でも答えるのに困りそう。

進化について。HGTはダーウィン的な進化の話とは、文字通り90度違う。

それを受けて、いろんな分野を融合させ、こういう新しいコンセプトを語るための言葉を考えて、科学そのものを進化させよう、というのがこのエッセーの論旨になっている。

最後に、現代化学の父、ラボアジエAntoine Lavoisierの言葉を引用している。

We cannot improve the language of any science without at the same time improving the science itself: neither can we, on the other hand, improve a science without improving the language or nomenclature which belongs to it.

科学自身が発展しない限り科学を記述する言葉の発展もないし、逆にその言葉が発展しない限り科学の発展もない。

科学と言葉の共進化か。

とにかく、HGTが起こる以上、進化を扱う学問と、それを扱う言葉を発展させんといかん、ということを言いたいエッセーのようだ。

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より具体的な例を挙げてみる。

最近サイエンスに掲載された論文によると、Wolbachia pipientisというバクテリアからハエや線虫へ大規模なHGTが起こったらしい。つまり、多細胞生物でHGTが起こった例、ということになるのだろう。

かなりインパクトのある研究のような気がする。この分野の専門家はどう評価しているのだろうか。

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さて、ここまでは、脳科学とは無縁の話のような気もする。バクテリアと脳は、月とすっぽん、という声も聞こえてきそうだ。

けど、重要なリンクが実はある。
おそらく脳科学の七不思議のひとつと言っても良いくらいおもしろい問題がある。(少しトンデモな匂いがしてきたか?)

それは、一部の神経伝達物質の由来。アミノ酸から神経伝達物質への合成経路の進化。

例えば、メラトニン
これは、ハエや線虫では合成できない。

セロトニンからメラトニンを作るのに必要なAANATなる酵素を、ハエや線虫は持っていない。他にもそのような酵素がいくつか知られている。

これだけなら、何も驚きではない。

けど、ハエが持っていないAANATを、バクテリアが持っている。
バクテリアは、ハエより脊椎動物に近いわけはない。

なぜか?

可能性は二つありそう。
第一に、遺伝子のロス。ハエや線虫では、
AANATといった遺伝子を、進化の過程でロスった可能性。

そして第二の可能性が、HGT

線虫やハエで大規模な遺伝子ロスが起こったという話もあるようで、それは前者の可能性をサポートする。けど、上の例のように、バクテリアから多細胞生物への大規模なHGTも起こりうることがわかった以上、どっちもありそうな話。(裏付けるには、少なくとも、脊索動物・脊椎動物へHGTが起こる証拠が必要)

この情報源の2004年に発表された総説では、HGTが起こった可能性を排除するのは難しい、という見解だ。

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そのAANATについて、最近の動向をちょっと調べてみた。

例えば、昨年発表された論文では、AANATの遺伝子配列をいろんな種で調べて、確かにバクテリアから脊索動物(chordates)へHGTが起こった、という説をサポートしている。

HGTによって新しい機能を獲得した例ではないか、としている。

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話を一気に飛躍させて、バクテリアからヒト(正確には、Homoか?)へのHGTはなかったのか?

これだけゲノムがわかってきたわけだから、マウス、マカク、チンパンジーは持ってないけど、ヒトとバクテリアだけがシェアしている遺伝子、塩基配列が見つかったら面白い気がする。

そういうことを調べた研究はありそうな気もするが、どうなのだろう。

HGTによって脳の肥大化がトリガーされた説。HGTによるHomo化説。
ウィルス進化論に対抗して、バクテリア脳進化論。(広義には、ウィルスからのHGTもありだから新しくないか?)

これをネタに、トンデモ本とか書けそうな気もする。。。あまり「無菌、無菌」を強調すると、脳の進化が止まるリスクあり、といったクレイジーなことを唱えてみたり。。。

この分野のプロでもないのに、トンデモなエントリーになってきたので、このあたりでやめます。。。

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まじめに、

参考文献

Nature. 2007 Jan 25;445(7126):369.
Biology's next revolution.
Goldenfeld N, Woese C.

ネイチャーに掲載されたエッセー。ただし、これに対するコメントもある。

Science. 2007 Sep 21;317(5845):1753-6. Epub 2007 Aug 30.
Widespread lateral gene transfer from intracellular bacteria to multicellular eukaryotes.
Hotopp JC, Clark ME, Oliveira DC, Foster JM, Fischer P, Torres MC, Giebel JD, Kumar N, Ishmael N, Wang S, Ingram J, Nene RV, Shepard J, Tomkins J, Richards S, Spiro DJ, Ghedin E, Slatko BE, Tettelin H, Werren JH.

バクテリアから多細胞真核生物へHGTが起こったことを示した、ごく最近の研究。

Trends Genet. 2004 Jul;20(7):292-9.
Evolution of cell-cell signaling in animals: did late horizontal gene transfer from bacteria have a role?
Iyer LM, Aravind L, Coon SL, Klein DC, Koonin EV.

お薦め。神経伝達物質の合成経路の進化を考える上では必読。

Mol Cell Endocrinol. 2006 Jun 27;252(1-2):2-10. Epub 2006 May 11.
Evolution of arylalkylamine N-acetyltransferase: emergence and divergence.
Coon SL, Klein DC.

こちらも。

メラトニン合成経路の酵素AANATのシーケンスをいくつかの種で調べて、HGTが起こった可能性に触れている。論文の導入部分など、非常に読みやすい。個人的には、論文中図1がgood

Curr Biol. 2003 Dec 16;13(24):2190-5.
EST analysis of the cnidarian Acropora millepora reveals extensive gene loss and rapid sequence divergence in the model invertebrates.
Kortschak RD, Samuel G, Saint R, Miller DJ.

ハエや線虫という遺伝学のモデル生物では、大規模な遺伝子ロスが起こった可能性を指摘した論文。

9/08/2007

覚える時、思い出す時に活躍する細胞のあぶりだし:パート1


ものを覚える時、脳の一部のニューロンたちが活動する。一方、覚えたことを思い出す時、学習時に活動したニューロンたちのさらに一部が活動する。しかも、覚える時に活動したニューロンがたくさん活動した方が、よく思い出せるかもしれない。そんなことが、最近の研究からわかってきた。最近の「サイエンス」に報告されている。

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これまでいろんな方法で記憶の仕組みが調べられてきた。けど、ある事を学習する時、そしてそれを思い出す時、果たして同じニューロンたちが活動しているのか?もし同じなら、どれくらい同じなのか?よく思い出せている時は、学習時に活動したニューロンたちがたくさん活動している?そんな素朴な疑問が、実はよくわかっていなかった。

それは、学習の時に活動したニューロンと、思い出す時に活動するニューロンをしっかり区別する方法がなかったから。

その壁をクリアするために、Mayford率いる研究グループが取り組んだことはこうだ。

まず、遺伝子組み換え技術を使って、活動したニューロンに「タグ」を付けられるようなマウスを作った。ここでの「タグ」はタンパク質。「このニューロンが活動した」ということをレポートしてくれるタンパク質。

そんなマウスに学習させる。すると、活動したニューロンにタグが付けられる。

数日後、学習したことをマウスに思い出させ、その時に活動したニューロンを、別の方法であぶりだす。そして、タグの付いたニューロンのうち、どれくらいのニューロンが思い出す時にも活動したかを調べた。

すると、2つのことがわかった。

第一に、学習の時に活動したニューロン(タグのついたニューロン)たちの一部が、思い出す時にも実際に活動していた。

第二に、そのタグのついていたニューロンがたくさん活動したほど、マウスが物事を思い出していると思える行動をよく示すことがわかった。つまり、学習時にタグがついたニューロンがたくさん活動したほど、よく思い出せていた可能性があることがわかってきた。

扁桃体という場所の一部の神経核でそれが確認された。

続くエントリーでは、もう少し突っ込んだ話をしてみます。