脳では、多様なニューロンたちがネットワークとして働いている。そんなネットワークでは、どんな活動パターン、「ボキャブラリー」、が使われているか?
最近Neuronに報告された研究によると、音刺激によって聴覚野で生じる活動パターンは、音入力がなく自発的に活動が生じている時のパターンと似ていて、感覚刺激は「自発活動ボキャブラリー集」の中から表現されていそうだとわかった。
ラトガーズ大のLuczakたちが報告している。(って、うちのラボの論文です、、、)
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研究では、ラット聴覚野(または体性感覚野)から50個前後のニューロン活動を同時に計測し、感覚応答と「自発活動」を神経集団レベルで詳しく調べている。神経活動の時間的なパターンと、各ニューロンが何回活動したかという「発火頻度」、その両方の観点から調べている。
ちなみに、自発活動として、麻酔下、睡眠中、そして休憩中に生じる「up状態」といわれるイベントに注目。
何がわかったかというと、感覚応答と自発活動は似ているだけでなく、そもそも自発活動は感覚応答の範囲を既定していること、そして自発活動の活動パターンそのものも可能な範囲のうちごく限られた組み合わせしか生じていない、ということがわかった。
別の言い方をすると、
個々の神経活動だけを見て予想される「活動パターンの可能な組み合わせ」があったとする。けれども、自発活動はその可能な範囲のごく一部のパターンしか生じていない。さらに、感覚入力によって生じた活動パターンは、その自発活動のさらに狭い範囲でしか起こっていない、ということがわかった。
さらに別の言い方をすると、、、(しつこいですが)
今5つの文字から成る文字列を考える。それぞれの文字には27種類のアルファベットを使える。なので、組み合わせは膨大。けど、実際の自然言語では、例えばAAAABといった単語はない。限られた範囲の組み合わせでしか使われていない。
今回の研究から、神経集団の活動パターンという点で見ても、それとアナロジーが成り立ちそうだとわかった。
さらに例えるなら、自発活動はいわば辞書みたいなもので、感覚応答は言ってみれば、その辞書の中のあるカテゴリーの単語で表現されている、そんな感じ。(ちと言い過ぎか?)
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個人的なコメント
はじめて原稿を投稿してから発表に至るまでえらく苦労してましたが、それでもNeuronという一流の雑誌に載せれたのはホントすばらしい。筆頭著者のアーターは現在カナダでMcNaughton率いる研究所で独立中。
アーターは解析に関してすばらしい才能の持ち主なので、それがいかんなく発揮されている良い論文だと思います。
従来の単一細胞記録の発想でいうと、刺激呈示で生じる活動は刺激呈示前のそれとは明らかに違うはず。
しかし、そこでは刺激呈示前にも生じていた活動を「ノイズ」として扱って、同一試行を何回も繰り返して、平均化という処理を経て「ノイズ」をキャンセルアウトしている。もしかしたら、その解析過程の結果からくる印象でしかないかもしれない。
そうではなく、刺激呈示とは関係ないタイミングで生じた活動を単一試行単位で積極的に扱って、さらに神経集団レベルで見てみると、もしかしたら、刺激呈示中の活動と自発的なイベントは区別つかないかも?と思えれば、この論文と近い見方になるのではないかという気がする。
論文で主張していることは、いわゆるprovocativeな感じがするけれど(例えば、今回使っていない感覚刺激を使って自発活動の範疇を超える活動が得られてしまったらたちまち主張が、、、それ以前に、他の観点から今回のデータを解析し直したら主張の変更を迫られる可能性だってあるやもしれない。一応フェアに書いときます)、実際の脳でどんなことが起こっているか?をさらに理解していくための議論として良い問題提起をしているのだと思われる。
Discussionの最後の段落、ケン節ここに極めれり、って感じです。。。
ちなみに、体性感覚野のデータ(図5)は必要か?と思わないでもないけれど、「論文を通すには必要」だったようです。。。(なので、このデータは深く考えないでください)
論文の主張を理解するための肝となる図は、図3、6、7か。
マニアックな人には図7は重要。
主張は、図8Fのマンガ。
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文献
Neuron. 2009 May 14;62(3):413-25.
Spontaneous events outline the realm of possible sensory responses in neocortical populations.
Luczak A, Barthó P, Harris KD.
今回紹介した論文。
これに先立って
Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Jan 2;104(1):347-52. Epub 2006 Dec 21.
Sequential structure of neocortical spontaneous activity in vivo.
Luczak A, Barthó P, Marguet SL, Buzsáki G, Harris KD.
という論文も報告しているので、あわせてお読みください。
後者の論文では、自発活動中のシーケンスについて報告していて、今回紹介した論文の前半部分は、そのシーケンスが実は感覚応答でも似ている、という発見をしている。
6/06/2009
ニューロンたちが使う「限られたボキャブラリー」
5/09/2009
局所回路の活動を操作してガンマ波を出す
神経細胞たちはいろんなリズムを刻む。
その中でガンマ波(30Hz前後から80Hzまで)は、この20年くらい多くの神経科学者の注目を集めてきた。
ブザキの教科書「 Rhythms of the Brain」の9章では、騒がれ始めた当時の様子も紹介されていたりと、このリズムのことが詳しく説明されている。
そのリズムは、何かに集中した時に強く出たり、統合失調症の患者さんではこのリズムに異常があることもわかっている。一部の人は「意識」と絡めて議論したりもしている。
さらに、実験や理論的な研究から、そのリズムが発生する仕組みもよくわかってはいた。
しかし、まだ欠けたピースがあって、それをMITのMooreの研究グループがエレガントな実験で埋めた。
大脳新皮質の特定の神経細胞(fast-spiking細胞)の活動を光で操作して、その神経細胞の活動がガンマリズムを生み出すのに十分であることを実験的に証明した。
その論文は、ネイチャーのオンライン版に出ている。
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もう少し詳しく:
研究では何をやったかというと、まず、チャネルロドプシン2(ChR2)(藻由来の陽イオンチャネルで青色光が当たると開く)を、マウス脳の2種類の神経細胞にそれぞれ発現できるようにしている。
その2種類は、パルブアルブミンを発現する細胞とαCamKIIを発現する細胞。
前者は、fast-spiking(FS)細胞と呼ばれるGABAを伝達物質として放出する抑制性ニューロンの一種。
後者は、興奮性の細胞である錐体細胞(一部?)。
つまりはFS細胞か錐体細胞の活動を青色の光で操れるようにする。
光をあてるとChR2によって神経細胞の活動がコントロールできることを生きた(麻酔した)脳で示した後に、今回のポイントとなる実験をしている。
そこでは、青色フラッシュを8-200Hzの周期で脳に当てた時に、回路全体がどのような周期で活動するか調べた。すると、FS細胞でChR2が発現している時はガンマリズムの帯域で、錐体細胞でChR2が発現している時は低周波で、それぞれ最もよく回路が応答することがわかった。
つまり、ガンマリズムという点に注目すると、FS細胞の活動を40Hzくらいで駆動させてやると、回路としてもその40Hzで振動するようになる、ということ。
つまりは、FS細胞の活動はガンマリズムの生成に十分、ということ。
さらにMooreたちは、感覚刺激の処理とガンマリズムとの関係を調べていて、ガンマリズムの一サイクルのうち、ちょうど真ん中のフェーズでネズミのヒゲを刺激すると、ヒゲの感覚情報を処理する「バレル皮質」の神経細胞の活動精度が上がり、リズムの異なるフェーズによって、感覚情報の処理が変わりそうだということを示した。
最後の実験はともかく、この論文は、ガンマリズムの生成にはFS細胞の活動で十分、という理論からの予測をオプトジェネティックスという最新の実験方法を応用して証明した。
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個人的な感想
この話、cosyneで直接Mooreさんにポスターを説明してもらった。
その場で、一緒に聞いていた人が、
もう論文は投稿した?
と聞いて、
うん。
とMooreさんが答え
どこに?
とその質問者が聞いたら
そりゃ言えん。けど、最終段階。
と言っていた。
まさかネイチャー、しかもアーティクルとは、、、。
論文はめちゃくちゃわかりやすく書かれていて、実験・解析も非常に直感的で、新しい情報も付け足して、オプトジェネティクスというセクシーさ、だからアーティクルなのだろう。
「十分性」ということだけにこだわるなら、脳幹刺激をすれば大脳新皮質でガンマリズムは出せることは50年くらい前からわかってたわけなので、コンセプチュアルな新しさは、「FS細胞でも十分だよ」ということなのかもしれない。
ちなみに、そのポスターの時に、
浅層しか見てないから、他の層はどうかわからないのでは?
と聞いた。そしたら、
確かに。
とも言っていた。
浅層できれいなガンマが出る(出やすい)のは良いとして、大脳新皮質でこれまで見られてきたナチュラルなガンマが、果たしてホントにこの実験でおきているのかは、まだわからない気もする。
たぶん、彼らは知覚や行動と絡めて行くのだろうけど、結局、回路としてどうなのか、その辺をしっかり押さえるのも、地味かもしれないけど大事な気がする。
それにしても、すごい勢いでオプトジェネティクスのポテンシャルが示されてきてます。。。
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参考文献&補足情報
Nature. 2009 Apr 26. [Epub ahead of print]
Driving fast-spiking cells induces gamma rhythm and controls sensory responses.
Cardin JA, Carlén M, Meletis K, Knoblich U, Zhang F, Deisseroth K, Tsai LH, Moore CI.
今回紹介した文献。
NeuroPodもぜひ。
ちなみに、ChR2を神経科学ではじめて応用したDeisserothさん、最近スパークしてます。。。
Nature. 2009 Apr 23;458(7241):1025-9. Epub 2009 Mar 18.
Temporally precise in vivo control of intracellular signalling.
Airan RD, Thompson KR, Fenno LE, Bernstein H, Deisseroth K.
Science. 2009 Apr 17;324(5925):354-9. Epub 2009 Mar 19.
Optical deconstruction of parkinsonian neural circuitry.
Gradinaru V, Mogri M, Thompson KR, Henderson JM, Deisseroth K.
Science. 2009 Apr 23. [Epub ahead of print]
Phasic Firing in Dopaminergic Neurons Is Sufficient for Behavioral Conditioning.
Tsai HC, Zhang F, Adamantidis A, Stuber GD, Bonci A, de Lecea L, Deisseroth K.
Nature. 2009 Apr 26. [Epub ahead of print]
Parvalbumin neurons and gamma rhythms enhance cortical circuit performance.
Sohal VS, Zhang F, Yizhar O, Deisseroth K.
ブログのエントリーのような感覚でネイチャー、サイエンスに論文出せたら、そりゃ、ノーベル賞とるわ、って感じです。。。
負けじとBoydenさんたちも
Neuron. 2009 Apr 30;62(2):191-8.
Millisecond-timescale optical control of neural dynamics in the nonhuman primate brain.
Han X, Qian X, Bernstein JG, Zhou HH, Franzesi GT, Stern P, Bronson RT, Graybiel AM, Desimone R, Boyden ES.
アメリカの東西で競争が激化中。。。
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ちなみに、これに少し関連して、ニューヨークタイムズの「注意(attention)」に関するすばらしく良い記事が盛り上がっている。最近出た Rapt: Attention and the Focused Lifeという本にオプトジェネティクスのスパイスを絡めながら、注意についての話題を展開している。
この記事のライターのブログの記事。
あのDesimoneさんが読者の質問に答えたりと、プロでも楽しめる感じになってます。
最後に
Optogenetics: Circuits, Genes, and Photons in Biological Systems
9月にMiesenbock自ら教科書を出すようです。
セミナー
5月14日から31日に日本に一時帰国して、セミナーをさせていただくことになりました。
以下、暫定スケジュールです。
5月18日(月)10:00~ 熊本大学
5月20日(水)18:00~ 東京大学
5月21日(木)13:00~ 京都大学
5月22日(金)15:00~ 基礎生物学研究所
5月25日(月)14:00~ 理化学研究所BSI
5月26日(火)14:00~ 東北大学
5月27日(水)16:00~ 北海道大学
*大ボケで日付を間違って書いてました。。。
全国ツアー!(やりすぎなのはわかってます。。。)
*「インフルエンザ規制」のため一部日程が変更されるかもしれませんのでご注意ください。
*熊大、BSI、東北大では英語でのトークですので、それ以外の日にお越しになられるのを強くお薦めします。。。
ちなみに、内容は先日のCosyneで発表した内容とほぼ同じです。
50枚前後のスライドを用意してます。
今のところswine fluには感染してないか、少なくとも元気ですので、もし成田で軟禁されずにこの状態で入国できセミナーを無事できたら、その後などに気軽に声をかけてください。
けど、もし握手したら、手をよく洗ってください。。。
update:
京大の日程が変更になりましたので、ご注意ください。
あとは、私が成田で軟禁されたり、規制が全国的に厳しくならない限り、大丈夫だと信じてます。。。ウィルスの「毒性」おそるべし!
5/03/2009
アルツハイマー病のTV番組
アルツハイマー病に関する特集番組が、アメリカですが、来週あるようです。
5月10日から3夜連続。
以前、中毒症・依存症(addiction)の番組をやったHBOという局で、今回は国立機関であるNational Institute on Agingが番組制作に積極的に関わっている模様。
ということで、科学番組という点でも注目できるのではないかと思われます。
こういう試みはなかなか期待できるかも。
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参考情報
ニューヨークタイムズの紹介記事
番組あわせて出版される解説本
The Alzheimer's Project: Momentum in Science
Addictionが放映された時に出版された解説本
Addiction: Why Can't They Just Stop?: New Knowledge, New Treatments, New Hope
DVD(注意:米国版のみ)
Addiction
updata:
番組公開前に出たレビュー記事。
The Alzheimer's Project
DVDも7月下旬に出るみたいです(注:米国版)。
4/17/2009
神経細胞の形情報を自動抽出して7.5万ドルゲット!
DIADEM Challengeというコンペが話題になってます。
神経細胞の形は複雑怪奇。
神経細胞の写真を目で見るのは簡単でも、プログラムを組んで、デジタル化されたデータから細胞の形情報を自動抽出するのは大変。
ということで、一番うまくできるソフト・アルゴリズムを考えた人・チームに賞金を出します、というのがこのコンペの主旨らしい。
これから一年かけて予選を行い、来年夏に決勝ラウンドがアメリカJanelia Farm Research Instituteで開催されるとのこと。
参加資格者は、
Researchers working at academic institutions, not-for-profit institutes, and for-profit companies are all eligible to participate. We expect individuals and teams, including teams of highly motivated students, as well as private programmers.
とあるので、
神経科学者じゃなくても、
博士の学位を持ってなくても、
サラリーマンでも、
スーパー小学生でも、
「研究者」と自称でき、英語とルールを理解できる人・チームなら誰でもチャレンジできるのではないかと思います。
*すみません、こんな手抜きエントリーばかりで、、、