12/06/2008

伝染する幸せ

アメリカでは、11月だけで50万人以上が職を失って、失業率が6.7%にもなったらしい(記事)。一方、それを反映してか、最近「幸せ関連ビジネス」が盛り上がっているらしい(記事)。

その幸せ(happiness)に関連して、BMJという医学雑誌に報告された研究によると、人の幸福感は、「友達の友達の友達」の幸福感とも関係があって、配偶者よりお隣さんの幸福感の方が、自分の幸福感に重要かもしれない。

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「幸せ」については、経済学・心理学・神経科学など、いろいろな研究分野から取り組まれている。感情が人から人へ伝わることを調べた研究もあるらしいけど、幸せと社会コミュニティー全体との関係、特に「幸せ」がコミュニティーの中でどう広がるのか、よくわかっていなかった。

今回の研究では、Framingham(ボストンの近く)に住む5000人以上の、1948年からスタートした追跡調査を調べている。

特に、その追跡調査のデータから、幸福感について調査し始めた1983年から2003年までの20年間、4739人のデータを詳しく調べている。

調べたことは、住人同士の社会的な関係と個々人の幸福感との関係、そしてその時間的な変化。

例えば、AさんとBさんがいたら、それぞれの幸福感と、AさんとBさんの社会的なつながりを追跡調査のデータから掘り起こす。それを、4739人、20年間分のデータを調べて、コミュニティー全体の傾向を調べることになる。

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この研究からわかったことは、
1.幸せな人たちは幸せな人たち同士でつながっている傾向がある。
2.最大「3度の隔たり」までの人(友達の友達の友達)が幸せだと、自分も幸せである傾向が高い。
3.周りの友人が幸せだと、幸せになりやすい。
4.配偶者や親戚よりも、物理的に近くに住んでいる友人が幸せだと、自分も幸せになる傾向がある。
5.職場仲間が幸せだからといって、自分も幸せになるわけではない。
といったことがわかってきた。

このことから、論文の著者たちは、幸せは社会ネットワークとしての現象でもあり、人々の幸福感はその知人の幸福感に依存する、と結論付けている。

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ちなみに、幸福感をどのように測ったかというと、CES-Dというアンケートの中から幸福感につながる以下の4つの質問:
・将来に希望を感じる。
・幸せだ。
・人生を楽しんでいる。
・他の人と同じくらい調子が良い。
その回答結果に基づいているようだ。

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もちろん今回の研究からは、いわゆる「相関関係」しかわからず、「因果関係」はわからない。だから、何が原因で幸せが伝染したのか、現時点ではいろんな可能性が考えられそう。それに、もしかしたらFraminghamというところだけの現象だった可能性もある。

つまり、追試、より慎重で詳しい解析が必要だろう。

ただ、職場の同僚の幸福感が、自分のそれにあまり寄与しないといった結果は、何となくリアルを反映しているようにも思える。。。

とにかく、今後の研究に注目したい。

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ちなみに、ニューヨークタイムズに、この論文を詳しく紹介したすばらしい記事が出ている。

その記事ではあのDaniel Kahnemanまでわざわざコメントを寄せていて、とにかく超充実の記事となっている。

その記事にもあるが、今回の研究をうけて、もし不幸な知人がいたらその人との縁を切った方が良い、などと解釈するのは誤り。

むしろ、幸せの運び屋としての責任を誰もが持っている、と解釈すべきなのだろう。

ただし、だからと言って、なりふり構わず誰にでも笑顔を振りまくのは「危険」、とも論文著者の一人がインタビューで答えている。。。

実際の記事は以下の通り:

This now makes me feel so much more responsible that I know that if I come home in a bad mood I’m not only affecting my wife and son but my son’s best friend or my wife’s mother,” Professor Fowler said. When heading home, “ I now intentionally put on my favorite song.”

Still, he said, “ We are not giving you the advice to start smiling at everyone you meet in New York. That would be dangerous.”

友人に幸せを伝えるだけで十分なのだろう。

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参考文献&情報

BMJ. 2008 Dec 4;337:a2338. doi: 10.1136/bmj.a2338.
Dynamic spread of happiness in a large social network: longitudinal analysis over 20 years in the Framingham Heart Study.
Fowler JH, Christakis NA.

実は、同じ号で発表された別の論文では、にきび、頭痛、身長が社会ネットワークと関係があるか、つまり伝染するか調べている。

その結果、一見伝染しているようにみえるけど、環境要因を加味すると伝染していない、ということがわかった。

社会ネットワーク研究の警鐘ともとれる。
ネガティブな結果ではあるけれども、科学という点ではこちらも注目か。

1 comment:

Anonymous said...

色々な研究している方が居るものですね~

>「幸せ」がコミュニティーの中でどう広がるのか

の研究。面白いですね。
確かに『幸せ』に限らず、“感情”が伝染して行くのは、日常的に感じていることですよね。日本では“空気”って言うのですか、一人の“感情”がトリガーになって、広がって行き、その場の『空気』を支配したりしますよね。

ただ、『幸せ』って感じる内容は“個人によって”違いますよね。ある人が“幸せ”と感じる事が、別の人には“苦痛”だったりもする。

この『研究』の場合は、内容は問わず、

>・将来に希望を感じる。
 ・幸せだ。
 ・人生を楽しんでいる。
 ・他の人と同じくらい調子が良い。

と言う、4つのポイントをもって“幸せ”と定義している訳ですけどね。

これを『脳科学』的に解析し直すと、
「脳の快楽中枢に刺激を受けて居る人が居ると、周りの人も、同様の刺激を起こす」
って事になりますね。

確かに『群衆心理』現象が有る訳ですから、これを『脳科学』の側面から考察してみると、面白い事が解るかも知れませんね。

最終的には“統計学的”研究ではなくて、“現象レベル”“物質レベル”の研究にまで発展して欲しいですね。

そこに、ある種の“フェロモン”のような物質が介在しているとか、“細胞間の共同現象”が、個体間の垣根を越えて起こっているのか、もしそうだったら、どういう“機構”でそれが起きて居るのか、興味は尽きないですね。

>5.職場仲間が幸せだからといって、自分も幸せになるわけではない。

は、Shuzoさんも指摘されているように、

>職場の同僚の幸福感が、自分のそれにあまり寄与しないといった結果は、何となくリアルを反映しているようにも思える。。。

は、同感ですね。職場って、ある意味“競争・葛藤の場”ですからね。とすれば、『幸せの伝搬の阻害要因』が、“ある種のストレス”である事が予測されますけど、これもまた、“どういうストレスが、どういう機序で、幸福感の伝搬を阻害するのか”という『課題』が出てくる訳で、これも、“現象レベル”“物質レベル”の研究にまで発展して欲しいですね(最終的には“脳”或いは“神経細胞レベル”の物質的現象にまで解析して欲しいですね)。