脳に刺激が入ると、もちろん何らかの活動が起こる。一方で、刺激がなくても、脳は勝手に・自発的に活動している。例えば、目を瞑っても、寝ていても、夢を体験していなくても、視覚野は常に活動し続けている。
そんな「自発活動」を調べた研究の中で、2ヶ月前にYang Danたちが雑誌Neuronに報告した研究がおもしろい。
視覚刺激で視覚野を積極的に活動させた後の自発活動を調べてみたら、視覚刺激がなくても、まるで視覚刺激が来た時のような活動がしばらく続くことがわかった。
しかも、何回も刺激をするほど、その効果が続くこともわかった。
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研究では、電位感受性色素という脳の電気活動をモニターできる色素で脳を染めて、視覚刺激を呈示した時、その前後のラット視覚野の活動を広範囲に計測している。
この方法では、神経活動が視覚野をウェーブのように伝わっていく様子を2次元平面的にとらえることができる。スタジアムで起きるウェーブをヘリコプターか何かで上空から眺めるような感じ。いろんなウェーブが巻き起こる。
研究では、そのウェーブがどのように伝わるか、その軌跡をシンプルな方法で調べた。すると、視覚刺激を呈示した後しばらく、視覚刺激が入った時の活動軌跡と似た軌跡を描く自発活動がたくさん発生することがわかった。
しかも、視覚刺激が単純な刺激でも自然な刺激でもこの現象は起き、刺激が違えばそれに応じて自発活動の軌跡も変化し、たくさん刺激すればより長い間似た自発活動が発生する、ことがわかった。
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これまで自発活動に関しては、たくさん研究がある。
その中で面白いのは、例えば、視覚応答の時にだけ見られると信じられていた脳活動の特徴が、放っておいても視覚野で勝手に現れたりする。
感覚情報を伝える視床からの入力を電気刺激でシミュレーションして、その結果起こる大脳皮質(その第4層)の活動パターンと、自発活動の活動パターンを比べてみると、実は区別がつかなかったりする。
とにかく、自発活動が、実際に感覚刺激で起こる活動パターンを「再生」しているような時がある。
今回の研究のポイントはというと、その「再生」が視覚刺激を与えた後、ホンの少しの間だけ(数分)起きやすくなることを明らかにした、しかも、それは刺激をたくさん与えたほど長い間現れる、という点だと思われる。
しかも、今回の研究は麻酔下のラットで行われた、という点も注目か。
自発活動のバラエティーが(たぶん)少ない、にもかかわらずというべきか、だからなのか(見つけやすかったのか)、はよくわからない。とにかく、今後の研究を待ちたいところ。(ひょっとしたら、別の麻酔を使ったり覚醒中に同じ実験をやると、ゴチャゴチャして現象をきれいにとらえられないかもしれない。)
ちなみに、これと似たことをさらに踏み込んで示していると思われるのは、昨年報告されたJiたちの話。海馬の活動との関係を明らかにしている点、ラットが課題をやった後に寝たら「再生」がたくさん起こったことを示した点、で個人的にはよりインパクトがあると思っている。(その意味では、今回の論文、論文としての完成度は非常に高品位で学ぶべきことはあるけれど、コンセプト的にはそれほど新しくない、という批判もできなくもない。しかも麻酔条件だけのデータだし。)
さらに、今回の研究、Yang Danの旦那さんであるPooさんが最近ネイチャーに出した話とも似ている。その論文では、刺激のリズムと同じリズムで「再生」が起きて、しかも行動的にも意味がある、的なことを示していたように思う(間違ってるかも)。
インサイダー取引的に、外部からは知りえない情報交換が密に交わされ、同時期に、異なる実験モデル、異なる計測方法で似た現象を見つけ、一流紙に仲良く発表したことになる。。。
それはともかく、
この分野、地味というか、セクシーでないというか、一見重要性がわかりにくい分野かもしれない。けれど、そもそも脳はいったいどう活動しているか?という問題を深く考えていく上では、非常に重要な研究テーマである。
脳は発生過程から勝手に活動するようにできている。
「脳が活性化する」とはよくいうが、その意味をしっかり考えた方が良い。
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文献情報
Neuron. 2008 Oct 23;60(2):321-7.
Reverberation of recent visual experience in spontaneous cortical waves.
Han F, Caporale N, Dan Y.
12/19/2008
自発的に繰り返される脳活動
posted by Shuzo time 21:47
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