「完全適応(perfect adaptation)」という言葉を最近学ぶ。
コンピューターの障害・損失に対して完全適応する研究者
を例にしてみる。
仮に、使っているコンピューターが壊れて、修理に1週間かかるとする。
半日、あるいは一日は生産性が仮に落ちたとしても、すぐに生産性をもとのレベルに戻せるだけの研究環境をすでに確立していたら、その研究者はコンピューター障害という外乱に対しロバストで完全適応できる研究者、と言っていいだろう。
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もう少し抽象度を上げてみる。
あるシステムがいて、それを取り巻く環境がAからBに変化したとする。
環境がBへ変化した瞬間、そのシステムの出力は一時的に変化したとしても、時間が少し経つと環境Aの時と全く同じ出力を出すように適応したとする。
このように、環境AとBで、定常状態の出力レベルが全く同じなら、出力は環境入力に依存しない、と言える。
この場合、システムとしては、環境入力に一々チューニングしてないから、いわゆる「ロバスト」な特徴を示していることになる。
こういう外部環境の変化に対して完璧に適応することを文字通りperfect adaptationとかexact adaptationと言うらしい。
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少し前のセルに、これに関連した論文が2つほど掲載されていた。
詳しいことまではフォローしてないけど、一つの論文では酵母の浸透圧変化のシグナリング経路にあるHog1というMAPカイネースの核内濃度変化がその完全適応を示すらしいことを報告している。
別の論文では、完全適応を示すネットワークトポロジーを網羅的に調べてやれ、というモチベーションから調べてみたら、ネガティブフィードバックを持つトポロジーと、フィードフォワードな入力成分がポジ・ネガで拮抗するトポロジーの二つしかなさそうだ、ということを理論的な研究から主張している。後者はmust-readな論文である。
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この完全適応の歴史を調べてみると面白い。
研究としては大腸菌の化学走性をモデルとして理論と実験の研究が進み、エンジニアリングの言葉として知られていた「積分フィードバック(integral feedback)」を持つシステムと完全適応をするシステムは等価だとわかったらしい。このあたりが基礎になって、いわゆるロバストネスの議論では必ずのように見かけるコンセプトのようだ。
*Uri AlonのAn Introduction to Systems Biology: Design Principles ofBiological Circuitsという教科書の7章で基本的なことがわかりやすく、かつ詳しく説明されているので、興味のある方には超お薦め。
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では脳は?
おそらく言葉こそ違えど、等価なことがいろんな場面ですでに語られている気はする。脳だって適応しまくるわけだし。
例えば、神経細胞の活動、特に僕が研究している聴覚野で考えると、関連しそうな論争が昔からある。上で紹介した研究を踏まえて、脳はどうかと考えるのは一興かもしれない。雑感。
10/03/2009
完全適応
posted by Shuzo time 11:00
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