9/05/2008

脳の中の時空間ナビゲーションシステム

ブザキ研からエヴァさんの論文が新着サイエンスに出た。

海馬(CA1)のニューロン集団がどういう順番で活動するか、そのシーケンスを見ると、これからラットが右か左どっちに行くか予測できる、という話。海馬は、時空間という意味で過去と未来を「ナビゲーション」する役割がある、という説をさらにサポートする研究と理解したら良いか。

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ちなみに、筆頭著者のエヴァさんは、前のラボの仕事もサイエンスで、そちらもかなりインパクトのある仕事(こちらのエントリー参照)。

良い論文を出す人を間近で見て思うのは、そういう人は、良いラボにいるだけではなく、本人も優秀でかつ勤勉、ということ(優秀、勤勉は、orではなくandでないと多分ダメ。けど、たまに優秀なだけですごい仕事をしているように見える人もいるから、勤勉さは文字通りの勤勉さというよりその質・効率性が重要か)。

ネイチャー、サイエンスに載る研究は、プロジェクト開始時には結果を予測できないことが多いだろうから(そういう意味では、はじめは海馬のシーケンスは発生していない、もしくは間違ったシーケンスが発生している?)、プロジェクトが始まって出てきた結果を、如何に柔軟に解釈し、文脈と照らし合わせながら、これからの研究分野をナビゲートするような仕事としてまとめるか、そういう研究力が求められるのだな、というのを痛感する(もしそうなら、「海馬力」と研究力は相関してたりして??)。

それにしても、ブザキ研は、しげさんのNature Neuroscienceに引き続き、今回のサイエンスのアーティクルと、相変わらずすごい生産性。

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関連情報

Science. 2008 Sep 5;321(5894):1322-7.
Internally generated cell assembly sequences in the rat hippocampus.
Pastalkova E, Itskov V, Amarasingham A, Buzsáki G.

ポドキャストブザキ先生のインタビューあり(Rhythms of the Brainを読んでいる時のような難解さを感じるのは自分だけか?)。

さらにオンライン版として、神経科学のブラックジャック(と自分が勝手に呼んでるだけ)ことItzhak Friedたちの仕事も同時に出ている。

Science. 2008 Sep 4. [Epub ahead of print]
Internally Generated Reactivation of Single Neurons in Human Hippocampus During Free Recall.
Gelbard-Sagiv H, Mukamel R, Harel M, Malach R, Fried I.

てんかん患者さんに、短いムービークリップをいくつか見せて、後で自由に思い出して(自由想起、free recall)もらう。その時、てんかん治療目的で刺していた電極から海馬周辺のニューロン活動を計測してみたら、特定のムービークリップを見ている時だけ反応するニューロンがいて、しかもその特定のムービーの内容を自由に思い出して報告する1,2秒前にも活動した、という話。

つまり、想起の主観的報告と神経活動との相関を報告している。非常にインパクトあり。ニューヨークタイムズにも記事が出ていてFriedが電話インタビューを受けている。

自由想起の準備電位(readiness potentials)をニューロン活動としてとらえた、と言っても良いかもしれない。この話、もう一つ面白いと思うのは、活動の仕方がミラーニューロン的、ということ。ミラーニューロンが、入出力という外界と相互作用する時のミラーと考えるなら、今回の活動は内外のミラー、そうとらえるのはどうだろう?(すでに脳の中で「カテゴリー」として確立していた活動が、外因性、内因性の活動によってトリガーされた、と解釈しても、一応は「ミラー」か。とにかくもっとまじめに、システム、ネットワークとして現象をとらえると非常に面白そう)

これら二つの論文のポイントを紹介しているサイエンスの記事。海馬関連のスーパースターたちの見解が紹介されている。最後のNadelのコメント(以下)が、海馬機能の現時点での理解になるのか。

“the hippocampus is critical for 'navigating' through space not only in the present but also in the past, to retrieve memories, and in the future, to predict the results of actions”
海馬は、脳の中の時空間ナビゲーションシステムとしての役割を果たしている。

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