10/25/2009

SfN2009

シカゴの学会に行ってきました。他の方のブログでもすでにいろいろ触れられているので、できるだけ短く。

今回印象に残ったのはやはりoptogenetics。欧米で完全にブレークしてる印象で、ツールの充実ぶりが増し、アイデア次第でいろんなことができる・実際にやってる印象。Natureクラスの発表がたくさんあった。

他にはKandelせんせいのトークも印象的だった。あのお歳(もうすぐ80歳)であのパワーはホントにすごいの一言。ライフワークを教科書的なイントロから最新のネタまで1時間にまとめてジョークもいれつつ話した。おそるべきご老人。。。せっかくなら、最終日にトークをセットして、あの大観衆を最後まで残す戦略を運営サイドが取ってくれたら、最終日の発表になってももっと実りあるものになる気がする。

他には今年初めて気づいたけど、いわゆるCareer Development系のセッションが毎日何かしら開催されていて、論文や教科書を読むだけでは身につかない、サイエンスのやり方・サイエンティストとして生きていくスベをタダで学ぶ機会もあった。

最後に僕の発表について。オーディエンスは、このブログを見ていただいている方や知り合い2割(いつもありがとうございます)、ボスの名前で来た人4~6割、残りは、通りすがり的あるいはキーワード検索的に来られた方、という印象で、結果的には予想より忙しい4時間でした。ブログ上でいつもお世話になってるvikingさんpotasiumchさんにも来ていただき、vikingさんとは少しだけ日本語で四方山話も。。。

ただ、ここ数年一貫している傾向は、日本人女性には来てもらえないこと。。。う~ん。。。

それはともかく、シカゴは、街も会場もナイトライフも良い感じで、これからも開催し続けて欲しい場所でした。

10/14/2009

聴覚野でのポピュレーションコーディング

うちのラボの論文がEuropean Journal of Neuroscienceに出たので速報として。

この論文では、長い純音の情報は聴覚野のニューロン集団によってどう表現されているか、という問題に様々な解析をしながら取り組んでます。


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文献情報(*追記的情報更新)

Eur J Neurosci. 2009 Oct 14. [Epub ahead of print]
Population coding of tone stimuli in auditory cortex: dynamic rate vector analysis.
Bartho P, Curto C, Luczak A, Marguet SL, Harris KD.

全体的にネガティブなトーンの論文になってはいますが、複数のニューロン活動を扱ったデータ解析に興味のある人には参考になるのではないかと思います。

10/04/2009

神経系の進化

新着のNature Review Neuroscienceは神経系の進化の特集号になっていてる。
以下、各総説と関連記事・書籍へのリンク集を。(リンクだけで内容はないです。。。)

掲載されている総説は次の通り:
The origin and evolution of synapses
Tomás J. Ryan & Seth G. N. Grant
Nature Reviews Neuroscience 10, 701-712 (2009)

Considering the evolution of regeneration in the central nervous system
Elly M. Tanaka & Patrizia Ferretti
Nature Reviews Neuroscience 10, 713-723 (2009)

Evolution of the neocortex: a perspective from developmental biology
Pasko Rakic
Nature Reviews Neuroscience 10, 724-735 (2009)

Chordate roots of the vertebrate nervous system: expanding the molecular toolkit
Linda Z. Holland
Nature Reviews Neuroscience 10, 736-746 (2009)

Sleep viewed as a state of adaptive inactivity
Jerome M. Siegel
Nature Reviews Neuroscience 10, 747-753 (2009)

MicroRNAs tell an evo–devo story
Kenneth S. Kosik
Nature Reviews Neuroscience 10, 754-759 (2009)


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Science. 2009 Jul 3;325(5936):24-6.
Origins. On the origin of the nervous system.
Miller G.

サイエンスのダーウィン特集の一貫として掲載されていた「神経系の起源」の研究分野の現状を紹介した記事。これは読みましたが面白かったです。ポドキャスト


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書籍

Principles Of Brain Evolutionという本では脊椎動物の脳の進化が比較解剖学的な観点からまとめまれている。少し前に出た本だけど、後半でネットワーク理論を絡めた議論もあったりと非常に洞察にあふれた本。ちょうどGilles Laurentの記事でも、彼がお薦めする一冊として紹介してます。


進化一般を学ぶための教科書としてはEvolutionは良い雰囲気(パート1だけ読んで挫折中。。。)。最後のパートなんかはすでに大きく書き足さないといけなくなった感じか。。。


10/03/2009

10月のイベント

SfNの学会まで2週間ということで、絡んでいる演題(ポスター)の宣伝を。。。

Mon, Oct 19, PM
452.19/X32 - Effect of brain state on laminar organization of population activity in auditory cortex

私のポスター。今年はラボメンバーで並んで発表しないので、人は来ないと予想されます。。。一人淋しくポスターの前に立っていたら(いても?)、どうか声をかけてやってください。。。

以下は名をいれてもらっているポスターです。

Mon, Oct 19, PM
425.24/G2 - Dynamics of spike count correlations in neuronal populations in the rat auditory cortex

同じラボのハイメがプレゼン。

Wed, Oct 21, PM
847.5/S3 - A critical role of the superior colliculus in enhancing spatial accuracy but not reaction time by audiovisual integration

基生研時代からコラボを続けさせてもらってるプロジェクトです。演者の廣川君がとても頑張っているので、良いポスターになると思います。

と今回は3つのポスターに大なり小なり絡んでます。

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学会後は、ラウンチミーティングのためベルギーへ行ってきます。


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関連文献

PLoS Comput Biol. 2007 May;3(5):e102.
Ten simple rules for a good poster presentation.
Erren TC, Bourne PE.

PLoS Comput Biol. 2007 Apr 27;3(4):e77.
Ten simple rules for making good oral presentations.
Bourne PE.

完全適応

「完全適応(perfect adaptation)」という言葉を最近学ぶ。

コンピューターの障害・損失に対して完全適応する研究者
を例にしてみる。

仮に、使っているコンピューターが壊れて、修理に1週間かかるとする。

半日、あるいは一日は生産性が仮に落ちたとしても、すぐに生産性をもとのレベルに戻せるだけの研究環境をすでに確立していたら、その研究者はコンピューター障害という外乱に対しロバストで完全適応できる研究者、と言っていいだろう。

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もう少し抽象度を上げてみる。

あるシステムがいて、それを取り巻く環境がAからBに変化したとする。

環境がBへ変化した瞬間、そのシステムの出力は一時的に変化したとしても、時間が少し経つと環境Aの時と全く同じ出力を出すように適応したとする。

このように、環境AとBで、定常状態の出力レベルが全く同じなら、出力は環境入力に依存しない、と言える。

この場合、システムとしては、環境入力に一々チューニングしてないから、いわゆる「ロバスト」な特徴を示していることになる。

こういう外部環境の変化に対して完璧に適応することを文字通りperfect adaptationとかexact adaptationと言うらしい。

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少し前のセルに、これに関連した論文が2つほど掲載されていた。

詳しいことまではフォローしてないけど、一つの論文では酵母の浸透圧変化のシグナリング経路にあるHog1というMAPカイネースの核内濃度変化がその完全適応を示すらしいことを報告している。

別の論文では、完全適応を示すネットワークトポロジーを網羅的に調べてやれ、というモチベーションから調べてみたら、ネガティブフィードバックを持つトポロジーと、フィードフォワードな入力成分がポジ・ネガで拮抗するトポロジーの二つしかなさそうだ、ということを理論的な研究から主張している。後者はmust-readな論文である。

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この完全適応の歴史を調べてみると面白い。

研究としては大腸菌の化学走性をモデルとして理論実験の研究が進み、エンジニアリングの言葉として知られていた「積分フィードバック(integral feedback)」を持つシステムと完全適応をするシステムは等価だとわかったらしい。このあたりが基礎になって、いわゆるロバストネスの議論では必ずのように見かけるコンセプトのようだ。

*Uri AlonのAn Introduction to Systems Biology: Design Principles ofBiological Circuitsという教科書の7章で基本的なことがわかりやすく、かつ詳しく説明されているので、興味のある方には超お薦め。

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では脳は?

おそらく言葉こそ違えど、等価なことがいろんな場面ですでに語られている気はする。脳だって適応しまくるわけだし。

例えば、神経細胞の活動、特に僕が研究している聴覚野で考えると、関連しそうな論争が昔からある。上で紹介した研究を踏まえて、脳はどうかと考えるのは一興かもしれない。雑感。