4/17/2009

神経細胞の形情報を自動抽出して7.5万ドルゲット!

DIADEM Challengeというコンペが話題になってます。

神経細胞の形は複雑怪奇

神経細胞の写真を目で見るのは簡単でも、プログラムを組んで、デジタル化されたデータから細胞の形情報を自動抽出するのは大変。

ということで、一番うまくできるソフト・アルゴリズムを考えた人・チームに賞金を出します、というのがこのコンペの主旨らしい。

これから一年かけて予選を行い、来年夏に決勝ラウンドがアメリカJanelia Farm Research Instituteで開催されるとのこと。

参加資格者は、

Researchers working at academic institutions, not-for-profit institutes, and for-profit companies are all eligible to participate. We expect individuals and teams, including teams of highly motivated students, as well as private programmers.

とあるので、
神経科学者じゃなくても、
博士の学位を持ってなくても、
サラリーマンでも、
スーパー小学生でも、
「研究者」と自称でき、英語とルールを理解できる人・チームなら誰でもチャレンジできるのではないかと思います。

*すみません、こんな手抜きエントリーばかりで、、、

HOPEミーティング

HOPEミーティングという、ノーベル賞受賞者と時間を過ごせる機会が日本でもあるとのことです。
Lindauのミーティングの日本版に近いのではないかと思います。

以下、HOPEミーティングに関する情報です:






HOPEミーティングは、アジア太平洋地域の若手科学者を一同に集めて、数名のノーベル賞科学者を交えた交流の機会を提供するという合宿形式のイベントです。

アジア・太平洋地域から選抜された優秀な大学院生を対象として、科学者としてより広い教養の涵養と人間性の陶冶を図り、将来のアジア太平洋地域の科学研究を担う研究者として飛躍するとともに、同地域の科学技術コミュニティの基礎となる相互のネットワークを構築するような機会を提供することを目的としています。そのため、大会中のプログラムは、ノーベル賞受賞者などの世界の知のフロンティアを開拓した人々との対話、寝食を共にしての参加者同士の交流、さらには人文社会・芸術分野の講演やコンサートといった幅広いものとなっています。











募集期間:2009年4月13日(月)~4月24日(金)
開催日時
: 2009年9月27日(日)~10月1日(木)

会場
ザ・プリンス箱根

テーマ
: Art in Science

対象分野:
化学及び関連分野(物理学、生物学等)

主催:
(独)日本学術振興会

使用言語:
原則として英語

>>参加するには?

4/04/2009

意思決定と初期感覚野の活動~NienborgとCummingの論文

意思決定(知覚的な意思決定)のプロセスの考え方として、次のような考えがある:
感覚刺激から「証拠」を集めて、「意思変量」が閾値を超えたら、意思を決定する。
ここで意思変量とは、例えば、青を選ぶか、赤を選ぶか、そのこころの揺らぎをあらわしているようなもの・変量だと考えたら良いか。

脳との対応で考えると、(刺激から)証拠を集めるのは初期感覚野、意思変量の表現は例えば頭頂連合野、が担当しているという話がある。

これまでの研究では、その初期感覚野の活動がランダムにゆらいだ結果が、意思変量の動きに貢献して、意思を下しているのでは、という説があった。(この初期感覚野の活動のゆらぎが行動と直接因果関係がありそうだともわかっているので「因果モデル」という)

けれども、最近ネイチャーに報告された論文によると、そのノイズ的な活動のゆらぎを採用した因果モデルだけでは説明できない活動が、初期視覚野のV2というところで見つかった。

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研究ではマカクザル2頭に、視差弁別課題なる課題をトレーニングしている。

その課題は、高速で連続的に変化する視覚刺激に、近く見える刺激が多かったか、遠く見える刺激が多かったか区別する課題。つまり、サルに3D的な視覚刺激を見せて、刺激が基準点よりも近く見えたか、遠く見えたか答えてもらう。

刺激は、基準点から遠い刺激、近い刺激が、次々に高速で変わるから、一連の刺激(2秒間)から判断して、どちらが多かったか答えることになる。

その2秒間の刺激セット5つのうち、一つのセットに、遠い刺激、近い刺激を同数示すようにする。つまり、この刺激セットが出たら、近いか遠いか区別できない。けど、サルは近いか遠いか答える。報酬をもらうために。

今回の研究では、そんなどちらとも答えられない刺激セットを示している時の、2秒間の二次視覚野(V2)のニューロン活動とサルが下した選択との関係を詳しく解析している。

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テクニカルな説明を端折って説明するのは難しいですが、解析の結果、従来の因果モデルでは説明できない次の3つの発見をした:

1.選択と刺激のシーケンスとの関係の時間経過と、ニューロン活動と選択との関係の時間経過が食い違った。(*因果モデルからの予想では、両者の時間経過は一致していないといけない)

ここで、「選択」とは遠いか、近いかの行動レベルでの選択結果。「選択と刺激のシーケンスとの関係の時間経過」は、サルがどのタイミングの刺激に基づいて選択していそうかを表している。「ニューロン活動と選択との関係の時間経過」は、ニューロン活動のどのタイミングの活動が選択結果の違いをより区別しているかを表している。

2.選択の種類によってニューロン活動を解析してみたら、ニューロン活動の(視差)選択性に関する「ゲイン」が選択の種類によって違っていた。そして、たくさんのニューロンで傾向を見てみたら、そのゲインの大きさと「選択確率」とが相関していた。しかも、それは因果モデルを過程した時よりも大きい効果が見れた。
(つまりは、因果モデル+アルファな効果を考えないと説明できないことになる)

ちなみに、ここで選択確率(choice probability)とは、大雑把にいうと、ニューロン活動の大きさからサルの選択結果をどれくらい区別できるか表す指標のこと。

3.報酬量を大きくしたら、成績が良くなったが、選択確率はむしろ減少した。(因果モデルからの予測とは逆だった)

難しい。。。

が、とにかく、従来のモデルでは説明できない神経活動をとらえたことになる。

論文の著者たちは、いわゆるトップダウンの信号が、初期感覚野V2のニューロン活動に影響を及ぼして、従来のモデルでは説明できない現象が現れたのでは?と推測しているようだ。(別の可能性も否定はしていない)

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個人的な感想

非常に良くデザインされた研究だし、解釈はともかく、データそのものはきれいだと思った。論文の書き方という点でも勉強になる。この研究、注意と意思決定というコンセプトを、神経活動に基づいて議論するきっかけになるのではないかという気がする。

ちなみに、論文のsupplementary informationがなかなか充実していて、一読に値する内容となっている。そこでは、サルの行動ストラテジーに関する考察(ここは特にお薦め)と、神経活動のデータ解釈(トップダウンか否か)の考察があり、最後に神経集団レベルの活動(ノイズ相関)に関して、最近のNewsomeラボの論文について少しだけコメントされていて楽しめた。

個人的に気になった点をいくつか(ここからは大いに誤解している可能性大):
この論文での主要な解析法(psychophysical kernel、subspace map、choice probabilityの3本柱)、この分野の文脈上採用したのはわかるけど、この分野になじみのない人からしたら、非常にややこしい解析をしていて、理解するのが大変。単一ニューロン活動を扱っているのに、直感が非常に働きにくい。比較的単純なデータを扱っているのだから、もう少しわかりやすい解析法で同様の結論を導けなかったのか、別の視点から考え直す余地もあるかもしれない。

個人的によくわからないのは、行動。
論文中の図2aはポジティブな結果なのか、ネガティブな結果なのか、解釈が分かれる気もした。どういう意図で2秒という刺激呈示時間を設定したのかよくわからないけど、このパラメーターは、この論文のデータを用意するという点では重要だろうけど、実際の意思決定という点で考えた時、このパラメーターは果たしてどうか、非常に気になる。

反応時間課題的に課題を設定しても、確度(accuracy)という点で全く同じ行動パフォーマンスを残すとしたら、刺激後期の活動は何を見ているのかよくわからなくならないか。

少なくとも注意しなければいけないであろうことは、サルは過訓練されている、ということか。論文を2回くらい読んだ浅い理解でこのエントリーを書いている人間とは違うレベルでサルは課題をこなしている(はず)。

おそらく、5つある刺激セットのうち、信号が多いかゼロかの区別は、はじめの数百ミリ秒でできてしまっているのではないか、という気がする。今、それが行動としてあらわれているのがその図2aではないかと解釈してみる。とすると、刺激の弁別そのもの、特定の選択へのコミットメントという点での「より高次」なプロセスは、その初期フェーズで行われてしまっているのではないか、という気もする。

だとすると、そのフェーズ以降で見えた「choice probability」の上昇はいったい何を表しているのか、非常に解釈に困る。もし著者たちが主張する注意によるゲイン上昇なら、図3で、時系列によってそれが変化することも示すべきである(それを示してくれないと彼らの解釈は信用できん)。

図2の結果は、単なる解析上のアーティファクトではないか?という気すらする。彼らは個々の神経活動の変動は大きいと書いているが、決してそのデータは示してはいない。もしかしたら、そこに解析上のアーティファクトかどうか判断する重要な手がかりがあるような気もする。

それから、図4も報酬量の違いによって試行を分けて解析しているが、3回続けて正解したら高報酬試行に突入するデザインになっている。けど、5セットの刺激のうち1つは自信を持って選択できない刺激が入っているわけだから、ここでの「高報酬」という意味はいったいサルにとってどういう意味を持っていたのか、これまた解釈に困る。

一応、行動レベルで、高報酬時はパフォーマンスが良かったらしいから、彼らの解釈はたぶん間違っていないのだろう。けど、この辺は、実際にこの課題をやってみて、研究者ではなく、サルの立場に立ったら、解釈が変わるかもしれない。

また、僕が理解した限り、彼らが解析したニューロンたちは、おそらくそれなりに高頻度で発火するニューロンだけにバイアスがかかっているように思える。とすると、実際の脳で起こっていることと全く違う議論を繰り広げている、という批判をして悪くない。この辺の問題は、データ解析、実験デザインの現実的な壁があるにしろ、できるだけバイアスの低い計測法、解析法で、実際の脳で起こっているであろう事をとらえなおしてみるのも一興のような気もした。

最後に、この論文は、以前pooneilさんがこちらで議論されていたこととも少し関連するように思ったのですけど、どうなんでしょ?今回のpsychophysical kernelの解析をランダム・ドット・モーションの課題に応用してみるとこれまで見過ごされていた事が見えてこないのだろうか。少し気になった。

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文献
Nature. 2009 Mar 8. [Epub ahead of print]
Decision-related activity in sensory neurons reflects more than a neuron's causal effect.
Nienborg H, Cumming BG.

関連エントリー
GoldとShadlenの総説を読んで

関連書籍
今回のトピックはperceptual decision makingですが、decision makingというトピックで広くとらえるなら、
Neuroeconomics: Decision Making and the Brain

神経経済学を軸に神経科学からとらえた意思決定の研究分野を広く深くおさえるのに超お薦めです。(といっても、全部は読んでませんが。。。例えば、第一章は経済学の基礎知識を身につけるのにも役立ちます。)

How We Decide
教科書ではなく最近出版された一般向けの本。専門家には各章の導入部分が冗長といえば冗長ですが、非常によく書かれている本だと思います。
update: Natureに掲載されていた書評