Showing posts with label 論文. Show all posts
Showing posts with label 論文. Show all posts

11/29/2007

記憶と危険な分子

「記憶と分子」というテーマに絡んだ論文で、最近目に留まったトピックを二つ。

メラトニンと夜間学習の非効率性
メラトニンの働きを抑えれば、学習効率が上がるかもしれない。

最近サイエンスに掲載された論文。夜に放出量が高まるメラトニンのせいで学習効率が落ちる、ということを示した論文。メラトニンは脳の松果体(pineal gland)というところで産出される物質で、サーカディアンリズムと同調して放出量が変化する。研究では、昼間に行動するゼブラフィッシュをモデル生物として選び、メラトニンの情報伝達が夜間学習の非効率性を説明するのに、必要かつ十分だということを明らかにした。

人でどれくらい当てはまるかはもちろん不明だし、なぜ・どうやってメラトニンが学習の邪魔をするのかも不明。風が吹けば・・・の「風」の一つにメラトニンあり、という感じか。けど、もし人でも当てはまるとすると、一夜漬けほど効率の悪い勉強法なし、ということになるか。

文献
Science. 2007 Nov 16;318(5853):1144-6.
Melatonin suppresses nighttime memory formation in zebrafish.
Rawashdeh O, de Borsetti NH, Roman G, Cahill GM.


---

ZIPで記憶消去

サイエンスに、しかも2年連続で出ているネタ。

PKMzなるタンパク質(PKCというタンパク質の触媒部位)の働きを抑えるZIPというケミカルがある。そのケミカルを脳に投与すると記憶喪失のような状態になることがわかってきた、という話。

昨年の論文では、海馬。最近の論文では、大脳新皮質での研究。ラットの脳にZIPを直接投与して、長期記憶に対する効果を調べたら、大雑把に言うと、記憶が消えることがわかった。

ポイントは、PKMzの働きが阻害されると、記憶ができてから数週間から1ヶ月という長期記憶までもが阻害されるという点。従来のドグマは、短中期:タンパク質合成・修飾など→長期:神経回路の構造的変化、とでも言ったら良かったわけだけど、そう単純ではないかも?という問題を提起したところが超面白い。つまり、長期記憶のフェーズでも特定のタンパク質の活性が大事ですよ、ということになるか。

逆のケミカル、つまり、長期記憶増強剤が見つかると大儲けできそう。(いろんな副作用がありそうだけど。。。)
少なくとも、「過去の記憶をすべて消して真っ白になりたい」と危険な希望を持っている人には朗報かも?

文献
Science. 2006 Aug 25;313(5790):1141-4.
Storage of spatial information by the maintenance mechanism of LTP.
Pastalkova E, Serrano P, Pinkhasova D, Wallace E, Fenton AA, Sacktor TC.

記憶の基礎となる現象の長期増強(
LTP)。海馬のLTPをZIPによって抑えたら、海馬が関わる空間学習が阻害されたという話。この時点では、生きた脳でのLTPと学習の関係を示したという点で注目を浴びたのではないかと思われる。

Science. 2007 Aug 17;317(5840):951-3.
Rapid erasure of long-term memory associations in the cortex by an inhibitor of PKM zeta.
Shema R, Sacktor TC, Dudai Y.

こちらの論文がより重要。味覚の条件付け学習の長期記憶には島皮質が関わっていて、そこに
ZIPを注入したら、1ヶ月前の記憶すら消えてしまう、という恐ろしい話。

9/08/2007

覚える時、思い出す時に活躍する細胞のあぶりだし:パート2

直前のエントリーで扱った研究を少し詳しく見てみる。研究そのものの説明というより、今回の研究の鍵を握っていたマウスについて話をし、そのマウスにどんな学習をさせたか、そして、今回の研究の問題点について考えてみたい。

ドライバーとレポーター

今回の研究の鍵を握っていたマウス、つまり活動したニューロンに「タグ」を付けられるマウスの「仕掛け」を説明してみる。

まず、2種類のマウスを作る必要がある。ドライバーとレポーター役を果たすマウス。

1種類目のマウスは「ドライバー」役。ニューロンが活動したら働くc-fosという遺伝子がある。その遺伝子(実際はその遺伝子のプロモーター)を利用して、ニューロンが活動したらtTAというタンパク質ができるようにする。そのtTAは、遺伝子のスイッチ役で、他の遺伝子が働くのを「ドライブ」する役割があるから、ドライバー。

今回の研究では、tTAができるのを、神経活動によってさらに「ドライブ」してやろう、というのがミソになる。

2種類目のマウスは「レポーター」役を果たす。このマウスでは、tTAが働いたら、tauLacZというタンパク質ができるようにしておく。このtauLacZこそが「タグ」。このタグとなるタンパク質は、遺伝子の働きを見やすくするレポーター役をしてくれるから、このマウスは「レポーター」。

もしその「ドライバー」と「レポーター」二種類のマウスをかけあわせると、
神経の活動→
tTA→tauLacZ(タグ)
という仕組みが1個の細胞でできあがり、ニューロンが活動したことをレポートしてくれる。

ただし、これだけだと、学習する時以外に活動したニューロンにもタグが付いてしまう。積極的に勉強していない時に活動したニューロンにタグが付いては困る。

そこで、tTAはもともと大腸菌のタンパク質で、抗生物質ドキシサイクリン(doxycycline、略してDox)があると、その働きがブロックされることに着目する。

それを利用すれば、tTAができても、レポーター役のtauLacZがドライブされない。Doxをマウスの餌に入れておくだけで、tTAの働きをブロックできる。

細かくなるが、実際には、そのレポーターのマウスでは、Doxに反応しない変異型tTAもドライブされるようにしている。(タグができる効率をさらに良くするのだろう)

これで研究の準備が整ったことになる。

今回の研究では、普段は抗生物質
Dox入りの餌を食べさせて、タグが勝手にできないようにしておく。そして、学習する数日前にDoxナシの餌に切り替える。つまり、ドライバーが働いてタグをつけられる状態にする。その状態でマウスに学習させ、学習が終わったら、その日のうちにDox入りの餌に戻す。これで、学習中にだけタグを付けられる。

そして、学習した後、思い出す時に活動したニューロンをあぶりだす時は、zifという遺伝子に注目する。この遺伝子も神経活動によって働き出す。できたZifというタンパク質がどのニューロンでできているか調べ、タグがついているニューロンとの一致具合を調べる。そうすれば、学習時と思い出す時、共に活動したニューロンをあぶりだせる。なかなかうまい話だ。

---

学習テスト

マウスが行った学習テストは、恐怖条件付け(fear conditioning)と呼ばれるもの。パブロフの犬の「恐怖版」と言っても良い。

まずマウスにテストボックスに入ってもらう。しばらくしたら音が鳴り、その直後に電気ショックが与えられる(かわいそうだが)。ボックスという「環境」と電気ショック、音と電気ショックの関係を学習させるシンプルなテストとして、よく用いられる。音は直接的な「条件刺激」となる。

多くの実験では、まずそのボックスや音と電気ショックの関係を覚えさせ、後日、「想起テスト」を行う。その「想起テスト」では、再びマウスに同じボックスに入ってもらう。ただし、電気ショックは与えない。そして、マウスがボックスに入っている間に示す「震え」を調べる。そうすることで、ボックスや音が恐怖(電気ショック)を引き起こす、ということを学習できていたか調べられる。

「パブロフの犬」のアナロジーなら、本来餌とは全く関係のない鈴の音だけで、よだれがでるかを調べるようなもの。

ちなみに、この連合学習には、扁桃体(amygdala)、特にその基底外側核が重要ということがわかっていた。

---

問題・課題

今回の研究は非常にロジカルな良い研究。しかし、いくつか問題・課題もありそうだ。

第一に、最後の実験(論文では図4にあたる)。その実験でやったことはこうだ。

まず、上の「恐怖条件付け」を行った後、マウスに覚えた関係を「消去」するリハビリのようなことを行わせる。今回の研究では、都合の良いことに、マウスによってその効果が違っていた。つまり、あるマウスではリハビリ効果が見られず、テストボックスに入れられると震え続け、一方、別のマウスはほとんど震えないようになった。

その結果を利用して、タグ(学習の目印)と
Zif(想起の目印)が共に存在するニューロンの割合とその消去の度合い(震え具合)の関係を調べている。

すると、扁桃体の中の2つの核(基底外側核と外側核)で異なる傾向が見えてきた。一方の神経核は、ボックスという環境・文脈に基づく想起に関わり、他方は音という、より直接的な刺激に基づく想起に関わっていそう、という傾向を見出している。

しかし、実際のデータを見ると、外れ値や実験計測上の問題(例えば、定量方法)をどのように扱うかによって、その傾向は変わりそうな印象を受ける。論文では、さすがに慎重で、その二つの神経核の役割の違いについては、あまり突っ込んだ議論はしていない。


第二の問題は、この実験でタグを付けられたのは興奮性細胞が主だった、という点。

ニューロンは大きく分けて、興奮性細胞と抑制性細胞という二つの集団から成る。それぞれ、興奮と抑制という逆の出力信号を送る。が、今回の実験では、タグが付いたのは興奮性細胞が主だったようだ。つまり、抑制性細胞がどのように働いたのか、一切情報は得られていない。抑制性細胞が活動していなかったとは考えにくい。

おそらく、細胞によって遺伝子の働き方が違う。すると、ニューロンが同じように活動しても、細胞の種類が違うと、同じ遺伝子でも働きやすさが違いそうだ。すると、神経活動と遺伝子発現を結びつけようというこの実験方法は、まだまだ克服すべき壁がありそうだ。

これに関連する第三の問題・課題として、速い神経活動と遅い遺伝子発現のギャップが挙げられる。神経活動はミリ秒単位で起きたり、起きなかったりする。遺伝子発現は、それよりもっともっと遅い。

今回の実験の場合、想起テストを行った1時間後の状態を調べている。つまり、神経活動が起こって1時間後にその活動の結果を調べた、というわけだ。あまりにも大きな時間差が存在する。

第四に、あぶりだされたニューロンの役割。ホントに学習に関わっていたのか?ホントに恐怖体験を思い出すことに関わっていたのか?ということは、この研究だけからはわからない。この問題に取り組むには、研究方法のさらなる改良・開発が不可欠だろう。

---

論文の印象

今回の結果、人によっては、期待通りで「大した発見ではない」と思うかもしれない。しかし、その期待・予想を実験的に示すことがこれまで非常に難しかった。

今回の研究は、洗練された遺伝子操作技術とシンプルでエレガントな実験で、実際にその予想を示せた点がすごい。今回の方法は、他の研究にもいろいろ応用できそうなので、今後の応用にも期待できそうだ。

---

参考文献

1.今回扱った論文
Science. 2007 Aug 31;317(5842):1230-3.
Localization of a stable neural correlate of associative memory.
Reijmers LG, Perkins BL, Matsuo N, Mayford M.

2.今回応用された遺伝子組み換え技術について
Science. 1996 Dec 6;274(5293):1678-83.
Control of memory formation through regulated expression of a CaMKII transgene.
Mayford M, Bach ME, Huang YY, Wang L, Hawkins RD, Kandel ER.

Proc Natl Acad Sci U S A. 1992 Jun 15;89(12):5547-51.
Tight control of gene expression in mammalian cells by tetracycline-responsive promoters.
Gossen M, Bujard H.

3.扁桃体について
Annu Rev Neurosci. 2000;23:155-84.
Emotion circuits in the brain.
LeDoux JE.

覚える時、思い出す時に活躍する細胞のあぶりだし:パート1


ものを覚える時、脳の一部のニューロンたちが活動する。一方、覚えたことを思い出す時、学習時に活動したニューロンたちのさらに一部が活動する。しかも、覚える時に活動したニューロンがたくさん活動した方が、よく思い出せるかもしれない。そんなことが、最近の研究からわかってきた。最近の「サイエンス」に報告されている。

----

これまでいろんな方法で記憶の仕組みが調べられてきた。けど、ある事を学習する時、そしてそれを思い出す時、果たして同じニューロンたちが活動しているのか?もし同じなら、どれくらい同じなのか?よく思い出せている時は、学習時に活動したニューロンたちがたくさん活動している?そんな素朴な疑問が、実はよくわかっていなかった。

それは、学習の時に活動したニューロンと、思い出す時に活動するニューロンをしっかり区別する方法がなかったから。

その壁をクリアするために、Mayford率いる研究グループが取り組んだことはこうだ。

まず、遺伝子組み換え技術を使って、活動したニューロンに「タグ」を付けられるようなマウスを作った。ここでの「タグ」はタンパク質。「このニューロンが活動した」ということをレポートしてくれるタンパク質。

そんなマウスに学習させる。すると、活動したニューロンにタグが付けられる。

数日後、学習したことをマウスに思い出させ、その時に活動したニューロンを、別の方法であぶりだす。そして、タグの付いたニューロンのうち、どれくらいのニューロンが思い出す時にも活動したかを調べた。

すると、2つのことがわかった。

第一に、学習の時に活動したニューロン(タグのついたニューロン)たちの一部が、思い出す時にも実際に活動していた。

第二に、そのタグのついていたニューロンがたくさん活動したほど、マウスが物事を思い出していると思える行動をよく示すことがわかった。つまり、学習時にタグがついたニューロンがたくさん活動したほど、よく思い出せていた可能性があることがわかってきた。

扁桃体という場所の一部の神経核でそれが確認された。

続くエントリーでは、もう少し突っ込んだ話をしてみます。