11/25/2007

自分の脳活動を覗いてコントロールする:リアルタイムfMRI

例えば何かを体験している時、自分の脳のどこがどう活動しているのか?
そんな脳の様子を自分自身で覗くことはできないか?
自分の脳を自力でコントロールできるようにはならないか?

そんな疑問・望みに一歩近づけるかもしれない技術がリアルタイムfMRI

fMRIは、脳活動に伴って起こる血流の変化を検出して、非侵襲的に脳活動を計測できる技術。それを「リアルタイム」でやって、脳のここがこれくらい活動している、という情報をその脳の持ち主に教えてやろう、という技術がリアルタイムfMRI

現時点では、実際の脳活動が起こってからその結果を知るまでには、10秒近くかかる。原理的にどう頑張っても数秒の遅れは必ず出る。だから、ここでの「リアルタイム」というのは、遅れはあるけど、連続的に脳活動を計測・解析し続ける、という意味に近い。「まさに今」、という意味のリアルタイムではない。

それはともかく、そんな面白い技術が今注目を浴びていて、例えば、自分の脳活動を知ることで痛みの感じ方が変わったり、トレーニングによって自分の脳の一部をコントロールできることがわかってきた。

そんなリアルタイムfMRIに関する総説がTrends in Cognitive Neuroscienceに掲載されている(こちら)。そこでは、リアルタイムfMRIの原理と限界、技術的課題の話からその実践例、そして将来の応用性についてまとめられている。

自分の脳活動の一部を自分でコントロールする術を身につけることで、医療に役立てたり(例えば慢性痛、一部の精神疾患の治療)、脳機能の向上に結び付けたり、さらには脳の働き方をより深く理解しようというわけだ。

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参考文献

Trends Cogn Sci. 2007 Nov;11(11):473-81. Epub 2007 Nov 7.
Reading and controlling human brain activation using real-time functional magnetic resonance imaging.
deCharms RC.

今回紹介した総説。
MRIのことに詳しくなくても読めるようにわかりやすく書かれている。関連文献の宝庫でもある。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Dec 20;102(51):18626-31. Epub 2005 Dec 13.
Control over brain activation and pain learned by using real-time functional MRI.

deCharms RC, Maeda F, Glover GH, Ludlow D, Pauly JM, Soneji D, Gabrieli JD, Mackey SC.

上の総説と同じ著者による研究。
リアルタイム
fMRIによって痛覚が変化することを示した論文。具体的には、rostral anterior cigulate cortex(rACC)の活動をリアルタイムでコントロールするようにトレーニングすると、痛みの程度とrACCの活動を連動させられるようになることがわかった。さらに、慢性痛の患者さんが同様のトレーニングをすることで、痛みが和らぐことに成功した。

J Neurosci. 2007 Jul 11;27(28):7498-507.
Direct instrumental conditioning of neural activity using functional magnetic resonance imaging-derived reward feedback.
Bray S, Shimojo S, O'Doherty JP.

リアルタイム
fMRIを使って、自分の脳活動を学習によって変化させられることを示した論文。具体的には、体性感覚野の一部の活動があるレベルに達したら報酬を与えるように実験参加者をトレーニングしたら、できました、という内容。有名なFetz実験のリアルタイムfMRI版。

Neuroreport. 2004 Jul 19;15(10):1591-5.
Brain-computer interface using fMRI: spatial navigation by thoughts.

Yoo SS, Fairneny T, Chen NK, Choo SE, Panych LP, Park H, Lee SY, Jolesz FA.

リアルタイム
fMRIをブレーン・コンピューター・インターフェースとして応用した研究例。

Magn Reson Med. 1995 Feb;33(2):230-6.
Real-time functional magnetic resonance imaging.

Cox RW, Jesmanowicz A, Hyde JS.

オリジナルのコンセプトを唱えた論文。

8 comments:

阿頼王 said...

Shuzoさんへ
MRIでの脳活動のモニタリングって、結局は、「今、上前頭回の活動が活発です」とか、「中前頭回が活発に活動中です」とかそこから「下前頭回へと活動が移動しました」とか。パターン的にしか解らないのではないのですか? 

例えば、「普通の人と比べて、計算の達人の脳の使い方は、このようなパターンの違いがあります」とか。

で、結局は何を観ているのかと言えば、「脳内血流」の変化なのだと思います。でも、素人考えで申し訳ないですが、「それで何が解るの」って思ってしまいます。"確かに、その脳の部位の血流が増えている=その部位の脳(細胞)活動が盛んになっている”という事は確かなのでしょうが、それが、具体的に、そのパターンで脳を働かせれば、誰もが同じ能力を発揮出来るって結論付けられるのでしょうか。

例えば、同じ程度の"計算能力”を示す人でも、その"パターン”が違うとかいう事はないのでしょうか?

実際には、神経レベル、脳細胞レベル、シナプスレベルで、どのような"情報処理”がされているのか解っているのでしょうか?

なんか、本当にお伺いしたいポイントが絞りきれて居ない感があるのですが、個体個体によって、神経の回路は差がある訳ですよね。だから、個体個体によって、"同じ情報処理”を行う場合でも、違う"神経回路”を使っているって言う事はないのですか?

う~ん、何か違うな~。具体的に、個別の神経細胞が、どのような情報処理過程をしているのかを理解せずに、全体として、脳のどの部位がどういうパターンで活動しているから、情報処理が効率的に行われていると考えていいのですか?

確かに、脳には一般性があって、この部位では概ね、このような情報処理をしているのだという事が解っているようですが……。

Shuzo said...

阿瀬王さん、いつもコメントありがとうございます。

若干、私の説明が悪かったようですので、補足になればうれしいです。

今回紹介したリアルタイムfMRIというのは従来の研究とは発想が全く違います。

「ここが活動している」という情報を、脳活動を測られている本人に直接フィードバックする、ということが重要です。

つまり、脳活動を計測されながら、「今自分の脳のここが活動しているんだ」と実際に知りながら、脳活動を計測されることになります。

もちろん、fMRIでは、ニューロンレベルの細かい情報処理を知ることは原理的に無理です。が、リアルタイムfMRIのような状況におかれたら、人の脳はどう変化していくのか?私たちの脳の隠れたポテンシャルを引き出せるのではないか、と私は期待しています。その意味では、従来の研究とは問題意識が違う、と言っても良いかもしれません。

もちろん数年後に、「やっぱりこの技術は単なるブームで終わった」となるかもしれません。けど、従来の研究パラダイムとは発想が違うので、これからどんな研究が出てくるのか、従来の発想ではできなかったことができるのではないか、なかなか面白そうだな、と思ってます。

阿瀬王さんのご質問とは直接関係ないですが、、、すみません。

ykenko1 said...

Shuzoさん、初めまして。要するにバイオフィードバックの脳版ですよね。これぞ本当の脳トレ(脳修行)でしょうか?

Shuzo said...

ykenko1さん、はじめまして。
ブログ拝読しております。

> これぞ本当の脳トレ(脳修行)でしょうか?

仰るとおりですね。
さすがにMRIは大げさすぎますが、
簡単な脳波計測と脳トレを絡めたゲームは
数年以内に実用化されるかもしれませんね。

ポリ said...

うちの Department の M ラボの学生さんが、もっと原始的な方法でこの手の研究をやっています。記録中の神経活動をサルに聞かせてやって、発火頻度が上がった時に reward を与えるトレーニングを行なうと、自分でニューロンの発火をコントロールできるようになるように見えるとのこと。

実際に何を見ているのかは不明な点も多いですが、面白そうです。

Shuzo said...

ポリさん

それまさにFetz実験ですよ!
40年くらい昔にサイエンスで報告されて以来、誰もまじめにとらえてなかったようです。けど、今のニューロサイエンスの文脈で考えるとかなり面白い分野になると思います。

uphar said...

高校のときに大学の研究室見学に行った際に、近赤外線で脳の活動を見る装置を頭に付けてもらい、自身をモニタリングするという経験をしました。
その時は機器から表示されるグラフの見方が分かりませんでしたが、暗算などを試してみて、このグラフの形の意味が分かれば・・・などと思ったものです。
当時不思議に思ったのは、研究室の学生さんが、被験者である私に直接はモニタを見せようとしていなかったことでした(同席した友人らにはもちろん見せてくれましたが、頭にコードを付けた私が画面側に回ろうとするのを嫌がるのです)
頼み込んでやっと自身の脳の活動を見ることができたのですが、もしかして自身の活動を自身でモニタリングすることは、科学的によろしくない(被験者と観察者が一緒で客観性がない?よくわかりませんが)のかなとも思っていたのですが・・・
とても実験台になりたい技術ですね。

Shuzo said...

upharさん、こんにちは。

自分の脳活動をリアルタイムで見られたなんてうらやましいです。

ただこの分野、技術的に克服しないといけない問題が多いようですので、下手に希望を持たれて誤解されるのを恐れて、なかなか見せてくれなかったのかもしれないですね。

> とても実験台になりたい技術ですね。

私もそう思います。
特に、脳の知識をもっとたくさん身につけた上で実験に参加すると、さらに面白い気がしています。