8/31/2008

夏休み:モーツァルト、ヤンキース、北川潔

この一週間、夏休みでも取る予定だった。
けど、ボスのプレッシャー、、、
いや、現実が許してくれず、チケットを押さえていた遊びを実行しつつ、普段以上に実験に取り組む、というなんとも中途半端な一週間。。。

予定通り実行した遊びを三つ。

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8/23 Mostly Mozart Festival

前から気になっていた夏のイベント。最終日に行く。

モーツァルトにちなんだ演奏プラスアルファ(+αがあるからMostly?)がLincoln Centerで、夏の間開催されている。

その日は、Mostly Mozart Festival Orchestraが
Richard StraussのMetamorphsen
MozartのMass in C minor, K.427
という2曲を演奏。

ミサ曲を初めて聴いた。席は後ろから2列目だったけど、Avery Fisher Hallは思ったほど広くなく悪い席ではなかった。メゾソプラノのKate Lindseyという人の歌がすばらしく良かった。素人にもそれはわかった。それ以上のウンチクは語れない。が、良かった。

オーケストラには日本人の演奏者もいた。演奏後は大大カーテンコール。それにしても、Metamorphosenは納得の暗さだった。。。

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8/27 Yankees vs Red Sox

おそらくヤンキースの今シーズンは終戦、と言っても良さそうな試合。。。戦力的にベストとはいえない今のレッドソックスに11-3で負けたら、残り試合推して知るべし。。。試合内容が非常に悪かった。

松井のTシャツを着ている人や声援がより増えていたのはうれしかった。

自分にとっては、現ヤンキースタジアムは見納めだろうから、記念にTシャツを購入。(気づいたけど、ウェブで買ったほうが安い。。。品揃えも良いし。。。一つ学習。)

ちなみに席はいつものごとく最上階。
今回は、バックネット裏(と言って良いのか、とにかく真後ろの席)が取れたので、眺めは良かった(こんな感じ)。値段は普段と同じだけど、良い席はお金を出してでも取った方が良いのだなぁと感じた。一回くらいは奮発しても良いかも?

ちなみに、bleacher(外野席)あたりの席を取ったなら、練習時間にあわせて早めに行くと(もちろんグラブ持参で!)、ボールをゲットできる確率が格段に上がるとわかった。練習中はホームランが連発するし、選手もたくさんボールを投げ入れていた。

子連れならさらにチャンスが上がるか?娘にグラブを持たせて行くか??

それにしてもヤンキース、ピッチャーを立て直して、ぜひ来年は新球場で頑張りを見せて欲しいところ。
個人的興味は、木曜日からのNFLへシフト。。。(Eli今年も良さげ。)

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8/30 Kenny Barron Quartet

ファーストセット、9時からのステージへ行く。
店オープンの8時に到着。

席は最前(善)列!

同じく一人で来ていたビルさんと相席に。
ぎこちない英語を駆使して、開演まで少し会話。
彼はカルテクのコンピューターサイエンスの大学院生。
夏の間、NECにお金をもらって短期国内留学でプリンストンに来ているらしい。
彼の理論がわからなかったのは、きっと英語ではなく、自分の無知が理由であることを悟る。

スタート前にトイレに行く。
すると、がっちりした体型の人が入ってきた。
顔を見てみたら、Kiyoshi Kitagawa氏ではないか!

ブログ見てます。

と話しかけてみた。

あっ、ありがとうございます。何か楽器でもやってるんですか?

とKitagawaさん。

いやいや。
昨年ここでやられたのをみて、それがすばらしく良かったんで、また来たんですよ。

と、今思うとかみ合ってないけど、とにかく、そんな感じで少しだけ小話。
感激。。。

9時からスタート。
そのKitagawaさんの長時間のベースソロは1曲目だけだったけど、1曲目からイッてらっしゃった。。。

今回はDayna Stephensというテナーサックスプレーヤーも参加。狭いVillage Vanguardのステージ、Daynaさんは自分の出番でない時は、柱の影に隠れたり、片隅でマックノートを広げたりしていた。。。

最後の曲に選んでくれたCalypsoでのFrancisco Melaさんのドラムソロ、メロディアスなモチーフを叩き、時に激しく叫んでいた。

Kenny Barronさんのピアノ。体全体で魅せる激しいプレーではなく、じっくり聴かせてくれるとでも言ったら良いのか、何となく彼の人柄が伝わるようなプレー。Kitagawaさんとの小話中に聞いて初めて知ったけど、昔Rutgersで教鞭をとっていたそうだ。確かにwikipediaにもある。

知らんかった。。。意外な接点。

ちなみに、席は彼のピアノのすぐ近くだったから、楽譜がしっかり見えた。The Travelerという曲の時だけ、メガネをかけて楽譜を見ながら演奏していた。

楽譜はわずか1.5ページのラフな手書き(たぶん鉛筆)。音符もある程度見えたけど、きっとモチーフだけを書いていたのだろう。そのモチーフを無限なバリエーションとして奏でるジャズの真髄が少し伝わって、いたく感激。

帰る前、トイレに寄って(またか)、出てきたらKitagawaさんとご対面(また!)。
最前列に座っていたし、自分を覚えていらっしゃった。

すばらしかったです。

と一言伝え、一礼して帰宅。

おかげでこの1週間の疲れが吹っ飛んだ。
帰りのバスで爆睡し危うく乗り過ごしそうだったけど。。。

ちなみに、Kitagawaさんのエントリーにもあるように、今回のVillage Vanguardライブの特集エントリーがWBGO Blogにあって、初日の演奏を全部聴けたりもする。なんと便利な世の中。

けど、ジャズはやはり目でも聴かんといかん。
視聴覚統合が非線形性を示す好例。


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さて、オーケストラとジャズを聴いて改めて思った。
脳はやっぱりジャズ演奏だよな、誰だよオーケストラ演奏なんかに例えたのは
と。

ニューロン集団活動のあのわけのわからなさは、一人のコンダクターに操られてできる整然としたアンサンブルには似ても似つかない。可塑性によって新たなモチーフが生み出されては、それを他のプレーヤーとの駆け引きで無限のバリエーションとして毎回違うように表現する。プレーヤーは一癖も二癖もある多様な連中たち。たまに暴走しそうなプレーヤーに、他のプレーヤーが時に追従し、時には抑える。その意味で、どのプレーヤもコンダクターになれる。そんな相互作用から生じる秩序、そして幾重にも重なるリズム。常に違うオーディエンスに適応するように、プレーそのものを変えたり、逆にそのオーディエンスに働きかけたりもする。

ジャズライブを観るたびに、そんなswingしている脳の見方を強くする。だからThe Swingy Brain。脳活動にソロ演奏はないけど。。。とにかく、The Swingy Brain。

いや~、ジャズってホントに良いですね~(と故・水野晴郎バリのコメントで、無駄に長いエントリーをしめてみる)

8/23/2008

無意識下の行動から将来の意思を予想する

オバマ?マケイン?どちらを応援するか?

もしまだ意思決定していない人がいたら、その人のautomatic mental associationなるものをテストで測れば、その人が将来どちらを応援するか、票を投じるか、高い確率で予測できるかもしれない。それに近いことを、GaldiとGawronskiたちの共同研究グループが新着のサイエンスに報告している。

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その論文では、大統領選挙ではなく、イタリアVicenzaの住民129人を対象に、米軍基地拡張の賛否に関する意思決定をテーマに調べている。

テストでは主に3つの情報を参加者から集めている。
基地拡張の賛否(choice)に加え、アンケート形式で米軍基地に関する意見(意識的に思っていること、conscious beliefs)を聞き、そしてautomatic mental associationを測るための単純なテストを行ってもらう。

choiceconscious beliefsautomatic associationsの3つの情報を集める。

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automatic mental associationというのは、二つの事柄が、無意識のうちに、意図とは関係なく結びついていること、結びつくことを指すようだ。例えば、人によって、米軍基地と悪が無意識のうちに結びつきやすいようなことを想像すれば良さそう。

そのautomatic mental associationを測るために、Single Category Implicit Association Testというテストを行っている。このテストの狙いは、米軍基地と良いことがautomatic mental associationを起こしやすいか、それとも悪いことと起こしやすいかを測ること。

具体的には、正と負のカテゴリーに分けられる言葉(例えば、楽、幸せ、危険、痛みなど)と、米軍基地に関連した写真を参加者に見せる。そして、言葉、写真がコンピューター画面に映し出されるたびに、右か左かのボタンをできるだけ早く正確に押して答えてもらう。

実際のテストは3つのブロックからなっている。
第一ブロックは練習。正負いずれかの単語が表示されるので、正のカテゴリーに入る単語だったら左、負だったら右のボタンを押してもらう。

第二ブロックからが本番。
その第二ブロックでは、単語の正負のカテゴリー分けのルールは同じ。さらに、その単語の間に米軍基地関連の写真が表示される。もし写真が表示されたら正の言葉と同じ左を押してもらう。

第三ブロックでは、写真だったら負の言葉と同じ右を押してもらう。

そして米軍基地に関するautomatic mental associationをDアルゴリズムなる方法で測るそうだ。

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研究では、このテストの1週間後に再び参加者に来てもらって、全く同じことをやってもらう。choice、conscious beliefs、automatic associationsの3つの情報を再び集める。

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その結果わかったことは次の通り。

まず1週間前にすでに意思を決めていた人について。
1回目のconscious beliefsの結果から、1週間後2回目のautomatic associationsの結果を、統計的に有意という意味で、予測できることがわかった。当然ながら、1回目のconscious beliefsの結果から、2回目の意思(choice)を非常に高い確率で予測できた。

続いて、意思を決めていなかった人について。こちらが興味深い。
1回目のautomatic associationsの結果から、1週間後2回目のテストのconscious beliefsの結果を予測できることがわかり、さらに、1週間後の意思を約70%の確率で予測できることがわかった。

つまり、まだ意思決定していない人がいても、その人のautomatic mental associationを調べれば、将来の意思決定を高い確率で予測できる、ということになる。

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今回の研究、automatic mental associationを測ることそのものが、将来の意思決定にどれくらいバイアスをかけるのか、非常に気になる。実験としては、米軍基地と正負の言葉との連合のバランスを表面的にはとっている(2つのブロックでテストしている)。が、そのバランスをとる実験デザインが、逆にバイアスを助長しないのか気になる。好きなもの同士を結びつけるのは簡単だけど、嫌いなもの同士を結び付けるにはパワーがいる。

例えば、福田首相の写真と、好きな言葉を結び付けろ、と言われたら、「少し嫌い」だった福田首相が「とても嫌いな福田首相」になる気がする。

それから、automatic mental associationと呼んでいるのは、ホントに無意識下のものを測っているのか、気になった。データを見れば、conscious beliefsとの関係が弱いから、無意識下のものを測っていると解釈すべきなのだろう。しかし、政治に関する意思決定は、一度には意識にはのぼらせることが無理なくらい相当多くの意識的な情報を総合した結果下されるだろうから(その意味では、エビデンスを積み重ねて閾値に達するまでの道のりが遠い)、どこまで意識下のものでどこまでが無意識下のものか、非常に判断に困るし、個人差も非常に大きい気がする。そのあたりの詳細までこの研究をフォローしてはいないが、気になった。

今回の結果、確かに面白いけども、今後いろいろ論争を巻き起こしそうな印象を受けた。脳活動計測を絡めながら議論しないといけない問題なのだろう。

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文献情報

Science. 2008 Aug 22;321(5892):1100-2.
Automatic mental associations predict future choices of undecided decision-makers.
Galdi S, Arcuri L, Gawronski B.

ポドキャストではGawronskiさんがインタビューを受けて、研究のアウトラインを説明してくれています。
Perspectiveとして解説記事あり。

An Odyssey Through the Brain, Behavior and the Mind

ボスのケンにコピーを借りて主要箇所を読んでみた。
この本はVanderwolfが2003年に出版した本。退官講演的な内容になっている。

Vanderwolfとは誰か?

自分のボスの元ボスの元ボス(Neurotree)。
ケンの元ボスの元ボス。
Buzsakiの元ボス。
それが、Vanderwolf。

Hebbの弟子と言っても良いし、海馬で見れるシータオシレーションシャープウェーブの行動との関係を初めて報告した人、という説明がより良いか。

とにかく偉大な神経科学者。

Vanderwolfのスタンスは、「注意、認知、意識、知覚、記憶の神経基盤を探る」ではなく、あくまで脳活動アリキで、それが感覚入力や行動出力とどのように関係があるか示していく、というもの。冒頭のPrefaceで、そのスタイルについてまず手短に書かれている。

続く章では、まず彼がHebbのもとで大学院生として、視床(midline/intralaminar thalamus)の研究をし、その後、海馬や新皮質のオシレーションと(広い意味で)行動との関係を明らかにしていく様子について、教科書というより物語風のスタイルで書かれている。

彼がどのように感じ、どのように研究に取り組んでいったか詳しく書かれている。テクニカルな表現も多く、非常に臨場感あふれる自伝的な本。実験家としてどのように自然現象を観察し洞察を得ていくか、そのプロセスも学べる。

そして、終盤の11章The Mind and Behavioral Neuroscienceでは、心脳問題に対する彼のフィロソフィーが書かれ、Prefaceでの主張がより明確になる。彼の主張は、アリストテレスといった古代ギリシャ哲学に起源を持つ心理学的発想は、単に”cultural artifacts”であって、その神経基盤を見つけるというスタイルはbad scienceだと主張する。そうではなく、どのように神経系は行動を生み出すのか、という点にもっと注意を払うべきで、もっと生物学的な観点から客観的な記述に基づいて真実を明らかにするという戦略を取るべきだという主張をしている。

ちなみに、Buzsakiがポスドクとして働いていた時のエピソードが、6章に登場する。Vanderwolfは二つの問題に取り組みたいと当時考えていたようだが、Buzsakiはそれとは違う第三の問題に取り組んだそうだ。そして、彼がRutgers大で職を得るまでの話が1ページほどだが記述されている。

海馬、新皮質を中心に、オシレーション、脳状態、そして行動、心の問題を考えたい場合、一読に値する本である。

8/17/2008

最近の感動

最近、心を動かされたことについて。

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Randy PauschThe Last Lectureを読み終わった。夢に向かって、如何に効率よく、努力を続けるか、そして、如何に家族は大きな存在か、レクチャーでは語られなかったことも詳しく書かれていて多くを学んだ。(お薦めの一冊です)

その本は、「最後の講義」へ至るまでのエピソードで始まり、その「最後の講義」であるReally Achieving Your Childhood Dreamsの内容を中心に、その後に行われたTime Managementというレクチャーの題材を交えながら構成されている。そして、最後の三節では、如何に家族は大切な存在か心底考え直させられた。

彼が膵癌にならなければ、彼の存在すら知らないまま自分は死んだのかもしれない。そう思うと複雑ではある。けど、彼のレクチャーを(ウェブを通して)聴いた大勢のうちの一人として、これから生きていけるのは、ラッキー以外の何ものでもない。

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と、Randy Pauschさんに家族の大切さを教わった肝心な時に、その家族がいない。。。

なんてダメなオレ。。。

9月上旬まで、家族は夏休みで一時(たぶん)帰国している。
ということで、暇な週末。

そこで、The Dark Nightを観に行った。

(以下、ノー・ネタバレなのでご安心を。。。)

純粋に面白かった。
期待して観に行って、期待は裏切られなかった。大人も(が?)十分楽しめるように創ってあった。数十秒後、数分先を予測できないあの不安感、リアルワールドでは決して起こって欲しくない感覚を味わえた。(数ヶ月、数年先を予測できない不安感には、もう慣れたけど。。。)

Joker役の故Heath Ledgerは、The Imaginarium of Doctor Parnassusという映画にも出演するそうで、そちらにも期待。

ちなみに、アメリカの劇場で映画を観たのはこれが初めてだったりもする。

バットマンなら英語が少々わからなくても良いかと思って行ったが、甘かった。。。バットマンのあのドスのきいた声のヒアリングが一番きつかった。あの手の声用フィルターは自分の脳にない。そもそもあんな声で話す人が周りにおらん。。。

確かに、字幕に頼るとつい映像を見落としてしまう傾向がある。だから、字幕なしで観ると俳優の細かい表情なども観れる。だから良い。

が、一部意味をとれない、しかもドス声の主役が何を言っているかわからないのは致命的。(幸い、路頭に迷うことはなかったですが。。。)

3年もアメリカにいてこれか、と思うと情けなるけど、来た当初よりはましと思って、これからも精進するしかないな。。。

Randy Pauschさんも、とにかく「待て」と言っていたし。(work hardとも言っていたな。。。)

今日持った夢: 映画を字幕なしで完璧にフォローする。


ちなみに、アメリカと日本の映画館の違いについて。

映画館そのものは日本と全く同じ(違いようがないか?)。岡崎にいた頃、コロナワールドまで観に行ってたけど、ちょうどそんな感じ。

チケットは前日にネットで買って、プリントアウトして行った。もちろん、シネコン内でも買える。シアターの席は背もたれが少しだけリクライニング式になっていて、なかなか快適だった。意外にも一番目の観客だったので、最も良い席でふんぞり返って観れた。(ラッキー!)

違うと思ったことは2点。

第一に料金。日曜日の昼で、マチネ価格の8ドルくらいで観れた。コストパフォーマンス高。通常料金でも日本より安い。

第二にオーディエンス。彼らの感覚は一生理解できないだろうことを痛感した。

二つ驚いた。(いまさらではあるが)

第一に携帯電話に対する応答。
携帯を切り忘れたりするのはわからないでもない。が、かかってきた電話に出るその感覚が理解できない。電話に出て、小声で話しながらシアターを出て、すぐ戻ってくる人がいた。確かに学会会場などでも見かける風景ではある。彼らはそこまでしてリアルワールドにつながっていたいらしい。

第二に、ブラックなネタ。
ここでは日本人の感覚では笑わんだろうというところで、多くの人が声を上げて笑っていた。確かに製作者のネタというのはわかるけど、絶対に笑えない。彼らにあわせて鼻で笑ってしまった自分がにくい。。。

とにかく、ブラックジョークに限らず、何かが起こるたびに一喜一憂するリアクションが大げさだ、ということが改めてわかって、感動(?)した。

神経手品学(Neuromagics)?

ネタのようなタイトルですが。。。

手品のテクニック・発想を応用して、注意とアウェアネスを実験的に操作し、意識の謎の迫る研究分野、とでも言ったら良いだろうか。今回は、その分野(?)に関連した情報源を。

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すべてはASSC 11th Annual Meetingがきっかけ?

昨年、ASSC(意識を科学的に研究する人たちのための学会)のミーティングがラスベガスで開催された。そこで、プロマジシャンたちが特別出演するシンポジウムが企画された。

タイトルはThe Magic of Consciousness

それ以前の、手品と神経科学との関係はフォローしていません。。。けど、これが一つきっかけであったのは確かだと思う。

そのシンポジウムでは、5人のプロマジシャンが登場した。そして、実演を交えながら、如何に聴衆の注意をひきつけながら手品をするか、という手品のフィロソフィーというか、テクニックというか、とにかくテレビで見るショーとはまた全然違う角度からマジシャンたちがパフォーマンスを見せて(魅せて)、語ってくれた。

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そのシンポジウムの様子が、昨年、NatureNew York Timesで紹介された。

Mind Science Foundationのウェブにムービーが公開されている。

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そして1年後の最近になって、総説や新聞記事などが掲載された。

まずはNature Review Neuroscienceに、総説というか、この分野の展望についてまとめた論文がオンラインに掲載された。(こちらはまだ読んでません。PDFをフリーで読めます。*オンライン版のリンクのため、すぐにリンク先が変わる恐れありです。お早めに。)

イリュージョンについて幅広くまとめ、手品と認知神経科学の融合のポテンシャルについてまとめられている雰囲気。

マジシャンと彼らのテクニックを研究して、注意とアウェアネスを実験的に操作する強力な方法論を学ぼう。そして、そのような方法論は意識の行動レベルと神経レベルの研究に有用なのではないか、と謳っているようである。

ちなみに、共著者のApollo Robbins、TellerJohn Thompsonはシンポジウムに出演したマジシャン。

この論文にあわせてNew York Timesに記事が掲載された。

さらに、この記事などを受けて、いくつかのブログでエントリーが立てられている。
NeurophilosophyBrain WavesBoolah

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この分野、表面的には「手品と脳科学の融合」というセクシーさでとりあえず一般ウケしそうではある。けど、Nature Review Neuroscienceの論文にもあるように(まだ読んでいませんが)、やはりマジシャンのテクニック・発想から神経科学者が学べることは非常に多そう。

逆に、手品を、これまで科学者が研究してきたイリュージョンなどからどれくらい説明できるのか、という点でも面白そう。その意味では、マジシャンもいろいろインスパイアされるところが、ひょっとしたらあるのかもしれない。(茂木さんとマジシャンのトーク、もしまだ実現していなかったら面白い企画かも?脱線)

個人的に興味があるのは、注意とアウェアネスを実験的に操る、という点に注目して、それをヒト以外の研究に拡張できるか、という点。ホントにマジックショー的な要素を考慮に入れるなら、エンターテーメント的な要素も課題に取り入れ脳状態を高いレベルで操作しつつ、さらに注意やアウェアネスを操るような課題を作れると面白い研究になりそう。(ちと違うか。。。)サルが手品をするヴァーチャル映像を作って、ソーシャルな側面を入れつつ実験するとか。。。

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関連情報
Nature Review Neuroscienceの情報をPubMedで確認できしだい更新します。

neuropodでMartinez-Condeさんのインタビューがある。(フルバージョン
注意を操作することで、ひょっとしたら教師が生徒の注意をコントロールしたり、注意に問題のある子供の手助けになるかもしれない、といったimplication、なるほど、と思った。

Trends Cogn Sci. 2008 Aug 5. [Epub ahead of print]
Towards a science of magic.
Kuhn G, Amlani AA, Rensink RA.
という総説も最近出たようです。
新着のNature Review Neuroscienceに間に合わなかったとこを見ると、このTICSの情報を察知して(いわゆるスクープというやつですか)、あわててオンラインで出して(しかもフリーダウンロード)、マスコミにも情報を流したのでしょう。確かに、ニューヨークタイムズの最近の記事、昨年このネタを扱っているのに、また同じネタで記事を掲載するというのはおかしいですね。さすがNature系というかなんというか。。。サイエンスも(は?)政治力がものを言います。。。

昨年のASSCミーティングの様子は過去のエントリー(こちらこちらこちらこちら)にて。

8/10/2008

なぜ眠るか?

4ヶ月前のPLoS Biologyに、Why We Sleep: The Temporal Organization of RecoveryというタイトルでEmmanuel Mignotが非常に良いレビューを書いている。睡眠に興味のある人には超お薦め必読文献。

重要な主張は、Robustness May Favor Temporal Organization of Sleepという項目に書かれている。元の文章も抽象的でわかりづらいけど、自分の理解はこう:

細胞とシステムレベルで、恒常性(homeostasis)を保つために睡眠というものがある。その恒常性の仕組みは、外部環境からのかく乱に対して、システムをより強固なものにする。一方で、強固なシステムというのは、適応という点で不利な側面があるのだけども、その恒常性を保つ仕組みの上に、アドオン的に冗長性を持たせたり、モジュール化したり、正負のフィードバックの仕組みを付け加えることで、システムがより「したたか」(robust)なものになるのだろうと。だから、一旦、恒常性を保つために生じた睡眠は、そのアドオン的に加わっていったものによって、システムにとってよりメリットのあるものになっていったと。

つまり、進化という時間軸の過程で、睡眠はシステムをよりしたたかにするようになっていったのでは、ということなのだと思う。

ここにたどり着くまでに、このレビューは次のような構成になっている。
1.The Necessity of Sleep in Mammals and Birds: REM and NREM Sleep
2.Sleep in Other Organisms
3.Anatomical Models of Sleep Regulation: Localized or Distributed?
4.The Limitations of Brain Organization Models for Sleep Regulation
5.Current Theories on Why We Sleep
(番号は便宜上割り当てただけです。)

1では、いわゆるレム睡眠とノンレム睡眠をキーワードに、睡眠の多様性と必要性について非常に包括的、簡潔にまとめられている。ここは、同時期にSiegelが出したレビューに詳しい。そのレビューでは、昆虫や魚類、両生類、爬虫類の睡眠もまとめられていて楽しい。

2は、睡眠遺伝学の話が少しだけ紹介されている。ごく最近報告された線虫の睡眠(正確にはlethargusと呼ぶ)のも引用されている。この遺伝学の話をさらに詳しく知りたい場合は、ごく最近AlladaとSiegelが書いた総説にもう少し詳しく書かれていそうだ(まだ読んでません)。また、より一般的な記事としては、最近サイエンスにsleepless遺伝子の単離の論文にあわせて掲載された記事が非常にお薦め。

3は、睡眠をコントロールする神経核、神経回路の話が説明されている。例えば、カンデルの教科書で身に付けた知識をアップデートしたい場合、この項目は特に勉強になる。図としてはFigure 1。覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠それぞれについてまとめられている。

3はどちらかというと、特定の神経核群が覚醒・睡眠サイクルの制御に重要、という話なわけだけど、4では、必ずしもそれだけではなく、脳のもっと広い部分が分散的に関わっている、という例が少し紹介されている。

そして5では、睡眠の機能について、三大仮説が紹介されている。文献中のTable 1に詳しい。本文と同程度の情報量がある。その三大仮説とは、
1.エネルギー需要の減少
2.情報処理とシナプス可塑性
3.細胞内構成物の回復

これらの3つはそれぞれ対立するものではなく、共通項も多い。少なくとも視点が、システムレベル、シナプスレベル、細胞レベル、と違う。

これらのバックグランドを踏まえて、先に述べた「したたかな恒常性」の話が展開される。

そして、最後に、What Remains To Be Sloved?として、未解決、あるいは当面の問題を、3つ挙げている。
1.Homeostatic and circadian regulation: independent or intimately linked?
2.The problem of REM sleep.
3.Molecular and anatomical studies of sleep and sleep regulatory networks across species.

1は、睡眠の恒常性とサーカディアンリズムはこれまで異なるものとして扱われてきたらしいけども、おそらくそうではなさそうだ、ということ。この両者の関係が今後のトピックの一つになるのだろう。

2は、レム睡眠の大問題。
上に挙げた三大仮説はノンレム睡眠を主に想定していて、レム睡眠には必ずしも当てはまらない。つまり、睡眠の機能としては片手落ちになっている。例えば、レム睡眠中の脳活動は、多くの点で覚醒中に似ているので、エネルギーをより消費している。シナプス可塑性の仮説についても、例えば大脳皮質の活動は全く違うわけで、ノンレム睡眠中とレム睡眠中の可塑性の(神経活動レベルでの)メカニズムは違ってしかるべき。その点を現時点での仮説ではしっかり説明しきれていない。

このレビューでは、レム睡眠の機能は進化を通して変わってきているのでは、という柔軟な考えを唱えつつ、レム睡眠は特定の原始的な神経回路だけにメリットがあるのでは、という立場をとっているように解釈した。が、非常にわかりづらい議論を展開している(ので誤解しているかも)。それだけ、いろんな立場があって、まとめきれない、ということなのだろう。

3は、分子レベルの研究の重要性を主張している。この点は、先に紹介したAlladaとSiegelの総説に当たるとより情報を得られるかもしれない。

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何を学ぶ?

これまでの知識を整理して、補って、そして今後の研究方向を考える上でホントに役に立った。個人的には、レム睡眠と分子遺伝学を使った研究が重要になるのだろう、と思った。分子遺伝学という点では、ハエの研究は、文字通りの意味では、哺乳類の話に発展させるのは難しい気がするけど(確かオレキシンのシステムはハエにはなかったはず)、アナロジーというかアブストラクトな部分でおそらく役に立つ気がする。shaker絡みの話はそういう意味で参考になる。

それから、なぜ自分が睡眠の話を取り上げているかというと、睡眠は脳状態と情報処理の問題を考える上で避けて通れない問題だと思っているから。ノンレム睡眠中は少なくとも意識はないはずで(断言してもそれほど反論はないか?)、そういう意味では、ネガティブコントロールとしての脳からいろいろ学べることは多そう。そう思っている人はまだ少なそうだから、そう思ってみる。どうだろう。

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参考文献

PLoS Biol. 2008 Apr 29;6(4):e106.
Why we sleep: the temporal organization of recovery.
Mignot E.

右のTag集のSleepにたくさん睡眠関連の論文があります。

泣きのウクレレ

Jake Shimabukuroによる、George HarrisonのWhile My Guitar Gently Weepsのカバー。



かっこよすぎ。

ニューヨークタイムズの記事もあわせてどうぞ。
(そこでは、「その4つの魅惑的な弦」というタイトルで、ウクレレがひそかなブームになりつつあることが、これまでの歴史などを踏まえつつ紹介されてます。)
(Let’s Danceも聴けます。YouTubeはこちら。)

8/09/2008

友人とマンハッタン観光

先週、基生研時代から付き合っている友人二人が来たので、マンハッタンへ遊びに行った。
行った場所・イベントの感想・印象を。

Ippudo

一風堂マンハッタンに進出した、というので行ってみた。

スープ劇ウマ。飲干した。

が、$13という価格設定は強気すぎ。。。(ホームページも気合が入っている割に空回りしている感じだし。。。)美味い、店もきれい(待客用バーあり)、サービス良し、立地良し、けど、腹が立つ。ラーメン一杯に$13(+チップ)はなかなか払えない。

誰をターゲットにビジネスしているのか?どういう経緯であの料金設定なのか?気になる。

おそらく、アメリカ対応のストラテジーを採用しているのだろう。

おそらく、ジャパニーズ・フードを食べる「レストラン」と認識して来る外人を主なお客と設定しているのだろう(もはやラーメン「屋」ではない)。とすると、ブランド料としての$13と考えたら良いのかもしれない。が、日本人もたくさんいることを忘れてもらっては困る。

そもそも、アメリカ人の脳があのスープの絶妙な味を処理できるのか、自分にはわからん。彼らはとんこつスープを味わうための能力を養う臨界期をすでに過ぎている気がする。

我々がrとlを区別できないように。。。
(味の臨界期があるのか知らんが、アメリカ人を見ている限り、ある、と言いたい。)

彼らには、こってりスープの「こってり」は認識できないのではないか。そもそも対応する単語は思いつかないし、彼らは「こってりクオリア」を体感できていないのではないか。こってりゾンビ?

一歩譲って、こってりに近いフィーリングはあるとしよう。けど、彼らはバッタモンと区別できない可能性が高い。つまり、もう少し安いバッタモンこってりラーメンがあって、店の雰囲気が良ければよし、と判断しそうである。

それから、日本人からしたら「量」にしかこだわってないと思えるアメリカ人が、おなか一杯になるか微妙な量しかない一風堂のラーメン一杯に、$13を払うのか甚だ疑問である。払うセレブがいたとしても、替玉($2)をたくさんして、もはや元のコッテリ感が原型をとどめていないスープを、グレート!、ワンダフル!などと言って飲むだろう。が、スープを飲干すという一つの礼儀とでも言える行為を、外人は果たしてするだろうか?

一風堂はそれをよしとする戦略に出ているように思える。

郷に入っては郷に従えとはいうが、買えない。一流のラーメン屋はマンハッタンでは他に一軒くらいしか知らないが、ジャパニーズ・レストランは他にたくさんある。残念ながら、ジャパニーズ・レストランとしての魅力は感じられなかった。

それよりは、これから進出してくるかもしれないラーメン屋に先手を打つ形で(実際に打っているわけだし)、もっとリーズナブルな価格設定でリピーターを抱え、店舗拡大を狙った方が長期的には良いのではないか?とも思える。

(ちなみに、こちらに外人のレビューがたくさん載っていて、概ね評価は良い。が、大真面目に「Maruchan noodleと違う」とかコメントする人がいるのだから、「ニューヨーカー」と言っても、所詮その程度である。。。むしろ、一風堂とマルちゃんラーメンを比べたその勇敢さに敬意を表したい。。。)

土曜日の昼だったが、満員という感じではなかった。一風堂スープのaddictionでない限り、日本人にとっては、1年に一回行けば十分である。もっと一風堂並みに洗練されたラーメン屋が進出して価格破壊を起こして欲しい。

そして、もしアメリカに進出するなら、そして一流だという自負があるなら、アメリカナイズさせず、日本の文化をそのまま持ち込んで勝負して欲しい。日本のプライドを捨てないで欲しい。

どうでもいいけど、毎晩のように「天一本店」に行って、「大一、コッテリにんにく入り」を頼んで、学割を使って500円くらいで食べていた頃が懐かしい。。。

ラーメンとは、本来そういうものではないか??

と、レストランレビューのようなエントリーに。。。

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Xanadu

ブロードウェーのミュージカル。コメディ。小さめのシアターにて。

少し早めにチケットをおさえたから、3列目くらいのど真ん中で観れた。英語がわからないと厳しい(かった。。。)。終盤は盛り上がって悪くなかった。が、ストーリーがぶっ飛びすぎな気もした。。。あのWhoopi Goldbergがこの夏の期間だけ特別出演していてラッキーだった。


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Sakagura

1次会として使用したのは初めて。それにしても日本酒の品揃えは尋常ではない。料理もおいしくて、腹いっぱい食べて、レアな大吟醸も1杯呑んで一人$50強なら、そう悪くないか。普通の日本酒でも、グラス一杯$9以上は払わないといけないけど、たまに行くには良い居酒屋である。(こちらの価格設定は理解可能)

予約で電話する時、「もしもし」と出られた時は拍子抜けしたけど。。。

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Riki

よく行っている居酒屋。

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Yankees vs Angels

終盤、大いに盛り上がった。エラーが絡んだり、打撃戦になったりと、プロらしくないといえばそうだけど、盛り上がってヤンキースが勝ったからよし。しかし、日曜日のデーゲームの混みようは尋常ではなかった。。。

それにしても、けが人続出のヤンキース、プレーオフ進出が難しくなってきた気も。。。

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という感じで、先週は、会話も盛り上がって、充実の週末でした。

睡眠不足、肥満、メタボ、そしてガン

寝ないと、太って、メタボになって、ガンになる。

そのロジックが少し前のNatue Medicineの記事にあって勉強になった。ある意味、恐ろしい記事でもある。

(*この分野は専門ではないので危険ですが、以下、その記事に基づいて書いてみます。)

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睡眠不足と肥満

睡眠不足と肥満が関係している。
と言われると、
肥満→イビキ→呼吸困難→睡眠不足
という因果関係は容易に想像がつくから良い。

が、この記事によると、
短い睡眠時間→肥満
という因果関係もあるかもしれない。

睡眠時間が短いと、胃などで作られる食欲ホルモン、「グレリンghrelin)」と「レプチンleptin)」のバランスが変わる(グレリンが増え、レプチンが減る)。

1000人以上を対象にした調査でもわかっているらしい。

つまり、
短い睡眠時間→食欲ホルモンのバランス変化→肥満
というロジック。

では、食欲ホルモンのバランスが変化したら、どう肥満と結びつくか?

記事では、非常に面白く、かつ説得力のある説が紹介されている。

グレリンの上昇とレプチンの減少は、脳内のオレキシンorexin)の量を増やし、脳を覚醒させ、同時に空腹感を引き起こす
というアイデア。

二つの食欲ホルモンは、脳の視床下部に働いて、オレキシンという脳内ホルモンの量を調整しているらしい。オレキシンは10年前に発見された脳内ホルモンで、食欲を制御する一因で、脳を覚醒状態に保つのに必要なタンパク質(こちらの文献も)。

先に挙げた食欲ホルモン、グレリンはオレキシンの生産量を上げ、レプチンはオレキシンの生産をブロックする。(もちろん、オレキシンの量は、この二つの食欲ホルモンだけで決まっているわけではないのだろうけども)

つまり、
短い睡眠時間→グレリン上昇&レプチン減少→脳内オレキシン上昇→脳の覚醒化、食欲促進→肥満
というロジックになりそうである。

逆説的だけど、短い睡眠時間が、結果的(病的?)に脳の覚醒化を引き起こすのかもしれない。同時に、無駄な摂食を促すことになる。悪循環に陥ることになる。

では、睡眠時間が短いと、何が引き金で、食欲ホルモンのバランスを変えるか?

交感神経系(sympathetic nervous system)の活性化、という説があるようだ。

交感神経系は、ウィキペディアにもあるように「flight or fight反応」と深い関係がある。その反応は、ストレスがかかっている時に起こる反応といったら良いだろうか、例えば、俗に言う「アドレナリンが出ている」という状態に近いかもしれない。交感神経系がより働くと、瞳孔が開いたり、血流が上昇する方向に働いたり、副腎からのホルモンや伝達物質の放出量が増えたりする。

その交感神経系活性化の一つの結果として、レプチンの量が下がる、という仮説があるそうだ。

まだわかっていないことも多そうだけど、一つの仮説としてまとめてみると、
短い睡眠時間→交感神経系の活性化?→グレリン上昇&レプチン減少→オレキシン上昇→脳の覚醒化、食欲促進→肥満
というロジック。

とにかく、寝ないと太る。

さらに記事によると、睡眠時間を実験的に操作して、実際に体重が増えるか調査するプロジェクトが進行中らしい。

短い睡眠時間→肥満
という因果関係をシンプルに確かめる研究として興味深い。

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少し個人的な意見を。

結局のところ、肥満防止には、適度な運動と睡眠、という当たり前なことが最も大事なのかもしれない。(それが難しくなっているのが現代の問題といえば、それまで。。。この問題は、科学や医療だけの問題でなく、政治や経済、社会レベルの問題として対策しないとどうしようもない。おそらく、地球温暖化問題のように、出来上がったシステムを止める、変えるほうにコストがかかる、といったナンセンスとも思える論争を巻き起こす人がでてくるのだろう。睡眠不足の問題は「人間環境問題」だな。ということは、地球環境問題をアナロジーとして、社会を変える方向を探るのは重要かもしれない。人間環境問題は、ヒトだけの問題な気もするけど、ヒトの無駄な食欲増進によって、さらなる地球環境問題の一因にならないか、と勝手に心配。)

それから、睡眠不足を感じている脳がどう働いてストレス反応としての交感神経系の活性化を促すのか、その点については、この記事では触れられてなかったように思う。ひょっとしたら、その時点でオレキシンが絡んでいるとすると、上のロジックは複雑になりそうだ。

ちなみに、徹夜した時に「ハイ」な気分になるのは、過度の睡眠不足の結果、脳内オレキシン量が増えてきたことと関係があるのだろうか?(素朴な疑問)

薬として、オレキシンや食欲ホルモンの量をコントロールしよう、という安易な発想はおそらくNGだろう。もしそんな薬があったとして、一時的に服用するならともかく、生活習慣として寝不足な人が服用し続けると、その薬の副作用として、睡眠薬として働いて生産性を下げたり、事故を引き起こしたり、拒食的な状態を生み出すリスクがありそう。とすると、やはり根源の睡眠時間をその人なりの正常な時間にセットするしかない気がする。どうだろう?人生の三分の一を有意義に過ごそう、という発想が出てこないとダメだな。。。

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睡眠とメタボ?

メタボの代表は糖尿病。

この記事では、睡眠不足が糖尿病をひょっとしたら引き起こすかもしれない、という研究が少しだけ紹介してあった。(だから、どれくらいコンセンサスが得られているか、自分には不明)

記事によると、ボランティアに睡眠不足状態になってもらったところ、インスリンが働きにくくなり、インスリンの量も増えなかったそうだ(つまり代謝力低下の悪循環への第一歩?)。

ちなみに、ここで引用されている論文では、寝不足によって交感神経系の働きも亢進したとあった。寝不足が交感神経系を活発にする根拠の一つにもなりそう。

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睡眠とガン

寝不足→ガン
というのは、にわかには信じがたい。が、それなりの説得力をもって記事が書かれている。

この記事では、Richard Stevensという人の説を中心に説明されている。

話の発端は、1980年代、乳癌の発生率が増えたこと。その原因としてまず、ダイエットが疑われたらしい。しかし、そのStevensという人はダイエットとの関係に疑問を抱き、別の説として、夜の明るい照明との関係に目をつけたそうだ。

この記事によると、夜勤の人と乳癌の発生率に関係があるとする疫学調査がいくつかあるそうだ(例えばこちら)。

その鍵を握る物質として考えられているのが、脳の松果体で作られるメラトニンmelatonin)。メラトニンは、いわゆるサーカディアンリズム(circadian rhythm)と同調して、通常夜間に作られる。

記事で紹介されていた文献によると、確かにメラトニンはガンに効く、という報告があって、素人目からすると、コンセンサスが得られつつあるようにも見える。

つまり、誤解をおそれずに書くとすると、
夜間照明・夜勤→サーカディアンリズムの異常→メラトニン減少→ガンのリスク上昇
というロジックか。

乳癌の発生率上昇の一因を、夜間照明・夜勤、メラトニンが担っているとして、なぜ乳癌?という疑問が残る。

が実際、夜勤は他のガン(前立腺がんや大腸がん)のリスクも上げる、という研究もあるらしく、他のガンとも関係することが少しずつわかってきているらしい。

もう一つの疑問は、メラトニンはどう働くか?どうガンを防ぐ方向に働くか?ということ。

記事では、メラトニンは、フリーラジカルを除去してDNAのダメージを防いだり(文献PDF)、エストロゲン(estrogen)という女性ホルモンに働きかけたりするらしい。

さらには、植物オイルに含まれるリノール酸とメラトニンとの関係に注目している研究者もいるようだ。


思ったけど、寝不足中の遺伝子の働きを網羅的に調べて、いろんな疾患との関係を調べる研究がもしかしたら現在進行中なのかも?個人単位でコントロールをとって遺伝子発現を比較できる。(これはお金になります。)

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最後に、この記事にはない情報を。

wikipediaのmelatoninを読んでいて気づいたが、レプチン量を制御しているらしい(!!)。さらにleptinのエントリーをを読むと、メラトニンがインスリンと相互作用して、その結果、レプチンの量を増やす、という論文が紹介されている。


寝不足、肥満、メタボ、ガン
すべてがつながるのも肯ける。

寝ないと、太って、メタボになって、ガンになる(リスクが上がる。。。)

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参考記事
Nat Med. 2008 May;14(5):477-80.
Hungry for sleep.
Willyard C.

update:
少し関連する一般向けの本
Mastering Leptin: The Key to Energetic Vitality, Youthful Hormonal Balance, Optimum Body Weight, and Disease Prevention
アメリカでは割と売れてるみたいです。