11/29/2008

STED顕微鏡

顕微鏡と言えば、中学生の時にタマネギか何かの細胞を理科の実習で観察して、大学院生に入って共焦点レーザー顕微鏡2光子励起顕微鏡なるものがあることを知った。今の大学院生なら、4PiSTEDPALM/STORMといった顕微鏡を話題にしているのかもしれない。

とにかくここ最近、次から次へと新しい名前の顕微鏡が登場していて、もはやついていけなくなってきた感がある。顕微鏡の英語はmicroscopyだけど、”nanoscopy”という言葉もよく見る。

その中で、STED(stimulated emission depletion)顕微鏡という顕微鏡が神経科学研究に応用されつつあるので、今回は私が重要論文かも?と思った範囲で、STED関連の文献集を作ってみます。

こういう次世代顕微鏡のポイントは、従来の光学顕微鏡では見れなかったものが、見れるようになる、ということか。しかも、組織を生のまま見れたりするので、神経可塑性や神経伝達物質放出などの動的なプロセスをより高解像度で調べられるようになる、ということなのだろう。

つまり、文字通り見落としていたものが見えてくる可能性がある。

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STED顕微鏡

STED顕微鏡について語る時、キーパーソンはStefan W Hell

Optics Letters, Vol. 19, Issue 11, pp. 780-782
Breaking the diffraction resolution limit by stimulated emission: stimulated-emission-depletion fluorescence microscopy
Stefan W. Hell and Jan Wichmann

STED顕微鏡の生みの親、HellたちがSTED顕微鏡のコンセプトを初めて提唱した論文。簡潔にまとめると、励起光をクエンチング・ビームなどと呼ばれるレーザーと一緒に使うことで、空間解像度を従来の数百nmから一気に数十nmと1桁も下げられることがわかった。

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STED顕微鏡の神経科学への応用

Science. 2008 Apr 11;320(5873):246-9. Epub 2008 Feb 21.
Video-rate far-field optical nanoscopy dissects synaptic vesicle movement.
Westphal V, Rizzoli SO, Lauterbach MA, Kamin D, Jahn R, Hell SW.

こちらの論文は、神経科学への応用だけでなく、STED顕微鏡を生きた細胞に初めて応用したという点でも重要な論文か。具体的には、シナプス前終末のシナプス小胞のリアルタイムイメージングに成功して、細胞内の小胞の挙動が明らかになった。この論文の解説記事が非常にわかりやすくてよい。

想像力を豊かにすれば、ニューロン間の情報伝達の効率性を、生きた組織で光学的に詳しく調べられれたりするのかもしれない。


Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Nov 21. [Epub ahead of print]
Live-cell imaging of dendritic spines by STED microscopy.
Nägerl UV, Willig KI, Hein B, Hell SW, Bonhoeffer T.

ごく最近出た論文。STED顕微鏡で樹状突起上のスパインを経時的に観察したという論文。科学的発見という意味では、大したことないのだろうけども、こういう論文はワクワクする。ちなみに論文の最後に、電顕で回路を再構築するより、STEDで良いのでは?ともある。最先端の現場では、どういう議論が繰り広げられているのか興味があるところ。

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STED顕微鏡も扱っている総説(紹介だけ)

Science. 2007 May 25;316(5828):1153-8.
Far-field optical nanoscopy.
Hell SW.

Nat Methods. 2008 Jun;5(6):475-89.
Do-it-yourself guide: how to use the modern single-molecule toolkit.
Walter NG, Huang CY, Manzo AJ, Sobhy MA.

Nat Rev Mol Cell Biol. 2008 Dec;9(12):929-43. Epub 2008 Nov 12.
Fluorescent probes for super-resolution imaging in living cells.
Fernández-Suárez M, Ting AY.

Stefan HellでpubMed検索をすると、他にもたくさん関連文献が見つかる。

追記(12/20)
Nature Methodsによると、「今年の技術」としてSTED顕微鏡を含んだnanoscopyが選ばれている。どういう経緯で最近のブレークスルーが起こったかわかりやすく紹介した記事や、Hell自身による記事などもあって超お勧めです。

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日本語でググッた結果からおススメ情報

Nature Methodsの日本語記事

Ctenophoraの日記より「光学顕微鏡を超える空間分解能のために」(超充実)

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update:
関連書籍
生命現象の動的理解を目指すライブイメージング―癌、シグナル伝達、細胞運動、発生・分化などのメカニズム解明と最新技術の開発、創薬 (実験医学増刊 Vol. 26-17)
STED顕微鏡やナノスコピーのことは扱われていないようですが、イメージング研究の最先端の本として。

Nanoscopy Multidimensional Optical Fluorescence Microscopy
というナノスコピーの教科書が発売されるようです。

2 comments:

Anonymous said...

すいません。コメントではないのですが、
神経幹細胞特異的にCreを発現させるマウスご存知ですか?

脳科学の分野でのpaperをよく読んでらっしゃるようなので、ご存知かと思い書き込みしました。

ある遺伝子Aのflox/floxマウスで神経幹細胞でのAの機能解析を行いたいと考えています。

mail: glutamate1979@yahoo.co.jp

Shuzo said...

書き込みありがとうございます。

> 神経幹細胞特異的にCreを発現させるマウスご存知ですか?

私はわからないです。すみません。知人にその分野のプロがおりますので、聞いてみますね。
もし神経科学者SNSに登録されているようでしたら、そこで聞かれても良いと思いますよ。

**このコメント欄をご覧になって、もしご存知の方がいらっしゃれば、ご連絡いただけると幸いです。