7/17/2010

アナウンスメント 3つ

このブログは活動休止状態になってますが、生きてます(たぶん)。

今回は3つアナウンスメントです。

第一に、9月1日、神戸で開催されるシンポジウム「若手研究者とのクロストーク」でトークさせてもらうことになりました。

このシンポジウムは、Neuro 2010(翌日から開催される神経科学の学会)のオフィシャル・サテライトシンポジウムで脳科学若手の会の方々が企画されたとのこと。

研究の内容についてだけではなく,そこまでの道のりや,キャリアプランについてもお話していただく予定です。質疑応答の時間をたっぷり準備していますので,ノンアカデミックな質問も大歓迎です。講演は英語ですが,質疑応答は日本語もOKです。

とあり、普段のトークとは違うことが要求されているので、何を・誰に向けて・どうトークすべきか、ややプレッシャーを覚えております。。。(「ノンアカデミックな質問」は、他の演者の方々にされた方が良い答えが返ってくると思います。。。)

ちなみに、このシンポジウム後に、若手研究者国際交流会というイベントがあり、こちらも参加します(ついでにポスター発表もすることになってます)。会場で気軽に声をかけてやってください。

これらのイベントは大学院生やポスドクが対象だと思いますが、参加登録はこちらから可能となってます。(国際交流会の参加登録締め切りは7月30日)

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二つ目のアナウンスメント。

上に関連して、Neuro2010で発表します。口演はrejectだった(よくあること)のでポスター発表となってます。大会2日目、9月3日に発表予定です。

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最後のアナウンスメント。

全英オープンで盛り上がってるスコットランドへ8月から移籍することになりました。グラスゴーのUniversity of StrathclydeLecturerとして行き、独立したラボを運営していく予定です。

ということで、上述のサテライトシンポは、ちょうど移籍直後のタイミングになるので、就活関連の話や今後の研究方向も含め少しお話しできればと思ってます。

と、就活・移籍準備などでこのブログは休止状態になってましたが、これからもtwitter、プライベート寄りなネタを扱うブログ、そしてこのブログを軸にウェブ上の活動は続けていきます。

よろしくお願いします。

3/27/2010

目と乱数

目は口ほどにものを言う
目は心の鏡

このことわざにぴったりの研究が、最新のCurrent Biologyという雑誌に報告されている。

数をランダムに次々に言う時に目の動きも測ってみる。すると、目が右上に動いたら、次に言う数は前に言った数より大きくなり、逆に、左下に目が動いたらより小さい数を言うことがわかった。

研究では、参加者の人たちに、メトロノームのリズムに合わせて、1から30までの数をできるだけランダムに言ってもらう。その間に眼球の位置も計測しておく。

そして、直前に言った数と次に言う数の差、それから目の動きとの関係を調べている。

実は、以前の研究から、SNARC(spatial-numerical association of response codes)効果(PDF)というのが知られている。例えば、スクリーンに数字を表示して、それが偶数か奇数か答えてもらい、その反応時間を測ってみる。すると、小さい数をスクリーン左側に表示すると早く反応し、逆に大きい数は右側に表示すると早く反応する。つまりは数と空間認識との間に密接な関係がある、ということを示す行動レベルでの効果でもある。

今回の研究では、そのアイデアを乱数生成に拡張している。

まず、目の動きの「方向」から、乱数が直前に言った数から増えるか減るか「数の方向」を予測できるか調べた。すると、目の水平方向(右か左か)からは61.6%、垂直方向(上か下か)からは65.7%の精度で予測できた。

さらに踏み込んで、目がどれくらい動いたかと、数がどれくらい変化したかという「程度」の関係も調べた。すると、言った数の変化が大きい時ほど、目の動きもより大きかった。目が右上に大きく動いたら、次はより大きな数を言い、左下に大きく目が動いたらより小さな数を言った、ということになる。

ということで、目の動きと乱数発生は、単なる方向だけでなく程度という点でも密接な関係があることがわかった。

実は最近、認知神経科学の分野では、数と空間認知には密接な関係があって、空間認知に重要とされてきた頭頂葉がやはり数の情報処理にも重要だということがわかってきている。つまりは、行動レベルだけでなく、脳のレベルで見ても、数と空間の情報処理は密接な関係がある。

例えば、最近の研究で興味深いのは、昨年サイエンスに発表された論文。そこでは、注意の空間的な方向(目の運動)に関連した脳活動からコンピューターをトレーニングしておけば、足し算か引き算をした時の脳活動もある程度区別できてしまうことを報告している。

今回の乱数発生と目の動きの関係を説明する脳のメカニズムはまだわからないけど、もしかしたら似たメカニズムが働いているのかもしれない。

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文献情報

Curr Biol. 2010 Mar 23;20(6):R264-R265.
Eye position predicts what number you have in mind.
Loetscher T, Bockisch CJ, Nicholls ME, Brugger P.
今回紹介した文献

Nat Rev Neurosci. 2005 Jun;6(6):435-48.
Interactions between number and space in parietal cortex.
Hubbard EM, Piazza M, Pinel P, Dehaene S.
数と空間認知と頭頂葉の関係についてまとめた総説。ヒトの行動レベルから脳活動だけでなく、マカクザルの神経生理学の話も扱った包括的な内容となってるもよう。

Science. 2009 Jun 19;324(5934):1583-5. Epub 2009 May 7.
Recruitment of an area involved in eye movements during mental arithmetic.
Knops A, Thirion B, Hubbard EM, Michel V, Dehaene S.
上の総説での予言を検証した論文ということになるのか。

Trends Cogn Sci. 2003 Nov;7(11):483-8.
A theory of magnitude: common cortical metrics of time, space and quantity.
Walsh V.
Current Biologyの論文でも議論しているA theory of magnitude (ATOM)という理論について

Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2009 Jul 12;364(1525):1831-40.
The parietal cortex and the representation of time, space, number and other magnitudes.
Bueti D, Walsh V.
アップデート版か?

<関連本>
The Number Sense: How the Mind Creates Mathematics

Dehaeneの書いた本で、このトピックに興味がある人にはお薦めできそう。


2/20/2010

抑制性細胞の活動と脳状態

何かに集中している時とボーっとしている時、脳の活動はどう違うだろう?

最近ニューロンに掲載された研究によると、その答えは、ニューロンの種類によって違う。ニューロンの出力信号である「スパイク」を出すネットワークレベルの仕組みも、ニューロンの種類によって違うことがわかってきた。

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集中時と安静時、脳の活動はどう違うか。それを脳波で測ってみると、「遅い波の成分」が違う。ボーっとしていたり、寝ている(ノンレム睡眠)時、脳波の遅い成分が大きい。大きく・ゆっくりゆらいでいる。

つまりは、行動の状態(集中時、安静時、ノンレム睡眠中、レム睡眠中など)が違えば「脳状態」も違う。

もっと掘り下げて、集中時と安静時、「ニューロン」の活動はどう違うか、という問題を考えてみる。

大脳新皮質にはいろんなタイプのニューロンがいることは100年くらい前にはわかっていたけど、そんな多様なニューロンが、違う脳状態の時にどんな振る舞いをするか?という問題は、最近ようやく詳しく調べられるようになってきた。

今回の論文(スイスのPetersenたちの研究)では、ヒゲの感覚情報を処理する「バレル皮質」で興奮性と抑制性ニューロンの活動をマウスで調べている。そして、わかったことは次の通り:
1.脳状態が変わると抑制性ニューロンの活動も変わる。その変わり方は、抑制性ニューロンの種類によって違う。
2.ニューロンのペアの活動は、安静時、よりシンクロしている。
3.興奮性ニューロンがスパイクを出す時、細胞膜の電位変化は近くの興奮性ニューロンとは協調していない。一方、抑制性ニューロンがスパイクを出す時、膜電位は近くの抑制性ニューロンと協調している。

この論文は、神経回路の振る舞いが違う脳状態の時にどう違うか、という問題を理解していく上で、非常に重要な研究。

以下は、論文の著者自ら語った解説ムービー。


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ここからは、ジャーゴンをもっと入れながら。。

今回の研究では、GAD67-GFPマウスを使って、生きた・起きているマウスのバレル皮質のGABA作動性ニューロンを2光子レーザー顕微鏡で可視化しながら、in vivo dual patchという、離れ業をやっている。そして、膜電位、スパイク、ペアの活動相関、スパイク発生機構を2/3層で調べている。

細胞種は、錐体細胞、GAD67陽性細胞としては、FS細胞とnon-FS細胞の二種類がターゲット。

重要な図は図3、5、6か。

図3では、単一細胞レベルの脳状態依存性を調べていて、whisking時(マウスのムービーを撮ってヒゲを動かしているか否かでwhiskingかquietか分類している)、FS細胞は発火頻度を下げ、non-FS細胞は発火頻度を上げている。つまりは、脳状態がスイッチすると抑制性細胞の活動もスイッチする感じ。錐体細胞に関しては、有意な差はなかったようだ。

図5では、脳状態と膜電位相関の関係を調べていて、どのペアでもquiet時で相関が高いことを確認している。

図6では、ペアの片方がスパイクを出した時、相方の膜電位変化を調べた点がポイントで、錐体細胞同士は協調していない。一方、抑制性細胞ペアは非常に協調した膜電位変動をしている、ことを示している。

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いろいろ思うところはあるのだけれども、一番気になるのは、whisker時の活動は「自発活動」なのか、感覚応答も含めた活動なのか解釈不明な点(これは対象モダリティーの抱えている大きな問題のようにも思える)。少なくとも2008年のNature論文のような対照実験をしないとその問題はクリアできないのではないか。図3の発火頻度の変化は、自発活動と感覚応答と脳状態の3つのパラメーターが混ざったデータになるのではないか?図6はsignal correlation的なものを見てるのか、noise correlation的なものを見ているのか、しっかり解釈するのが難しくないか?(そもそも脳状態を区別していないようだし)

あと、前から気になっているのは、C2バレルに特化した研究をしているという点。別に他のバレルは違うんでは?とかそういうことを言っているのではなく、C2以外のヒゲを全部切ってしまうと、他のバレルからの影響が変わってしまう可能性を排除できないはずで(例えば側方抑制とか)、ヒゲが全部ある時、結果がどうなるかは誰もわからないのではないか。視覚研究のアナロジーで考えると、古典的受容野刺激のパラダイムを採用しているようにも思える。(実際、古典的受容野の外にも刺激を出すと、スパースさが増したりもする。)

一方で、図6は、ここのところイメージングや電気生理でコンセンサスが得られつつある傾向を、膜電位レベルで示唆しているとも解釈できるから、脳の場所、動物種が変わっても、共通している現象なのかもしれない。

とにかく、Petersenのグループはこのテーマの先導者で、技術レベルは世界最高レベルだから、これからどんなデータを見せてくれるか今後も注目。

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今回紹介した論文
Neuron. 2010 Feb 11;65(3):422-435.
Membrane Potential Dynamics of GABAergic Neurons in the Barrel Cortex of Behaving Mice.
Gentet LJ, Avermann M, Matyas F, Staiger JF, Petersen CC.


バックグランドとして必読論文はこちら
Nature. 2008 Aug 14;454(7206):881-5. Epub 2008 Jul 16.
Internal brain state regulates membrane potential synchrony in barrel cortex of behaving mice.
Poulet JF, Petersen CC.

12/26/2009

神経科学の実験技術ガイド

The Guide to Research Techniques in Neuroscience presents the central experimental techniques in contemporary neuroscience in a highly readable form.
- William T. Newsome

MRIの画像処理をしている人でも「ゲルのバンド」を読めなければいけない。タンパク質の解析をしている人でも「スパイクのラスター」を読めなければいけない・・・

神経科学の研究をやっていくには、いろんな実験法を幅広く理解しておかないといけない。

そのためのガイドブックともいえる、Guide to Research Techniques in Neuroscienceという本が最近出版された。

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現代神経科学は、カハールがゴルジ法を使って、神経系の構造を記述することで始まった。それから100年以上の年月を経て、今では、一人ではとてもフォローしきれないくらい多くの実験法が脳研究で開発・応用されてきた。

では、
主に使われている実験法はどれくらいあるだろうか?
それを網羅した情報源はあるだろうか?
そんな情報がウェブにあったとして、それは、なじみのない人にもわかるよう噛み砕かれて説明されているだろうか?

その3つを満たしそうな本がGuide to Research Techniques in Neuroscienceという本。

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この本はスタンフォード大のコースをもとに書かれているようで、MRIや動物行動実験から、電気生理学、組織学、光学、分子生物学、生化学まで、現在主に使われている、あるいは使われつつある実験方法の原理と簡単な流れが網羅されている。

本は14章から成り、各章のトピックは以下の通り(自分なりに英語を意訳してます):
第1章:全脳イメージング(MRIなど)
第2章:動物行動(げっ歯類、ショウジョウバエ、線虫が中心)
第3章:脳定位手術(脳に手術を施す方法論全般)
第4章:電気生理(細胞内・外記録など)
第5章:顕微鏡(光顕、電顕)
第6章:解剖・組織学的方法論(各種染色法)
第7章:細胞・シナプスレベルのイメージング(含、オプトジェネティクス)
第8章:遺伝子スクリーニング(含、分子生物学の基礎)
第9章:DNAテクノロジー(PCR、シーケンスなど)
第10章:遺伝子導入法(ウィルスなど)
第11章:トランスジェニック法(Gal4やCreなども)
第12章:内在遺伝子操作法(ノックアウト、RNAiなど)
第13章:細胞培養技術(含むiPS)
第14章:生化学・細胞内シグナリング(ウェスタンからChIPまでタンパク関連)

各章のスタイルはこう:まず、この章を読めば何を学べるか、カバーしている方法が箇条書きされている。続いて、簡潔な概論から各論へ移り、最後に参考文献が紹介されている。

各章は独立しているので、興味のある章を読んでいく参考書的な使い方をすれば良い。また、さらに興味があれば、参考文献を調べて理解をより深めることが可能。

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4つの研究法

本のイントロとして、研究レベルを問わず一般的に当てはまるであろう4つの研究戦略が紹介されていた。

その4つとは、
1.ケーススタディー(examining case studies)
2.スクリーニング(screens)
3.記述(description)
4.操作(manipulation)

1は、実験というより、レアな臨床報告のように、脳の働きについて語ってくれる事例のことを指す。例えば、最近脳のスライス作りがウェブキャストされたことで話題になったH.M.ことHenry Molaisonさんや、Phineas Gageの話が典型例。

ラマチャンドランの「脳のなかの幽霊」オリバーサックスの本はそのケーススタディーのオンパレードといえば良いか。一般の人にはもっともなじみのあるトピックではある。

そして2以降が、多くの研究現場で普段行われている研究戦略になる。

2の「スクリーニング」は、特定の脳機能に関わる脳領域、ニューロン、遺伝子を発見する、といった類の研究。

3の「記述」は、遺伝子発現、ニューロンの活動、脳のつながりなどを単純に観察する、といった研究。

そして4の「操作」は、外部環境や脳のある特性を操作して、その効果を調べること。Xを操作したらYはどう変化するか、を調べること。分子生物学を応用した研究で最も成功している。

ちなみに、本文中には、この操作実験でのデータ解釈に関する注意書きもあって参考になる。実際、ここで書かれているミス(拡大解釈)をやるケースがある。


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この本はすばらしく良い本だけど、最大の問題は、いわゆる計算論について記述がなく、冒頭にその断りすらないこと。脳を理解するのに計算論は不要だという神経科学者はあまりいないはず。

なので、この本のタイトルは、Guide to Research Techniques in Neuroscienceというより、Guide to Experimental Research Techniques in Neuroscienceがより正確かもしれない。

また、プロの人にとっては、自身の専門技術が解説されている章を読むと、少し物足りなさを感じるかもしれない。

このような改善点はあるけれど、この本は多く方法を網羅している上に参考文献も充実している。なので、直接関わっていない方法論を知りたい時の参考書として最適で、神経科学を志す大学院生、あるいは神経科学へ参入を考えている研究者の壁を取り除いてくれる良書であるのは間違いない。

この本は、大学院生から最先端で活躍している研究者まで、幅広い人に強くお薦めできます。


11/15/2009

twitter

ここ数ヶ月、ブログの更新頻度が低下してます。
すみません。。。

セルフプロモーション的エントリーばかりで自分でもウンザリ気味です。
すみません。。。

一方で、右のガジェットコーナーでは宣伝していたので、気づいていた方も多いとは思いますが、数ヶ月前からtwitterを始めてます。

最近、自分なりの使い道が少し見えてきた気がするので頻繁にtweetするようにしています。

神経科学をまじめに考えたい・勉強していきたい人たちとネットワークを作れれば良いなぁ、なんて思ってます。

英語でtweetしてたりもしますが、twitterは日本語の強みを活かせるソーシャルメディアだと思っているので、このブログでもあえてエントリーを立ててみました(って、またセルフプロモーションしてるし。。。)。

twitterではセルフプロモーションは控え目ですので、ウザいと思わずぜひフォローしてやってください。