3/30/2008

日本語対応

ちょっと用があって日本のお役所関連のところへ電話を入れた。
改めて思ったこと、日本は良い国だ。。。(しみじみ)

日本語が通じるのはもちろんだが、電話の取次から、担当者の対応まで。
なんと丁寧なこと。。。

きっとアメリカの洗礼?を受けたことのある多くの方は、同じことを思われる気がする。
それくらい日本にはポライトな人が多い。

けど、電話を切る間際、ついついいつもの癖で、電話先の担当者の名前を聞いてしもた。。。

というのは、アメリカの場合、いわゆる「人によって対応が違う」というのは茶飯事的に起こる。良い意味では「ネゴシエーションの国」に通じるかもしれんが、悪く言えば、テキトー。
そんなテキトーな国の場合、何が困るかというと、Aはこういうたのに、Bがそれはだめ、などと言い出し、振りだしへ。。。(もしくは余計厄介に・・・)
もしくは、そのA自身がテキトーだったら、進んでいるはずのことが一切進まず・・・、なんとこともよくよくよくよくある。

だから、責任の所在をあとでトレースするためにも、そのAの名前を聞くことをみんなよくやってる。(有効性がどれくらいあるかは知らんが)

それはともかく、日本のポライトさは、ホントに世界に誇るべきことだと改めて思った今日この頃。アメリカに来てわかった日本の良さでもある。

3/29/2008

脳内即興曲

ジャズに名曲はなく、名演奏あるのみ

と野川香文が言ったように、ジャズの特徴は、毎回違うアドリブ演奏にある。
では、そんなアドリブ演奏は脳のどこの活動に支えられているのか?

最近PLoS Oneに報告された論文によると、アドリブ演奏をする時、ちょうど額の奥に位置する前頭葉の一部がより強く活動することがわかった。

---
研究では、ジャズミュージシャン(ピアニスト)の脳活動をMRIで測っている。そして、次の二つの条件で、脳活動を比較している。

第一に、いわゆる「コントロール」と考えているもので、4分音符をドレミという順番で弾く。あたえられた課題曲を弾いているのと等価と考えて良さそう。第二の条件は、「アドリブ」で、4分音符だけども自由なメロディーを弾く。

この2条件のときの脳活動を比較している。研究ではさらに、リズムの制約のなしで、コントロールとアドリブの脳活動も比較しているが、結果はほぼ同じだった。(なので、省略)

ちなみに、実際の演奏例がこちらにある。(特にAudio S4を。スウィングしてます!)

---
では、スウィング中の脳(Swingy Brain?)はどこが活動するか?

論文のFigure3にまとめられている。暖色がアドリブ>コントロール、寒色がその逆。

まず、アドリブを弾いている時に強く活動した脳の場所はどこか?
前頭前野内側部(medial prefrontal cortex)なるところ、特にその先端(吻側)がより強く活動していたらしい。ここは「ブロードマンの10野」といわれるところでもある。

他には、感覚運動処理に関わるいくつかの場所も強く活動している。それから、論文ではそれほど強調していないが、小脳の一部も強く活動していた。

---
逆に、アドリブ演奏時、活動が弱かったところはどこか?(あくまでコントロール時との比較)
意外かもしれないが、上の前頭前野内側部を除く前頭葉の広い部分の活動が、弱かった。逆に言うと、単調な課題曲を弾いた方が、前頭葉の広い場所で活動が増えていたことになる。

その前頭葉の広い部分には、前頭葉でよく研究されている背外側部、それから眼窩前頭前野、さらには、内側の後方全般、といったところが含まれる。

さらに、海馬や扁桃体といったいわゆる「辺縁系」といわれるところも、アドリブ演奏時に活動が弱かった。課題曲演奏時に比べて。

---
この研究はいわゆるクリエイティビティに関わる脳活動を調べた研究と位置づけられそうだ。非常に面白い。

このデータをそのまま理解すれば、前頭葉の先端部分の活動を高めれば、アドリブ演奏のような創造的な活動ができるのかもしれない。

一方で、前頭葉が活動したからといって、創造性を鍛える方向で頭が良くなる、という考えはNGである、とも解釈できるかもしれない。なぜなら、アドリブ演奏時には広い前頭葉の活動が、単純な作業の時より活動が弱くなっていた、と解釈できるから。

非常に興味深い。

ちなみに、海馬などの辺縁系の活動が低かったことに関しては、解釈が難しいようだ。また、自分が読んだ限り、小脳の活動については何も議論していないようだが、もしかすると、伊藤正男先生が主張されてきたことと大いに関連があるかもしれないなどと思った。どうなのだろう?

---
この研究、面白いが問題もありそうだ。
例えば、「創造」と「でたらめ」の区別。

今回の研究ではミュージシャンがやったから、あたかも創造的に弾いたと一意に解釈するのはそう無理はない。

が、より厳密に考えると、アドリブとランダム演奏は区別されるべきだが、それを「客観的」にはできていない。そもそもランダム演奏という条件を設定していない。アドリブとランダムを区別するためには、創造性を「測る」必要があるわけだが、創造性は単純なモノサシで測れる代物ではないから創造なのであって、大きな壁が存在する。

とにかく、今後このような研究はどんどん発表されるだろうが、創造性とは何か?どう評価するか?という問題がつきまとう気がする。脳科学ではこれまで一部の人しか真剣に考えてこなかった「脳の活動」をみんなで深く考えていかないといけないのかもしれない。

---
文献
PLoS ONE. 2008 Feb 27;3(2):e1679.
Neural substrates of spontaneous musical performance: an FMRI study of jazz improvisation.
Limb CJ, Braun AR.
今回紹介した論文。

Nat Rev Neurosci. 2008 Apr;9(4):304-13.
Control of mental activities by internal models in the cerebellum.
Ito M.
最近、伊藤正男先生が書かれた総説。
内部モデルのコンセプトを発展し、小脳におけるメンタル活動について、実験事実を踏まえながら仮説を展開、そして精神疾患との関係についても考察されている。自分が読んできた範囲の文献で、小脳は意外な場面でよく顔を出すと思っていたが、その理由を考える上でも非常に参考になる気がした。

wikipediaのCreativityという項目もなかなかお薦め。

さらに、自分が知っている範囲では、Zekiもcreativityに関連するエッセーを書いている。

3/22/2008

デスパレート・アクト

肉を切らせて骨を断つ。

英語なら、デスパレート・アクト(desperate act)とでも訳したら良いか。
捨て身の行動。

ポイントは、リスク(傷を負う)をとりながら、それよりも大きいであろうリスク(命を落とす)を避ける、ということではないかと思う。

しかし、この戦略は極めて危険である。捨て身だけに。無難に行ったほうが良いときにこんな戦略をとると、リスクが倍返しになるリスクがある。

けど、研究にこの発想を持ち込むと、実は面白いかもしれない。

---
ネットワークを考える。

例えば、電線の網(パワーグリッド)。
普段は、電気がそのネットワークを流れている。

今、いくつかの中継地点が機能不全に陥ったとする。
そうすると、他の中継地点にかかる負荷が増える。
そうすると、なだれ的に中継地点が機能不全に陥っていく。
結果的に、システムそのものがダウンし、大停電へ結びつく。

アメリカではよく?聞く話である。

では、では肉を切って大停電への連鎖反応を断つことはできないだろうか?というのが、このエントリーでの問題意識である。

実は、そんな肉(中継地点)を切って骨(なだれ的な機能不全)を断つことを考えた面白い論文があったので、少し読んでみる。

---
その論文は、2004年にPhysical Review Lettersという物理系の一流雑誌に発表された論文Motterという人の研究。

この研究では、
一旦、中継地点の機能不全が始まったら、少ない負荷しかかかっていなかった中継地点を除いたり、大きな負荷がかかっていた電線を取り除くと、なだれ的な現象を軽減できる、
ことを明らかにしている。

---
この研究のモチベーションはこう。

上の大停電のストーリーを
1.いくつかの中継地点が機能不全に陥る。
2.さらなる中継地点の機能不全が起こる。
と分けて考える。そして、1から2へ発展する間に、ステップ1.5として「意図的除去」を実施して2を防ごう・軽減しよう、というわけである。

ここで「意図的除去」というのは、アクシデントではなく、文字通り意図的に、中継地点や中継地点同士を結ぶ電線を取り除いて、電流の流れをコントロールしよう、という発想である。

つまり、意図的除去という肉を切る戦略をとって、なだれ現象という骨を断とう、という発想である。

---
この論文では、「スケールフリー・ネットワーク」を想定した上で、2つの戦略を考えている。
1.ノード、つまり中継地点を取り除く
2.エッジ、つまり中継地点同士を結ぶ電線を取り除く
ちなみに1の戦略では、どのノードを除くかという点でさらに4つの戦略を検討している。(結果は同じ)

この戦略に基づいて、解析的に解いてわかったことを、シミュレーションとしていろんな具体的な条件(いくつ除くか?、負荷に対する許容度はどれくらいか?という条件)で確認している。

そしてわかったこと:
1.かかっていた負荷が少ないノードを除く。
2.大きな負荷がかかっていたエッジを除く。
すると、何もしないよりは、なだれ現象を軽減できることがわかった。(もちろん、止めることはできていない)

---
では、これに近い発想を生物システムに応用できないか?と考えて取り組んだ研究結果を、同じMotterという人が最近報告している。いわゆる遺伝子のノックアウトを、システムを助けるため、減った生産性を上げるために使おう、ネットワークベースの発想である。

---
さらに脳を考えてみる。

ロボトミーはまさにこれなのかもしれない。(ロボトミーは前頭前野の一部や線維を外科的に切除することを指してました。すみません。。。SMLさん、ご指摘ありがとうございました。

他の例では、例えば、てんかん治療のために脳の一部を取り除いたり、脳梁を切断したりする。確かに難治性てんかんを治せるようである。

一方で、このような脳の外科的手術には大きな副作用が伴う。新しい記憶(エピソード記憶)ができなくなったり、いわゆる分離脳(以下の文献も参照)といった重篤な問題が生じる。

もしここから学ぶとするなら、「肉を切って骨を断つ」という捨て身の戦略は、あくまで非常手段であって、目指すべき方向ではないのかもしれない。

これはちょうど野党が日銀総裁人事でとっている戦略と匹敵するような気もしないでもない。つまり、目先のメリット(国民の支持率アップ?与党の支持率低下?)だけにとらわれて、もっともっと大事なシステムレベルのこと(日本の信用、世界経済)には大きなデメリットをもたらしうる。(野党は肉と骨の価値判断を完全に見誤っているように見える。)

つまりは、よく考えてやらないと、バカな戦略になって、自分の骨まで断つことになりそうである。これは言わずもがなか?(タイムリーだったのでつい。。。)

---
文献
Phys Rev Lett. 2004 Aug 27;93(9):098701. Epub 2004 Aug 26.
Cascade control and defense in complex networks.
Motter AE.

Mol Syst Biol. 2008;4:168. Epub 2008 Feb 12.
Predicting synthetic rescues in metabolic networks.
Motter AE, Gulbahce N, Almaas E, Barabási AL.

おまけ。
たまたま見つけた難治性てんかんのための脳梁切断手術に関する日本語の文献

3/21/2008

英語の応酬?

最近、アロンというイスラエル出身の大学院生にプロジェクトを手伝ってもらっている。いろいろ実験を教えたり、進捗を簡単にレポートしてもらったりしている。

と書くと、ワールドワイドチックで非常にかっこよく聞こえるはずである。
自分でもそう思う。

が、そのアロン君、英語が超下手。

英語下手度ランキングでは、ダントツのツートップを独占している。自分と。
どちらがトップ(ワースト)かは、聞きたくもないので、誰にも聞いていない。
とにかく良い勝負である。

なので、彼との英語でのやり取りでは、他人にはとても聞いて欲しくないようなすごい英語、別に変な意味ではなく、文法的にすごい英語がいきかっている。

---
彼が多用するストラテジーがある。

例えば、彼が何かを伝えようとして、自分が理解できなかった場合、
OK. Never mind.
と口癖のように言う。


気になるやんけ。



例えば、自分が、「そこ、こうやったら」、といったアドバイス的なことを言った場合、
OK. Never mind.
と口癖のように言う。


気にしろよ。

---
とにかく、そんな両者の英語能力でも何となく意思疎通ができるから、ヒトのコミュニケーション能力はすごいな、と思う。

脳をまるで総動員しているかのような、あるいは左脳を全く使っていないような、言語を超えたコミュニケーションがそこにはある。。。

3/16/2008

バーチャル脳ベータ版?

最近気になった論文、IzhikevichPNAS論文

ヒト脳のDTIデータを、thalamocorticalとcorticocortical connectionの情報、
MartinたちのネコV1の解剖データを、局所回路の情報、
ラットのスライス実験でわかったデータを、シナプス応答の情報、

として使って、ダウンサイズしたヴァーチャル脳(新皮質と視床)を作っている。さらに彼が考案したいわゆるIzhikevich modelで1M個のニューロン活動をシミュレーションしている。

そのために60個のプロセッサーをもつPCクラスターを使うという力技である。

そのPNAS論文では、図4からバーチャル脳を走らせた時の特徴的な結果を示している。面白いのは図5からか。

図5では、一発のスパイクの違いという初期条件が違っただけで後に大きな違いが出てしまうことを示し、
図6では、traveling waveを再現し、
図7ではさらに、resting stateを再現している。

図6に関連して、領野によって特定のオシレーション(ベータ)のおきやすさが違う現象は解剖情報だけで再現できた、という点は興味深い。

---

ただ、これら後半の図たちで新規性はないといえばない(もちろん、リアリスティックな大規模シミュレーションをした、という点は新しいけど)。しかも通常のpeer-reviewのプロセスを通さず、Edelmanの力でPNASに出しているようだ。

この論文、一見セクシーではあるけど、ツッコミどころ満載なシミュレーションな気がする。
例えば、
全領野の局所回路をV1で置き換えて良いのか?
細胞の数という点でも領野によって違うわけで、そういう解剖情報は無視して良いのか?
シナプス応答の点で考えると、例えば、HCNの特徴を入れなくても良いのか?
apical dendriteはともかく、basal dendriteこそ重要なんではないか?
そもそもヒト、ネコ、ラットをミックスして良いのか?
DTIやcanonical circuitでは記述できていない(であろう)弱い?結合は考慮に入れなくて良いのか?
などなどなど。。。

その辺は現時点では難しいだろうけど、テクニカルな点で一つ非常に気になることがある。

このバーチャル脳、オーバーフィッティング的なことが起こりまくっているのではないか?ということ。ダウンサイズして、固定パラメーターを使ったといっても、これだけ大規模なシミュレーションをしたら、そりゃ、何でもできるでしょ、という気がしないでもない。どうなんだろう?自分にはようわからん。。。

図5のカオス的な結果を受け、最近のBrechtのネイチャー論文をdiscussionで持ち出している。が、果たして同じ次元で考えて良いのか、単なる偶然の一致なのか、ちょっとわからない。オーバーフィッティング的なことが起こっているなら、ちょっとしたノイズに過剰に反応するというのは何となく想像できる。(Brechtの論文そのものがあやしいといえば、あやしくもあるか。。。3個のinterneuronの貢献度大だし、そいつらがgap junction作ってたら1個という主張はできないし。。。)もし同じかも?と議論をするなら、1個のFS細胞のスパイクを操作した時により大きな効果がみれるかどうか興味があるところ。

このオーバーフィッティング(かもしれない)問題、モデリングに詳しい専門家が見たらどうなのだろう?単なる自分の知識不足による勘違いなのか?supplementをざっと見た感じ、そのあたりに関するコメントはないと理解した。

こういうモデリングでクロスバリデーション的なことはできるだろうか?この場合のクロスバリデーションはいったい何か?

Izhikevichのことだからそんなことは十分認識していて、とりあえず作ってから問題をデバッグして、バージョンアップをはかっていこう、という超楽観主義的発想なのかもしれない。彼のウェブには将来の見通し的な情報もある。

やはり、気になるのは、このシミュレーションから何を予言できるか?ということ。その予言を実験的に検証していくことが、この場合の「クロスバリデーション」になるのかもしれない。その意味では、この論文では予言はないと理解したので、とりあえずベータ版を作ってみました、というお披露目論文と理解したら良いのだろう。

今回のシミュレーションは睡眠状態だとして、ここから脳状態をどう変化させて、よりリアルな意識下の脳に近づけていくか?どう感覚刺激を入れて、運動出力なり、意思決定的な情報をディコードするか?

例えば、バーチャル脳ではxxxxができないとNG、といった「バーチャル脳」の必要条件を考えていく上で良い叩き台になるのかもしれない。

それにしてもこのIzhikevichという人、scholarpediaといい、出版前の本全文をPDFで公開するとか(出版後の今はさすがに公開していない)、やることがぶっ飛んでいる。。。ヤバイ研究者の一人。


文献
Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Mar 4;105(9):3593-8. Epub 2008 Feb 21.
Large-scale model of mammalian thalamocortical systems.
Izhikevich EM, Edelman GM.

Izhikevichの本

3/15/2008

A Day of Memory at NYU

というシンポジウムが今週開催され、終日参加してきた。雰囲気だけでも伝われば、と思う。

このシンポジウムは4つのセッションから構成され、分子、シナプス、回路、システム(含心理学)という幅広い内容を扱っていた。テーマは、タイトルにあるようにMemory

ちなみに、カンデル大先生も朝一から来ていて、ほとんどのスピーカーに対して質問をぶつけていた。

---
では、セッション1。
このセッションは、シナプスレベルの話。非常に濃かった。

Steven A Siegelbaum (Columbia Univ)
ITDPを提唱した論文を中心にトーク。彼の頭のキレ具合が伝わるすばらしいプレゼンで、研究内容も面白かった。

Adam Carter (NYU)
この人は知らなかった。two-photonを使ったシナプス応答の研究で良い論文を出しているようだ。例えば、こちら。若いので、NYUでPI職を得たばかりなのかもしれない。

Larry Abbott (Columbia Univ)
unpublished dataをトーク。

---
セッション2は分子レベルの話。目玉はSacktor。

Todd C Sacktor (SUNY Downstate Medical Center)
「記憶消し物質ZIP」で今や超有名人。
PKMzetaは、記憶関連のキー分子として確立した感を受ける。(彼らの研究は、こちらのエントリーで少し紹介してます。)Sacktor本人をはじめて見たけど、アメリカンな体型で甲高い声が特徴的だった(雰囲気だけでも。。。)

Karim Nader (McGill Univ)
LeDoux研時代こちらのネイチャー論文を発表している。re-consolidation関連のdebateの火付け役ではないかと思う。トーク内容は。。。カンデル先生ですら質問しなかったので、かなり・・・。けど、独特のオーラを持ってる人だった(フォロー)。

Cristina M Alberini (Mount Sinai Medical Center)
タンパク合成とconsolidation, re-consolidation関連の研究をされている女性。PubMedで検索したら、総説がこれから出るようだ。

---

昼休み。
呑み友達でもある理論家の日本人といろいろ話をした。

---
セッション3はシステムレベルの話。
前半は神経生理。後半はヒトの記憶。

Gyorgy Buzsaki (Rutgers)
ラットの神経生理。すばらしいトークだった(若干飛躍も感じられたが)。
それにしても、ギューリー先生は効果的なプレゼンの仕方を知っている。

Wendy A Suzuki (NYU)
サルの神経生理。4年前に発表された論文を中心にトーク。良いプレゼンだった。

Lila Davachi (NYU)
彼女の研究はフォローしてないけど、unpublished dataだったと思われる。
最近、Neuronに論文を出したばかりなのにすごい生産性だ。
ちなみに、この方きれいな女性です(若くは見えますが、実際は知りません。。。)。

Elizabeth Phelps (NYU)
この人は最近ネイチャー論文で楽観性に関することを報告した人でもあるけど、トピックは全くその逆。
動物の研究でわかった知見をヒトへ応用するという精力的な研究。
ちなみに、この方も女性。だけど、強面。。。(ネタもかましてましたが。。。)

---
セッション4はヒトのイメージング研究、その中でも記憶に関連しそうな研究、そしてバリバリの心理学。

Clayton Curtis (NYU)
ヒトのワーキングメモリの研究ラボのホームページ

Alex Martin (NIH)
視覚物体認識(object recognition)でMRIを絡めた研究。総説も出しているようだ。雰囲気からして有名人なのだろう。全然知らんかった。。。

Janet Metcalf (Columbia Univ)
この人も知らなかったけど、ググッて彼女のラボのページを調べたらメタ認知など面白い研究をしているようだ。トークでは、心理学から見た海馬の「モデル」を話してくれた。計算論という意味でのモデルをやってる人には不評だった。。。個人的には、「悪くない」とは思った。抽象度が高すぎるのもよくない。

Marcia K Johnson (Yale Univ)
欠席でトークなし。。。
ラボはこちら

---
そして、セッション5。

Eric R Kandel (Columbia Univ)

他のスピーカーは20分という持ち時間だったけど、カンデル大先生は40分。
アメフラシの研究から局所タンパク合成を調べられるユニークな実験系の確立、そしてプリオン的な転写因子CPEBの話へ発展した経緯、そしてその後の発展について。途中Movshonをネタにしながら、すばらしいトークをしてくれた。(Movshonが所内対応的な下っ端として働いていた。。。)

wikipediaによると、カンデル先生は来年で80才。確かに見た目はそれくらいというのは伝わる。けど、研究内容、研究に対する情熱みたいなものには、一切衰えを感じられなかった。ノーベル賞取るような人はホントに次元が違う。ちなみに、質疑応答も盛り上がり、ギューリー先生の噛み付きにも一切動じず。。。むしろ噛み付き返し?ていた。。。

良いもん見れました。。。

---
さて、何を学ぶ?
いろいろ考えさせられることがあった。
やはり思うのは、「ブリッジ」とでも言うのだろうか、異なる時空間スケールで起こる現象たちをどう自分の頭で消化して、クリティカルな問題に取り組んだら良いのか?ということ。特に時間スケールの問題が、他の神経系のトピックに比べ特にやっかいな気がする。記憶だから仕方がないのだろうけど、その問題に取り組んだ研究というのはない気がする。どうなのだろう?少なくとも現時点では実験的にできないことを可能にしないといけない諸問題がいろいろありそうだ。

もう一つ、言葉の定義。
科学をする以上言葉で表現することは大事なのだけども、神経科学の言葉で、しっかり言葉を再定義しないといけない気がする。例えば、今回議論になったconsolidationreconsolidation。何それ?という気が素人からしたらした。。。おそらく専門家に聞いても、微妙に定義の仕方が違ったりするだろうから、新規参入しようという人には何ともおかしなジャーゴンに見えるのではないだろうか。むしろ、新しいコンセプトのタネが、こういうおかしなところに眠っているのだろう。

それにしても、復習して改めて思ったけど、どのスピーカーも一流の研究者ばかりで、濃いシンポジウムだった。NYC地区が大半、というのがまた驚き。。。

EarthとBrainの相似性

地球上にはいろんな美しい地形がある。
そんな地形をGoogle Earthを使って旅できる。
(方法:このページのリンクからplacemarkファイルをダウンロードし、Google Earthで旅する。)

そんな地形を見ていると、脳のことを知っている人は「眼優位性コラムocular dominance column)」を思い出すかもしれない。イメージはこちら
脳のシワを想像する人もいるかも。

EarthとBrain。

スケールは違うけど、ちょっと似ているところもある?

----
参考文献
Trends Ecol Evol. 2008 Mar;23(3):169-75. Epub 2008 Feb 5.
Regular pattern formation in real ecosystems.
Rietkerk M, van de Koppel J.
あのアラン・チューリングが初めて言い出したらしいscale-dependent feedbackというルールで、地形の規則的パターンの形成を説明できる、と主張しているようだ。非常に興味深い。

3/09/2008

Aクラスな科学の情報

この一週間で知った情報を、強引に関連付けてみます。
キーワードは「Aクラスな科学」。

スピン(一般向け)
ネイチャーのウェブページ上で「スピンspin)」の特集が組まれている。
自分は、ポッドキャストを聞いただけだけど、なかなかわかりやすく解説されていてお薦め。

スピンとは、基本粒子のもつ角運動量。英語では、intrinsic angular momentum of elementary particles。(自分は大学教養物理で挫折しているので、これ以上の詳細は不問ということで。。。)

では、そのスピンは何の役に立ってるか?
例えばハードディスク。昨年のノーベル物理賞とも関係が深い。スピントロニクスなる言葉を初めて知った。ちなみに、そのスピントロニクスの分野ではスピンを応用した半導体が開発されつつあるとか。脳科学でいえば、今やなくてはならないMRIを支えている物理現象もこのスピン。スピンを利用した大発見がこれからも続くのだろうか?


Aクラスな研究者になるためのハウツー(大学院生向け)
そんな大発見をするようなAクラス研究者になるための良い情報がいくつかある。リチャード・ハミングという数学・コンピューターサイエンスで功績を残した偉い人の講演全文がウェブにある。良い研究者の条件について語っている。英語の長い文章は読んでられないという人は、こちらに10のポイントとしてまとめられている。一方、他にも重要な要素があるよ、というツッコミもこちらにある。

これに関連して、個人的に大好きなエッセーは寺田寅彦の「科学者とあたま」。


場所細胞、グリッド細胞、そして(大学院生、プロ向け)
そんなAクラスな研究者のうち、今脳科学の分野で活躍している「カップル」がMoser夫妻。海馬周辺領域のシステム研究をしている人で、今やMoser夫妻を知らない人はいない(たぶん)。

そのMoserたちがAnnual Review Neuroscienceに総説を書いている。この分野は、ラット・マウスの研究を中心に、今コンセプチュアルなレベルで劇的な発展を遂げている。昨年話題になった本Rhythms of the Brainでもそんな最新情報はフォローしきれていない。このホットな分野をフォローするにはうってつけの総説だと思われる。


Freemanの教科書(大学院生、プロ向け)
さらに脳科学のAクラスな研究者を。
Walter J Freemanといえば、嗅覚系でカオス的脳活動について言い出したことで有名ではないかと思う。その人が30年以上前に出版した有名な教科書の全文が公開されている。1ページあたりの文字数はそれほど多くはないが500ページ強に及ぶ。

いわゆる「ポピュレーションコード」など、ニューロンが集団として情報処理していること、を議論する論文の中で、この教科書は頻繁に引用される。自分はこの本を読んだことがなくて、今、第一章を読んでいるけど、非常にお薦めな教科書である。

PDF版も含め、著作権がFreemanに戻ってきたから公開したらしい。すばらしい。。。この原稿公開のためにprefaceを追加していて以下のように述べている。

The word "chaos" has lost its value as a prescriptive label and should be dropped in the dustbin of history, but the phenomenon of organized disorder constantly changing with fluctuations across the edge of stability is not to be discarded.

主張の軌道修正とも解釈できそうである。Freemanがどんなデータをもとにどうカオスという主張をしはじめたのか知らないが、なかなか興味深い言葉である。


ノーベル賞受賞者の汚点(プロ向け)
さらに超Aクラスな研究者で嗅覚系の研究をしている人のニュース。嗅覚系といえば、リンダ・バック。嗅覚受容体の研究でノーベル賞を受賞した女性。

そのノーベル賞受賞前、2001年に発表した超有名なネイチャー論文を、今週取り下げた関連記事も掲載されている。データを再現できず、さらに捏造の可能性がわかり、論文での結論に自信がなくなった、ということが取り下げ理由のようだ。

実際、この論文が出た直後に悪いうわさを聞いた覚えがある。確かに、論文の図を見ると「こんないい加減な図でよく通ったな」と今思う。論文の図はすべて筆頭著者が用意したと発表されたので、捏造がホントなら、筆頭著者が行ったと理解すべきなのだろう。が、常識的な科学者が大きな発見を報告する場合、少なくとも、もっと説得力のある図を用意するのが普通ではないかという気がする。ノーベル賞をとるような人が、論文作成時点でそのことをなんとも思わなかったのだろうか?論文のレフリーが誰だったのかもちょっと気になったりもする。

もちろん、今回の取り下げは、彼女がノーベル賞に値する発見をした事実そのものには全く影響はない。が、なかなかショッキングなニュースである。自分が知る限り、彼女は40代に花開いた苦労人で、そんな大器晩成タイプの研究者として、自分は非常にリスペクトしていた研究者の一人だったのに。。。。でも、こういうことからいろいろ学ばなければいけないこと(「社会勉強」という点で)はたくさんある気がする。

ちなみに、Action Potentialでもエントリーが立てられている。


そしてiPS細胞(大学院生向け、プロ向け)
さらにノーベル賞に関連する(であろう)Aクラスなネタで締めくくり。
日本にいないからiPS細胞がどれくらい騒がれているのか、もう一つその空気を読めていない。けど、うちの母親もネタにしていたくらいだから、国全体の盛り上がりようは相当(だった)なのだろう。。。それはともかく、JSTこと科学技術振興機構が公開している特別シンポジウムの報告書はいろんな意味で面白い。

科学という純粋な意味で面白かったのは、例えば、がん化することは問題ではない、むしろ必要条件である、といった質疑応答の箇所など、この分野に直接関わっていない人たちが持っている「誤った常識」を正す上でもなかなか質の高い情報だと思った。おそらく英語でもこの手のタダの情報を手に入れるのは難しい気がする。

もう一つ面白いことは、その報告書から、その人の人柄、考え方が伝わってくる。研究現場を知っているトップ、研究の方針決定に携わる人たちのいろんな思惑が伝わる。アダルトな世界が少し垣間見れるかも?

ところで、脳に「魔法の因子」を入れて、脳が関わるあらゆる病気を治すことはできないだろうか。。。そんなことできるわけがない、と思えることができたりするかもしれないから、科学は楽しい。

3/08/2008

効率的な学び方

最近サイエンスに掲載された論文によると、同じことを反復して学ぶより、思い出す方を重視した方が良いらしい。

研究では、外国語単語の勉強(覚える)と試験(思い出し)をするとき、各単語について、
1.繰り返し勉強・繰り返し試験
2.繰り返し勉強のみ
3.繰り返し試験のみ
4.一回きり勉強と試験
という条件で成績を比較している。
すると、1が良いのは良いとして、2,4より3の条件が良かったらしい。さらに、1と3の結果は同じだった。つまり、一旦覚えたら、再勉強はあまり効果はないと解釈できる(一方、2と4の結果は同じくらいひどかった)。

さらに、1の場合、勉強と試験の両方をやるから、3の方が時間を節約できる。なぜなら再勉強時間はいらないから。ということで、一回勉強したことは、思い出すことにウェイトをおいた方が効率的、ということになる。

もちろん、現実社会では、なかなか「勉強」と「試験」を明確に区別できないかもしれない。けど、次の例はどうだろう?

例えば、資格試験の勉強をする時。
一通り教科書を読んだら、教科書を繰り返し読むより、練習問題を解き漁った方が良い、と考えられる。(それで本番の試験に落ちたら、、、この論文の著者たちにクレームしてください。。。)

例えば、統計の勉強。
教科書で一旦統計の基礎知識を身につけたら、実際にその知識を使う問題に取り組んだ方が良いかもしれない。これは経験的に真のような気がする。

では、スポーツはどうだろう?
練習だけたくさんするより、ゲームで実践感覚も身に付けたほうが良い。とよく言われることと近いかもしれない?

とにかく、一旦理論を身に付けたら、理論を繰り返し学ぶより実践重視にシフトした方が、結果的には、身に付けた理論の定着には良いのかもしれない。

リアルワールドや脳は、そう単純ではないにしても、信じるものは救われる。。。

今回紹介した論文
Science. 2008 Feb 15;319(5865):966-8.
The critical importance of retrieval for learning.
Karpicke JD, Roediger HL 3rd.

3/02/2008

NBAとMLBのチケット

最近の出来事。二つスポーツ関連を。

1週間前の土曜日、NBAの試合を見に行く。

バスケにはNJ州のチームがいる。Netsというチームがいる。
戦力としては「ボチボチ」なチームである。

今シーズンの成績はプレーオフ進出のボーダーライン。
ここ数年、プレーオフにはコンスタントに出ているようである。

試合を見に行った日、相手はインディアナ・ペーサース
Netsより若干格下か?というくらいのチーム。

ゲームは、第3クオーターにネッツが点を重ねて差を広げ、そのまま逃げ切った。

テレビでよくみるプレー:例えば、ダンクシュート、パスを空中で受けそのまま直接ダンクするシュート(ウィキペディアによるとアリウープというらしい)も何回かみれた。すげぇ。。。

タイムアウトやハーフタイムの間など、こまめにファンサービスのイベントがあって、なかなか楽しかった。More than a gameがキャッチフレーズらしい。その通りな感じだった。これが地元密着型のアメリカンな客寄せか、と思った。

ファンサービスという点では、フットボールや大リーグより遥かに気合を感じられた。が、皮肉なことに、大リーグやフットボールにはお客の数という点では及ばないのか。。。

チケットの取りやすさにそれが出ているように思う。実際、空席がたくさんあった。そのゲームの後に来たメールにはこうあった。


先週来てくれてありがとう!
今週末のゲーム15%オフで、先着x名様にTシャツプレゼント!


必死なプロモーションメールである。。。

結局、最大のファンサービスは、スポーツそのものの面白さやスター選手がいるかどうかなのだろう。。。
確かにフットボールの第4クオーターのあの面白さは、バスケのそれとは少し違う。

それはともかく、おかげでNetsのことが前より気になるようになった。

ちなみに、NJ州にはもう一つプロスポーツのチームがいる。
DevilsというNHLアイスホッケーのチーム。

密かに強い。現在、地区トップ。
コンファレンス内でもモントリオールと競っている。

ホームアリーナニューアーク市にある。
ラトガーズ大から徒歩10分ほど。
そのアリーナ、今年できたばかりのきれいなアリーナ。

ホッケーはオリンピックの中継を見たことがあるくらい。
次はNHLだな。。。

---
といいつつ、NHLの前にベースボール。
先週金曜日にヤンキースのチケットの一般発売がはじまった。

ネット上で争奪戦が繰り広げられ、自分も参戦。
結果から言うと、ボストン戦のチケットが二日分とれた!(かなりうれしい)

一日分は嫁さんたちが一時帰国している夏の時期。鬼のいぬまの・・・である。

ボストン戦のチケットでも、一人分なら比較的簡単に取れる。実際、昨年のプレーオフのチケットも3試合分とれたし。(が、うち2試合分は試合が行われずリファンド。。。)

他のボストン戦のチケットもまだ手に入るようだ。(3/1時点。お早めに。)

一方、家族分を取るのは困難を極める。

が、今回は棚ぼた的に取れた。
チケットを一旦キープできたら、2,3分以内に精算手続きをすませないといけない。おそらく、一旦キープした人が時間内に手続きをできなかったのだろう。手放されたチケットに自分が滑り込んだと思われる。

10時から販売開始で11時半頃まで粘り続けてとれた。
執念である。

これで松井が先発で出て、ボコボコにされる松坂を見れたら、相当にラッキーである。

Boston Sucks!
(お約束ということで。。。)

ちなみに、ヤンキー・スタジアムは今シーズンで見納め。来シーズンから新球場になる。
ということで、今シーズンのホーム最終戦9月21日のチケットも早々にソールドアウトに。その日の相手はボルチモア。一方、他のボルチモア戦のチケットは取り放題。この特別な日だけは違った。

StubHubというチケット販売サイトではすでに最低200ドル以上の値がついている。おそらく夏ごろになったら桁があがっているだろう。。。余分にとれていれば、大もうけということになるのか。。。

が、もしプレーオフに出れればそのゲームは最終戦ではなくなる。
もちろんプレーオフ中に特別なイベントはやらないだろうけど、状況によってはそのチケットの価値は下がるのだろうか。。。

ちなみに、今年のオールスターもヤンキー・スタジアム。
その最終戦どころではないのだろうけど、争奪戦にチャレンジしてやる!

3/01/2008

プランクトン社会の中の混沌

プランクトンたちの生息環境はカオス的であり、その変化の長期予測は不可能である、と主張している論文がネイチャーに掲載されていた。

この研究は面白くて、まず研究室に「人工バルト海」を作っている。そして、そこでのプランクトンやバクテリアの数などの変化を長期間(8年以上!)にわたって計測している。

その長期間の観測結果を元に、例えばプランクトンの数の変動をどれくらい先まで予測できそうか調べたところ、高々1ヶ月くらいしか予報できなかったらしい(天気予報よりは良い、とジョーク的な記述もある)。「長期予報」できない問題の根源は、プランクトンたちの数の変動がカオス的に振舞っていることによる、としている。

---
この研究、方法論的に神経科学の研究と近いところがあって勉強になる。

今、「人工バルト海」を脳とみなしてみる。ある時点でのプランクトンAの数は、ある時点でニューロンAが出した「スパイク数」とみなしてみる。

実験としては、複数のニューロンの活動を同時に調べることと等価になる。計測データの解析として、ニューロン活動の相関性(二つのニューロンの活動がどれくらい似ているか)を調べたり、ニューロン活動の変化をどれくらい先まで予測できるか人工ニューラルネットで予測したり、リアプノフ指数なる量を計算して、予報と実測値とのズレを測ったりする。その予想とのズレを計算する方法(論文では2つ考えている)は参考になりそうな気がした。

この論文、エレガントで良い論文ではあるのだけど、個人的に気になったのは、カオス的だという結論は果たしてどうよ?ということ。カオスという初期条件に敏感なシステムっぽくて長期予報は無理、ということを言えたとして、それでどうするのか?

扱っているシステムは、カオスという「ルール」に従って振舞うシステムだ、ということがわかった点ではポジティブではある。が、長期予報は不可能だということがわかった点、あるいは長期予報できなかったという点では、ネガティブデータでは?という気もする。

神経活動の解析で同じことをやって「長期予報は無理でした」という結論をつけたとして、果たしてネイチャーに載るだけの価値があるか?というと疑問である。もっと解析の部分で「セクシー」なことをして、もっと「ポジティブ」な傾向を見出さないと意味がないように思える。

つまり、脳はカオスだ、と言ったところで脳のことはわかったことにならない。(たぶん・・・)

例えば、少しだけ先の予報ができるわけだから、それを有効活用する(例えば、Nicolelisのようにロボットアームを動かしたりロボットを歩かせたり)とか、予測できる・できない仕組み(メカニズム)をもっと掘り下げてみるとか。そのあたりまでやらないと、今の神経科学でネイチャークラスの論文を出すことは無理な気がする。。。実験技術がどんどん発展している分、そのあたりのハードルがどんどん高くなっている。

しがない業界である。。。

今回紹介した論文
Nature. 2008 Feb 14;451(7180):822-5.
Chaos in a long-term experiment with a plankton community.
Benincà E, Huisman J, Heerkloss R, Jöhnk KD, Branco P, Van Nes EH, Scheffer M, Ellner SP.