3/22/2008

デスパレート・アクト

肉を切らせて骨を断つ。

英語なら、デスパレート・アクト(desperate act)とでも訳したら良いか。
捨て身の行動。

ポイントは、リスク(傷を負う)をとりながら、それよりも大きいであろうリスク(命を落とす)を避ける、ということではないかと思う。

しかし、この戦略は極めて危険である。捨て身だけに。無難に行ったほうが良いときにこんな戦略をとると、リスクが倍返しになるリスクがある。

けど、研究にこの発想を持ち込むと、実は面白いかもしれない。

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ネットワークを考える。

例えば、電線の網(パワーグリッド)。
普段は、電気がそのネットワークを流れている。

今、いくつかの中継地点が機能不全に陥ったとする。
そうすると、他の中継地点にかかる負荷が増える。
そうすると、なだれ的に中継地点が機能不全に陥っていく。
結果的に、システムそのものがダウンし、大停電へ結びつく。

アメリカではよく?聞く話である。

では、では肉を切って大停電への連鎖反応を断つことはできないだろうか?というのが、このエントリーでの問題意識である。

実は、そんな肉(中継地点)を切って骨(なだれ的な機能不全)を断つことを考えた面白い論文があったので、少し読んでみる。

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その論文は、2004年にPhysical Review Lettersという物理系の一流雑誌に発表された論文Motterという人の研究。

この研究では、
一旦、中継地点の機能不全が始まったら、少ない負荷しかかかっていなかった中継地点を除いたり、大きな負荷がかかっていた電線を取り除くと、なだれ的な現象を軽減できる、
ことを明らかにしている。

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この研究のモチベーションはこう。

上の大停電のストーリーを
1.いくつかの中継地点が機能不全に陥る。
2.さらなる中継地点の機能不全が起こる。
と分けて考える。そして、1から2へ発展する間に、ステップ1.5として「意図的除去」を実施して2を防ごう・軽減しよう、というわけである。

ここで「意図的除去」というのは、アクシデントではなく、文字通り意図的に、中継地点や中継地点同士を結ぶ電線を取り除いて、電流の流れをコントロールしよう、という発想である。

つまり、意図的除去という肉を切る戦略をとって、なだれ現象という骨を断とう、という発想である。

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この論文では、「スケールフリー・ネットワーク」を想定した上で、2つの戦略を考えている。
1.ノード、つまり中継地点を取り除く
2.エッジ、つまり中継地点同士を結ぶ電線を取り除く
ちなみに1の戦略では、どのノードを除くかという点でさらに4つの戦略を検討している。(結果は同じ)

この戦略に基づいて、解析的に解いてわかったことを、シミュレーションとしていろんな具体的な条件(いくつ除くか?、負荷に対する許容度はどれくらいか?という条件)で確認している。

そしてわかったこと:
1.かかっていた負荷が少ないノードを除く。
2.大きな負荷がかかっていたエッジを除く。
すると、何もしないよりは、なだれ現象を軽減できることがわかった。(もちろん、止めることはできていない)

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では、これに近い発想を生物システムに応用できないか?と考えて取り組んだ研究結果を、同じMotterという人が最近報告している。いわゆる遺伝子のノックアウトを、システムを助けるため、減った生産性を上げるために使おう、ネットワークベースの発想である。

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さらに脳を考えてみる。

ロボトミーはまさにこれなのかもしれない。(ロボトミーは前頭前野の一部や線維を外科的に切除することを指してました。すみません。。。SMLさん、ご指摘ありがとうございました。

他の例では、例えば、てんかん治療のために脳の一部を取り除いたり、脳梁を切断したりする。確かに難治性てんかんを治せるようである。

一方で、このような脳の外科的手術には大きな副作用が伴う。新しい記憶(エピソード記憶)ができなくなったり、いわゆる分離脳(以下の文献も参照)といった重篤な問題が生じる。

もしここから学ぶとするなら、「肉を切って骨を断つ」という捨て身の戦略は、あくまで非常手段であって、目指すべき方向ではないのかもしれない。

これはちょうど野党が日銀総裁人事でとっている戦略と匹敵するような気もしないでもない。つまり、目先のメリット(国民の支持率アップ?与党の支持率低下?)だけにとらわれて、もっともっと大事なシステムレベルのこと(日本の信用、世界経済)には大きなデメリットをもたらしうる。(野党は肉と骨の価値判断を完全に見誤っているように見える。)

つまりは、よく考えてやらないと、バカな戦略になって、自分の骨まで断つことになりそうである。これは言わずもがなか?(タイムリーだったのでつい。。。)

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文献
Phys Rev Lett. 2004 Aug 27;93(9):098701. Epub 2004 Aug 26.
Cascade control and defense in complex networks.
Motter AE.

Mol Syst Biol. 2008;4:168. Epub 2008 Feb 12.
Predicting synthetic rescues in metabolic networks.
Motter AE, Gulbahce N, Almaas E, Barabási AL.

おまけ。
たまたま見つけた難治性てんかんのための脳梁切断手術に関する日本語の文献

4 comments:

mm3 said...

お久しぶりですShuzoさん。
ブログは欠かさず拝見させていただいておりました。いつも、広い視野からのエントリーで、勉強させていただいています。
さて、最初の論文の結果についてですが、2.の負荷の高いエッジを取り除くということは、負荷の高い経路を分散するように仕向けるということだと思うのですが、1.の負荷の少ないノードを取り除く、という意味がよく分からなかったのですが。負荷の少ないノードというのは、そこに接続するエッジが少ないノードということになるのでしょうか?

それと、代謝ネットワークの研究は非常に面白いですね。よく、ノックアウトマウスのフェノタイプ解析の際に、さらにsiRNAや薬理学的な介入を別のターゲットに対して行って、見えていたフェノタイプを確認している論文に出会いますが、未知のたんぱく質ネットワークを介した影響でたまたまそれらのフェノタイプがレスキューされていたりする可能性があるわけですね。代謝経路よりもっとリダンダントだと考えられる、転写ネットワークやmiRNAなどは、まさにこういったことがおきていてもおかしくないわけで、ある意味非常に怖いことだと思いました。

Shuzo said...

mm3さん、お久しぶりです。
またまた私が誤解しているかもしれないですが、
「負荷の少ないノードを取り除く」というのは、直感的にはこうだと思います:
負荷が少ないということは、AからBへ電力が供給されている場合、そのノードXへの流れはあまり重要ではないと思われます。(その意味では、「機能的なエッジ」が少ないと解釈しても悪くないのかもしれません)
そして今、いくつかの中継地点がトラブったときに、そのようなノードを取り除いておけば、結果的に「おかしな流れ」を生み出さず、大停電を軽減できるのではないか?と。

解析的に問題を解いている部分が私の頭ではもう一つわかってなかったりしますので(なら、偉そうにエントリー立てるな!?)、詳細は論文をお読み下さい。すみません。。。

後半のご指摘は全く同感です。知らぬが仏的な仕事がたくさん世に発表されているように思います。
ネットワークがわかってきたなら、ネットワークベースで生命現象を考えないといけない、ということなのだと思われます。

またよろしくお願いします。

SML said...

SML/1.2足のわらじ(笑)です。

面白い話の紹介ありがとうございました。

私は、パーキンソン病の深部脳刺激法を思い出しながら、実はあれはノードでなく皮質ー大脳基底核ー視床ー皮質回路のエッジに対する手技と考える方が妥当なのかもと思いました。(ちなみに医療的にはロボトミーと脳梁切断術や側頭葉切除術は別物です。)今後、ネットワーク全体の負荷に対する視点も必要になりそうですが、誰もが納得する定量化への到達はかなり難しい気がします。

野党の戦略については、ひょっとして日本政界の戦略かも知れません(勘ぐり過ぎ?)こういう時期だからこそ総裁不在が有利というのもありかなと思います。

Shuzo said...

ロボトミーのご指摘ありがとうございました。
また自分のアホさをさらけだし続けるところでした。。。今後もよろしくお願いします。