6/28/2008

観る教科書

MolecularMovies.orgなるサイトを知った。

こりゃ、すごい。

一部は実際と違っていたり、まだ分かっていないこともあるのだろうけど、教科書を読まなくても、数分のムービーを見れば重要コンセプトは理解できる。

Etsuko Unoさん作、免疫系クローン選択説ムービーを見てみたけど、すごすぎ。。。

ダウンロードがもっと速くなるとさらに良い。

脳(中枢神経系)に情報を直接書き込むのは、目と耳への入力効率を考えるだけで、結局は良いのかも。。。


参考文献
Cell, Vol 133, 1127-1132, 27 June 2008
Molecular Movies… Coming to a Lecture near You
Gaël McGill
記事中の表にもムービーへのリンクあり。

エコヒイキとセロトニン

脳内セロトニンserotonin)の量が減ると、不平等な提案に対してより拒否の態度を示すらしい。
新着のサイエンスに掲載されている。


研究では、20人のボランティアに、一時的にセロトニンの量を減らす処理(前駆アミノ酸・トリプトファンを枯渇させる処理)を施し、ultimatum game日本語訳ソース)というゲームをやってもらう。

このゲームでは、提案者による「山分け」の提案をどれくらい受け入れるか調べる、実験経済学の課題のようだ。例えば、1000円の獲得賞金のうち45%を山分け、という提案を受けたら、それを受け入れるか、拒否するか答える。当然、アンフェアな提案に対しては、高い確率で拒否する。

そんな実験をした結果、プラセボ処置をされた時と比べ、セロトニン量が減ると、アンフェアな提案(20%だけの山分け)に拒否する確率が20%弱上昇することがわかった。

この不公平なオファーに対してより拒否を示すようになったことは、気分(mood)、公平性の判断力、行動抑制の変化として簡単に説明できないらしい。

ということで、セロトニンは不公平に対する行動レベルの反応を変化させる、と著者たちは結論付けたようだ。

ちなみに、このultimatum gameで不公平なオファーを拒否する時、脳のどこがかかわるか?

前頭前野、特にその背外側部と腹側部が関わるのではないか、という研究が以前に行われたらしい(例えばこちら)。特に腹側の前頭前野が障害されると、不公平な提案により拒否を示すそうで、今回の結果と行動のレベルでは似ているそうだ。

脳内セロトニン
前頭前野の腹側部分
不公平なことへのアクション

それらの関係、今後の研究に期待される。

アンフェアなことに対して拒否感を示しやすい人(不平をよく言う人?)は、セロトニン量が他の人と違うのだろうか?そういう人は、前頭前野の腹側部分の活動が他の人と違うのだろうか?

最近、不満をよく口にするな、と思った時、トリプトファンを摂取すると、不平を人並みに言うようになるのだろうか?

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文献
Science. 2008 Jun 27;320(5884):1739. Epub 2008 Jun 5.
Serotonin modulates behavioral reactions to unfairness.
Crockett MJ, Clark L, Tabibnia G, Lieberman MD, Robbins TW.

皮質GABA作動性ニューロンの多様性を語るために

大脳皮質のGABA作動性ニューロン(GABAergic neuron)は多様

そんな多様なものの理解を深めるために、これまでわかったことを総括して、分類基準をできるだけ統一しよう、という趣旨の記事がNature Review Neuroscienceに掲載されていた。

この記事は、皮質GABA作動性ニューロンを研究している有名な科学者たちが、3年ほど前、Cajalゆかりの地であるスペインPetilla de Aragonに集って議論した内容に基づいているようだ。


これまでの研究では、皮質GABA作動性ニューロンは、
1.形態
2.分子プロファイル
3.電気生理的特性
という大きく3つの特徴から分類されてきた。

この記事では、その3つの特性について、研究者間でコンセンサスが得られていること、そうでもないことを簡潔にまとめ、今後の研究指針、たたき台を提供している。あくまで「たたき台」だ、ということを再三強調している点が印象的だった。

ちなみに、各特性について、調べるべき項目がこちらSupplementary informationにリストアップされている。

とにかく、皮質GABA作動性ニューロンを研究する人には、Must-Readな記事だと思われる。

それから、この論文のタイトルは、介在ニューロン(interneurons)だけど、投射ニューロン(projection neuron)についてのコメントも少しだけあった。

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自分がコメントするのは気がひけるけど、思ったことを一応書くと:
1.電気生理特性の定量
形態の定量する流れに加え、電気生理的な特性の定量をもっともっと推進しても良いかも?と思った。例えば、電気生理特性で、いくつかのクラスに分類できる、といっても、論文に図として出るのは、いわゆるtypical exampleと、あっても統計の表で、「xx細胞」と「yy細胞」と呼んでいるのがどれくらい似ていて、異なるのか、もう少し詳しく知りたい。

ある指標を定量した時、それがどういう分布になるのか(細胞種内という意味でも)、非常に興味がある。連続的なのか、それともしっかり二つのピークを持つ分布なのか?複数の指標をもとにした、細胞種間の関係は?実験データだけを手に入れて、その指標を測るプログラムを使えば、どんな人でも(例えば中学・高校生でも)分類可能か?

2.遺伝子発現情報
この記事にもあるように、遺伝子発現情報による分類は強力だろうから(実験的にいろいろ落とし穴はあるのだろうけど)、どんどん推進されるのだろう。その意味では、マウスはさらに強力なモデル生物になるのだろう。とすると、ラットとマウスの違いは若干気になる。

ちなみに、その種間の違いについては、ニューログリアフォーム細胞のいくつかの特性が、マカクザルとラットで違うことが少しだけ紹介されていた。

3.in vivo
この記事では、気になる成体内での分類について、

no agreed criteria

とされていた。。。少なくともfast spiking細胞については、それなりにコンセンサスが得られている気もするが。。。
in vivoで調べるには、やはりjuxtacellularやintracellular記録という、大変だけど地道な努力を積み重ねるしかないのだろう。もしくは、トランスジェニック動物を使ったイメージングというのも魅力的か。

とすると、新しい第4の特性として、「イメージング特性」が、数年以内に付け加わる気もする。

それはともかく、in vivoでの領域が開拓されないと、神経回路の情報処理は片手落ち、あるいは一生わからないまま、なんてことになるやもしれない。。。スライス実験とモデルでの予測、そしてin vivo実験での検証、という流れはあこがれ。。。


4.ニューロ・インフォマティックス
記事の最後に、NeurogatewaySenseLabNeuroMorphoといった、いわゆるニューロインフォマティックス関連のサイトも紹介されていた(ついでにNIFも)。数十年後にEOLのようなEncyclopedia of GABAergic neuronsが立ち上がったりすると楽しそう。


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文献
Nat Rev Neurosci. 2008 Jul;9(7):557-68.
Petilla terminology: nomenclature of features of GABAergic interneurons of the cerebral cortex.
Petilla Interneuron Nomenclature Group, Ascoli GA, Alonso-Nanclares L, Anderson SA, Barrionuevo G, Benavides-Piccione R, Burkhalter A, Buzsáki G, Cauli B, Defelipe J, Fairén A, Feldmeyer D, Fishell G, Fregnac Y, Freund TF, Gardner D, Gardner EP, Goldberg JH, Helmstaedter M, Hestrin S, Karube F, Kisvárday ZF, Lambolez B, Lewis DA, Marin O, Markram H, Muñoz A, Packer A, Petersen CC, Rockland KS, Rossier J, Rudy B, Somogyi P, Staiger JF, Tamas G, Thomson AM, Toledo-Rodriguez M, Wang Y, West DC, Yuste R.


過去の関連エントリー
個性豊かな抑制性ニューロンのルーツを探る:パート1パート2パート3


関連サイト
Interneurons (Scholarpedia)

6/21/2008

スポーツとクセと

ユーロ2008が盛り上がっている。ロシア、勝負強かった。

一方、本大会に出場できなかったイギリスでは、ウィンブルドン・テニスが始まったようだ。

そのテニスに関連して、ニューヨークタイムズのスポーツ欄に、トッププレーヤーのクセに関する記事が載っていて面白い。

Djokovicがサーブを打つ前にボールを何度もつくクセをはじめとして、いろんなプレーヤーのクセ、「儀式」が紹介されている。

と良い具合に、クセと脳の関係を、大脳基底核を中心にまとめた総説が出ている。最近までの研究をまとめつつ、文化・社会的な儀式にまで話を膨らませていてスケールが大きい。著者のGraybielさんのトークではよく、とあるメジャーリーガーのクセを映像として紹介していたのを覚えている。ここでもプロスポーツでのクセである。

この総説はまだ導入部分までしか読んでいないけど、さすがに含蓄のある表現満載で、いわゆる手続き学習という文脈を超えて、幅広い人に読まれるような感じがする。

さて、テニスプレーヤーのクセ。

おそらく無意識的なプロセス(クセ)と精神統一という意識的な部分の極みともいえるプロセスが同時進行的に進んでいるような気もする。脳の中では、この二つのプロセスはどのように絡むのだろう?神経科学の言葉で、どのように説明したら良いか?

この両者の相互作用を神経科学の対象としてどう扱うか、そういう視点からこの総説を読んでみるのも面白いかも。

Annu Rev Neurosci. 2008;31:359-87.
Habits, rituals, and the evaluative brain.
Graybiel AM.

Graybiel研のウェブサイト

小さい脳の速い揺れ

触覚(体性感覚)の情報が入ると、脳でどんなことが起こるか?

体性感覚の情報は、大脳新皮質に伝わると同時に小脳にも伝わる。

大脳新皮質では、感覚の情報が伝わるとニューロン集団がリズムを刻みだす。
いろんな脳内リズムの中に、30-80Hzの「ガンマ・オシレーション」、それから、それよりも速いリズム(とても速いオシレーション、ということでvery fast oscillation、略してVFOと呼ぶ。帯域は最大150Hzくらい)がある。

特に前者のガンマ・オシレーションは、過去20年くらい注目されてきて、知覚やワーキング・メモリー、運動の実行などなど、脳活動の様々な場面で顔を出す(だからと言って、このリズムが本当に知覚などに必要かどうかは、今も論争中)。

もしもそんな神経活動のオシレーション(振動活動)のことを知らないなら、どんなイメージを持つと良いか?

カーテンコール、アンコールなどの拍手に例えるとイメージしやすい。

観衆はニューロンで、「スパイク」という拍手をする。観衆たちがみんなそろって手拍子をとるのが、脳で言うところの「神経オシレーション」である。ニューロンたちもバラバラに活動したり、たまに一部の集団でリズムに合わせて活動したりする。

例えば、コンサート会場にマイクを設置して、拍手の音を測るように、脳の場合もセンサーを設置して神経活動を測れば、そういうオシレーションが計測できる。

とにかく、ニューロンたちが協調的にリズムを刻むわけである。


前置きが長くなった。

同じく体性感覚が伝わる小脳はどうか?が、今回の本題。

大脳新皮質や海馬に比べたら、リズムに関しては、研究が遅れている。けど、大脳新皮質と同じようにガンマ・オシレーションやそれより速いVFO(very fast oscillation)が小脳でも発生する、とする報告は過去にあるようである。

では、その小脳のガンマ・オシレーションやVFOはどのような仕組みで発生するのか?

そんな疑問の一部に答えた論文Neuronに掲載された。


その研究でわかったことは:
1.小脳でも、大脳新皮質や海馬と同じように、(スライス標本で)ガンマ・オシレーションとVFOが発生する。
2.そのオシレーションは、アセチルコリン受容体の活性化によって発生。
3.ガンマ・オシレーションには、抑制性入力の働きが必要で、興奮性入力の貢献度がない、もしくは低い。
4.VFOには、様々な抑制性ニューロンたちが持つ「ギャップ結合」という電気シナプスが重要そう。
5.ガンマ・オシレーションは、VFOに比べより広い範囲のニューロンたちを巻き込んでリズムを刻んでいる。

小脳の二つのリズムは、大脳新皮質や海馬のそれと違って、活動を抑えあうはずの抑制性ニューロンのネットワークだけで、速いリズムを生み出している可能性が高いことが見えてきた。(「仕組み」という点で重要そうなので強調)

こんなことを明らかにした研究から、どんなことが考えられるか?(空想できるか?)

体性感覚の情報が入ると、大脳新皮質と小脳で同時多発的にニューロンたちがリズムを刻みだすのかもしれない。そして、もしかすると、そのリズムは、遠く離れた大脳新皮質と小脳という二つの場所が協調的に働くのに何か重要なのかもしれない。

(あくまで「空想」であって、「大脳新皮質と小脳が協調的に働く仕組み解明」などと、新聞記事の見出しのようなことを書くのはNGである。)

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ここからは、各データのポイントをメモ的にまとめてみます。
(ついでに、この論文と同じ号で報告された別の論文もポイントをまとめて、自分なりの考えをつづってみます。神経科学の基礎と実験などの知識を前提として書いてみます。)


この論文では8つの図があるので、それぞれのポイントをまとめる。(論文が手元にないと理解不能かと思われます。。。)
図1:アセチルコリンと興奮性入力の貢献度

マウス小脳(スライス標本)でも、海馬や大脳新皮質と同じように、アセチルコリンの作用でオシレーション(ガンマとVFO)が発生する。けど、ムスカリン性ではなく、ニコチン性受容体の活性化が必要という点が、重要。

どのタイプのニコチン性受容体のサブユニットが重要か薬理的に調べたら、神経筋結合部位で働いている末梢系のサブタイプがもしかしたら重要かもしれないことが判明。中枢神経系のサブタイプの貢献はかなり低そう。

小脳内の興奮性入力に注目して、AMPA成分とNMDA成分の伝達を薬理的に抑えても、オシレーションには効果がなかった。つまり、海馬や大脳新皮質とは違って、興奮性入力は必ずしも必須ではなさそう。

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図2:抑制性の神経伝達の必要性とスパイクレット

GABAa受容体の働きが、ガンマ・オシレーションの発生に必要ということがわかった。VFOはむしろ強くなる。

プルキンエ細胞の活動を調べたら、ニコチンが投与されてオシレーションが発生すると、スパイクの発生確率は減少し、大きな抑制性入力が来るようになる。

スパイクとスパイクの間にミニスパイク的な「スパイクレット」がたくさん発生するようになる。

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図3:抑制性ニューロンのスパイクとスパイクレット、そしてオシレーションとの関係
スパイクレットは、プルキンエ細胞だけでなく、星状細胞やバスケット細胞でも見れる。

星状細胞のスパイクレットは膜電位依存的に見れる。(ギャップ結合の働きは膜電位依存的かも?という可能性を示唆??)

スパイクのタイミングは、ガンマ・オシレーションの「谷」に集中していいそう。
一方、スパイクレットのそれは、VFOとなじみがよい。
(この解析だけで、スパイク、あるいはスパイクレットがホントに谷に集中しているかは、解釈に困る。ヒストグラムを作ってフェーズをしっかり調べないとダメ。)

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図4:スパイクレットとVFOとの関係、ギャップ結合の可能性
スパイクの発生を抑える操作をすると、ガンマ・オシレーションが消失し、VFOだけが残る。

さらに、電位依存性のナトリウムチャネルをブロックすると、VFOも消える。

ギャップ結合をブロックしても、両方のオシレーションが消える。

スパイクの発生を抑えても確かにスパイクレットは残っていて、それと細胞外のマクロレベルの電気的な活動は同期していた。

ということで、VFOは、スパイクではない、電位依存性ナトリウムチャネルを介した電気的な活動「スパイクレット」が、ギャップ結合でつながっているニューロン間で伝播する現象、という可能性が考えられるか。

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図5:ギャップ結合のさらなる確認
一個のニューロンに注入したはずの色素(バイオサイティン)が、複数のニューロンに拡散する。(いわゆるdye-coupling)

試したすべてのギャップ結合のブロッカーでオシレーションをブロックできた。

ということで、プルキンエ細胞-介在ニューロンでギャップ結合があって、それが二つのオシレーションに必要である可能性が高まった。

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図6:オシレーションの空間的な広がり
VFOはガンマ・オシレーションに比べ、同期している範囲が狭い。

ガンマ・オシレーションは、白質を除くすべての層で見れるけど、位相が分子層からプルキンエ細胞層で逆転する。(解釈として、この二つの層の間で、双極子ができて、電流の入出があると解釈できて、主な電流の入力はプルキンエ細胞層と解釈できそうか?)

VFOは顆粒細胞層を中心に強い活動が見れる。(GABAa受容体のブロッカーを投与して、VFOだけが発生する状態で調べている。)

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図7:電位感受性色素を使った高速イメージング
基本的な傾向は、図6と同じと理解したら良いか。(白質でもシグナルが見れたりもするが)

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図8:ヒト小脳でのオシレーション
マウスと同じように、
1.ニコチン投与でオシレーションが発生
2.ガンマ・オシレーションにはGABAa受容体の働きが必要
3.ギャップ結合が二つのオシレーションに必須
ということをヒトのスライス標本(!)で確認。

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この論文のことを議論する前に、並んで報告された論文についてもメモ的にまとめてみる。


この論文では、上の研究のオシレーションよりさらに速い160Hz以上のオシレーションが小脳で見れることを明らかにしている。いわゆるin vivoでの研究という点では、信憑性が上の研究よりも高い、とも考えられなくもない。

プルキンエ細胞同士の抑制性の回帰的な回路によって、超高速オシレーションが発生しているのではないか、という主張をしている。

論文中の図のポイントをかいつまむと、
1.個々のプルキンエ細胞の活動頻度は非常に高く、ガンマ帯域でリズムを刻んでいる細胞が多い。
2.プルキンエ細胞の集団の活動に注目すると、細胞同士が非常に高い周波数で同期的に活動していて、マクロレベルとしてみると、単一細胞の活動だけでは説明できそうにない速いリズムのオシレーションが「創発」している。
3.その超高速オシレーションの電流源はプルキンエ細胞層にありそうで、距離に伴って同期の程度が減衰する。
4.この超高速オシレーションは、AMPA成分を抑えるとより強くなる、けどGABAa受容体をブロックするとその増強がかなり抑えられる。
5.カンナビノイド受容体を活性化させると(この受容体は、抑制性介在ニューロンのプレシナプスにあって、活性化されると、そのシナプス伝達をブロックするらしい)、オシレーションが強くなる。
6.プルキンエ細胞を想定した抑制性の回帰的な回路のシミュレーションから、超高速オシレーションを再現できる。
7.シミュレーションから予測されるように、速い抑制性のシナプス伝達が実際の成体の小脳スライス標本で確認された。
8.麻酔をしていない動物のオシレーションは、周波数はさらに速くなるが、オシレーションの仕組みは共有していそう。
といった点。

こちらは、方法論的にかなりいろんなことをやっている。

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何を学ぶ?

(ここから、つぶやきモード炸裂でいきます)

これらの論文は、何かがわかってスッキリ!、というタイプではなく、?????といろんな疑問がわく論文である。読んでももう一つ消化しきれない。。。

けど、新しい現象を報告する論文は、得てしてこういうワクワク感(湧く湧く感?)を持てて楽しい。

これらの論文に対する解説記事(Preview)が載ってはいるが、この解説記事も二つの論文を統合的に扱うのが難しそうなニュアンスが伝わる。


一番気になる点は、
この二つの論文で見ているオシレーションは、同じか?それとも違うか?
という点。

周波数帯域が違う。だから違う。

というのは悪くないし、扱いやすい。

けど、2番目のin vivoの論文では、なぜガンマ、VFOが見れていないのか?
in vivoの現象は、実際の脳で起こっていることなわけで、彼らがVFO以下のオシレーションを見ていないことは注目に値する。(おそらく、これは論争の火種になりそうな気がする。)

一般的に、スライスのオシレーション研究は、相当に注意して解釈しないといけない。実際、前者の論文のオシレーションの波形は、データによって相当ばらついている。同じオシレーションなのか?とすら思えるような違いがそこにある。

スライス実験での温度か何かのパラメーターを少し変えたら、VFOの周波数がもっと上がったらどうするか?


では、二つの論文で見ているオシレーションは同じかも?、と考えてみる。

と考えた時、ガンマとVFO、どっちが後者の論文のオシレーション(Previewに従ってVHFOと呼ぶ)と同じなのか?という問題にまず直面する。

第一感は、VFOとVHFOが同じ。
なぜなら、周波数帯域が近いから。

けど、問題はメカニズム。GABAa受容体の貢献は、二つの論文で完全に食い違っている。前者の論文は、GABAa受容体をブロックすると、VFOがブーストされ、後者の論文では、静脈注射ではあるが、GABAa受容体のブロックは、VHFOを抑える方向に働く。

では、ガンマとVHFOが同じ、と強引に考えてみる。
確かに、上のGABAa受容体の矛盾は説明できそうな気もする。が、それほど周波数が違って良いのか?

個人的には、次の問題をとりあえず知りたい:
1.3つのオシレーションは、どんな脳状態とリンクするのか?ネズミのヒゲ刺激によって発生したりするか?
2.VHFOに、ギャップ結合はどう絡むか?

2はVHFOのメカニズムのことだけど、このメカニズムに関して、Previewに衝撃?の事実が指摘されている。カンナピノイド受容体の活性化に使ったドラッグ、実はPタイプのカルシウムチャネルも活性化させるらしい。。。Previewで書かれている別の解釈、なかなか強烈である。なので、後者の論文でのカンナビノイドがらみの議論は、完全に否定される可能性がある。

とすると、プルキンエ細胞同士の回帰的結合によってVHFOが発生するのでは、という著者の見解は、誤りかもしれない。(完全に否定はされないだろうけど)

ついでに言うと、彼らのプルキンエ細胞の相互相関解析は、どうも同一テトロードから取れた細胞同士で調べている節がある。これは危険である。スパイクソーティングのアーティファクトの可能性も完全には排除できない気もしないでもない。(フォローとして、彼らのスパイクソーティングはしっかりしているようではある。)

LFPで見れているとはいっても、顆粒細胞に入っているコケ状繊維は超高速で活動できるから、LFPやMUAだけを根拠にプルキンエ細胞集団で超高速オシレーションが出る、とも言えるのか、(current source densityを調べたデータがあるから、自分の解釈は誤っているとは思うが)、この点は自分の理解を超えている。

プルキンエ細胞集団はガンマで、その入力部分、あるいは閾値以下の活動がVFOやVHFO的な超高速オシレーション、と考えるのはどうか?自分ではこれ以上よくわからん。。。

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それはともかく、最も重要な問題は、
オシレーションが発生して、どうなの?
ということ。つまりは機能の問題。

ネットワーク的には、エネルギーを大幅に節約できる。そういう意味で、神経系にメリットがあるのは正しい(たぶん)。脳はエネルギーをたくさん使うから、生物学的には、オシレーションがバインディングや意識にどうこうとか言う以前に、そういう視点から考えてみるのは良い気がする。この豊かな時代では忘れられがちだけど、ヒト以外の動物はみな、食べるのに苦労している。ということは、燃費を如何に高めるか、という問題は深刻な問題な気がする。「脳内環境・エネルギー問題」というのは、神経情報処理を考える上で、やはり避けて通れない。昨今のガス高にあわせて、こういうこともいままで以上にまじめに考えるのは良いかもしれない。

機能に関連するかわからないが、小脳内のギャップ結合の回路も含めた回帰性回路というのは、非常に気になる(ギャップ結合のネットワークも「回帰性」と呼んで良いのか知らんが)。回帰性回路という点で、大脳新皮質と小脳、アブストラクトなところ、本質的なところでどう違うのか?その辺を考えつつ、小脳と他の領域との回路との関係を考えれば、今回のオシレーションの機能を考える上で何か洞察が得られるのだろうか。

これから小脳のオシレーションはちょっと流行る気がする。

と長くなったので、ここでやめます。

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扱った文献
Neuron. 2008 Jun 12;58(5):763-74.
High-frequency network oscillations in cerebellar cortex.
Middleton SJ, Racca C, Cunningham MO, Traub RD, Monyer H, Knöpfel T, Schofield IS, Jenkins A, Whittington MA.
小脳スライス標本で初めてガンマ・オシレーションとVFOを再現して、それぞれのオシレーションのメカニズムの一部を明らかにした。

Neuron. 2008 Jun 12;58(5):775-88.
High-frequency organization and synchrony of activity in the purkinje cell layer of the cerebellum.
de Solages C, Szapiro G, Brunel N, Hakim V, Isope P, Buisseret P, Rousseau C, Barbour B, Léna C.
生きているラットの小脳から超高速オシレーションを計測し、そこに潜むメカニズムに、薬理実験、シミュレーション、スライス実験も組み合わせ迫っている。技術的な点でもインパクトがある。

Neuron. 2008 Jun 12;58(5):655-8.
Causes and consequences of oscillations in the cerebellar cortex.
De Zeeuw CI, Hoebeek FE, Schonewille M.
上の二つの論文の解説記事。これまで報告されている小脳のオシレーションをまとめ、二つの論文の簡単な説明と今後の課題、そしてオシレーションの機能について議論している。

6/14/2008

今週のイベント

先週エントリーを立てられなかったうっぷんを晴らすわけではないが、さらに無駄エントリー第三弾(前の2つよりは脳がらみです)。

トーク
ラボメンバーのポールが、トークに呼ばれているということで、今週その練習をみんなの前でした。

ポールはうちのラボで最も若いポスドクなのに、すでにネイチャー論文を2つも持っている超エリートポスドク。おそらくin vivoパッチの技術なら世界最高クラスの技術を持っているはずである(しかも、なかなかのイケ面ときているから、さらにタチが悪い)。ということで昨日、パスコ・ラキーチ、ワング、マコーミック大先生がいるYale大へトークに呼ばれて行った。

論文
うちのラボから論文が出ていた。

海馬CA1のニューロン(おそらく錐体細胞)は、シータオシレーションのどのフェーズで活動しているかによって、コードする情報が過去の情報か未来の情報か違いそう、という解析結果のようだ。それにしても、難解すぎて全くフォローできず。。。PDFをダウンロードしたどれくらいの人が理解できるのだろうか。。。内容的には、先日のジョセフさんの論文とかなりかぶっている感じか?海馬業界も競争が激化中である。。。。

それはともかく、自分も含めラボのほとんどの人は、この論文がアクセプトされたことすら知らずに世に出た。。。お、うちのラボから論文出てる!、という感じで。。。
(どこどこに投稿しそう、投稿した、くらいの「うわさ」は聞いてはいたけど)

リジェクトならともかく、アクセプトされた時くらいラボのメーリングリストでアナウンスしてくれても良いのに。。。(他のラボメンバーも同じ意見を持っているようである。)

他のラボでは、どうなんだろうか?

ラボによっては、どこどこに投稿して、リジェクトされた、リバイス要求が来た、といったことをラボ内でもっとオープンにするのだろうか?

もしも、もしもの話だが、将来、自分がラボを持つ日が来たら、こういうのはラボ内でオープンにしたい。なぜなら、論文投稿時のやり取り(闘い?)は、仮に関わっていないメンバーでも、学ぶことがたくさんありそうだから。リアルな科学の「社会勉強」だから。

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もう一つ論文がらみ。

ラボメンバーがもう少しで論文を投稿するかも?ということで、その原稿にコメントした。その論文は自分の名前も入っているから、かなりまじめにコメントした。

論文を書くのはホントに骨が折れる作業だというのは、自分なりによ~~~くわかっているつもりだから、あまり破壊的にならないように、かなり気をつかって、できるだけ建設的なコメントを心がけた。

最近思うことがある。科学力として「批判力」は大事だとは言う。が、表面的な批判だけを強調しても、単なる解説者・評論家的な能力しか育たない気がする。その批判を自他に向け分けられ、それを如何にかわす、もしくは破壊から創造的なもの(やや表現が誇張気味だが)へ創りかえる能力を磨くことを意識した方がより実践的な科学力につながるような気がする。

他人への批判と自分への批判のバランスをとるのは難しい。けど、自分への批判能力を磨くことも実践上は非常に大事だなぁ、と自分に言い聞かせながら書いてみる。と本題とは大ズレ。

そんなことはともかく、この論文、セクシーな雑誌に通りますように。。。(結局はこれ)

アンチ・メタボ先進国

引き続き無駄話。

ニューヨークタイムズに面白い記事が載っていた。

自分は完全に浦島太郎状態で知らなかったのだけども、日本のメタボ・バブルの様子を、その記事では紹介していた。

異様なほどの盛り上がりを伝えていて、ワロタ。。。

記事は、基本的には、国をあげてのメタボ対策に、懐疑的な論調だった。メタボを未然に抑えることで保険料を抑えるというロジックなのだろうが、ホントの「根拠」が自分にはよくわからず、あまりロジカルではないなぁと思った。。。

必要ない人まで検診させて、保険料が逆にかさまないのだろうか。。。
プラセボ効果を考えると、国をあげて国民全体の「メタボ不安」をあおって、逆に他の病気になる人が増える気もする。。。

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その記事では、2枚の写真と1つの統計データが載っていた。

一つは、非常にスリムな年配の方がウェストサイズを測っている様子。。。

二枚目は、松山市のメタボ対策のポスター。
そして、そのポスターの後方で歩いている非常にスリムな女性職員。。。

ホンマにメタボを気にする必要あんのか?と言わんばかりである。

そして、ウェストサイズの日米比較の統計。(岡山県の統計データが引用されていた)

平均値で、
男性は6.2インチ(15.7センチ)
女性は7.5インチ(19.1センチ)
の日米差。

日本の設定したウェストサイズのリミットも載っていて、そのリミットはアメリカの平均値を下回っている。。。

つまり、もし正規分布を仮定すると、過半数のアメリカ人は、日本ではアウト、ということになる。平均的なアメリカ人ですら、日本ではメタボ呼ばわりされるリスクがある。。。

もちろん、アメリカの肥満な方のその肥満ぶりや、明らかに異常ではある。が、アメリカ人から見たら、日本のブームは同じく異常に見えている気がする。

あんたら、うらやましいくらいスリムやのに。。。と。

それはともかく、この記事で尼崎市の「Anti-metabo song」(この新聞記事のことか?)の英訳歌詞が載っていた。

“pyun-pyun-pyun!”
“Goodbye, metabolic. Let’s get our checkups together. Go! Go! Go!
Goodbye, metabolic. Don’t wait till you get sick. No! No! No!”

日本はどこへ行くのだろう。。。

いわゆる日本ガラパゴス化の一例である。

ランカスターへ

先週末、週末旅行へ行ってきた。
景気対策のおかげで少しお金が入ったので、ありがたくそのお金の一部を使ってきた。

行った場所は、ランカスター
アーミッシュの人たちが住んでいることで有名である。
100度(華氏)近い、文字通り溶けそうな猛暑の中、旅行してきた。

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まずは土曜日午前中に出発。
Howell Living History Farmという、うちからランカスターの途中にあるファームへ。

もちろんここはアーミッシュとは関係ない。普通のファームである。
けど、いろんなミニイベントがあって、ヤギの乳絞りや子供用クラフト(工作)やアイスクリーム作りなどができた。

ランチも有料だがあって、牛、羊、やぎなどの家畜も見れた。
それだけといえばそれだけだが、子供連れとしては悪くない場所である。

アイスクリームは、ホントにスクラッチから作った。

自分は、アイスピックで大きな氷を砕くタスクを課せられ(子供は危険だからということで、そばにいた若い男性、ということで任命された。。。)、大き目の氷の塊に、最近たまってるストレスをぶつけた(やや誇張)。

猛暑の中、屋外で、アイスクリームはホントにできるのか心配だったが、濃厚で超おいしいバニラアイスが1時間足らずでできた。

ところで、そのアイスクリーム作りの最中、ごっつい一眼レフデジカメを抱えた女性がバシバシ写真を撮っていた。

実は、その女性、ニューヨークタイムズ紙のカメラマン兼記者だった。

げ。

自分が氷を砕いてる姿や、娘がアイスクリーム作りの手伝いをしている時も写真を撮っていた。。。

今のところその取材記事は出ていない。

ひょっとすると、あこがれのニューヨークタイムズ紙に一家総出で写真デビューできるやも知れない。。。
We’ll see。。。である。

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数時間でそのファームを後にしたあと、ランカスターへ。
宿は、ランカスターのダウンタウンから車で10分強離れたB&B

ファームを経営している家族はアーミッシュではなく一般人。2階が宿泊部屋となっていて、40歳前後と思われる夫妻は非常に優しい感じの良い人だった。

ファームなので、これまた家畜がいて、夕方、うちの娘に餌やりをさせてくれた。

ちなみに、その日の夕食はランカスターのダウンタウン近くにあるGood’n Plentyというお土産屋+レストランへ行った。ここでは、アーミッシュの人たちがお祝いの時にとる食事が食べれた。(値は一人18ドルほどと観光地価格)

とにかくたくさん出てきた。(デザート4種類!)

KFCばりのチキンはおいしかった。
が、やはり所詮アメリカンなテーストだった。。。

アメリカでの旅行は総じて、食事が普段より悪くなる。。。
日本の温泉旅行のようにはいかない。

ちなみに、ダウンタウン近くの道では、普通にアーミッシュの人たちが馬車に乗って、道を往来していた。

ちょっと感動。。。

マクドのジュースを飲みながら馬車を運転している人もいたけど。。。
それなりに外の世界と接点を持っている人もやはりいるようである。。。

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翌日、
朝食後、ファームで鶏の卵取りをさせてもらって、宿をあとに。

The Amish Villageという観光スポットへ行った。

観光施設ではあるが、アーミッシュの生活の様子を説明してくれた。衣装のこと、電気替わりに(プロパン?)ガスはつかっていること、新聞はアーミッシュに関することだけで世界情勢のことなどは載っていないこと、などなど。

昼食後、帰る前にできるだけアーミッシュの人たちを見てみたいということで、車で小道にそれてはいろいろ探索してみた。

実際、アーミッシュの人たちが庭で遊んでいたりした。やはり車が通ると、観光客、とわかるようで(なぜなら彼らは車は持たないから)、手を振ってくれたりした。

彼らを見ていて、
どっちが幸せなんだろう?と割とまじめに思った。

彼らはガソリン代の高騰とは無縁だと思われる。
食べ物も自給自足している人も多いだろうから、穀物価格の高騰とも無縁である。
インターネットはもちろん、PCすらないから(そもそも電気を使わない)、顔も知らない他人から無駄に傷つけられたり、逆に他人を傷つけることもすくない。
選択肢も無駄に多くないだろうから、いろんな意思決定もしやすい。
お金のことはそれほど心配する必要もないのか、子供もたくさんもてるようである。

もちろん、今からアーミッシュのような生活をしろといわれても、やりたいとは思わない。けど、もしアーミッシュとして生まれて、その生活に始めから適応しているなら、、、

どっちが幸せなんだろう?と割とまじめに思った。
ヒトの幸せは、そのヒトの周りにある物の豊かさだけで決まるのでなく、あくまでそのヒトの中で決まる。