6/28/2008

皮質GABA作動性ニューロンの多様性を語るために

大脳皮質のGABA作動性ニューロン(GABAergic neuron)は多様

そんな多様なものの理解を深めるために、これまでわかったことを総括して、分類基準をできるだけ統一しよう、という趣旨の記事がNature Review Neuroscienceに掲載されていた。

この記事は、皮質GABA作動性ニューロンを研究している有名な科学者たちが、3年ほど前、Cajalゆかりの地であるスペインPetilla de Aragonに集って議論した内容に基づいているようだ。


これまでの研究では、皮質GABA作動性ニューロンは、
1.形態
2.分子プロファイル
3.電気生理的特性
という大きく3つの特徴から分類されてきた。

この記事では、その3つの特性について、研究者間でコンセンサスが得られていること、そうでもないことを簡潔にまとめ、今後の研究指針、たたき台を提供している。あくまで「たたき台」だ、ということを再三強調している点が印象的だった。

ちなみに、各特性について、調べるべき項目がこちらSupplementary informationにリストアップされている。

とにかく、皮質GABA作動性ニューロンを研究する人には、Must-Readな記事だと思われる。

それから、この論文のタイトルは、介在ニューロン(interneurons)だけど、投射ニューロン(projection neuron)についてのコメントも少しだけあった。

---
自分がコメントするのは気がひけるけど、思ったことを一応書くと:
1.電気生理特性の定量
形態の定量する流れに加え、電気生理的な特性の定量をもっともっと推進しても良いかも?と思った。例えば、電気生理特性で、いくつかのクラスに分類できる、といっても、論文に図として出るのは、いわゆるtypical exampleと、あっても統計の表で、「xx細胞」と「yy細胞」と呼んでいるのがどれくらい似ていて、異なるのか、もう少し詳しく知りたい。

ある指標を定量した時、それがどういう分布になるのか(細胞種内という意味でも)、非常に興味がある。連続的なのか、それともしっかり二つのピークを持つ分布なのか?複数の指標をもとにした、細胞種間の関係は?実験データだけを手に入れて、その指標を測るプログラムを使えば、どんな人でも(例えば中学・高校生でも)分類可能か?

2.遺伝子発現情報
この記事にもあるように、遺伝子発現情報による分類は強力だろうから(実験的にいろいろ落とし穴はあるのだろうけど)、どんどん推進されるのだろう。その意味では、マウスはさらに強力なモデル生物になるのだろう。とすると、ラットとマウスの違いは若干気になる。

ちなみに、その種間の違いについては、ニューログリアフォーム細胞のいくつかの特性が、マカクザルとラットで違うことが少しだけ紹介されていた。

3.in vivo
この記事では、気になる成体内での分類について、

no agreed criteria

とされていた。。。少なくともfast spiking細胞については、それなりにコンセンサスが得られている気もするが。。。
in vivoで調べるには、やはりjuxtacellularやintracellular記録という、大変だけど地道な努力を積み重ねるしかないのだろう。もしくは、トランスジェニック動物を使ったイメージングというのも魅力的か。

とすると、新しい第4の特性として、「イメージング特性」が、数年以内に付け加わる気もする。

それはともかく、in vivoでの領域が開拓されないと、神経回路の情報処理は片手落ち、あるいは一生わからないまま、なんてことになるやもしれない。。。スライス実験とモデルでの予測、そしてin vivo実験での検証、という流れはあこがれ。。。


4.ニューロ・インフォマティックス
記事の最後に、NeurogatewaySenseLabNeuroMorphoといった、いわゆるニューロインフォマティックス関連のサイトも紹介されていた(ついでにNIFも)。数十年後にEOLのようなEncyclopedia of GABAergic neuronsが立ち上がったりすると楽しそう。


---
文献
Nat Rev Neurosci. 2008 Jul;9(7):557-68.
Petilla terminology: nomenclature of features of GABAergic interneurons of the cerebral cortex.
Petilla Interneuron Nomenclature Group, Ascoli GA, Alonso-Nanclares L, Anderson SA, Barrionuevo G, Benavides-Piccione R, Burkhalter A, Buzsáki G, Cauli B, Defelipe J, Fairén A, Feldmeyer D, Fishell G, Fregnac Y, Freund TF, Gardner D, Gardner EP, Goldberg JH, Helmstaedter M, Hestrin S, Karube F, Kisvárday ZF, Lambolez B, Lewis DA, Marin O, Markram H, Muñoz A, Packer A, Petersen CC, Rockland KS, Rossier J, Rudy B, Somogyi P, Staiger JF, Tamas G, Thomson AM, Toledo-Rodriguez M, Wang Y, West DC, Yuste R.


過去の関連エントリー
個性豊かな抑制性ニューロンのルーツを探る:パート1パート2パート3


関連サイト
Interneurons (Scholarpedia)

No comments: