11/10/2007

学会を終えて

サンディエゴでの学会の感想等をつづってみます。

コネクトームブーム到来??

今回参加して、おそらくこれから数年間のうちにconnectomeというフレーズを謳う人がたくさん出てきそうな気がした。ゲノム(genome)プロジェクトが全塩基配列の決定だったら、コネクトームプロジェクトは、connection(結合)、脳の配線を調べつくそうという話。

間違いなくブームになりそう。
presidential special lectureの人選からそれを感じた。connectomeのパイオニアVan Essenらしい人選。

ということで、connectome絡みの比較的最近の論文を思いついた範囲でいくつかピックアップしてみると、

PLoS Comput Biol. 2005 Sep;1(4):e42.
The human connectome: A structural description of the human brain.
Sporns O, Tononi G, Kotter R.

神経束を生きたまま可視化できるというMRIDTI/DWI)を主に使ってhuman connectome、人の脳配線を決めること、をやろうという提案。(以前こちらでも紹介)

Nat Methods. 2007 Apr;4(4):331-6. Epub 2007 Mar 25.
Ultramicroscopy: three-dimensional visualization of neuronal networks in the whole mouse brain.
Dodt HU, Leischner U, Schierloh A, Jahrling N, Mauch CP, Deininger K, Deussing JM, Eder M, Zieglgansberger W, Becker K.

新しいタイプの光学顕微鏡。どれくらい汎用性があるのか、自分にはわからない。小さいサンプルなら使えるか?(以前紹介済

Nat Methods. 2007 Nov;4(11):943-50. Epub 2007 Oct 28.
Two-photon photostimulation and imaging of neural circuits.
Nikolenko V, Poskanzer KE, Yuste R.

ごく最近発表された論文。単一細胞レベルで、ニューロン間の結合(機能的な意味での結合)を調べられる。すべて光学系でできそう、というスゴワザ。まだスライスレベルとはいえ、かなりやばい。

PLoS Biol. 2004 Nov;2(11):e329. Epub 2004 Oct 19.
Serial block-face scanning electron microscopy to reconstruct three-dimensional tissue nanostructure.
Denk W, Horstmann H

Curr Opin Neurobiol. 2006 Oct;16(5):562-70. Epub 2006 Sep 8.
Towards neural circuit reconstruction with volume electron microscopy techniques.
Briggman KL, Denk W.

自動電子顕微鏡(serial block-face imaging)。connectomeのキラーツール?光学計測では見えないところが見えるので、圧倒的に有利で正確。自動化によって生産性が上がって、画像処理技術が大幅に向上すれば、他の方法はいらないかも。原理的には、分子局在の情報も載せられるか?統計的に考えれば良い、という立場を取れば、学習前後の配線・分子局在の変化だって研究対象になる気もする。ニューロンとグリアを同時に調べられる。いろんな夢が膨らむ。

今回のレクチャーでdiffusion MRIの話もあったが、個人的には5~10年以内に、死後検体のサンプルを自動電顕装置で調べ尽くす究極のhuman connectome project version 1.0が始まってもおかしくない気がする(かなり好い加減な見通し)。どれくらい膨大なデータサイズになるか知らないが、Googleの協力でも得てGoogle EarthバリのGoogle Brainが公開される日も遠くない気がする。(こちらを読むとそう楽観できないか?)

それはともかく、
connectomeがブームになろうがなるまいが、システム研究に如何に遺伝学を絡めるかということが、さらに重要になることを痛感した。その意味では、ハエのシステム研究から多くを学べそう。とすると、哺乳類を研究対象にするなら絶対的にマウス優位の時代到来?Brainbowの応用も面白そうだし、少なくとも大脳新皮質に関してはAllen Instituteが良いインフラを整備してくれそうな雰囲気。

いろんな意味で、rich-get-richerが加速気味のサイエンス業界。如何に良いサイエンスをやるか?ということを、手を動かす前に考えないとホントにやばい気がした。そんなこと言われなくてもわかってるけど、実践するのはホントに難しい。。。単に競争が激化している以上に恐ろしい時代に突入している気がした。

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学会で気になったこと

個人的には、学会はまだ論文になっていない「未発表データ」を話す場だと思っている。けど、相変わらず未発表データを持っているはずなのに、すでに論文になってるデータだけ発表して、他の人の未発表データを聞こうとする利己的な人が結構いたように感じた(ホントに未発表データがないのかもしれないけど)。「未発表データなしポスター」「発表データのみを発表する参加者」といったカテゴリーを設けるなどして、何か淘汰圧をかける仕組みが必要な気もする。競争が激しいから、、、という気持ちもわかるけど、自分だけデータを隠すというのはアンフェア。もしみんな同じ行動を取ったら学会は単なる顔合わせの場くらいの意味しか持たなくなる。ちょっと考えさせられた。

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と、まじめなことを書いた後は、ちょっと気楽に。


自分の発表

今回は、聴覚系のサテライトイベントでの口頭発表が最大のタスクだった。

何とか無事?に発表を終えた。それにしても緊張した。。。中には「緊張して手が震えてうまくポインターを指せません」と言ってウケを取っている人もいた。その人に比べたら緊張具合はまだましだったか?

口頭発表の直前にポスター発表の時間があった。
自分の英語はやはり相手に聞き取りにくい、と感じたので、口頭発表中はできるだけゆっくり話すように心がけた。それから、あらかじめアニメーションをしかけまくっていたのも奏功か。

聴衆の注意のコントロールは建前、自分のトークの手助けが本音。

規模は100人くらいだったか?
数千人を前にしたレクチャーで、スライドをほとんど使わず一時間くらい話せる人というのは、経験以上の才能があるのだろう。。。(トーク遺伝子?エンターテイナー遺伝子?)

ちなみに、今回の学会の直前、実は毎年恒例の研究所内ミニシンポジウムでもトークをしていた。その時は、誰からも「良かった」というコメントはかけられなかったけど(悲しいかな。。)、サテライトシンポジウムでは知らない人からもいろいろ声をかけられた。もちろん、外人のほめ言葉は8割引くらいで考えた方がいいだろうけど、ゼロでなかったのは良かった。質疑応答も、比較的イージーな部類の質問だったので、何とかお茶を濁せた気がする。

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ポスター発表は、サテライトイベントと学会中と2回発表。

トークの練習を積んでた分、ポスター発表はかなりリラックスしてできた。学会中のポスター発表では、前日ケンがトークしたおかげか、聴覚研究者以外の人たちにもたくさん来てもらった。ラボ全体的に盛況だったと思われる。やはり中日(なかび)のポスター発表は良い。

このブログをご覧になられて来られた方、ポスターのコピーのリクエストまでいただいた方、ありがとうございました。気軽にメール等でご感想・ご意見等をお聞かせください。ポスターに関係なくても大歓迎です。

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ソーシャルネタ

やっぱり学会は、夜。
今回は、10人以上の食事・パーティーに参加する機会に恵まれた。

学会初日は、基生研時代の知り合いに誘われて、少し遅れて食事会に参加。名前・顔は知っていたけど、話をしたことのなかった人たちとも話ができて有意義な時間を過ごせた。2次会はバーに行ったけど、うるさくて至近距離の人と会話するのにも一苦労。。。(ありがち)

2日目は、pooneilさんのところにもあるように、しげさんを誘って神経科学者SNSのオフ会に参加した。昔からpooneilさんは一方的には知っていたけど、こういう形でお話ができたのは今回初(ASSCの時はポスター発表を聞いただけだったし)。ブログをやってるおかげか、自己紹介なしでそれ以上の文脈で会話をスタートできるというのは結構良いかも?参加者全員と挨拶はできなかったけど、他にも大学院生やポスドクの方たちと話す機会があって充実のパーティーだった。

火曜日は、ラボのパーティーとバッティングしてしまったけど、もとから参加予定だったNY/NJ地区日本人研究者呑み会に参加。これまた初めてお会いする人がたくさんいて、いろんな話ができた。二次会は、いつもこってり絡んでる面子を中心にバーへ。

やはりナイトサイエンス?は重要。

それにしても今回、このブログを読んでいただいている方にたくさんお会いできた。自分のネームプレートを見て「読んでます」、お世辞でも「勉強になってます」などと言ってもらってうれしかったです。ありがとうございました。これからはこちらでも声(コメント)を気軽にかけてください。

4 comments:

Anonymous said...

どうも、SFNお疲れさまでした。
実はShuzoさんのポスターの前までは行ったのですが、同じ発表時間帯&ものすごく盛況でいらっしゃったのでついに声をかけられずじまいだったのでした。
SNSの方も諸事情で参加できず、本当に残念至極です。次に何かよい機会がありましたら、その折にはぜひお話させていただきたいと思います。

Shuzo said...

どもどもvikingさん。
ポスター覗いて頂いたんですね。ありがとうございました。実際のところ、暇な時間帯もありましたから、きっと来られたタイミングが悪かったのだと思います。
次回は、、、確実なのはワシントンですかね(1年も先)。次こそはぜひ直接お会いしてお話しましょう。

Anonymous said...

私も Viking さんと同様、すぐ近くでポスターを拝見していたのですが、いつまでも聴衆が減らなかったので、退散してしまいました。残念。

4月のジャネリアファームにアブストラクトを出す予定です(リジェクトされるかもしれませんが)。お会いできるでしょうか?

Shuzo said...

ポリさんもありがとうございました。

私もジャネリアのコンファレンス、アプライしてます。同じコンファレンスで、二人ともアクセプトされたらお会いできますね。ジャネリアのバーで一流の研究者と呑むのが夢なんです(オイオイ)

もし私だけ落ちたら、ジャネリアからNJまではそれほど(考え方次第では?)遠くないので、マンハッタン観光ついでに遊びに来てくださいませ。