12/30/2008

今年アクセスが多かったエントリー

今年アクセス(PV)が多かったエントリー、トップ10。

1.トレーニングと知能
2.統合失調症の新薬―LY2140023
3.意思決定の総説たち~Jouranl of Neuroscienceより
4.効率的な学び方
5.カンファレンス・プレビュー
6.個性豊かな抑制ニューロンのルーツを探る:パート1
7.睡眠不足、肥満、メタボ、そしてガン
8.個性豊かな抑制ニューロンのルーツを探る:パート2
9.研究者とニューロンの“生きるすべ”
10.意識の神経学

*昨年立てたエントリーもランクインしてます。


ちなみに、ワースト5は

1.歯医者へ行く2
2.ワイルド・プレーオフ
3.トレーニングでハンデ克服
4.ラットな研究者へのクリスマスプレゼント!?
5.日本語対応

ワースト3、4位は来年に期待するとして、それ以外は立てるだけ無駄だったということで。。。
2009年は気をつけます。。。

2008年、お付き合いいただきありがとうございました。
では、良いお歳を。

12/27/2008

トレーニングでハンデ克服

新着のネイチャー・ニューロサイエンスに掲載されたZhouとMerzenichたちの研究によると、生後の発達時期に(人工的に)起こした聴覚障害を、のちのトレーニングによって克服できることがわかった。

ラットを研究対象にしている。

これまでの研究から、生後のいわゆる臨界期の間に、特別な音環境でラットを育てると、聴覚機能が正常に発育しないことがわかっている。今回の研究では、その障害を受ける聴覚機能のうち、特に「時間処理」に注目している。

そして、トレーニングによってその障害を克服できるのか、行動レベル、神経活動レベルで調べている。

ちなみに、なぜ音の時間処理か?

例えばヒトの場合、音の速い変化を正確に処理できるかは、言葉の聞き取りに重要だから。ここでいう「時間処理」というのは、そういう音の速い時間的な変化、を処理すること。つまり、今回の研究は、動物の研究ではあるけども、研究者たちはヒトの言語処理も視野に入れた上で、研究を行っている。

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ラットのトレーニングは、約0.5秒の間に「クリック」音が何回なるか区別する課題。つまり、クリックのペース(周期・スピード)を区別する。

5種類の違うペースのうち、1つのペースのクリック音が鳴ったときにだけ、鼻を穴に入れれば報酬がもらえるようにトレーニングする。

すると、はじめはもちろん出来ないけど、トレーニングを何日も続けると、その課題ができるようになった。

次に、脳でどんな変化が起こっているか、ニューロンの活動を測って調べた。
すると、トレーニングしたラットの聴覚野のニューロン活動は、普通の環境で発育したラットのそれと同程度の音の時間処理能力があることがわかった。

発育障害のラットのニューロン活動は、通常、速い音の変化についていけなくなるけども、トレーニングによって、速い音の変化にもついていけるようになった。

また、この効果はすぐになくなるものではなく、トレーニングをやめても少なくとも2ヶ月は持続する変化だということもわかった。

ちなみに、音の処理には、音の周波数の処理も大事だけど、その能力には改善は見られず、トレーニングした時間処理能力だけが改善していた。つまり、トレーニングを他の機能に一般化することは、残念ながらというべきか、当然というべきか、おきなかった。

この研究では、生後まもなく起きた(起こした)聴覚機能の発育異常を、後のトレーニングによって、行動レベルだけでなく、ニューロンの活動レベルで正常に近いレベルまで回復できることを示したことになる。

同じ研究グループは10年以上前、ラトガーズ大Tallalのグループとの共同で、人、子供を対象に、聴覚トレーニングのために開発した「ゲーム」をすることで言語機能の発育の遅れを取り戻せそうだ、ということを報告している。(こちらこちら

今回の研究のポイントは、臨界期後でも、トレーニングによって正常の機能を取り戻せることをニューロン活動のレベルとして示した点か。

少々時期を逸しても脳は変化し続ける。

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参考文献
Nat Neurosci. 2009 Jan;12(1):26-28. Epub 2008 Dec 14.
Developmentally degraded cortical temporal processing restored by training.
Zhou X, Merzenich MM.

今回の論文、示しているデータといい論文の書き方といい、文句をつけようのない良い論文。

ラットな研究者へのクリスマスプレゼント!?

げっ歯類の研究に関わっていない人には、ラットもマウスも似たようなものかもしれない。
けど、実際に関わっている人からすると、それぞれのメリット・デメリットがある。

僕は電気生理実験をしては、ニューロン活動を測っている。
マウスで試みたこともあるけど、マウスはとにかく小さい。できるだけたくさんニューロン活動を計測したい場合、非常に難儀。

これに加え、何人かの研究者からの証言によると、
マウスはラットよりアホ
らしい。。。

確かに、落ち着きがなくて思慮に欠ける印象は受ける。

もちろん、
同じ観点で比べると
という条件付なのだろうけども、行動を通して脳機能を知りたいのに、ホントにマウスが「アホ」だとすると、研究の障壁になる。

僕が知る限り、げっ歯類の心理学研究は、マウスよりラットで知識が蓄積されてきたから、行動という点においてはラットに軍配が上がりそうである。

と、電気生理学や心理学というアプローチにおいては、ラットがベター。
(薬理学という意味でも歴史があるそうだけど、よくわからない。)

そんな「ラットな研究者」にとって、クリスマス・プレゼントになりそうな論文がCellに掲載されている。

念願のES細胞が取れ、まだ克服すべき技術的な壁がいくつかあるようだけども、キメラになる確率も高い、らしい。

特定の細胞だけで特定の時期に遺伝子を操作する、なんてことがラットでもできる日も近いかも。

参考文献
Cell. 2008 Dec 26;135(7):1299-1310.
Germline Competent Embryonic Stem Cells Derived from Rat Blastocysts.
Li P, Tong C, Mehrian-Shai R, Jia L, Wu N, Yan Y, Maxson RE, Schulze EN, Song H, Hsieh CL, Pera MF, Ying QL.

12/19/2008

自発的に繰り返される脳活動

脳に刺激が入ると、もちろん何らかの活動が起こる。一方で、刺激がなくても、脳は勝手に・自発的に活動している。例えば、目を瞑っても、寝ていても、夢を体験していなくても、視覚野は常に活動し続けている。

そんな「自発活動」を調べた研究の中で、2ヶ月前にYang Danたちが雑誌Neuronに報告した研究がおもしろい。

視覚刺激で視覚野を積極的に活動させた後の自発活動を調べてみたら、視覚刺激がなくても、まるで視覚刺激が来た時のような活動がしばらく続くことがわかった。

しかも、何回も刺激をするほど、その効果が続くこともわかった。

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研究では、電位感受性色素という脳の電気活動をモニターできる色素で脳を染めて、視覚刺激を呈示した時、その前後のラット視覚野の活動を広範囲に計測している。

この方法では、神経活動が視覚野をウェーブのように伝わっていく様子を2次元平面的にとらえることができる。スタジアムで起きるウェーブをヘリコプターか何かで上空から眺めるような感じ。いろんなウェーブが巻き起こる。

研究では、そのウェーブがどのように伝わるか、その軌跡をシンプルな方法で調べた。すると、視覚刺激を呈示した後しばらく、視覚刺激が入った時の活動軌跡と似た軌跡を描く自発活動がたくさん発生することがわかった。

しかも、視覚刺激が単純な刺激でも自然な刺激でもこの現象は起き、刺激が違えばそれに応じて自発活動の軌跡も変化し、たくさん刺激すればより長い間似た自発活動が発生する、ことがわかった。

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これまで自発活動に関しては、たくさん研究がある。

その中で面白いのは、例えば、視覚応答の時にだけ見られると信じられていた脳活動の特徴が、放っておいても視覚野で勝手に現れたりする

感覚情報を伝える視床からの入力を電気刺激でシミュレーションして、その結果起こる大脳皮質(その第4層)の活動パターンと、自発活動の活動パターンを比べてみると、実は区別がつかなかったりする

とにかく、自発活動が、実際に感覚刺激で起こる活動パターンを「再生」しているような時がある。

今回の研究のポイントはというと、その「再生」が視覚刺激を与えた後、ホンの少しの間だけ(数分)起きやすくなることを明らかにした、しかも、それは刺激をたくさん与えたほど長い間現れる、という点だと思われる。

しかも、今回の研究は麻酔下のラットで行われた、という点も注目か。

自発活動のバラエティーが(たぶん)少ない、にもかかわらずというべきか、だからなのか(見つけやすかったのか)、はよくわからない。とにかく、今後の研究を待ちたいところ。(ひょっとしたら、別の麻酔を使ったり覚醒中に同じ実験をやると、ゴチャゴチャして現象をきれいにとらえられないかもしれない。)

ちなみに、これと似たことをさらに踏み込んで示していると思われるのは、昨年報告されたJiたちの話。海馬の活動との関係を明らかにしている点、ラットが課題をやった後に寝たら「再生」がたくさん起こったことを示した点、で個人的にはよりインパクトがあると思っている。(その意味では、今回の論文、論文としての完成度は非常に高品位で学ぶべきことはあるけれど、コンセプト的にはそれほど新しくない、という批判もできなくもない。しかも麻酔条件だけのデータだし。)

さらに、今回の研究、Yang Danの旦那さんであるPooさんが最近ネイチャーに出したとも似ている。その論文では、刺激のリズムと同じリズムで「再生」が起きて、しかも行動的にも意味がある、的なことを示していたように思う(間違ってるかも)。

インサイダー取引的に、外部からは知りえない情報交換が密に交わされ、同時期に、異なる実験モデル、異なる計測方法で似た現象を見つけ、一流紙に仲良く発表したことになる。。。

それはともかく、
この分野、地味というか、セクシーでないというか、一見重要性がわかりにくい分野かもしれない。けれど、そもそも脳はいったいどう活動しているか?という問題を深く考えていく上では、非常に重要な研究テーマである。

脳は発生過程から勝手に活動するようにできている。
「脳が活性化する」とはよくいうが、その意味をしっかり考えた方が良い。

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文献情報

Neuron. 2008 Oct 23;60(2):321-7.
Reverberation of recent visual experience in spontaneous cortical waves.
Han F, Caporale N, Dan Y.

12/06/2008

伝染する幸せ

アメリカでは、11月だけで50万人以上が職を失って、失業率が6.7%にもなったらしい(記事)。一方、それを反映してか、最近「幸せ関連ビジネス」が盛り上がっているらしい(記事)。

その幸せ(happiness)に関連して、BMJという医学雑誌に報告された研究によると、人の幸福感は、「友達の友達の友達」の幸福感とも関係があって、配偶者よりお隣さんの幸福感の方が、自分の幸福感に重要かもしれない。

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「幸せ」については、経済学・心理学・神経科学など、いろいろな研究分野から取り組まれている。感情が人から人へ伝わることを調べた研究もあるらしいけど、幸せと社会コミュニティー全体との関係、特に「幸せ」がコミュニティーの中でどう広がるのか、よくわかっていなかった。

今回の研究では、Framingham(ボストンの近く)に住む5000人以上の、1948年からスタートした追跡調査を調べている。

特に、その追跡調査のデータから、幸福感について調査し始めた1983年から2003年までの20年間、4739人のデータを詳しく調べている。

調べたことは、住人同士の社会的な関係と個々人の幸福感との関係、そしてその時間的な変化。

例えば、AさんとBさんがいたら、それぞれの幸福感と、AさんとBさんの社会的なつながりを追跡調査のデータから掘り起こす。それを、4739人、20年間分のデータを調べて、コミュニティー全体の傾向を調べることになる。

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この研究からわかったことは、
1.幸せな人たちは幸せな人たち同士でつながっている傾向がある。
2.最大「3度の隔たり」までの人(友達の友達の友達)が幸せだと、自分も幸せである傾向が高い。
3.周りの友人が幸せだと、幸せになりやすい。
4.配偶者や親戚よりも、物理的に近くに住んでいる友人が幸せだと、自分も幸せになる傾向がある。
5.職場仲間が幸せだからといって、自分も幸せになるわけではない。
といったことがわかってきた。

このことから、論文の著者たちは、幸せは社会ネットワークとしての現象でもあり、人々の幸福感はその知人の幸福感に依存する、と結論付けている。

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ちなみに、幸福感をどのように測ったかというと、CES-Dというアンケートの中から幸福感につながる以下の4つの質問:
・将来に希望を感じる。
・幸せだ。
・人生を楽しんでいる。
・他の人と同じくらい調子が良い。
その回答結果に基づいているようだ。

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もちろん今回の研究からは、いわゆる「相関関係」しかわからず、「因果関係」はわからない。だから、何が原因で幸せが伝染したのか、現時点ではいろんな可能性が考えられそう。それに、もしかしたらFraminghamというところだけの現象だった可能性もある。

つまり、追試、より慎重で詳しい解析が必要だろう。

ただ、職場の同僚の幸福感が、自分のそれにあまり寄与しないといった結果は、何となくリアルを反映しているようにも思える。。。

とにかく、今後の研究に注目したい。

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ちなみに、ニューヨークタイムズに、この論文を詳しく紹介したすばらしい記事が出ている。

その記事ではあのDaniel Kahnemanまでわざわざコメントを寄せていて、とにかく超充実の記事となっている。

その記事にもあるが、今回の研究をうけて、もし不幸な知人がいたらその人との縁を切った方が良い、などと解釈するのは誤り。

むしろ、幸せの運び屋としての責任を誰もが持っている、と解釈すべきなのだろう。

ただし、だからと言って、なりふり構わず誰にでも笑顔を振りまくのは「危険」、とも論文著者の一人がインタビューで答えている。。。

実際の記事は以下の通り:

This now makes me feel so much more responsible that I know that if I come home in a bad mood I’m not only affecting my wife and son but my son’s best friend or my wife’s mother,” Professor Fowler said. When heading home, “ I now intentionally put on my favorite song.”

Still, he said, “ We are not giving you the advice to start smiling at everyone you meet in New York. That would be dangerous.”

友人に幸せを伝えるだけで十分なのだろう。

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参考文献&情報

BMJ. 2008 Dec 4;337:a2338. doi: 10.1136/bmj.a2338.
Dynamic spread of happiness in a large social network: longitudinal analysis over 20 years in the Framingham Heart Study.
Fowler JH, Christakis NA.

実は、同じ号で発表された別の論文では、にきび、頭痛、身長が社会ネットワークと関係があるか、つまり伝染するか調べている。

その結果、一見伝染しているようにみえるけど、環境要因を加味すると伝染していない、ということがわかった。

社会ネットワーク研究の警鐘ともとれる。
ネガティブな結果ではあるけれども、科学という点ではこちらも注目か。

大脳皮質の中のモチーフ

1年以上前、日本神経回路学会誌に解説記事を書かせてもらった。
その抄録全文PDFが公開されていることに気がついた。
(金銭上の都合で別刷りを買わ(え)なかったので、実は、最終的にどんな形で出版されていたのか知らんかった。。。)

扱っているテーマは、
ネットワーク科学を応用した、大脳皮質回路(マクロレベル)の構造解析。

日本にいた時の仕事であるこちらこちら、そしてその周辺分野について、自分の知識内でまとめている。

少なくとも、このブログよりは気合いを入れて書いたので(当たり前か?)、それなりの情報は詰め込まれているのではないかと思われる。

気合空回りで書き過ぎのところや、途中のテクニカルな部分(モチーフ検出法)、脳と社会ネットワークとの比較の部分、などは読み飛ばしてもらっても、後半はそれなりに面白い問題・課題をいくつか指摘しているのではないかと、今読み返しても思う。

書いて1年経ってもほとんど進展していない問題もある。それは、重要なのだけども難しい問題と思うか、それとも、誰もケアしないどうでもよい問題と思うかは、読み手に依存する。

たくさん文献を引用するように心がけたので、情報源から自分なりに問題を考えるのにも使える。

と、生意気こいてますが、実はこの解説記事、いわゆるピアレビューを経ずに出版されているので、間違った解釈をいろいろしている可能性があります。

プロの方や興味を持たれた方と、メールなどでも何でも良いので、いろいろ意見交換が出来ればなぁと思っています。

とにかく読んでください!

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参考情報

<文献情報>
坂田 秀三: (2007) 大脳皮質の中のモチーフ : 計算論的神経解剖学とネットワーク科学の接点
日本神経回路学会誌, Vol. 14, No. 3, pp.205-217 .

The Brain & Neural Networks (Journal of Japanese Neural Network Society) 14 (3), 205-217, 2007
Motifs in the cerebral cortex: Links between computational neuroanatomy and network science.
Sakata S.


<この記事に関連したブログエントリー(旧ブログより)>
書き物
ヒトの脳内ネットワークをグーグル的に調べ尽くすには?
脳内環境問題
ネットワークモチーフ
大脳皮質の中の階層性~Hilgetag et al. Science 1996~
コミュニティーの運命を決めるルール
脳と人間関係のアナロジーを考える

<おまけ>
解説記事の冒頭に引用文がある。

There are three departments of architecture: . . . All these must be built with due reference to durability, convenience, and beauty.
- Marcus Vitruvius Pollio


これは、神経系関連の本からパクったのではなく、手さぐり的にググってたどり着いた文章。(だから、見るけるのに意外と時間がかかっている)

引用した意図は、durabilityがロバストネス、convenienceが高い機能性、beautyが規則性を持った構造、をそれぞれ連想させて、一目惚れした文章。

ちなみに、このMarcus Vitruvius Pollioという人は紀元前の人らしく、現存する最古の建築理論書らしいDe Architecturaを書いたとのこと。その本の英訳が、正確な場所は忘れたけど、ウェブ上にあって、そこから拝借した。

オリジナルの前後文脈を全然理解せずに引用しているので、とんでもない誤解をしているかもしれないけれど、、、

11/29/2008

STED顕微鏡

顕微鏡と言えば、中学生の時にタマネギか何かの細胞を理科の実習で観察して、大学院生に入って共焦点レーザー顕微鏡2光子励起顕微鏡なるものがあることを知った。今の大学院生なら、4PiSTEDPALM/STORMといった顕微鏡を話題にしているのかもしれない。

とにかくここ最近、次から次へと新しい名前の顕微鏡が登場していて、もはやついていけなくなってきた感がある。顕微鏡の英語はmicroscopyだけど、”nanoscopy”という言葉もよく見る。

その中で、STED(stimulated emission depletion)顕微鏡という顕微鏡が神経科学研究に応用されつつあるので、今回は私が重要論文かも?と思った範囲で、STED関連の文献集を作ってみます。

こういう次世代顕微鏡のポイントは、従来の光学顕微鏡では見れなかったものが、見れるようになる、ということか。しかも、組織を生のまま見れたりするので、神経可塑性や神経伝達物質放出などの動的なプロセスをより高解像度で調べられるようになる、ということなのだろう。

つまり、文字通り見落としていたものが見えてくる可能性がある。

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STED顕微鏡

STED顕微鏡について語る時、キーパーソンはStefan W Hell

Optics Letters, Vol. 19, Issue 11, pp. 780-782
Breaking the diffraction resolution limit by stimulated emission: stimulated-emission-depletion fluorescence microscopy
Stefan W. Hell and Jan Wichmann

STED顕微鏡の生みの親、HellたちがSTED顕微鏡のコンセプトを初めて提唱した論文。簡潔にまとめると、励起光をクエンチング・ビームなどと呼ばれるレーザーと一緒に使うことで、空間解像度を従来の数百nmから一気に数十nmと1桁も下げられることがわかった。

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STED顕微鏡の神経科学への応用

Science. 2008 Apr 11;320(5873):246-9. Epub 2008 Feb 21.
Video-rate far-field optical nanoscopy dissects synaptic vesicle movement.
Westphal V, Rizzoli SO, Lauterbach MA, Kamin D, Jahn R, Hell SW.

こちらの論文は、神経科学への応用だけでなく、STED顕微鏡を生きた細胞に初めて応用したという点でも重要な論文か。具体的には、シナプス前終末のシナプス小胞のリアルタイムイメージングに成功して、細胞内の小胞の挙動が明らかになった。この論文の解説記事が非常にわかりやすくてよい。

想像力を豊かにすれば、ニューロン間の情報伝達の効率性を、生きた組織で光学的に詳しく調べられれたりするのかもしれない。


Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Nov 21. [Epub ahead of print]
Live-cell imaging of dendritic spines by STED microscopy.
Nägerl UV, Willig KI, Hein B, Hell SW, Bonhoeffer T.

ごく最近出た論文。STED顕微鏡で樹状突起上のスパインを経時的に観察したという論文。科学的発見という意味では、大したことないのだろうけども、こういう論文はワクワクする。ちなみに論文の最後に、電顕で回路を再構築するより、STEDで良いのでは?ともある。最先端の現場では、どういう議論が繰り広げられているのか興味があるところ。

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STED顕微鏡も扱っている総説(紹介だけ)

Science. 2007 May 25;316(5828):1153-8.
Far-field optical nanoscopy.
Hell SW.

Nat Methods. 2008 Jun;5(6):475-89.
Do-it-yourself guide: how to use the modern single-molecule toolkit.
Walter NG, Huang CY, Manzo AJ, Sobhy MA.

Nat Rev Mol Cell Biol. 2008 Dec;9(12):929-43. Epub 2008 Nov 12.
Fluorescent probes for super-resolution imaging in living cells.
Fernández-Suárez M, Ting AY.

Stefan HellでpubMed検索をすると、他にもたくさん関連文献が見つかる。

追記(12/20)
Nature Methodsによると、「今年の技術」としてSTED顕微鏡を含んだnanoscopyが選ばれている。どういう経緯で最近のブレークスルーが起こったかわかりやすく紹介した記事や、Hell自身による記事などもあって超お勧めです。

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日本語でググッた結果からおススメ情報

Nature Methodsの日本語記事

Ctenophoraの日記より「光学顕微鏡を超える空間分解能のために」(超充実)

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update:
関連書籍
生命現象の動的理解を目指すライブイメージング―癌、シグナル伝達、細胞運動、発生・分化などのメカニズム解明と最新技術の開発、創薬 (実験医学増刊 Vol. 26-17)
STED顕微鏡やナノスコピーのことは扱われていないようですが、イメージング研究の最先端の本として。

Nanoscopy Multidimensional Optical Fluorescence Microscopy
というナノスコピーの教科書が発売されるようです。

11/22/2008

学会会場での人間行動を科学する

前回のエントリーの関連ネタとして、アホエントリーを。

今回、バカでかい学会会場を歩き回っていて、ふと、
Aさんとどれくらいの確率でめぐり合えるのだろうか?
と思った。

今回のエントリーでは、ある意味どうでも良いそんな問題を、ちょっと考えて見ます。(なぜなら、楽しいから。)

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まず直感

直感的には、会場を2次元的にとらえて、AさんとBさんを2つの粒子か何かと考え、その行動モデルを何か仮定して、その2粒子の衝突確率か何か計算すれば良いのだろうか?(散々やられている気もするな。。。)

AさんとBさんのめぐり合う確率ではなく、どういう会場のデザインが効率的な会場か?、とより有益な問題を考えても良い、というかその方が面白い(し、研究費を取ってこれそうでもある?)

なので、問題を、効率的な学会会場デザインとは?とすり替えてみる。

シミュレーションをする時、もし上の直感で良いとするなら、
1.会場のデザイン
2.行動モデル
3.ヒトの密度
が重要な要素になるのか?

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行動モデルとヒトの密度

行動モデルに関しては、移動距離と滞在時間というパラメーターが重要か?

移動距離に関しては、おそらくLevy flight的な仮定は直感的に正しい気がする。
というのは、例えばポスター会場では、一つのテーマの場所で、ポスターを一つ一つ見ていくこともあれば、ポスター会場から大きなホールまで長距離移動することもある。

けど、その長距離移動は1日数えられるくらいしかしない。
一方、ポスターを一つ一つ見るための移動頻度は非常に多い。

少なくとも正規分布ではない気はする。

滞在時間はどうか?

移動距離と何か関係があるような気もしないでもない。
一つのポスターの前に1時間居座ることはまずない。数秒見ては次のポスター、長くても10分くらいか。一方、シンポジウム、レクチャーは1時間単位でいる(楽だし。。。)

ついでに、粒子密度も考えて、粒子同士の衝突など、粒子の行動がスタックすることも考えられるとなおリアリスティックで良い(ここが一番やっかいか)。実際、大ホールでのレクチャー前後ではその粒子同士の衝突が顕著となり、行動が規制される。

人種や男女比なども考えて、粒子サイズを考えても良いけど、それはやりすぎだな。

3万人分のシミュレーションが実際どれくらい大変なのか、よくわからないけど、それくらいでやりたいところ。

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会場デザイン

デザインとして、二つ考えられそう。
第一に、箱はそのままで、演題の配置をいろいろ考える。
第二に、箱そのもののデザインをいろいろ考える。

前者は特にポスター会場内のポスターや企業ブースの配置などをいろいろ考えることがすぐに思いつくか。

後者は、今回のワシントンDCのコンベンションセンターと昨年のサンディエゴのそれを比較すれば良い。(リアルに忠実するのは難しいのかもしれないけど)

これは考えようによっては建築家とコラボすると面白い気がする。というのは、デザインと利便性のトレードオフを、科学的に扱えるかもしれないから。(ホントに扱えるのか、実際の現場ではもっともっと深いことが考えられている気もするが。。。)

例えば、大ホールの出入り口、その周辺のデザインなどをどうすれば、混雑を回避できるか、そういった問題を考えるとか。

それから今回、スタバに長蛇の列ができていたけど、その辺の効率性を上げるのにも役立てられないか。(効率的なお金儲けにもつながるやもしれんし)

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シミュレーションの評価

では、何をもって良い学会会場デザインとするか?

もしも一人だけで会場を自由に動き回れて、聴きたい演題をすべて回れる。(ポスターの順番待ちは一切なし)

これが一つの最適解な気がするから、シミュレーションした全てのヒトの平均なり統計量が、その最適解に近ければ良い、ということになるか。

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実験

やはり、シミュレーションだけでは面白くない。
実際の人の行動をトラックしてデータ収集したい。

どうするか?
GPSの詳しいことはよく知らないけど、GPSでは解像度は足りないか?(人は3次元的に動きまわるし)

参加者でiPhoneなどのスマートフォンを持っている人は多そうだから、何かそういうデバイスを利用できると良さそうだけど、お金がかかりそうな気もする。。。

けど、もしそういう携帯デバイスを使って、1メートル以下、数秒単位で位置を把握できるとすれば(一気に飛躍するけど)、事前に参加者を募って、行動をトラックさせてもらっても良い。そんな実験をするなら、ぜひとも参加してみたい。

そんなハイテクを使わなくても、万歩計に毛が生えたデバイスを用意しても良い。各歩行のタイムスタンプも記録できるデバイスを、参加者の一部にしてもらえば、行動モデルを考えるための最低限のデータは収集できるかも。(けど、空間情報もないと、かゆいところに手が届く実験データにはならない気も。。。)

そうやって、シミュレーション結果と実際の行動との折り合いをつけながら、どんな学会会場のデザインが良いか、科学的な根拠を持って考えていける気もする。

実際には難しい問題がたくさんありそうで、素人過ぎるか?
よくわからん。
けど、楽しそう。

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何の役に立つか?

参加者の役に立つ。
ひいては科学の発展に貢献する。
なぜなら、参加者の情報収集の効率を上げられる提案をできそうだから。
さらには、経済効果、医療の発展も期待できる(かも?)

想像力をもっと豊かにすれば、例えば、こういう研究をさらに発展させ、マンハッタンでのヒトの行動などに拡大して、ボトムアップ的に都市のデザインを考えられないか?

この地区にスタバをx軒作るのは明らかに無駄、とか、そういうことも定量的に示せそう。生態学、社会学、そして経済学が融合したりしそうな気もする。

その意味では発展性もある気がする。

と、そんなアホなことを学会中考えてました。。。

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参考になるかもしれない情報

Nature. 2008 Jun 5;453(7196):714-6.
Ecological modelling: the mathematical mirror to animal nature.
Buchanan M.
内容はしっかり覚えていないけど、Levy flightの研究史的なことが非常にわかりやすくまとめてあった。

Nature. 2008 Jun 5;453(7196):779-82.
Understanding individual human mobility patterns.
González MC, Hidalgo CA, Barabási AL.
携帯電話ユーザーの情報を解析して、ヒトの行動パターンがLevy flight的だということを実証した研究だったように記憶している。

学会を終えて 2008

Society for Neuroscienceのミーティング終了。
しかし、人多すぎ。。。

ポスター会場やメインの入り口付近の混雑ぶりを、エスカレーターを降りながら遠目に見ていると、いろいろ考えさせられた。。。

今回は(も?)3万人以上が参加していたらしい。
神経科学者もバブル。。。(しかも膨らみ続けている)

さて、今回は学会の感想などをつらつらと。

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全体の印象

昨年のエントリーを読み返すと、Brainbowの話が出た直後だったりと、connectomicsが一つのキーワードな感じがあったけども、今年はこれっ!という一大トピックはなかったような。。。(といっても、規模がでかいから、あくまで僕の見聞きした限られた範囲では、、、ということにはなる)

optogeneticsconnectomicsneuroeconomicsbrain-machine interface、、、

もちろん面白い演題はいくつもあったけど、ブレークスルーというよりは、新しい分野がその裾野を徐々に広げているという感じか。

ちなみに、僕は睡眠がらみのシンポジウム、ミニシンポジウムに足が向いた。

学会直前のJournal of Neuroscienceにいくつかミニシンポジウムの総説的な論文がある。参加した睡眠のミニシンポジウムはなかなか面白かった。日本からはオレキシンの研究で世界的に有名な金沢大の櫻井武先生がシンポジストでもあった。

このシンポジウムで何人かのスピーカーが問題にしていた「睡眠のホメオスタシスの仕組み」、確かに不思議な問題である。

実生活とも直結する。

例えば、今回の学会はワシントンDCだったから、僕が住んでいるNJ州とは時差はなし。だからサーカディアンリズムはほとんど影響を受けない。

けれども、1週間に渡って毎晩呑んだくれたり(後述)、最終日のパーティーを終えて、22時の電車でDCからNJに帰って、翌朝3時半に自宅に帰り着いたりすると、そのホメオスタシスが働いていることを、学会後2日間くらい痛感することになる。

つまり、睡眠不足だったり疲れが出て、生産性が著しく低下する。。。
このテーマの研究の経済効果は大きいはずである。

その仕組みについて、分子の話、脳波の話は個別にはあるようだけども、そのリンクがどれくらいわかっているのだろうか?とにかく面白い問題。

Scholarpediaを少し見てもあまり包括的という感じではないから、よくわかっていないのだろう。

このシンポジウムで、今の僕の研究とリンクがありそうなのはオーガナイザーのKilduffさんの話くらいといえばそうだけども、いろいろインスパイアされた。

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学会のメリットとデメリット

話は変わって、冒頭「人が多い」と書いたので、そのメリットとデメリットを。

<メリット>
・知らないことを聞ける適切な人が大抵どこかにいる。
・ビッグネームのトークを聴けるチャンスに恵まれる。
・多くの人と出会う、再開するチャンスがある。(=呑み会のチャンスに恵まれる)

<デメリット>
・同時多発的に重要なイベントが起こっていて、一人で情報収集するには限界がある。(超並列処理的な学会?)
・なかなか知り合いとめぐり合えない。
・面白いポスターの前には「群」ができ、話を聞く気力がうせる。話を聞けたとしても、他の人の質問によって説明が中断され先に進めずフラストレーションがたまる。(聴衆が多様なだけに、それは不可避でもある)

では、そのデメリットを改善するにはどうしたら良いか?

少なくとも、オンラインにある要旨集と、オーラルとポスターの決定方法を変えて欲しい。

まずオンライン要旨集。これホントに使えない。。。

次のような機能があると良いのになぁ、と思う。
1.ページランク的な検索結果のソート機能を追加する。
2.ソーシャルブックマーク的な要素も取入れ、群ができそうな演題を知りやすくしたり、ラボメンバーや知り合いと興味のある演題をシェアできるようにする。
3.アマゾンのように、この本を買った人はこの本も買ってます的に、「この演題をチェックした人はこの演題もチェックしてます」という、関連演題へのリンクが自動生成されるようにする。

とWeb2.0的な要素なども取り入れて、重要な演題を探しやすい、シェアしやすいようにして欲しい。参加費として$230も払っているわけだけど、もう少し良いお金の使い方があるような気もする。(お願いだから何とかして欲しい)

それから、オーラルとポスターの配置。
例えば1ヶ月前までのアクセス数、あるいはブックマーク数をもとにオーラルかポスターの意思決定を。そして、ポスターでもいくつか階層性を作って、人の多そうなポスターのスペースは2倍割り振るなどする。

そして、クラスA、クラスBのポスターのエリアといった具合に、空間的に差別化してもらえると、非常に情報収集の効率は上がる気がする。

特に、大きい学会は分野外のことを知る良い機会でもあるから、あらかじめそういう差別化をしてもらうと、素人も聞くべき演題の選択がしやすくなる。

ただし問題は、要旨登録は半年前で、その後、内容が大きく変わったりすることがよくあることか。良い演題かもと思ったら、実は大したことなかったりもする。。。

さらに、要旨集を1ヶ月前からチェックする人はほとんどいないか。。。結果的に、Web2.0的機能があまり役に立たないかもしれない。とすると、お金の無駄になるというリスクも。。。

なかなか問題山積。

導入1年目は目を瞑って、2年目以降は、過去の情報を持ち越す、とかそういうことをすると、少しずつ良くなっていくかもしれない。

それから、有名ラボのポスターには大抵「群」ができるから、そういうエゲツナイ差別化も、実は現実的な選択肢のような気もする。(例えば今回、ブザキ研は一テーマを独占していたので、明示的でないにしろ、そういう差別化は聞くほうとしてもありがたい。)

それから、学会会場のデザインなども工夫次第で参加者の効率性が上がる気がする。これについては、別エントリーとして立てみるかも?です。

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発表

ということで僕の発表について。
今回、APANのポスターは相変わらずお寒くて、2,3回しか発表するチャンスに恵まれなかった。。。

SfNの方は、さすがに朝一はほとんど人が来なかったけども、9時前くらいから継続的に人に来てもらえて、良いフィードバックをもらえた。

今回は日本人にたくさん来ていただいて、「ブログ見てます」と何度も言ってもらいました。わざわざ足を運んでいただきありがとうございました。

と発表はまずまず。

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ナイト・サイエンス

今回、毎晩食事やパーティーに恵まれ、日本人、外人、いろんな人たちと交流をもてて、超充実の学会。外人さんとしてはパーティーでNYUのReyesさんと知り合えた。彼はRIKENにも少しいたそうな。知らなんだ。

日本人のパーティーの場では、このブログをネタに話しかけられたりと、意外とブログは役に立つかも?、と思ったしだい。。。

お話をしていただいた方ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

と、なかなかインテンスな学会だった。(今回は、敬語の使い分けがやけに難しかった。。。)

11/08/2008

多様性が生む効率性

個々のニューロンの活動は非常に多様。例えば、1個のニューロンの活動に注目すると、同じ刺激(例えば光刺激)を繰り返しても、それに対する応答が毎回違う。同じニューロン、同じ刺激なのに。

では次に、1から10の刺激に対する応答を調べたとする。Aというニューロンは2~3という狭い範囲の刺激にしか応答しないのに、Bというニューロンは1~8という広い範囲で刺激に応答したりもする。つまり、個々のニューロンの「守備範囲」も多様。

では、そんな多様な応答をするニューロンたちの情報処理パフォーマンスは、全体としてみてどうか?

多様な方が良いのか、それとも、守備範囲の広さは均一な方が、実はパフォーマンスは良いのか?

Dragoiの研究グループが、そんな問題に取り組んた結果をPNAS報告している。

神経ネットワークのシミュレーションの結果、多様性を増すほど、情報処理の効率性(パフォーマンス)が改善することがわかった。そして、その効率性の改善には、ニューロン同士の活動の協調性が必要ということもわかった。

つまり、ニューロン活動の多様性が増すと、ニューロン同士の協調性が変わり、ひいては全体としての情報処理の効率性が改善することがわかった。

脳においても、多様な要素から成る集団のパフォーマンスは、均一な集団のそれより優れている。

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補足

この研究では、視床(外側膝状体)から一次視覚野の4層までを想定したフィードフォワードネットワークをシミュレーションしている。

論文では図3が重要ポイントの一つで、多様性が増すほど集団のパフォーマンスが上がることを示している。ここで多様性というのは、方位選択性のチューニングカーブ(の広さ)の多様性のことで、実際には皮質内ニューロン集団のコンダクタンス分布のバラツキとしてこの多様性を操作しているようだ。一方、集団のパフォーマンスというのは、神経集団の活動をもとに刺激をどれくらい予測(ディコード)できるかということで、Fisher informationとして定量しているようだ(細かいところは把握してません。。。)。

もう一つ重要なのが図4で、いわゆるnoise correlation(単一試行レベルで見たネットワークレベルの活動の揺らぎ具合、という解釈でだいたいOKか。テクニカルには、同一刺激に対するニューロンペアの活動相関を単一試行レベルで計算する)が、どれくらい効いているか「シャッフリング法」で調べている。

その結果、noise correlationがなくなると、多様性によるパフォーマンスの改善がなくなる、逆に言えば、多様性によってパフォーマンスが増すには、多様性を導入する時に生じるnoise correlationが重要ということがわかった。

さらに、論文のDiscussionで重要な議論を展開していて、「回帰性」回路とフィードフォワード回路の違いについて議論している。これはもう一つ図を増やせるくらい価値のある議論だと思った。(supplementary informationにその図があって要確認)

彼らの主張は、自分が理解した範囲ではこう:
神経回路の特性として回帰性まずありき。ただし、機能的に考えると、回帰性は活動の相関性を大きくする方向に働いて、全体としてのパフォーマンスが落ちる(なぜなら、機能重複が大きくなって冗長性が増す、すなわち情報量が減るから)。そこで、ニューロン間の多様性を導入することで、それを克服している。それが脳なのではないか?
ということ。

これを受けて個人的に思うこと:
なるほど、確かにこの研究・主張は非常に面白い。だけども、「多様性」に(少なくとも)もう一つレベルを追加する、というのがよりリアリスティックな考え方なのではないか?

いずれにせよ、この手の研究は計算論的な優れた研究がいくつか出ているので、実験的にこの問題にアプローチしながら、コンセプトをより改善していく必要があるのではないかと個人的には思われる。

と、新規性そのものは乏しいといえばそういう気もしますが、さすがDragoiという感じで面白かったので紹介してみました。

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参考文献
Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Oct 21;105(42):16344-9. Epub 2008 Oct 14.
Efficient coding in heterogeneous neuronal populations.
Chelaru MI, Dragoi V.

11/07/2008

今年の学会

北米神経科学学会(SfN)のミーティングが来週末15日から。

10のルールを確認しながらポスターつくりに励んでます。。。

今回はラボの発表演題についてまとめてみます。
(要は宣伝です。。。)

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発表の概要

今年のメインの発表は火曜18日午前
ハリス組」として6人並んでポスター発表。

多くの演題の問題意識は、
ミクロレベルの神経細胞たちの振る舞いは、マクロレベルの脳状態にどう左右されるか?
ということ。

景気の大きなうねりの中で、株トレーダーたちは経済イベントに対する行動・戦略をどう変えるか、調べるのに似ている。(全然違うけど。。。)

残りは、日曜午後に2つと、火曜午後に1つ。
すべてポスター発表。

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以下、各演題についてプレビュー。
(直リンクも張っておりますので、itineraryにぜひともご登録を。。。)

火曜日午前 (11月18日、Auditory Cortex III)

566.25/JJ9
Functional network connectivity within rat auditory cortex in vivo
*P. T. CHADDERTON1,2, K. D. HARRIS2,3;

ポールはシリコンプローブ記録とin vivo patchを組み合わせるというテクニカルにタフな実験をやっている。ストーリーもなかなか面白くて、今回一押し。


566.26/JJ10
Control of single neuron activity by sensory stimuli and global network dynamics in auditory cortex
*C. P. CURTO, S. SAKATA, S. MARGUET, K. D. HARRIS;

脳状態のダイナミクスをモデルで記述して、感覚応答の変動性を説明しよう、という話。実験データとモデルを組み合わせた研究。私の名前が入っているのは、実験担当者だったから(といっても、生データ+アルファを提供しただけ。。。)。


566.27/JJ11
Population responses to extended tone stimuli in auditory cortex of awake rats are dominated by global fluctuations
*A. LUCZAK1, P. BARTHO1, K. D. HARRIS1,2;

ラボのエース、アーターは最近始めた新規プロジェクトを話すようだ。


566.28/JJ12
State dependence of laminar processing in the auditory cortex
*S. SAKATA1, K. D. HARRIS1,2;

皮質コラム内のニューロン活動は脳状態にどう影響を受けるか、という問題に、シリコンプローブ記録とjuxtacellular記録、ついでに脳状態をmanipulateするクラシカルな方法を組み合わせてアプローチしてます。

アブストには書いていないデータも話します。
(あくまで宣伝)

ちょっとしたsurpriseもあり??
(あくまで宣伝)

ここだけの話、意識レベルと神経細胞の活動との関係に興味がある人には、一つ問題提起できると思います。
(あくまで宣伝。。。)


566.29/JJ13
The effect of global and attentional state on forward masking in rat auditory cortex
*L. HOLLENDER1, G. H. OTAZU2, A. RENART1, L.-H. TAI2,3, K. D. HARRIS1,4;

こちらも脳状態がらみで、Zador研とのコラボ(と言いながら、トニーさんの名前がない。。。)。
脳状態が違うと聴覚応答(forward maskingが起こる連続刺激に対する応答)がどう違うか調べている。


566.30/JJ14
Auditory cortical activity across desynchronized and synchronized states
*S. L. MARGUET, S. SAKATA, C. CURTO, K. HARRIS;

しつこいくらい脳状態がらみ。
脳状態の違いによって、自発活動と聴覚応答(AMノイズに対する応答)がどのように違うか調べている。こちらも私の実験データを使ってもらっているので名前を入れてもらってます(おいしい)。


以上。
過去、似た研究は散々やられているけども、聴覚野で、しかも神経集団活動として調べている研究、という意味では新規性があるのではないかと思われる。

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日曜日午後

42.21/Q4
The dynamics of pair-wise correlations lead to asynchronous states in recurrent densely-connected balanced cortical networks: I Theory
*A. RENART1, J. DE LA ROCHA2, N. PARGA3, A. REYES2, K. D. HARRIS1,4;

42.22/R1
The dynamics of pair-wise correlations lead to asynchronous states in recurrent densely-connected balanced cortical networks: II numerical analysis and experiments
*J. DE LA ROCHA1, A. RENART3, N. PARGA4, K. D. HARRIS3,2, A. D. REYES1;

アルフォンソ先生と最近ラボメンバーに加わったハイメが、こちらの論文の延長線上?としてやっている理論と実験の話をする。計算論の人にはmust-visitな非常に刺激的な内容かも?

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火曜日午後

689.8/TT54
Organizing plasticity across neuronal networks: the retroaxonal hypothesis
*K. D. HARRIS;

こちらで紹介した仮説。
十八番のアナロジー炸裂か?
(最近は論文で書いているのとは違うアナロジーで話している。)

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この他には、学会直前のAPANという聴覚系のサテライトシンポジウムでもポスター発表。
今年は誰もオーラルに選ばれず残念。。。

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このエントリーを見て、ポスターへ足を運ばれた方、そうでない方も、気軽に声をかけてください。
友達になってください。。。

11/01/2008

Tufted Baldness

アホネタ。

今年のノーベル化学賞のテーマは光るタンパク質だった。
研究現場では、頭がピカピカ光っている(seriously。。。)

では逆に、頭を光らせない研究も大事ではないか?
特に男性には。。。

アンチメタボならぬ、アンチボールド、アンチ脱毛、アンチ・・・

新着のNature Geneticsにそんな最前線の研究が二つ報告されていた。こちらこちら

脱毛症男性のゲノムを、ゲノムワイドで調べていったら、X染色体ではなく、20番染色体の20p11という領域にいきついたらしい。面白い。

毛根といったら良いのかhair follicleの細胞生物学と今回の二つの論文を簡潔に説明したNews and Viewsによると、すでにいくつか候補遺伝子が見つかっているようだ。

なかなか有望である。
(が、僕を含め、このブログを見ている男性陣に間に合うだろうか。。。)

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ところで、素朴な疑問として、脳と脱毛症は関係があるか?

ホントかどうか知らないけど、ストレスによってハゲるとは、よく言う。
もしホントなら脳も一役かってないか?

環境要因による脱毛の問題を(万が一まじめに)考えるなら、まずは内と外の環境要因を分けて考える必要があるか。

「外」は、直接頭皮に作用するケミカルという環境要因。

「内」はさらに少なくとも二つに分ける必要があるかも。
第一に、食事などで外部から体内に取り込んだもの。
第二に、脳が環境情報を処理した結果生じるもの。例えば、ホルモン。そういうホルモンが、頭皮の何らかの遺伝子発現などに作用して、脱毛を引き起こす、というアイデア。

wikipediaを見てみると、脱毛という事実そのものが心理(脳活動)に影響を及ぼす逆の流れのことが書いてあるから、ポジティブフィードバックもあるような気もしないでもない。。。

システムレベルの話になるだけに、なかなか奥が深い。
wikipediaのこちらでは、高カロリーな食事とも関係があるとか。
そうなると、ホントにメタボとリンクしたりといろんな可能性も考えられないか。

ちょっとpubMedでも調べてみたら面白そうな総説があった。

脳と皮膚障害との関係についてまとめている雰囲気。
この総説で扱われている候補分子は脳と皮膚をつなぐインターフェースだから、brain-skin interfaces、BSIだな。。。

なんだか収拾がつかなくなってきたので、この辺で。。。

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参考文献

Nat Genet. 2008 Nov;40(11):1270-1.
Combing the genome for the root cause of baldness.
McLean WH.

Nat Genet. 2008 Nov;40(11):1279-81. Epub 2008 Oct 12.
Susceptibility variants for male-pattern baldness on chromosome 20p11.
Hillmer AM, Brockschmidt FF, Hanneken S, Eigelshoven S, Steffens M, Flaquer A, Herms S, Becker T, Kortüm AK, Nyholt DR, Zhao ZZ, Montgomery GW, Martin NG, Mühleisen TW, Alblas MA, Moebus S, Jöckel KH, Bröcker-Preuss M, Erbel R, Reinartz R, Betz RC, Cichon S, Propping P, Baur MP, Wienker TF, Kruse R, Nöthen MM.

Nat Genet. 2008 Nov;40(11):1282-4. Epub 2008 Oct 12.
Male-pattern baldness susceptibility locus at 20p11.
Richards JB, Yuan X, Geller F, Waterworth D, Bataille V, Glass D, Song K, Waeber G, Vollenweider P, Aben KK, Kiemeney LA, Walters B, Soranzo N, Thorsteinsdottir U, Kong A, Rafnar T, Deloukas P, Sulem P, Stefansson H, Stefansson K, Spector TD, Mooser V.

意識の神経学

最近、The Neurology of Consciousnessという本が届いて、各章の要旨だけ一通り読んでみたので、ここで一度まとめてみます。

neurology(「神経学」という訳が見つかる)、wikipediaによると「神経系の疾患を扱う医学分野」とある。psychiatryなど他の分野との関係もwikipediaで説明(議論)されている。

この本はneurologyというだけあって、医学書的なニュアンスも強い。

昏睡、植物状態をはじめとしたdisorders of consciousness(「意識障害」と訳すことにします)の最新研究がしっかりまとめられている点が特徴的。いわゆるlevel of consciousness(意識レベル)の研究に多くのページが割かれている。

このエントリーでは、まずこの教科書の編集者を紹介した後、全体構成と各章のアウトラインをまとめます。

(またまた超長いです。。。)

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編集者について

この教科書の編集者は、Steven LaureysGiulio Tononi

Laureysは、意識障害患者の脳イメージング研究で多くの業績を残している。この人が関わった最近の有名な研究としては、外からの呼びかけに対して、植物状態の患者さんの脳がしっかり応答した、という。他にも意識障害に関する論文をたくさん出している。

Tononiも一言でまとめるのは難しいけど、実験科学という点では、睡眠の問題を脳活動から遺伝子レベルまで幅広く扱っている第一人者。

理論的な研究に関しては、情報理論にインスパイアされたinformation integration theory of consciousness(integrated information theory of consciousnessとも呼ぶ)という説を展開している。(ちょうどPooneilさんのところでもエントリーが出ています。仮説の概要はわるねこさんのエントリーに詳しい。さらに詳しいことはTononi自身が書いた論文、あるいはこの教科書の最終章でコンセプト的な説明はあります。)

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本の大まかな構成

Preface
Prologue
Section I: Bacis
Section II: Waking, Sleep and Anaesthesia
Section III: Coma and Related Conditions
Section IV: Seizures, Splits, Neglects and Assorted Disorders

この本は4つのセクションから構成されている。

第一節は、意識研究のための現時点での基礎知識、基本概念がトピックとして扱われている。例えば、Singerの神経同期の話、土谷さんとKochによる注意と意識の違いの問題なども扱われている。

第二節は、タイトルの通り、覚醒、睡眠、麻酔という意識レベルの問題、そして夢遊病(sleepwalking)の問題も扱われている。

第三節では、昏睡や植物状態といった様々な意識障害から、BCI(brain-compute interface)による治療の試み、そしてニューロエシックスと意識障害治療との関係についても議論されている。

第四節では、典型的な意識障害ではないけど、neurologyが扱う様々な疾患と意識との関係が中心となっている。その「様々な疾患」とは、例えば、てんかん、分離脳、転換性障害、健忘症、失語症から幽体離脱、臨死体験まで幅広い。

実はこの第四節の最終章に、TononiとLaureysが総括的な章を書いて多くの情報が詰め込まれている(後述)。

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続いて各章について簡単に。

Preface
LaureysとTononiによるこの序文は、事実の重要性を謳ったポアンカレのクオートから始まる。

ニュートンが初めて提唱したとされる客観性と再現性を重んじる科学の方法論の話。ガリレオの計測方法のブレークスルーから、ダーウィンによって明らかにされた進化、それによって生まれた脳の話へ。

そして、ペンフィールドの言った、neurologyとは人類自身の研究だ、というクオートに続いてこの本の主旨が簡単に述べられている。

その主旨とは、意識や壊れた意識に関する神経学的な事実を提供すること。

哲学的な議論とは一線を画し、近年の技術的な進展にともなって可能になった意識研究の科学的な側面を扱う強い意思が述べられている。

最後に、客観性を重んじる方法論では、主観性の問題は永遠に解けないと哲学者は言うかもしれないが、我々は実用主義(pragmatism)的なアプローチをより好み、科学と技術の発展が、究極的には意識の神経的な実体の理解へと導くだろう、と謳っている。

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Prologue

Allan Hobsonがプロローグを寄稿している。堅苦しい教科書というよりは、サイエンスライティング的なプロローグである。

行動心理学の暗黒時代ではブラックボックスであった脳を知ることで、現代の意識研究が花開きつつある、ということを謳っているようだ。

(軽く流します。。。)

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*ここからは基本的にはアブストラクトを読んだだけの情報に基づきます。
(一部の章は部分的にテキストを読みましたが、自分の中での情報は不完全です)

Section I: Basics
この節は6章構成。

1. Consciousness: An Overview of the Phenomenon and of Its Possible Neural Basis
Antonio Damasio and Kasper Meyer
この章では、まず意識の定義について議論している。

三人称と一人称的観点から意識の特徴を説明し、意識の定義を設定している。そして、「今」と「ここ」に関する自身の感覚としてのcore consciousnessと、過去と未来予想に関する自身に関する複雑な感覚としてのextended consciousnessというコンセプトを紹介している。

続いて、その二つの意識を支える神経基盤を、神経解剖学、神経生理学的観点から考察している。さらに、意識障害を含めた神経学的観点からの考察も展開し、cortical midline structures(正中線付近の皮質領域で、特にposteromidial corticesを指している)が、coreとextendedの意識生成に重要ではないかと結論付けているようだ。

2. The Neurological Examination of Consciousness
Hal Blumenfeld
脳死、昏睡、植物状態、最小意識状態といった意識障害について、文字通りneurology的な知識が概説されている。この教科書を読み進めるための予備知識としては必読か。

3. Functional Neuroimaging
Steven Laureys, Melanie Boly and Giulio Tononi
PET、fMRIからいわゆるマルチモーダルイメージングまで、非侵襲的な脳活動計測の方法論についてまとめられている。

4. Consciousness and Neuronal Synchronization
Wolf Singer
脳のいろんな場所で同時多発的に行われている分散的な情報表現を、統合しているのではないかとされる神経同期。そして、その仮説を唱えたSinger。

この章では、意識の神経相関(NCC)を研究するためのモチベーションから、その仮説へ至った経緯、そして、仮説の実験的証拠をまとめているようだ。

5. Neural Correlates of Visual Consciousess
Geraint Rees
視覚刺激が意識にのぼる時とそうでない時の脳活動を比較しながら、視覚的な気づき(visual awareness)の必要十分条件について議論している。ヒトの脳機能イメージングの研究が中心。

6. The Relationship Between Consciousness and Attention
Naotsugu Tsuchiya and Christof Koch
トップダウンの選択的注意と意識は違う。それをサポートする心理物理、脳活動計測の研究がまとめられている。参考情報としてのBoxなども充実していて、今後の課題などもしっかりまとめられている。このテーマの研究戦略、コンセプト、方向性を理解するのに非常に良さそう。

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Section II: Waking, Sleep and Anaesthesia

7. Intrinsic Brain Activity and Consciousness
Marcus E. Raichle and Abraham Z. Snyder
脳機能の見方として2つの視点がある:第一に外因性の脳活動、第二に内因性の脳活動。
エネルギー消費量で見れば、後者の方がはるかに大きいにも関わらず、これまでの研究はあまりまともに取り組んでこなかった。

その内因性の脳活動をfMRIで理解しようとしているRaichleたちが、この分野のバックグランドから比較的最近の知見、そして将来の課題までを簡潔にまとめている。

ちなみに、このテーマに関しては、FoxとRaichleが去年出した総説も非常に包括的な内容でおススメ。

8. Sleep and Dreaming
Giulio Tononi
睡眠ステージ、睡眠サイクルの説明から、各ステージを制御する神経核、そして各ステージ中の自発的神経活動と代謝、感覚応答性についてまとめられている。

さらに、睡眠と意識の関係の議論に入り、夢についてもページが割かれている。そして、白昼夢の話からナルコレプシーといった睡眠関連の疾患まで扱っており、とにかく睡眠に関して、包括的な内容となっているようだ。

9. Sleepwaking (Somnambulism): Dissociation Between ‘Body Sleep’ and ‘Mind Sleep’
Claudio L. Bassetti
夢遊病に関する医学的知見がまとめられている。

10. General Anaesthesia and Consciousness
Michael T. Alkire
麻酔が意識にどう影響を及ぼすか?現時点での理解を、分子から神経細胞集団、神経回路まで幅広くまとめているようだ。

このテーマに関しては、Nicholas P Franksが書いた総説も包括的でおススメ。

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Section III: Coma and Related Conditions
*ここは内容的にヘヴィーです。。。
*私は医者ではない全くの素人なので、読み流してください

11. Coma
G. Bryan Young
昏睡(coma)は覚醒できない無意識状態で、ascending reticular activating system(視床や大脳皮質を「活性化」させる脳幹の神経核群で、覚醒状態の維持に不可欠な場所)の機能障害によって生じる。

この章では、その昏睡の神経基盤、他の意識障害との違い、医療現場での基礎知識、さらには倫理的な問題について簡潔に触れられている。

12. Brain Death
James L. Bernat
脳死は、臨床的な意味での脳機能が不可逆的に停止した状態で、人の死を決める。そんな脳死と死をテーマに、脳死・死の診断基準・診断現場から、宗教・文化的違い、そして臓器提供までの内容を扱っている。

13. The Assessment of Consicous Awareness in the Vegetative State
Adrian M. Owen, Nicholas D. Schiff and Steven Laureys
最近、脳機能イメージングによって見方が大きく変わりつつある植物状態。その研究の最前線にいる著者たちが、自らの研究を含め、技術的な問題点なども指摘しながら今後の方向性を探っている。

14. The Minimally Conscious State: Clinical Features, Pathophysiology and Therapeutic Implications
Joseph T. Giacino and Nicholas D. Schiff
最小意識状態は、自身あるいは環境に対する気づきを行動的に示す点で植物状態とは区別される。他にも植物状態と異なる特徴が多数報告されているようだ。

この章では、その最小意識状態の特徴を説明し、正確な診断・予後のための方法論について議論している。そして後半は、最小意識状態のメカニズムについて、脳イメージングの研究を中心にまとめている。

15. Consicousness in the Locked-in Syndrome
Olivia Gosseries, Marie-Aurelie Bruno, Audrey Vanhaudenhuye, Steven Laureys and Caroline Schnakers
行動的な出力に選択的な障害を負いつつも、基本的な認知機能は保たれているLocked-inシンドローム。そのシンドロームの特徴、診断、予後から、この意識障害になった患者さんのQOLまで議論している。

16. Consicousness and Dementia: How the Brain Loses Its Self
Pietro Pietrini, Eric Salmon and Paolo Nicheli
アルツハイマー病に代表される痴呆。その痴呆の多様性について記述した後、幻覚や妄想と痴呆との関係、そして痴呆で「心」が失われていくことと脳が失われていくこととの関係について考察している。

17. Brain-Computer Interfaces for Communication in Paralysed Patients and Implications for Disorders of Consicousness
Andrea Kubler
主に脳波計測を利用したBrain-Computer Interfaces(BCI)の医療最前線についてまとめられている。対象の患者さんは、ALSから意識障害であるLocked-inシンドロームまで幅が広い。

18. Neuroethics and Disorders of Consciousness: A Pragmatic Approach to Neuropalliative Care
Joseph J. Fins
意識障害の臨床現場で発生する多くの倫理的問題。John Deweyの功績であるところが強いclinical pragmatismという考え方を適応しながら、その倫理的問題に取り組んでいこうとしているようだ。(この分野は完全にノー知識なので、これくらいでご容赦を。。。ツッコミサポートは大歓迎です)

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Section IV: Seizures, Splits, Neglects and Assorted Disorders

19. Epilepsy and Consciousness
Hal Blumenfeld
意識は神経回路の同期的な活動に依存している。けども、その同期が行き過ぎるとてんかん発作になり、意識を失うことにもつながる。

この章では、意識の喪失をともなうabsence seizures、generalized tonic-clonic seizures、temporal lobe complex partial seizuresという3つのてんかん発作について注目している。そして、脳のどこの活動が異常になることで意識が失われるのか、conscious systemというコンセプトを導入しながら考察している。

20. The Left Hemisphere Does Not Miss the Right Hemisphere
Michael S. Gazzaniga and Michael B. Miller
分離脳患者でより顕著になる右脳と左脳の機能分化。Gazzanigaたちの数十年の研究からわかってきた、脳はシステムとしてどう働いていそうか(機能しなくなるか)ということについて、意識という視点から議論を展開している。

誤解を恐れずに書くと、彼らの主張はこう。右脳や左脳に多くのサブシステム的なものがあって、特定のシステム(特に左脳)はそのサブシステムのinterpreter、つまり、サブシステムの情報を統合する存在だ、ということを言っている。

21. Visual Consciousness: An Updated Neurological Tour
Lionel Naccache
一次視覚野の障害で起こるブラインドサイト、視覚的形状失認(visual form agnosia)、視覚性運動失調(optic ataxia)、幻覚と腹側経路との関連、背側経路と関連する無視(neglect)、さらには、配偶者を詐欺師と疑ってしまうように、人、物、場所を誤認してしまうCapgras妄想や分離脳での認知まで。視覚的な意識に異常をきたす症状に注目しながら、著者自身の理論を紹介している。

この章は、こちらの総説のアップデート版とのこと。

22. The Neurophysiology of Self-awareness Disorders in Conversion Hysteria
Patrik Vuilleumier
転換性障害という訳が見つかるConversion hysteria。この疾患は、身体や認知機能に対する気づきに障害が起こることで特徴付けられ、神経系の目だった物理的な障害が認められない、neurologyとpsychiatryの境界に位置づけられる疾患。 心的なトラウマやストレスから引き起こされることもあるらしいが、その詳しいメカニズムは不明らしい。

この章では、その疾患に関わる現時点での仮説を紹介し、脳機能イメージングによってわかってきた知見をまとめているようだ。

23. Leaving Body and Life Behind: Out-of-Body and Near-Death Experience
Olaf Blanke and Sebastian Dieguez
幽体離脱(out-of-body experiences、OBEs)と臨死体験(near-death experiences、NDEs)の現時点での理解がまとめられている。

それらの定義と現象論から、研究でわかってきたメカニズムの候補や現象そのものの多様性まで、200近くに及ぶ文献を参考にしながらまとめ、今後の方向性を議論している。

24. The Hippocampus, Memory, and Consciousness
Brandley R. Postle
HMさんに代表される海馬周辺の内側側頭葉障害・切除による健忘症(medial temporal-lobe (MTL) amnesia)。その健忘症や内側側頭葉と意識的気づきとの関係について議論されている。

25. Syndromes of Transient Amnesia
Chris Butler and Adam Zeman
前章に対して、この章では、transient global amnesia、transient epileptic amnesia、psychogenic amnesiaという一過的な健忘症について、最近の知見がまとめられた後、意識との関係が議論されている。

26. Consciousness and Aphasia
Paolo Nichelli
言語障害の失語症を中心に、心理的なプロセスとの関係が議論されている。キーワードは、anarthria、dynamic aphasia、agrammatism

27. Blindness and Consciousness: New Light from the Dark
Pietro Pietrini, Maurice Ptito and Ron Kupers
この章では、盲目の人から意識や脳の働きという点で学ぶべきことを、動物の研究にも触れながらまとめられている。

28. The Neurology of Consciousness: An Overview
Giulio Tononi and Steven Laureys
この章は一通り読んだので、少し長めに。

この章は、教科書の包括的な内容+アルファとなっている。300近い引用文献をもとにした、重要な情報が詰め込まれていてmust readな章。

この章は、5つのパートから構成されている。
意識と他の脳機能との違い、意識レベルの話、意識の解剖学に、意識の神経生理学、そして、Tononi自身のintegrated information theory of consciousnessを意識理論として解説している。

例えば、意識と他の脳機能との議論は、意識の定義を考えていく上で非常に重要な思考プロセスだと個人的に思ったし、意識の解剖学の部分では、どこを対象にすればどういう問題にアプローチできそうか、なかなかクリアカットにまとめられている。(もちろん、問題山積なテーマもある、という意味では全くクリアではないのだけども。。。)

ただし、TononiとLaureysが分担して書いたと思われるけども、Tononiが書いたと思われる部分に若干のバイアスを感じた。例えば、最後の理論の部分は、他の理論との比較がなく、アンフェアな内容で'overview'とは言えない気がした。

「理論」に関しては、scholarpediaのSethのエントリーがフェアな気がする。


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後記

お疲れ様でした。
(このエントリーを全部読まれた方がいらっしゃったら、お礼として、もれなくSfNでビールおごります。ウソです。。。)

この本には、一般?の神経科学の分野でもホットな話題がふんだんに取り入れられていて、非常に読み応えのある良い教科書の雰囲気である。

一人の著者が多くのトピックについて語るのではなく、各章はその道のプロが書いているから、全体としてバランスがとれている。ただ、章によって、「温度差」が若干ありそうな雰囲気を感じた。バランスはトータルでは取れていそうだけども、各章間の分散が大きい感じである。少なくとも形式・スタイルがまちまち。

このあたりの改善は、第二版以降に期待したい。

以下が私のmust-read portfolio。
レベル1: 1,2,8,19,28
レベル2: 4,5,6,10,16,20,21
レベル3: 7,11,13,14,17,23,25,27
レベル4: 3,9,12,15,18,22,24,26

レベル1がmust-read度が最高。以下に続いている番号は章番号。レベル4は、かなりの確率で読まないであろう章たち。。。

もちろん、これは人に依存する。人によっては、幽体離脱と臨死体験を扱った23章というスーパーセクシーな章がレベル1になるだろうし、睡眠に興味がない人はまたガラッとかわったリストになると思われる。

ちなみに、僕がなぜこの本を買ったかというと、もちろん、「脳状態」がらみ。

多くの神経科学者が脳状態として議論しているのは、この教科書でlevel of consciousnessと言っているのとおそらく等価なはず。例えば、brain-state-dependent xxxと論文で書くのは無難で良いけど、conscious level-dependent xxxと書くととたんに反発しだす人が出てきそう。同じことを議論していそうだからどっちでも良いにもかかわらず。。。個人的には、そういう人の反発を買いそうな言葉を避けつつ、consciousnessのことに真っ向からチャレンジしている研究者コミュニティーにどうアピーリングな研究をするか、という戦略を練りたいと思っていて、その助けになるだろうという期待でこの教科書を買った。とにかく、僕自身の中で、「脳状態」と「意識レベル」の研究文脈とをできるだけ近づけたいという希望がある。

この本をざっと見て抱いた不満と期待。神経細胞、神経ネットワークのレベルが本質的な問題なのに、そのことがほとんど扱われていないということ。神経回路という点では、この教科書、Singerの章こそあれど、片手落ち、あるいは重大な穴が存在している感じが強くした。この教科書は「意識の神経学」としては良いのかもしれないけど、「意識の神経科学(The Neuroscience of Consciousness)」としては、個人的には非常にフラストレーションがたまるし、だから良いとも言える。未開なテーマがたくさん眠っているのではないか、という期待が膨らむから。

そんなやすっぽい考えをうだうだ書くより、とにかく、次のエントリーに向けて読み進めます。。。
改めて、お疲れ様でした。



10/25/2008

神経回路のサブネットワーク

最近、コネクトームやコネクトミクスと呼ばれる研究プロジェクトが何かと話題になる。これは神経系の詳しい回路図を明らかにしようとする究極的なプロジェクト、とでも言ったら良いだろうか。

一方で、従来から行われている電気生理学の方法論で、回路図、あるいは神経回路の「サブネットワーク」を探そうという試みももちろん有効で、こちらは機能的な側面を調べながら研究できるから、神経回路研究に大きく貢献してきた。

その後者について、新着のCurrent Opinion in NeurobiologyにSilberberg総説を書いていた。

彼は、Markram(こちらでも紹介したBlue Brain Projectでも有名)としばらく一緒に仕事をしてきて、昨年のNeuronに良い論文を出している。その論文では、大脳新皮質5層のサブネットワークの機能特性を明らかにしている。(最近、スウェーデンで独立した模様。)

この総説の主旨は、その論文を中心に、周辺情報をまとめようということだと思われる。

今回のエントリーでは、その総説をまとめて、過去に立てた関連エントリーをリンク集としてまとめてみます。

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この総説の構成は以下の通り。

Diversity of GABAergic interneurons
Differential excitation of interneurons
Polysynaptic subcircuits in the neocortex
Functional role
Summary

はじめの2つのパートで予備知識を提供している。続く項目で、彼自身の研究や同時期に発表された重要論文をまとめつつ議論を展開、そして今後の課題・展望を述べている。

この総説は、一言で言えば、
興奮性細胞#1→抑制性細胞→興奮性細胞#2
というサブネットワークのこれまでの理解をまとめている、と言ったら良い。

特に図2に重要な情報がまとめられている。

以下、もう少し詳しく。
(マニアックな内容なので長いです。すみません。。。)
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Diversity of GABAergic interneurons

まずここでは、文字通り、GABA作動性インターニューロンの多様性を簡潔にまとめている。教科書的な内容となっている。

(*以下、「インターニューロン」をGABA作動性ニューロンと等価なものとして呼ぶことにします。GABAを伝達物質として持つニューロンで、基本的には、抑制性の情報を近くのニューロンへ伝えるニューロンのことです。)

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Differential excitation of interneurons

インターニューロンを駆動するには、興奮性入力が必要なわけだけども、その入力がくるシナプス性質が、細胞の種類によって違うことをまとめている。

文献としては、ReyesSakmannのラボから発表したNature Neuroscienceの論文が重要だと思われる。

基本コンセプトとしては、特定のインターニューロンAでは抑圧的なシナプスを持ち、他の特定のインターニューロンBでは増強的なシナプスを持つ、ということ。

前者は入力が立て続けに入ってもその効果は減衰していき、後者は入力が立て続けに入るとどんどん興奮しやすくなる。

その結果として、異なるタイプのインターニューロンは、異なる「time slots」を持つのではないか?ということを議論している。

ちなみに、そのインターニューロンAとは、parvarbuminというタンパク質陽性のインターニューロンで、機能的にはfast-spiking細胞、形態的にはバスケット細胞とも呼ばれる。

インターニューロンBは、somatostatin陽性で、形態的にはマルティノッティ(Martinotti)細胞と呼ばれる。

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Polysynaptic subcircuits in the neocortex

ここから「サブネットワーク」の話になる。

ここでのサブネットワークというのは、
錐体細胞#1→インターニューロン→錐体細胞#2
という回路。

2つ以上のシナプスを経由するから、「ポリシナプス性」の回路と呼ぶ。
そんなポリシナプス性サブネットワークを明らかにした重要論文が、ここ数年で立て続けに発表されている。

4つのグループが重要な論文を発表している。

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まず名大の小松由紀夫先生たちのグループがサイエンスに発表された研究がその一つ。

その研究では、マウスの視覚野(2/3層)では、興奮性の錐体細胞の出力信号が、インターニューロンを経由するけども直接ドライブせずに、他の錐体細胞へ抑制性信号を速く伝えることがある、という驚くべきことを報告している。

可能性として、錐体細胞#1の出力がインターニューロンの軸索(終末?)だけに作用して、抑制性の出力を錐体細胞#2に伝えているのではないかと考えられている。

つまり、
錐体細胞#1→インターニューロンの軸索→錐体細胞#2
というサブネットワーク。

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2つ目は、先日のエントリーでも少しだけ紹介したTamasたちのグループの

axo-axonic細胞(あるいはシャンデリア細胞)が興奮性の信号を伝えることができる、というこれまた驚くべき話。

錐体細胞#1→シャンデリア細胞→錐体細胞#2
というサブネットワークで、錐体細胞#2のinitial segmentの分極具合によって、シャンデリア細胞からの信号が興奮性になったり、抑制性になったりする。

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3つ目は、Silberberg自身の研究

5層で、
錐体細胞#1→fast-spiking細胞→錐体細胞#2
錐体細胞#1→マルチノッティ細胞→錐体細胞#2
というサブネットワークを報告している。(後者が論文でのメインストーリー)

上で述べたように、二つのインターニューロンは違うシナプス特性を持っているから、錐体細胞#1が立て続けに興奮する「バースト(burst)」を起こすと、後者のサブネットワークが駆動されることになる。そのことを電気生理と組織学的なデータから示した。

本文では、後者のサブネットワークを「バースト検出器(burst detectors)」と呼んでいる。

ちなみに、前者のサブネットワークは、可能性として、錐体細胞#1が少し休んでまた活動し始めたその瞬間に駆動されそうだから、同期検出器(coincidence detector)とSilberbergは呼んでいる。

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4つ目は、Scanianiのグループからの研究で、そのバースト検出器的なサブネットワークが2/3層にも存在すると、Silberbergたちとほぼ同時期に報告している。

こちらは、電気生理と理論的なデータから、比較的少ない錐体細胞集団の活動で、大きな抑制性信号を生み出せそうだ、ということを主張している。

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ちなみに、似た回路について、海馬の、それから視床から大脳新皮質への入力部分のも取上げている。

特に後者に関しては、SilberbergやKapferたちの言うサブネットワークは、新皮質内部の回帰性回路だけではなく、いわゆるフィードフォワード回路の中にもそういう要素があるということにつながる。

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Functional role

ここでは、上の節で述べたサブネットワークの機能的側面を包括的に議論している。

ここでは、サブネットワークを2つのカテゴリーに分けている。

slow subcircuitsfast subcircuits

前者は、マルティノッティ細胞(広い意味でsomatostatin陽性細胞という理解が正しいです)が絡むサブネットワーク。

後者は、主にバスケット細胞とaxo-axonic細胞が絡むサブネットワーク。

前者は、錐体細胞#1がバースト起こして、その途中から駆動される「バースト検出器」なので、スロー、ということになる。

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スローな回路で、インターニューロンの軸索は、樹状突起で細胞体周辺ではないところに投射している。

そういう解剖学的な観点から、活動電位発生にともなって錐体細胞内で生じるカルシウムスパイクを効果的に制御する役割もあるのではないか、という可能性も議論している。(これは面白い)

さらに、そのスローな回路はフィードバックなのか、それともフィードフォワードなのか?ということも議論している。

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Summary

まとめということで、ここまでの議論をまず簡潔にまとめている。

そして、インターニューロンは多様だから、明らかになってきたslow subcircuitsとfast subcircuitsは、もしかしたらポリシナプス性回路の両極的な特性をとらえているのかもしれない、と言っている。

そして後半、今後の課題・展望を述べている。

課題として以下の点を挙げている。

・発生中、この回路はどう変化(形成)していくのか?
・違う皮質領野でのサブネットワークの特性は何か?
・生理的条件で、これらのサブネットワークはどう駆動されるか?
・これらのサブネットワークは、異なる視床からの入力とどのように相互作用するのか?(例えば、1層に入力する視床からの入力を言っているのか??)
・異なるサブネットワークでは、どんな可塑性のルールに従っているのか?

これらの問題に、従来の方法論に、光学や遺伝学的、そして計算論的方法を組み合わせながら、答えていく必要がある、と言っている。

最後に、ここで紹介したサブネットワークは、大脳新皮質の局所回路を調べていくための重要な「ツール」になるだろうと謳って締めくくっている。


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個人的なコメント

ここ最近わかってきたサブネットワークのことがまとめられた良い総説だと思った。読みやすい。

Silberbergの挙げた課題を、彼が指摘していない問題点も含めてまとめなおすと、時間軸と空間軸の問題としてとらえると良いか?

まず、時間軸。
・短期(脳状態)
・短~中期(可塑性)
・発生
・老化
・進化(種間の差)

そして空間軸。
・層の差
・領野差
・他領域(視床や前脳基底部など)との相互作用

一応、それぞれの軸は、スケールアップするようにソートしてみた。

具体的な疑問としては、やはり生理的な条件下では?ということ。これは成体での研究と計算論が非常に重要になると思う。例えば、Silberbergたちの報告したサブネットワーク。錐体細胞#1が発火し続けている文脈ではどう駆動されているのか?といった素朴な疑問。

それから、基本的には単一の皮質コラム内の話と思ってそう外れていないだろうから、所詮(!)、Blue Brain Project的な回路でしかない。けど、実際の脳では複数のコラム間の相互作用もある。さらに、視床を含めた皮質下の領域との相互作用もある。(さらに、グリアも?血流も?)

そういう点では、まだまだ理解していかないといけないことはたくさんある(はず)。

一方で、重要なエッセンスはわかってきている期待もあるから、Blue Brain Projectなどから、どういう予想が出てくるのか、というのも面白いだろうし、分子遺伝学を絡めた、生体内で回路をdissectしていく方向はさらに重要なテーマになるのだろう。

こういうことがわかっていかないと、例えば、外界の情報が入った時に単一ニューロンがxxxxという振る舞いをする、というそのメカニズムがわからないだろうし、そのxxxxが他のニューロンにどうやって情報を伝えながら脳が全体として情報を処理(伝播)していって、行動アウトプットをするのか(要は機能)がわかったことにはならない(という立場を私はとってます)。

単一ニューロンの活動から脳機能を知るこれまでの研究がブラックボックスにしてきたことを、こういう方向からの研究が明らかにしてくれるのではないか、という期待がある。(ある意味、行動心理学的な暗黒時代が明けつつあるという認識、それは言い過ぎか??)

だから、こういう局所回路の研究はムチャクチャ大事、と討ち死に覚悟で人生をかけて頑張ってます。。。

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紹介した論文
Curr Opin Neurobiol. 2008 Sep 17. [Epub ahead of print]
Polysynaptic subcircuits in the neocortex: spatial and temporal diversity.
Silberberg G.

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過去エントリーのアーカイブ(いつかやろうと思っていた企画!)

Livedoor版アーカイブ

<皮質コラム関連>
皮質の解剖と機能
皮質コラムレベルの総説
新皮質における回帰性回路
DouglasとMartinのミニ総説
感覚野の層と機能~Gilbert, Ann. Rev. Neurosci. 1983~

<Brechtたちの研究>
感覚野の層と機能~4層 Brecht and Sakmann, JP 2002~
感覚野の層と機能~2/3層 Brecht, Roth, and Sakmann, JP 2003
感覚野の層と機能~5層Manns, Sakmann and Brecht JP 2004~

<Hirschたちの研究>
感覚野の層と機能~Hirsch JA, et al, 1998 JNS~
感覚野の層と機能~Martinez, et al. JP 2002~
感覚野の層と機能~Hirsch et al. JP 2002~
感覚野の層と機能~Hirsch et al. Nat Neurosci 2003~
感覚野の層と機能~Martinez et al. Nat Neurosci 2005~

<2/3層中心>
感覚野の層と機能~2/3層への入力特異性~
2/3層への興奮性入力について調べた研究プラスアルファ
スパースな興奮性活動による大抑制
上で紹介したKapferらの研究の解説

<視床から主に4層>
感覚情報を伝える回路のでき方
感覚情報を伝える回路の時間精度とそのカラクリ

視床から皮質、皮質内のネットワーク

<5層プラスアルファ>
細胞種の分類~McCormick et al. 1985~
5層というわけではないけど、以下の論文の基礎なのでこのカテゴリーに。
5層錐体細胞の分類~Chagnac-Amitai, et al., JCN 1990~

5層錐体細胞の分類~Mason&Larkman JNS 1990~
5層錐体細胞の分類~Larkman&Mason JNS 1990

暴走を抑えるネットワークモチーフ
SilberbergのNeuron論文。
持続活動を生み出すサブネットワーク
ノード特性とサブネットワーク
後半、2/3層と5層の結合について調べた話あり。

5層錐体細胞とオシレーション~Silva et al. Science 1991~

5層錐体細胞の遺伝子発現
多様性ネタ、ランダム変数、ポスター、開幕


<6層>
6層ニューロンの多様性


<抑制性ニューロン関連>
長距離の抑制結合、バカです
長距離の抑制結合 其の弐、by chance
長距離の抑制結合 其の参、ガンマに21世紀社会学
長距離の抑制結合~Apergis-Schoute et al., JNS 2007~
*一部のエントリーで、関係ないことも書いてますが、気にせず。。。

<可塑性関連>
感覚野の層と機能~層で違う学習能力 Diamond et al, Science 1994~
感覚野の層と機能~Ringach et al., Nature 1997~
感覚野の層と機能~Goel and Lee, JNS 2007~

マウス視覚野2/3層での可塑性

<その他>
覚醒中の膜電位と感覚応答
軸策間のギャップ結合
海馬CA2の抑制性細胞
ヒトの脳内ネットワークをグーグル的に調べつくすには?



Blogger版アーカイブ

<抑制性細胞>
個性豊かな抑制性ニューロンのルーツを探る:パート1パート2パート3
皮質GABA作動性ニューロンの多様性を語るために
シャンデリア細胞研究年表

<局所回路一般>
コネクトーム
ブレインボーでコネクトーム
第一期 青脳計画

<その他>
アセチルコリンとネットワーク

チリも積もれば山となる。。。
ここまで読まれた方、ありがとうございました。

update(3/10):
この分野を学ぶ場合、以下の本はよくまとまっていると思います。

10/24/2008

意識の定義は必要!?

新着のネイチャーに面白い記事が掲載されていた。
言葉の定義そのものが論争になっているいくつかのトピックが紹介されている。

paradigm shift

epigenetic

complexity

race

tipping point

stem cell

significant

そして
consciousness

(*リンクはすべてwikipedia)

意識の項目、訳がわからないといえば訳がわからないけども、EdelmanChalmersKochGazzanigaのコメントや主張も紹介されている。

Gazzaniga先生曰く

You don’t waste your time defining the thing. You just go out there and study it.

定義することに時間を浪費するな。そこからすぐに出て、研究せよ。
と。

人と議論するための最低限の定義を考えるくらいで十分で、その後はとにかく探求あるのみ、ということなのだろう。

10/18/2008

言葉の中の心理

気楽に。。。

ニューヨークタイムズ紙にテキサス大の心理学者Pennebaker研究紹介されていた。

この人は今、ある人が発する言葉とその人の感情との関係を調べているらしい
言葉の分析方法はシンプルで、カテゴリーに分けた単語をどれくらいの頻度使ったか数えるだけ。

例えば、オサマ・ビン・ラディンザワヒリの言葉の共通点と相違点を調べて、彼らの心理を分析した最近の研究が記事で紹介されている。


さらにこの人、その分析用プログラムを販売していたり、ブログまでやっている。

例えば、最新のエントリーでは、オバマさんとマケイン(あえて呼び捨て)のディベートの分析結果をネタにしている。そのまま論文のネタになりそうな、かなりハイデフィニションなエントリーである。

が、傾向は、前回、前々回のディベートと同じだったらしい。。。(やっぱり。。。)

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思うに、この人の研究は、
感情→言葉
という流れがあるとしたら、その逆問題を解こう、ディコーディングしようという発想と表面的にはとらえられなくもない。

が、事情はそう単純ではなさそう。

というのはこの人、逆の、書く・話すことで精神面の改善も見られる、ということも謳っている

愚痴を言うと気が晴れる、と言う人がいる事実が如実に物語っているか。。。

とにかく、彼のホームページのこちらで、そのアドバイスがある。
案外、ブログを続けるのは精神衛生上良いのかもしれない。。。


実験的に成り立つかわからないけど、自由に文章をタイプしてもらっている時の脳活動をMRIなどで測り続け、その文章の統計情報と脳活動との関係、その関係の時間的変化を見ていくのは面白いかも?と思った。

Pennebakerさんのこれまでの研究を脳活動として検証するという意味でも面白そう。

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参考情報

MIND HACKSでもエントリーあり。

ちなみに、Pennebackerさんの他の研究として、昨年サイエンスに発表した「女性はおしゃべり」は正しくない、という研究もある。

GYさんのクオリア

ブラインドサイトのGYさんのクオリアを調べた(尋ねた)Persaudたちの論文がConsciousness and Cognitionに掲載されていた。

クオリアの定義(以下の参考情報参照)をGYさんに知ってもらって、クオリアを感じるか尋ねたところ、(障害を負っている視野では)感じないとGYさんは答えたそうだ。

研究のポイントは、研究者たちがGYさんのクオリアについてああでもないこうでもないと議論するのではなく、GYさん自身にその定義を知ってもらった上で、クオリア体験の主観的レポートをしてもらったことか。

ちなみに、Resultsの大部分が、PersaudとGYさんの会話から構成されている。実験条件下でのクオリアについて尋ねたやり取りが興味深い。

一旦、あるのかないのか、曖昧な回答をしたにもかかわらず、最終的には否定的な答えをしている。
その最初の回答がなんだったのか、非常に気になる。


参考情報
Conscious Cogn. 2008 Sep;17(3):1046-9. Epub 2007 Dec 11.
Direct assessment of qualia in a blindsight participant.
Persaud N, Lau H.

今回の研究で、クオリアの定義としてGYさんに読んでもらった4つの文献・情報源
1.The Oxford Companion to the Mind

2.The Standord Encyclopedia of Philosophy

3.
Philosophical Quarterly. 1982 32:127–136.
Epiphenomenal qualia.
F. Jackson
PDF本の章

4.
Consciousness explained. 1991
D. Dennett
wikipediaでの紹介

ついでとしてwikipediaのエントリーも。

*実はこのエントリー、先週原稿だけ用意してボツにしたんですが、pooneilさんこと吉田さんたちの研究が新着のJournal of Neuroscienceに発表されたということで、それにあわせてアップすることにしました。(pooneilさん、おめでとうございます!)

その研究の詳細は生理学研究所のサイトで非常にわかりやすくまとめられています

10/11/2008

感覚統合と神経コード

EngelSingerFriesたちは、ニューロン集団の同期活動によって情報が統合される(結び付けられる)という、integration through coherenceという仮説(あるいはtemporal correlation/binding hypothesis)を唱え、それをサポートする実験的証拠を次々と報告してきた(総説としてはこちらがお薦め)。

最近、EngelのグループがTrends in Neuroscienceに出した総説では、視覚と聴覚といった異なる感覚の統合、つまり異種感覚統合(crossmodal integration)にも、そのintegration through coherenceの説を拡張しようとしている。


その総説ではまず、ヒトや動物での異種感覚統合のこれまでの研究の流れを簡単にまとめている。
そして、彼らの主張を展開した上で、大きく4つのカテゴリーとして研究を分けながら、彼らの主張をサポートしそうな研究を包括的にまとめている。

その総説中のTable1が神経オシレーションと感覚統合の関係を示したこれまでの研究のまとめ。よくまとまっている。

彼らも言っているように、動物での実験証拠が非常に少ない(Lakatos、Schroederのグループ、Ghazanfar、Logothetisたちがパイオニア)。

最後に、outstanding questionsとして、8つの問題を提起している。一部はヒトでしかアプローチできなさそうな問題だったり、感覚統合でなくても良いより広い意味で大きな問題であったりする。

彼らの主張したいことは非常にわかる。
が、読んだ感じ、感覚統合独自の問題は何なのか?もう一つしっかり伝わってこなかったのは正直否めない。別に視覚系の研究だけで十分で、ただでさえ複雑な問題に、わざわざ変数を増やしてきて、より込入った問題にする必要はない、と批判を受けるような気もしないでもない。

感覚統合の問題に取り組むからこそ脳の働きの本質が見えてくるんだ、的なことがわかってこないといけない気がする。それが何なのか、あるかどうかもよくわからないけれども。。。

それから、依然相関現象を追っているだけで、そこを超えないと彼らの主張は飛躍できない気がする。まだまだ課題は山積。

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文献
Trends Neurosci. 2008 Aug;31(8):401-9. Epub 2008 Jul 2.
Crossmodal binding through neural coherence: implications for multisensory processing.
Senkowski D, Schneider TR, Foxe JJ, Engel AK.

生物学者のためのデータ解析入門?:Nature BiotechnologyのPrimer集

Nature BiotechnologyPrimerという企画コーナーがあって、いろんなデータ解析手法が紹介されている。

バイオインフォマティックスに興味がある読者を対象にした内容ではあるけれど、例えば神経科学でニューロン活動の解析をする人たちも、同じ手法を使っていたりする。

「よう知らんけど名前くらいは聞いたことある」
「周りはみんな知ってそうだけど、いまさら知らんとはよう言わん」
「解析プログラムがあるから使ってるけど、実は原理的なこと知らんぞ」
といった手法の概要を知ることができて、このコーナーでこっそり勉強できる。

とにかく、このコーナーは役に立っているので、今回のエントリーでは、過去のPrimerへのリンク集を順不同で作ってみます。(関係なさそうな記事は省きました。)

principle component analysis
(wikipedia)

clustering (wikipedia)

expectation maximization algorithm (wikipedia)

support vector machine (wikipedia)

artificial neural network (wikipedia)

hidden Markov model (wikipedia)

decision tree (wikipedia)

Bayesian statistics (wikipedia)

Bayesian network inference (wikipedia)

dynamic programming (wikipedia)


関連情報
このあたりの情報をもっともっとしっかり勉強したい場合は、BishopさんのPattern Recognition and Machine Learningがベストか?




訳本あり。






matlabのfunctionも、ググれば大抵ひっかかるようです。
こちらこちらなどなど。

10/04/2008

シャンデリア細胞研究年表

PLoS BiologyにYusteたちシャンデリア細胞こんな形)に関するすばらしい解説記事を書いていた。その中で紹介されていた重要論文たちを備忘録としてまとめるついでに、シャンデリア細胞の研究年表を作ってみる。(この解説記事に基づいているので、文献そのもの、他の重要文献には当たっていないです。。。←手抜き)

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1974年
SzentagothaiとArbibが、シャンデリア細胞を発見

1975年
Jonesもほぼ同時期に報告
Szentagothaiは、シャンデリア細胞の軸索が錐体細胞の樹状突起(特に尖端樹状突起)にシナプス形成していると推測

1977年
Szentagothaiの弟子であるSomogyiは、師匠の考えは間違いで、実は錐体細胞の軸索(具体的にはそのinitial segment)にシナプス形成していることを電顕で示す

師匠に気を使ったのかよく知らないけど、Somogyiはシャンデリア細胞ではなく、axo-axonic細胞(軸索―軸索細胞?)と呼ぶ。

1980年代
Somogyiの発見が他の種でも確認され(Fairen & Valverde, JCN 1980; DeFelipe et al, JCN 1985)、axo-axonic細胞はシャンデリア細胞と同じだと提唱される(現在も、二つの言葉は等価なものとして使われている)。

90代~00年代前半
シャンデリア細胞の電気生理的な特性(つまり機能)を、in vitroBuhl et al, JNP 1994; Tamas & Szabadies, Cereb Cortex 2004)とin vivo (Klausberger et al, Nature 2003; Zhu et al, JNS 2004)で調べた研究が報告される。

2006年
げっ歯類とヒトの脳のサンプルを使った実験から、Tamasたち(Somogyiの弟子)がネットワーク内での役割を明らかにしサイエンスに報告する。そこで、他のGABA作動性ニューロンと違って、シャンデリア細胞は抑制性だけでなく、興奮性の信号も伝えることができると、提唱。(これに関してはまだ信じていない人もいる)

2008年
Tamasたちの説をさらに裏付ける分子基盤の研究が報告される(Khirug et al JNS 2008)。

ごく最近、Tamasのグループ(Molnar et al PLoS Biol 2008)は、シャンデリア細胞のネットワーク内での役割をヒト脳のスライス実験によって明らかにする(大雑把ですが)。


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後記

Yusteたちの解説は、基本的には同じ号に掲載されたMolnarたちの論文の解説記事。だけども、神経科学という大きな文脈の中での位置づけを見事にしていて、すばらしい記事だと思った。シャンデリア細胞という一つの細胞種を超えて、局所回路の動作原理や進化などに興味がある人のツボを刺激するのではないかと思う。ついでに、Molnarたちの論文の図2をもとに、synfire chain関連の議論も展開している。

それから、そういう書き方をしているのだろうけども(Yusteマジック?)、この記事を読むと、Cajal、Lorente de No、Szentagothai、Somogyi、そしてTamasと、「局所回路研究遺伝子」ともいえるものが脈々と受け継がれているのだなぁ、とわかって面白い。

ところで、来週はノーベル賞が発表される。今年はどんな研究遺伝子の生みの親が受賞するのか?

9/27/2008

心脳インターフェース

少し前、「リアルタイムfMRIの応用」というタイトルでdeCharmsがNature Review Neuroscienceに総説(正確にはopinion)を書いていた。

自分のようなMRIのプロでない人にとっても、非常に読みやすく書かれていてお薦め。

リアルタイムfMRIは、自分自身の脳活動を覗いてしまうことを目指したfMRI、と言ったら良いのだろうか。wikipediaにもすでにエントリーがたっていた。
(ただ、この総説を読むと、自分が思っていたよりもその定義の範囲は広い印象を受けた。もしこの総説にあることをすべて含めるなら「リアルタイム」という言葉はやや誤解を生む言葉だな、という気もした。fMRI2.0くらいか?)

この総説では、fMRIの原理といった技術的な基本から限界がまず解説されている。続いて、ここ数年注目を浴びてきたパターン認識の手法を応用した脳活動の解読、ウソ発見器開発状況の未成熟さ、そして、いわゆるブレーン・コンピューター・インターフェースへの応用例などが豊富な引用文献とともにまとめられている。

後半からがリアルタイムfMRIの真髄ではないかと自分が思っている話、つまり、自分の客観的な脳活動を主観的に体験して、自分の脳活動あるいは感覚を変えよう、という試みが紹介されている。

この主観と客観のインターフェースとしての役割をリアルタイムfMRIが果たすかもしれないから、deCharmsはmind-brain interface(心脳インターフェース)という言葉を使っているのだろう。

終盤は、それを医療目的に応用する試みについてもいくつか紹介され、倫理的な問題も考慮に入れながら、現在抱えている問題を克服していけば、自分自身の心と脳の中をこれまで以上に覗くことができるようになるのではないかと締めくくっている。

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感想
「心脳インターフェース」という言葉、自分はこの総説で初めて聞いたけど、魅力的な言葉。主観と客観が相互作用したら、人の脳活動、体験がどう変わっていくのか、非常に面白そう。deCharmsは冒頭でintroneuroimagingという言葉も使っている。内観の21世紀版、ということになる。

けど、この総説でも書かれているように技術的な限界もある。空間解像度、時間解像度。ともに、ニューロン活動ではなく、血流の変化を測るという根本的なところだから、その点はどう頑張ってもムリがでるわけだ。トリッキーなアルゴリズムで血流情報から神経活動を取り出せる気は少なくとも自分にはしない。
(ローカルな部分だけに注目してモデルを立てるといったことはひょっとしたら有効かもしれないけど、グリアも含めた細胞構築、血管配線などの複雑さ+脳状態に依存した神経活動の複雑さを考えると、相当にハードな気が。。。)

deCharmsは、その技術的な限界に対して反論してはいる。けど、もとの信号がなまっていると、それ以上細かい情報を見たくなっても見れないわけで、楽観的にとらえると、痛い目にあうような気もする。根本的な部分を見直すホントのfMRI2.0ができるのがベストなのだろうけど、そのあたりはやはりまだ難しいのだろうか。

それはともかく、これまでのfMRIの貢献度はとんでもなく大きいから、この新しいfMRIでどんな不可能だったことが可能になるのか、注目だ。

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文献と関連情報
Nat Rev Neurosci. 2008 Sep;9(9):720-9.
Applications of real-time fMRI.
Christopher Decharms R.
vikingさんのブログでも今回の総説がheadlineとして紹介されていました。

Omneuron
deCharmsがいる研究所?
このサイトのこちらで彼が一般の人たちに熱く語ってたりします。


関連エントリー
自分の脳活動を覗いてコントロールする:リアルタイムfMRI

9/20/2008

frantic week

この一週間にチェックしておけば飲込みが良くなっていたかもしれない情報たち。

パニック
パニック時の集団行動をシミュレーションするという研究(PDF)が、ちょうど8年前ネイチャーに発表されている。その研究者たちのウェブページには、いろんなパニック関連情報がある。


恐怖(fear)と消去(extinction
水曜日Quirkさんプエルトリコから来て、この週しかないと思えるようなタイミングで、恐怖と消去についてトークしてくれた。包括的な内容で、非常にわかりやすく、すばらしいトークだった。えらく勉強になった。

ちなみに、消去。
文字通り恐怖の記憶が消え去る、のではなく、むしろ、もう大丈夫なんだと学習すること、と理解した方が良いか。恐怖体験を受け入れる、といったことに近いのだろう。

これが機能するからPTSDに悩まされず済むのだろうけども、その反面、こういうことが脳で起こるから、リスクを再び繰り返すことにもつながる気もする。。。バランスが難しい。

アディクション
金融中毒とか投資中毒といった病気はあるのだろうか?
いわゆるヤク中、アル中といった中毒・依存症(addiction)の神経生物学的研究に関する総説特集が、Philosophical Transactions of The Royal Society B Biological Scienceという長い名前の雑誌で組まれていた。

その目次を見てみると、gambling addictionという言葉が見つかった。。。これは金融中毒に近いのだろうか。。。


数字の感覚
ビリオンとかトリオンとかいう桁になると、もはや(線形的な感覚という意味での)直感が働かなくなって、1Bドルも100Bドルもそう変わらないような錯覚に陥る。じゃんじゃん公的資金を使ってちょーだい、と思う。けど、実際二桁も違う。

同じ二桁の違いとして、1セントと1ドルの違い、100ドルと10000ドルの違い、その両者はえらく違う(ように感じる)。

Aさんには10000ドルも給料払って、自分には100ドルしかくれなかったら怒る。
けど、自分は1セント拾って、Aさんは1ドル拾っても、そんなに悔しくはない。

その差額は、桁(対数的)の問題ではなく、9900ドルか99セントという歴然とした(線形的な)違いとして認識できるから。

そんな数字感覚をアマゾンの原住民と西洋人を比較して、数字の感覚が線形的だったり対数的だったりするのは生得か、教育によって獲得したものか調べた研究が数ヶ月前サイエンスに発表されている。

結論は、何も知らないと対数的、だけど教育によって線形的な感覚が身についたのでは、ということのようだ。

とすると、ビルゲーツなどのビリオネアとポスドクを比較しても、本質的に同じ結論を導き出せる気もする。。。

9/19/2008

第一期 青脳計画

Blue Brain Project

IBMのスパコンを使って、大脳皮質のコラム構造(cortical column)をできるだけ詳細・忠実に再現して、何が起こるか、何を予測できるか調べる壮大な計画、とでも言ったら良いだろうか。

その進捗をMarkramトークした模様。
複数のブログ経由で知った(ブログ)。
トーク映像は編集も悪くなくストレスレスで、ほぼ会場で聴くような感じで見れます。)


あるブログに39分あたりから面白いとあったので、30分あたりから見始めた。

どういうストラテジーでバーチャルコラムを作っているか話し、スライス実験でわかったことが実際に見れるといった検算的なデータを少し紹介。その後に、ムービーを交えたシミュレーション結果を話している。

ガンマオシレーションが出たけど、意識はないやろ?とか、仮説なしで研究してるからNIHグラントはもらえん、といった毒ともとれる発言もあり。

ムービーが重すぎたのか、途中、マックがトラぶったりもする。。。

質疑応答中、Markramの将来ビジョン、理論家と実験家のウケの違いなどのコメントもある。

なかなか面白い。

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個人的感想:

ムービーの第一印象、自分のイメージと少し(かなり)違った。。。
当たり前か。。。(良い意味でも悪い意味でも。。。)

いろんなタイプのウェーブも出ていて、例えウソでも面白い。
いろんな処理ができそう。
けど、これを実験的に示そうと思ったとして、今できるだろうか。。。

ちなみに、今後、グリアと血管も組み込むそうで、究極のボトムアップ的な計算論的アプローチになるようだ。とりあえず、こういうのはどんどん進めて欲しい。

特に神経コードの深い理解に役立つ気がする。
ノイズ」とは何ぞや?
ニューロンAが、X回、あるいはいついつスパイクを出すのは、コラムレベルでどんなことが起こったとき?
何を、どこから、どのように、実験的に測るのが、全体を知るのに良さそう?
外部刺激は自発活動とどう絡み合う
といったことに見通しを立ててくれるとうれしい。

そのうち、LHCみたいに莫大なお金を投じて、世界(宇宙?)一の巨大研究施設を作って、全脳を完璧に再現してやれ、みたいな話に発展するのだろうか。。。

ブラックホールができる!とか言う人が出てくるくらいだから、ターミネーターが人類を滅ぼす!とか言ってマスコミを騒がす人も現れるだろう。。。

それはそれで(ターミネーター出現ではなく、LHC的施設のこと)エキサイティングだけど、一研究者としては何となく淋しい気もする。。。そうでもしないと脳はやっぱりわからんのか。。。という感じがしそうだし。

とにかく、第一期の集大成論文はまだ出ていないと理解しているから、その論文と、第二期の成果に注目。

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その他の関連情報など

Nat Rev Neurosci. 2006 Feb;7(2):153-60.
The blue brain project.
Markram H.
Blue Brain Projectの概要についてMarkramが神経科学コミュニティーに説明している。

ちなみに、これに似たプロジェクトはいくつか走っているようで、そのうち一つが、以前紹介したプロジェクト

こういう分野をBrainomicsとでも呼んでおこう。

9/07/2008

ニューロクリミノロジー

ニューロクリミノロジー(neurocriminology)。

神経犯罪学と訳したら良いか。googleでneurocriminologyを検索するといくつかサイトがひっかかる。ここでは、犯罪に結びつく行動の神経基盤を研究する学問分野で、神経科学と犯罪学の融合分野、としておく。

以下に登場するサイコパシー(psychopathy)に限らず、暴力に結びつくいわゆる「キレやすい脳」を調べたり、モラルの神経基盤を調べる研究も含め、広い意味で、反社会的な行動の神経基盤を調べる研究なら、神経犯罪学の範疇に入るかもしれない。社会性行動の神経基盤を調べる分野の「ダークサイド」もしくはミラーと考えても良いかもしれない。

神経犯罪学ではなく、ひょっとしたら他にふさわしい名称がすでにあるのかもしれないが、自分はよく知らない。

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新着のサイエンスに、サイコパシーの人たち(サイコパス)の脳をMRIで調べているKent Kiehlという人の記事があって、少し考えさせられた。

サイコパシー、正確に定義するのが難しいけど、暴力といった非倫理的・反社会的な行動を常習的に繰り返す病的状態と考えたら良いだろうか。共感・同情する能力が欠如し、感情の起伏がなく、犯罪行為を悪いとも思わない、そういう病的状態といえば、それほど的外れではないとは思う。

そのサイエンスの記事にポドキャストがあって、それによると、サイコパスは囚人の20-25%、全人口の1%とも考えられているらしい。もしホントに1%なら、統合失調症と同じ割合になる。

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さて、その記事は出だしからR-18な刺激的な内容ではある。Kiehlさんが研究したサイコパスの犯罪例で始まる。

そのKiehlさんは、サイコパシーのことが子供の頃から気になっていたそうで、その脳を知りたい、というモチベーションで研究している。そのために、トレーラーで運べるMRI装置を作って、州政府に許可を得ては実際に刑務所に行って、囚人たちにPCL-Rというサイコパシーの診断テストをしては、脳をスキャンしたりと、すごい行動力。

彼によると、サイコパスの脳は、側頭葉と前頭葉の中の”paralimbic”領域のネットワークに異常があるとにらんでいるらしい。その結果、情動、注意、意思決定といった認知機能に異常があると。(この文献からそのアイデアを詳しく知れそう。)

思うに、脳の構造と機能をマクロレベルで調べる研究に加えて、ゲノムレベルでサイコパシーの原因遺伝子などを調べる研究もこれから出てくるのだろう。記事にも、囚人のDNAサンプルを採取といった記述もあった。

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と、ここまでは純粋な神経科学ととらえても良い。けど、研究成果の応用は慎重な議論が必要だな、と思った。記事の後半にも少し関連した議論があるが、こういった研究の成果は裁判所には持ち込まれるべきではない、というのが自分の意見。

確かにこういう研究が進んでサイコパシーの治療に結びつけば、日本はもちろん、特に犯罪の多いアメリカでは社会的インパクトは大きい。実際に犯罪を未然に防げれば、人命を助けることにもつながる。だから、研究をどんどん推進して欲しい。Kiehlさんの立場も、治療や発症の未然防止に期待しながら研究を進めているとある。どんどん人とお金を投入して欲しい。

けど、サイコパシーだから脳やゲノムが健常人と違うという理由で、罪を犯した人の刑罰が軽減されることはあってはならない。例えば、一般人である陪審員が、弁護人の「この人はサイコパシーという心の病に犯されているので、健常者と同じ刑罰を下すのはおかしい。刑事責任能力はない。」といった主張を鵜呑みにして、刑罰を軽くすることはあってはならない。

研究成果は、あくまでも犯罪の未然防止、サイコパシーの治療に利用されるべきだろう。サイコパシーに限らず、神経犯罪学の研究成果の一般社会への応用は、より慎重で幅広い議論が必要。

その意味では、神経犯罪学に関わっている専門家は、研究からわかったこと、まだわかっていないブラックボックス、あるいはグレーゾーンをできるだけしっかり社会に伝える義務がある。知りたいから研究する、というモチベーションはもちろん良いのだけども、自分の研究の社会的インパクトもしっかり考慮に入れる必要がある。

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参考情報

Science. 2008 Sep 5;321(5894):1284-6.
Psychology. Investigating the psychopathic mind.
Miller G.
今回の記事。フリーで聞けるポドキャストがあって、記事を書いたGreg Millerさんがアウトラインを紹介してくれている。

Nature. 2007 Dec 13;450(7172):942-4.
Abnormal neuroscience: Scanning psychopaths.
Abbott A.
以前、ネイチャーにもサイコパシーの関連記事あり。