12/27/2008

トレーニングでハンデ克服

新着のネイチャー・ニューロサイエンスに掲載されたZhouとMerzenichたちの研究によると、生後の発達時期に(人工的に)起こした聴覚障害を、のちのトレーニングによって克服できることがわかった。

ラットを研究対象にしている。

これまでの研究から、生後のいわゆる臨界期の間に、特別な音環境でラットを育てると、聴覚機能が正常に発育しないことがわかっている。今回の研究では、その障害を受ける聴覚機能のうち、特に「時間処理」に注目している。

そして、トレーニングによってその障害を克服できるのか、行動レベル、神経活動レベルで調べている。

ちなみに、なぜ音の時間処理か?

例えばヒトの場合、音の速い変化を正確に処理できるかは、言葉の聞き取りに重要だから。ここでいう「時間処理」というのは、そういう音の速い時間的な変化、を処理すること。つまり、今回の研究は、動物の研究ではあるけども、研究者たちはヒトの言語処理も視野に入れた上で、研究を行っている。

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ラットのトレーニングは、約0.5秒の間に「クリック」音が何回なるか区別する課題。つまり、クリックのペース(周期・スピード)を区別する。

5種類の違うペースのうち、1つのペースのクリック音が鳴ったときにだけ、鼻を穴に入れれば報酬がもらえるようにトレーニングする。

すると、はじめはもちろん出来ないけど、トレーニングを何日も続けると、その課題ができるようになった。

次に、脳でどんな変化が起こっているか、ニューロンの活動を測って調べた。
すると、トレーニングしたラットの聴覚野のニューロン活動は、普通の環境で発育したラットのそれと同程度の音の時間処理能力があることがわかった。

発育障害のラットのニューロン活動は、通常、速い音の変化についていけなくなるけども、トレーニングによって、速い音の変化にもついていけるようになった。

また、この効果はすぐになくなるものではなく、トレーニングをやめても少なくとも2ヶ月は持続する変化だということもわかった。

ちなみに、音の処理には、音の周波数の処理も大事だけど、その能力には改善は見られず、トレーニングした時間処理能力だけが改善していた。つまり、トレーニングを他の機能に一般化することは、残念ながらというべきか、当然というべきか、おきなかった。

この研究では、生後まもなく起きた(起こした)聴覚機能の発育異常を、後のトレーニングによって、行動レベルだけでなく、ニューロンの活動レベルで正常に近いレベルまで回復できることを示したことになる。

同じ研究グループは10年以上前、ラトガーズ大Tallalのグループとの共同で、人、子供を対象に、聴覚トレーニングのために開発した「ゲーム」をすることで言語機能の発育の遅れを取り戻せそうだ、ということを報告している。(こちらこちら

今回の研究のポイントは、臨界期後でも、トレーニングによって正常の機能を取り戻せることをニューロン活動のレベルとして示した点か。

少々時期を逸しても脳は変化し続ける。

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参考文献
Nat Neurosci. 2009 Jan;12(1):26-28. Epub 2008 Dec 14.
Developmentally degraded cortical temporal processing restored by training.
Zhou X, Merzenich MM.

今回の論文、示しているデータといい論文の書き方といい、文句をつけようのない良い論文。

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