3/27/2010

目と乱数

目は口ほどにものを言う
目は心の鏡

このことわざにぴったりの研究が、最新のCurrent Biologyという雑誌に報告されている。

数をランダムに次々に言う時に目の動きも測ってみる。すると、目が右上に動いたら、次に言う数は前に言った数より大きくなり、逆に、左下に目が動いたらより小さい数を言うことがわかった。

研究では、参加者の人たちに、メトロノームのリズムに合わせて、1から30までの数をできるだけランダムに言ってもらう。その間に眼球の位置も計測しておく。

そして、直前に言った数と次に言う数の差、それから目の動きとの関係を調べている。

実は、以前の研究から、SNARC(spatial-numerical association of response codes)効果(PDF)というのが知られている。例えば、スクリーンに数字を表示して、それが偶数か奇数か答えてもらい、その反応時間を測ってみる。すると、小さい数をスクリーン左側に表示すると早く反応し、逆に大きい数は右側に表示すると早く反応する。つまりは数と空間認識との間に密接な関係がある、ということを示す行動レベルでの効果でもある。

今回の研究では、そのアイデアを乱数生成に拡張している。

まず、目の動きの「方向」から、乱数が直前に言った数から増えるか減るか「数の方向」を予測できるか調べた。すると、目の水平方向(右か左か)からは61.6%、垂直方向(上か下か)からは65.7%の精度で予測できた。

さらに踏み込んで、目がどれくらい動いたかと、数がどれくらい変化したかという「程度」の関係も調べた。すると、言った数の変化が大きい時ほど、目の動きもより大きかった。目が右上に大きく動いたら、次はより大きな数を言い、左下に大きく目が動いたらより小さな数を言った、ということになる。

ということで、目の動きと乱数発生は、単なる方向だけでなく程度という点でも密接な関係があることがわかった。

実は最近、認知神経科学の分野では、数と空間認知には密接な関係があって、空間認知に重要とされてきた頭頂葉がやはり数の情報処理にも重要だということがわかってきている。つまりは、行動レベルだけでなく、脳のレベルで見ても、数と空間の情報処理は密接な関係がある。

例えば、最近の研究で興味深いのは、昨年サイエンスに発表された論文。そこでは、注意の空間的な方向(目の運動)に関連した脳活動からコンピューターをトレーニングしておけば、足し算か引き算をした時の脳活動もある程度区別できてしまうことを報告している。

今回の乱数発生と目の動きの関係を説明する脳のメカニズムはまだわからないけど、もしかしたら似たメカニズムが働いているのかもしれない。

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文献情報

Curr Biol. 2010 Mar 23;20(6):R264-R265.
Eye position predicts what number you have in mind.
Loetscher T, Bockisch CJ, Nicholls ME, Brugger P.
今回紹介した文献

Nat Rev Neurosci. 2005 Jun;6(6):435-48.
Interactions between number and space in parietal cortex.
Hubbard EM, Piazza M, Pinel P, Dehaene S.
数と空間認知と頭頂葉の関係についてまとめた総説。ヒトの行動レベルから脳活動だけでなく、マカクザルの神経生理学の話も扱った包括的な内容となってるもよう。

Science. 2009 Jun 19;324(5934):1583-5. Epub 2009 May 7.
Recruitment of an area involved in eye movements during mental arithmetic.
Knops A, Thirion B, Hubbard EM, Michel V, Dehaene S.
上の総説での予言を検証した論文ということになるのか。

Trends Cogn Sci. 2003 Nov;7(11):483-8.
A theory of magnitude: common cortical metrics of time, space and quantity.
Walsh V.
Current Biologyの論文でも議論しているA theory of magnitude (ATOM)という理論について

Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2009 Jul 12;364(1525):1831-40.
The parietal cortex and the representation of time, space, number and other magnitudes.
Bueti D, Walsh V.
アップデート版か?

<関連本>
The Number Sense: How the Mind Creates Mathematics

Dehaeneの書いた本で、このトピックに興味がある人にはお薦めできそう。


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