2/24/2008

統合失調症の新薬―LY2140023

ニューヨークタイムズに興味深い記事があった。

この記事では、統合失調症の新しい治療薬LY2140023と製薬業界の動向についてわかりやすくまとめられている。ビジネス欄の記事だから市場規模がどれくらい大きいかといったことも紹介してある。

この記事に登場するSchoeppという人、昨年9月Nature Medicineにその画期的な新薬に関する論文を報告した人でもある。論文の発表にあわせて出たニューヨークタイムズの記事や、同じ号のNews&Viewsにその論文の紹介・解説がある。

一言で言えば、その新薬は代謝型グルタミン酸受容体をターゲットとしている。いくつかある代謝型グルタミン酸受容体のうち、特定のタイプの受容体(mGluR2/3)をターゲットとしている。グルタミン酸の代わりにその受容体を刺激してくれる(アゴニスト)。

何が画期的かというと、これまでの薬はドーパミンの伝達経路をターゲットにしたものばかりだったけど、グルタミン酸受容体をターゲットにした全く新しいタイプの薬だ、ということ。しかも、統合失調症の陰性症状にも効き、これまでのところ副作用も見られないというすごい薬。

今回紹介したニューヨークタイムズの記事では、統合失調症の治療薬開発の歴史とこれからについて、Schoeppを主人公として描いている。

話はそれるが、Schoeppという人は大学で博士号をとって製薬会社Lillyに就職し、今はMerckのsenior vice president(副社長的役職?)で神経科学部門のボスを勤めているらしい(こちら)。博士号取得者のいわゆるキャリアパスを考える上でもいろいろ学ぶ点があるやもしれない。

さて、ここからは自分の独断と偏見。
その新しい薬は「グルタミン酸仮説」をサポートするという点では良い。一方で、最近はDISC1なる遺伝子と統合失調症の関連も注目されているように思う。そのDISC1は発生時期の神経細胞の移動、つまり、神経細胞が正しい位置に配置されるのに関わってたように記憶している。例えば、こちらにそのDISC1研究が今ホットだ、ということが紹介されている。

ところで、発生・発達上の問題とグルタミン酸仮説との接点はどれくらい議論されているのだろう?

一方、グルタミン酸は興奮性だけど、抑制性ニューロン、つまりギャバの働きも一部の研究者が注目している。例えば、こちらに総説がある。

こうしてみると何でもありではないか。。。

個人的には、統合失調症の原因はいろんなルートがあって、いろんなルートからたどり着いたシステムとしての異常が、まるで同じ「統合失調症」のように見えているのかもしれない、なんて思ったりもする。だとすると、どのルートからシステムがおかしくなったのか突き止めた上で治療薬をカスタマイズしないといけないのではないか?だとすると、統合失調症の万能薬を開発するのは困難極まりないようにも思える。

けど、もしその新薬がホントに万能薬だとすると、なぜそんな「単純」なロジックで働く薬が複雑な統合失調症を治療できるのか、そのギャップが非常に気になるところではある。

とにかく、代謝型グルタミン酸受容体をターゲットとした新薬LY2140023が、どれくらい多様な症状に効くのか、今後の結果に注目だ。

統合失調症関連の本
統合失調症関連の本(洋書)

2/23/2008

最近のニュースたち

最近あった、あるいはこれからあるイベントの小ネタ集。

1.論文
うちのラボから論文が出た。
論文情報はこちら。
Neural Comput. 2007 Nov 28 [Epub ahead of print]
Valuations for Spike Train Prediction.
Itskov V, Curto C, Harris KD.

内容は・・・高尚過ぎてようわからん。。。
おそらくこう:
ボスがポスドク時代に編み出したpeer predictionなるニューロン活動の予測法がある。その際、いくつかモデルを立ててパフォーマンス、つまりスパイク予測の精度を評価・定量して良いモデルを選択しないといけない。そんなモデル選択のための指標を新たに考えた、と理解したら良いか?その新たな指標、quadratic valuationなる指標は対数尤度と同等だけど計算が速いのがウリ、とある。さらにマルチ記録では不可避なスパイクソーティングのエラーに対してもロバストだ、というからうれしいではないか、という話のようだ。

書いてる自分もよくわかってない。。。

ちなみに、筆頭著者のヴラディミアは今コロンビア大のAbbott(理論の超有名人)のところでポスドクをしている。物理から神経科学へ転進した変な良いやつです。。。


2.コサイン
来週からコサイン
自分は参加しない。旅費出してくれる保証ないし。。。でも一度は行ってみたい。

それはともかく、うちのラボからは、ボスのケンとアーターが参戦する。ケンはブザキ研のカムランとワークショップを開催する。アーターはそこでトークする。FeeやHasselmoといったビッグネームに混じってのトーク。unpublishedなデータもしっかり話してくれることだろう(トークの内容はまだ聞いてないけど)。

優秀な人は、こうして若手ホープとして名が知られていくのだろう。

追記(2/26):
ボスは3月3日のワークショップでダブルヘッダーでトークするようです。
こちらこちら。後者のワークショップで先日紹介した仮説を話すよう。


3.休校
昨日、大雪のため大学が休校となった。朝6時半ごろアナウンスメールが届いた。
メール見ずに通学・通勤した人もいるのでは。。。

自分のうちから大学まで20キロくらいある。
事故のリスクをおかしてまで大学へ行く気はしなかったので、終日自宅業務に。ラッキーなことに最近はデスクワーク中心だったからか、結果的には通常業務とあまり変わらなかった。。。研究はうちでもできるということか。

ちなみに、夕方前、雪に埋まったマイカーを救出すべく雪かきをやった。去年生まれて初めて雪かきなるものをやって今年が2回目。雪かきはホント疲れる。。。雪国に住んでる人たちはほぼ毎日のようにやってるのだろうから大変だ。。。

ちなみに、ヒスパニック系の若い人たちが数人で歩き回って「流し雪かき」をやっていた。声をかけてお金を払えば、雪かきをやってくれるらしい。。。彼らは雪をビジネスチャンスと思ってるわけである。。。


4.Small + Shore = Obama
ニューヨークタイムズ小浜市のことが紹介されていた。
Obama氏が大統領になるとObama市はハッピー、ということらしい。
確かに、全国区どころか、全米・世界デビューのチャンスである。
ウィキペディアによると、

似顔絵饅頭の発売も検討

とある。
一時帰国してアメリカのラボに戻る時、これほど「おいしい」お土産はない。
ぜひ大統領になってもらわんと!

ちなみにObama Bという日本人研究者がいないかPubMedで調べてみたが(あほすぎ。。。)、見つからなかった。。。確かに日本人でファーストネームにBがつくのはなかなかないか。。。
小浜芭蕉とか?
小浜武士とか?

2/17/2008

研究者とニューロンの“生きるすべ”

大学院生やポスドクの研究者としての将来は、今やっている研究が世にどれくらいインパクトを与えるかで決まる。例えば、研究結果を論文という形で科学雑誌に「アウトプット」する。そして、他の研究者たちがその論文をたくさん引用してくれそうなら、つまり、ネイチャーやサイエンスといった「インパクトファクター」の高い雑誌に論文を出せれば、准教授や教授などの「テニュア職」を得て生き残るための道が拓ける。

仮にテニュア職に就いても、自分の研究分野で確固とした地位を築き上げるには、引き続き他の研究者にインパクトを与え続ける必要がある。もちろん、一旦生き残れることが決まったので、インパクトを与えなくても良い。ただし、他の研究者とのネットワークは希薄になる。

ここで、研究者への「インプット」は、過去の文献や自分の研究データ、さらには他の研究者からの口コミ情報。「アウトプット」は論文となる。他の研究者とのネットワークを拡張・維持するには、アウトプットの結果他の研究者から返ってくる良いフィードバックが重要となる。良いネットワークを構築できれば、入ってくるインプットも増える。

とにかく、より良い研究環境で生き残るためには、インプットの結果をアウトプットして、相互作用している相手にインパクトを与え続ける必要がある。

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脳も同じではないか?

つまり、ニューロンは、他のニューロンからたくさん入力を受けて、活動電位・スパイクとしてアウトプットを出す。そうして他のニューロンたちと相互作用する。そして、その出力先のニューロンから良いフィードバックをもらえれば、神経回路内での自分の立場を確固としたものにできる。

ニューロンの“生きるすべ”は研究者のそれに似ているかもしれない。

というのが、うちのボスが最近出した論文の主張である。
その論文は、彼の仮説を世に問う論文。なので、その仮説が本当かどうかは実験的に検証される必要がある。

その仮説は、論文での言葉を借りれば次の通り:

strengthening of a neuron’s output synapses stabilizes recent changes in the same neuron’s inputs.


今、ニューロンAがいたとする。
まず、そのニューロンAの出力側のシナプスが強まる。すると、そのニューロンAの「入力側」のシナプスのうち、最近変化したものが安定化する。換言すると、ニューロンAの神経終末の強化が同一ニューロン内の最近変化したシナプスの安定化に寄与する。

ちょっとわかりにくいか。

論文中の図1にそのコンセプトがまとめられている。その図がわかれば、その論文で言わんとするところがわかる。

まず、入力側のシナプスが変化して、ニューロンAのスパイクのパターンが変化する。
その結果、もし出力側(神経終末)のシナプスが強化されれば、「逆行性シグナル(retroaxonal signal)」が軸索(axon)に沿って細胞体・樹状突起へ伝わる。そして、変化したばかりの入力側のシナプスが安定化される。
一方、もし出力側のシナプスが強化されなければ、逆行性シグナルは伝わらず、変化した入力側のシナプスは元に戻る。

アウトプット側の変化がインプット側の変化の生き残りに重要だ、ということがポイントになる。

「逆行性シグナル」の「逆行性」。通常、電気信号は細胞体側から神経終末へ伝わる。その逆向きに伝わるシグナルを考えているから「逆行性」という言葉が使われる。

そして、想定している「逆行性シグナル」は、シナプス間を伝わるものでも、電気的なものが軸索を伝わるものではなく、もっと時間的には遅いであろう「シグナル」のようだ。例えば、「神経栄養因子」が引き金となって軸索から細胞体へ伝わるシグナル伝達などである。

この仮説は、いわゆる人工知能というか人工ニューラルネットの研究、そして、実験的な神経科学、特に軸索側での化学反応とシナプス可塑性の関係を調べた研究にインスパイアされているようだ。

この仮説のもう一つのポイントは、「逆行性シグナル」は教師信号的なものではなく、すでに変化したシナプスの「選択圧」的な役割を果たす、という点か。つまり、最近変化したシナプスが生き残るかどうか、そのフィットネスは、逆行性シグナルが軸索→細胞体→樹状突起へすぐに伝わってくるかによる、ということ。

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この論文で扱っている内容は広い。
まずヘッブ則の応用の失敗と「バックプロパゲーション」を取り入れた人工ニューラルネットの成功について紹介。そして、その「バックプロパゲーション」と神経系での学習との関係はどうか?と考えを膨らませている。

そして、仮説のエッセンスを紹介。

続いて、どんなものが逆行性シグナルとして考えられるか?そして、それがシナプスの安定化にどう働くか?過去の実験事実を紹介しながら考察している。そして、後半ではシステムレベルの話として、海馬の「場所細胞」の研究との整合性を議論し、さらに大脳新皮質へも応用可能ではないか、と話を展開している。

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ちなみにボスがこの仮説を言い出したのは、2年くらい前だろうか。ラボ・ミーティングで、今こんなん考えてんやけど・・・という感じでラボメンバーの意見を聞いてきた。そして、ヨーロッパの学会でポスター発表したり、論文の謝辞にもあるように、同じビル内のブザキやパレなどに原稿を読んでもらって世に出たことになる。

自分が思うに、彼の仮説のポイントは、1つのシナプスというより、1個のニューロンに注目して可塑性を考えよう、というところなのではないかと思われる。これまでの可塑性の分子レベルの研究は、自分の理解では、
シナプス・樹状突起-細胞体
神経終末-細胞体
プレ-ポストのシナプス
といった具合で「1個のニューロン」という視点は少なかったのではないか?と思われる。

コロンブスの卵的と言われればそれまでだが、なかなか面白い発想の転換の気がする。そして、シナプスレベルの話をニューロンレベル、回路、システムレベルへ拡張して「学習」を考えよう、ということになるのではないかと思われる。
***彼から直接聞いたわけではないので、私の勝手な解釈です。オーバーフィッティング気味。

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ちなみに、このエントリーの冒頭のアナロジー、実はこの論文の結論部分をそのまま使った。(「ケン節」炸裂な締めくくりである)

さて、彼は仮説を提示することで、可塑性研究の分野に触手を伸ばした。さて、どんなフィードバックを受けて、彼の科学者としての位置づけが変化するか、今後に期待である。

*****
彼の仮説に興味を持たれた方は、ぜひ原文をお読み下さい。
このエントリーは、あくまで私が理解した範囲でしか書けていませんので、誤解もあると思われます。

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参考文献
Trends Neurosci. 2008 Feb 4 [Epub ahead of print]
Stability of the fittest: organizing learning through retroaxonal signals.
Harris KD.
今回紹介した論文。Opinionとして数ヶ月以内に掲載されるようだ。

人工ニューラルネットについて
Nat Biotechnol. 2008 Feb;26(2):195-7.
What are artificial neural networks?
Krogh A.
良いタイミングで人工ニューラルネットに関する良い入門文献が出ていた。ムチャクチャ読み易い。
これを読むと、論文の導入部のポイントが明瞭になると思われる。

おまけ。
Nat Cell Biol. 2008 Feb;10(2):149-59. Epub 2008 Jan 13.
Intra-axonal translation and retrograde trafficking of CREB promotes neuronal survival.
Cox LJ, Hengst U, Gurskaya NG, Lukyanov KA, Jaffrey SR.
ごく最近出た論文。
神経終末にあるCREBのmRNAがニューロンの生存に必要、という話。つまり、CREBが軸索内でローカルに翻訳されて、それが核での遺伝子発現を誘導し、細胞の生存に寄与する、ということを明らかにしている。

ボスの仮説の文脈で考えるとさらに面白い。
例えば、核内で軸索側と樹状突起側のシグナルの同期検出的なことが起これば、仮説にかなり近い気がする。。。先日、この論文を見つけてボスに話したら「もうin pressになったから、引用できんな。。。」と嘆いていた。

歯医者へ行く2

先月、家族で歯科検診へ行った。

そして昨日、自分だけ再び歯医者へ行った。
検診の時、自分だけ問題が見つかったから。

その問題は、右上の奥歯の詰め物が外れかかっていたこと。
前回の検診時にアポをとって、土曜日希望としたら、ほぼ1ヶ月後の昨日となった。

ほぼ時間通りに行くと、待ち時間ナシですぐに診察台へ。
一応、名前をダブルチェックされた。勝手に歯を抜かれても困る。。。

まず局所麻酔。針を刺すチックという感覚は一切なかった。
しばらく待って詰め物の取替え。
10分ほどで完了。
大した苦痛はなく、あっさり終わった。

歯医者に到着して出るまで15分弱だった。
コーペイは15ドル也。

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ちなみに、治療の前と麻酔が効くのを待ってる間、先生と少し話をした。
日本のバレンタインデーについて。

彼は、日本のバレンタインデーの風習を他の患者さんから仕入れたようで、それをネタにしてきた。女性から男性にギフトを贈る文化は相当意外だったらしい。。。

ウィキペディアによると、チョコを贈る風習の歴史を知ることができる。クリスマスのKFC同様(過去ログ参照)、企業戦略がハマッたケースの一つなのだろう。。。あのソニーも関わったとか。。。
歴史はともかく、女性としてはアリガタ迷惑な風習か??

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さらにちなみに、昨日自分が出かけるとき、娘に
一緒に歯医者行く?
と聞くと
いかない!
と。

前回の検診、娘にとってちょっとしたトラウマになったようだ。。。

食後、
歯磨かないと歯医者いくことになるぞ~
と脅すと、
歯みがく!
と、いつも拒否しがちな歯磨きを自らするようになった(とりあえず、これまでのところ)

「将来、歯医者行きを避けられる」という報酬期待から生じる、「毎日の歯磨き」という小さなパニッシュメント?の受け入れである。

この手は使えるかも。。。

2/16/2008

スーパー・パレード

マンハッタンに舞う紙屑とトイレットペーパー。


ブロードウェーの歩道を埋め尽くしたヤンキースファン(写真左下で見上げてる人・わかりづらし)混じりのジャイアンツファン。

それが現実になるとは、9月の時点では誰一人としていなかったはず。。。
ということで、もう10日ほど前になるけど、スーパーチューズデーに、研究をサボってNYジャイアンツの優勝パレードを見てきた。

パレードは、ローワー・マンハッタンのブロードウェーにて。
バッテリーパークからシティーホールまでの行程。

まずは、スーパーボウルの当日。
嫁さんの知り合いのお宅でスーパーボウルを観戦した。さすがに最後は大いに盛り上がった。スポーツ観戦であんなに盛り上がったのは学部生以来ではないか。

それにしても、今シーズンのNYジャイアンツいろいろあった。。。安っぽい映画のネタになるんではないかと思うくらいのシーズンだった。

ということで、ブログのネタとして今シーズンを振り返ってみる。そんなことはどうでもえぇ、と思っている方が大多数だとしても。。。


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昨シーズン終了後、ティキ・バーバーが引退。自分が知る限り、たいした補強もせず今シーズンを迎えた。

シーズン出だし、頼みのディフェンスすら崩壊状態に。。。正直、プレーオフ進出すらあきらめた。

数試合でディフェンスが立ち直ったと思ったら、オフェンスの脆さが露呈。
イーライ・マンニングが、たくさんファウルをおかしたり、敵のデフェンダーめがけてたくさんパスを投げて、勝つべき試合で相手に勝ちをプレゼントしたり。。。レシーバーもバレスの不調が続き、シーズン終了間際には、人気者ショッキーがケガで戦列離脱。。。

とりあえず、プレーオフ進出を決めただけでもよくやった、と思った。

実際、負けてもおかしくないuglyな試合がいくつもあった。そのうち1,2ゲームを取りこぼしていたら。。。(今思うと、この勝負強さが優勝につながったのかもしれない)

が、レギュラーシーズンの最終戦。
相手はスーパーボウルの相手でもあったペイトリオッツ。ジャイアンツはすでにプレーオフ進出を決めていたのでどうでもいい試合。一方、ペイトリオッツにとっては「パーフェクト」シーズンのためには負けられない一戦。

しかし、ゲーム終了までジャイアンツはよう頑張った。もう一歩のところでペイトリオッツに勝ちそうだった。ジャイアンツとしては失うものは何もない、開き直りに近い状態で臨めたのだろう。思うに、この「開き直り」こそがワールドチャンピオンへの伏線になったと思われる。(よって、守るものができた次シーズンはかなり心配ではある。。。)

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そして、プレーオフ。
そのペイトリオッツ戦からイーライは完全に生まれ変わった。ほとんどノーミスの試合が続いた。ディフェンスは相変わらず良い感じだった。カウボーイズとパッカーズをギリギリのところで退けてスーパーボウルへ。新聞でも、イーライは生まれ変わった、と半信半疑ながらも絶賛する記事が目に付いた。

それにしてもスーパーボウル、ホントに良い試合だった。
あんな試合をされたら、ファンはたまらない。しかも勝ったし。。。

翌日、月曜日。
ニュースで「優勝パレードは明日11時から」とアナウンスしていた。行くことにした。自分がNJ州にいる間、もう二度と拝めない可能性が高いし。。。

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そしてパレード当日。
朝、研究室で一仕事して(一応)9時ごろからPathに乗ってローワー・マンハッタンへ。

電車に乗ったニューアークのホーム。すでにファンでごった返していた。高校生くらいの人から家族連れまで。

マンハッタンに着いて、10時前に何とか場所を確保して1時間ほど待つ。

11時からパレードスタート。
何台か通り過ぎた後、イーライたちが乗った車が来た。さすがに大いに盛り上がる。

こちらが、今回撮った中で精一杯の”typical”な写真。
一応イーライを確認できるし、トロフィーも見える。

けど、背の高い「外人」の皆さんの中で、万歳状態で撮らざるを得なかったので、ピンボケや前の黒人のおじさんの写真モニターを撮ったり。。。
ネタとしては悪くないが、かなり勝負弱い。。。


キッカー・タインス。
スーパーボウルいけたの、あんたのおかげだよ。
(どうでもいいけど、前のおじさんの腕ジャマ。。。タインスの真似すんなよ。。。)

という感じで、撮った写真は、自分のフォトグラファーとしての才能をいかんなく発揮するデキだったが、いろんな選手を間近で拝めた。

が、普段みんなヘルメットをかぶっているので、ゼッケンナンバーかなにかつけてもらわんと、誰が誰かようわからんかった。。。

ちなみに、選手の乗った車と車の間に
といった具合でニューヨークの観光バスも通った。
どういう基準で選ばれたのかは知らないが、一般人が乗っていたと思われる。

ということで、そのバスが通るたびに
Who Are You! Who Are You!
の大コール。

他にコールで面白かったもの:
Tiki Who! Tiki Who!
上述のようにTikiは昨シーズン引退した偉大なランニングバック。昨年までみんな「Tikiサマ」と崇めていたはずなのに、ファンの心理なんて所詮そんなもの。。。

Boston Sucks! Boston Sucks!
お約束?
ヤンキースのキャップをかぶってる人はたくさんいた。ジャイアンツファンのかなりの人はヤンキースファンでもあるのだろう。。。

ということで、次はヤンキースのパレードに期待。

2/09/2008

Rhythms without the Brain

周期的に変化する環境に対して、とある生物がその周期的な変化を読み取って予測的に対応できたとしたら、その生物は「知的だ」と言って良いのではないか?北大の研究チーム最近報告した研究によると、アメーバ(粘菌・変形菌)が、環境の周期的な変化を記憶・期待しているかのように振る舞うことがわかった。

その研究で調べたPhysarum polycephalum変形菌(粘菌)の一種で、多核細胞の「スライム」だ。通常、乾いた環境になると、その粘菌の動きは遅くなる。そこで研究では、粘菌の生息環境の乾き具合(温度と湿度)を実験的に変化させて、粘菌の動く速さを測っている。


粘菌の「期待」
乾いた環境にすることを、例えば1時間周期で三回繰り返す。その時、その1時間周期のリズムにあわせて、粘菌の動きが遅くなる。さらにその後、粘菌がどう動くか調べたところ、まるで1時間周期のリズムを覚えたかのように、同じリズムで動きを変化させる(遅くする)ことがわかった。環境変化は実際には起こっていないのに、周期的な変化をまるで期待しているような動きを粘菌がみせた。


粘菌の「記憶」
続いてその研究では、その周期的な環境変化を起こした7-10時間後に、再び1回だけ乾いた環境にしている。面白いことに、その時は1回しか環境を変化させていないのに、7-10時間前に起きた1時間周期のリズムをまるで記憶して期待しているように動きが周期的に遅くなることがわかった。


粘菌の中のリズム
さらにこの研究では、この現象を説明する力学モデルを提唱している。そこでは、それぞれ異なるペース(周波数)でリズムを刻んでいる複数の振動子を仮定している。実際に粘菌は様々なリズムで動くのに基づいている。そのモデルは、その様々な動きを実現するための化学反応が粘菌内部で起こっている様子をイメージすれば良い。粘菌の中にいろんなリズムでスウィングしている振り子がたくさんいて粘菌本体の動くペースを決めているイメージ。


リズムと「期待」
そのモデルで環境変化を起こすとどうなるか?

環境変化によって、バラバラだった振動子たちの「位相」(振り子の場所)が揃う。その環境変化がリズムを持っていれば、振動子たちはそのリズムにあわせてシンクロする。振動子たちが一旦リズムを刻みだすとしばらくそのリズムが維持される。

これは、1時間周期で3回乾いた環境に変化させた後、しばらく粘菌の動きがリズムを刻んだ現象を再現したことになる。


リズムと「記憶」
では、しばらくした後に1回だけ環境変化を起こした後、どうやって粘菌は予測的な動きができたか?

その振動子のモデルが一つの解決策を教えてくれる。そのモデルでは、もともと異なる周波数で振動する振動子が複数いた。周波数Aで振動する振動子たち、周波数Bで振動する振動子たち、、、。上述のように、周期的な環境変化を繰り返したら、振動子たちの位相が一旦揃う。しかし、振動子たちはもともと異なる周波数でリズムを刻んでいるから、環境変化がないとすぐに位相がずれてしまう。

一方、同じ周波数で振動する振動子グループの場合、一旦揃った位相はなかなかズレない。もともと位相こそ違えど、同じペースで振動していたから。

その振動子グループごとに位相を揃えた状態で再び環境の変化が一回でも起こると、簡単にすべてのグループの位相が揃いやすくなる。こうして、粘菌の記憶的・予測的な動きを説明できるのではないか、とその研究から考えられそうだ。

ここでは、振動子たちのシンクロしたリズムが「予測」を、振動子グループが一旦位相を揃えたことが「記憶」に対応する。


知的な「脳ナシ」
もちろん、実際の粘菌の中でそのような振動子に対応する化学反応が起こって粘菌の動く早さを決めているかはよくわからない。これは今後の研究の課題になるだろう。

さらに、そのような粘菌の記憶・期待のような能力が、自然界で生きていく上でどう役立っているのか、それも今後の課題だろう。いずれにせよ、粘菌が外界に対して適応的に振る舞えるポテンシャルを兼ね備えているのは間違いないようだ。

最後に、この粘菌の「知性の源」がヒトの知性と進化的にどうつながるのか、今後の研究が注目される。

知的に振る舞うには、必ずしも脳はいらない。


参考文献・参考情報
Phys Rev Lett. 2008 Jan 11;100(1):018101. Epub 2008 Jan 3.
Amoebae anticipate periodic events.
Saigusa T, Tero A, Nakagaki T, Kuramoto Y.
今回紹介した論文情報。このグループは以前、粘菌が迷路の最短経路を解けることも発見している。

Nature. 2008 Jan 24;451(7177):385.
Cellular memory hints at the origins of intelligence.
Ball P.
ネイチャーで紹介された記事(直リンク)。「同期現象」で有名なStrogatzのコメントも紹介されている。

変形菌の世界 : 国立科学博物館 植物研究部

変形菌の見つけ方・飼い方なども紹介されていて超充実。

「振動子」のイメージを得るには、フーコーの振り子(ウィキペディア)

2/02/2008

スーパー・ネタミ脳

「スーパー」というと二つのスーパーがこれからある。
明日に迫ったスーパーボウル。

そして、今回ネタにする火曜日のSuper Tuesday。「ツナミ火曜日」という別名もあるらしい。
これまで予備選挙をチビチビやっていたが、多くの州で一斉にやって、各党の候補者を一気に絞り込む。

ヒラリーか、オバマか?

研究室内の一部の人たちが大いに盛り上がっている。

アメリカ国籍がなくて投票できないのに熱くなるポスドク。
オバマのキャンペーングッズ(ポスター、バッチの類)をゲットして、バッチをして歩く研究者。
オバマかヒラリーか迷っている人を、如何に説得してオバマ票を投じさせるか戦略を練ったりしている大学院生。

候補者の演説をテレビで見てると、ロックシンガーがMCをしているような盛り上がりようである。大したこと言わなくてもヒューヒュー言ってくれそうな雰囲気すら感じる。

そういうのを見ていると、うらやましく思う。

日本の政治の場合、どこが政権を握ろうが、誰が総理大臣になろうが知ったこっちゃない、と思っている人が多い気がする。自分はそう。が、アメリカはまさに「意思決定」して票を投じようとする雰囲気がある。候補者の主張をよく知っている人が多い(本来はそうあるべきなのだろうが)。つい感化されて、Debatesの番組を見たりした。。。

そんな大統領選挙の盛り上がりを見ていると、うやらましい。。。

ところで、その「うらやましい」。ネタミといったら良いか。

そんなネタミを感じている自分の脳はいったいどうなっているか?
今回はそのネタミをネタにする。(前置き長すぎ)

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ネタミは、社会生活を送るヒトのおそらくほとんどが抱く感情。(ではないかと思われる)

大統領選挙でなくても、例えば、知り合いの研究者が「ネイチャー」や「サイエンス」に論文を出したり、独立職を得たりすると、多かれ少なかれネタミ的な感情を抱く。ネタミは、社会生活を送るヒトにとって、不可避的に起こる感情のような気がする。特に、昨今の激化した競争化社会、ネタミはさらに蔓延している気がする。

そんなネタミを感じている脳はいったいどうなっているか?

おそらく脳の中で相手の情報を入力として受け取り、自分の出力能力と比較していそうな気がする。意識的か無意識的かはともかく。とすると、何となくミラーニューロンがらみの議論があっても良いような気もしないでもない。(ミューラーニューロンに関しては、例えばこちら。英語ならこちら。プロ向けはこちら。)

そんな「ネタミ脳」の研究はあるのだろうか?

ネタミ。英語ではenvyと訳した方が良いか。
wikipediaで調べてみると、envyの定義は、


an emotion that “occurs when a person lacks another’s superior quality, achievement, or possession and either desires it or wishes that the other lacked it.”

とある。

自分には欠けている良い物事を他人が得た時に抱く感情で、自分もそうありたい、あるいはその得たものをその人が失って欲しいと思う感情、のようだ。

ジェラシーは、どちらかというと恋愛が絡んだネタミと考えた方が良さそうか。

そこで知ったばかりのウンチクを語ると、
アリストテレスはenvyのことを
the pain caused by the good fortune of others

と言っている。他の幸せに起因する痛み、とでも言ったらいいか。

シェークスピアのgreen-eyed monsterに関するウンチクもそこには記載されている。

しかし、科学関連のことは書かれていない。まともに研究されていないのだろうか?

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では、PubMedでenvy mirrorと叩いて論文を検索してみる。

No items found
またも自分の勘は外れたか。。。。

では、envy brainと叩いて論文を検索してみる。
確かに少なそうな雰囲気だ。そんな中で、Brainという雑誌に2007年に報告された論文がひっかかってきた。

ちょっと読んでみる。
腹内側部の前頭葉に損傷を負った人を対象に研究したところ、他者が抱いているネタミとあざけり(gloating)を理解するのに障害がある、ということがわかったようだ。しかも、右脳と左脳で違いがあるようだ。

面白い。

この論文では、「心の理論」を元に研究をスタートしている。ミラーニューロンと絡めるのはそうは悪くないか??

ちなみに、ネタミやあざけりの感情を”fortune of others” emotionsと呼ぶらしい。「他者の成功(不成功)」への感情。アリストテレスに源流があるか。

ただ、この研究をそのまま解釈すると、「前頭前野腹内側部」が関わっていそうなのは「他者のネタミ相手を理解する能力」、ということになる。というのは、この研究では、スクリーン上にキャラクターがいて、そのキャラクターがネタミを抱いている相手を4つの選択肢から選べ、という課題を用いている。前頭前野腹内側部に損傷を受けた人はこの課題の成績が悪かった。

だから、この研究は、キャラクター(他者)のネタミ相手を見つける機能を調べているのであって、ネタミそのものを感じられるかどうかとは別問題な気がする。

なので、ネタミを感じている自分の脳でも、ホントにそこが必要なのか、もう一つはっきりしない。

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そもそも、ネタミという感情は、自分の能力を評価する・していることが超重要ではないか。例えば、ネイチャー論文を連発しているAさんにとっては、Bさんが「ネイチャー・ニューロサイエンス」に論文を出しても、ネタミの気持ちは弱そう。ネタミには「自己評価」的な要素が重要。

「自己評価」は、少なくともこれまでの自分のエピソードに基づいているだろうから、エピソード記憶に関わる脳の場所も重要ではないか?とすると、いろんな場所が関わってきそう。

「心の理論」がらみで考えると、ネタミを感じるには、相手の気持ちを読み取らないまでも、相手が成功したかどうか理解する必要はある。だから、「心の理論モドキ」は必要か。

こう考えると、envyを理解する上で、「心の理論モドキ」と「エピソード記憶」というトピックが浮かび上がるか。

この線の話だと、例えば、「心の理論」と「エピソード記憶」は独立、という研究があったりもする。とすると、なるほど、心の理論とエピソード記憶は別物で、上で紹介した研究は前者重視でenvyを調べた研究と考えられるか。

逆に、ネタミには、心の理論とエピソード記憶の相互作用は不可避、と考えると、脳のいろんなところが関わることになる。それから扁桃体はどうか?も考えたい。

なかなか奥の深そうな問題である。。。

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ところで、ネタミの進化的意味はどうだろう?

競争相手が成功したかどうかを評価する能力はフィットネス向上につながるだろうから、その評価能力(の副産物?)としてenvyがある、と解釈しても良さそう。そして、ネタミはモチベーションにつながる。ネタミがきっかけで、自分も成功者になろうという気持ちにつながる。つまり、自分のフィットネス向上につながる感情とも言える。

一方で、ネタミが悪い方向へ向かうと、犯罪につながる。他人の財産を盗んだり、最悪その成功者を。。。諸刃の剣的な面もあるか。競争化社会でネタミが蔓延した結果、犯罪件数が増える、というのは大いにありそうだ。

それから、envyとjealousyは重複した部分を持つ言葉で、何となく脳活動も重複した部分がありそうな気もする。jealousyというと、恋敵に対して抱くenvyというニュアンスもあるか。とすると、恋するというか、子孫を残す生物のどこまでjealousyの起源をさかのぼれるのか、ちょっと興味がある。


ある動物は、モテモテのセレブな仲間を見て、嫉妬したりするのだろうか。。。

上のエピソード記憶と心の理論モドキの線で考えてみる。
エピソード記憶の研究なら、いろんな動物で調べられている。(と言ってそう間違ってはいない)

一方、心の理論モドキというか、ミラーシステムはどうか。
専門度が上がるが、ミラーニューロンの活動をコロラリー活動(corollary discharge)だと抽象度を上げて理解すれば、はもちろん、昆虫にだってそんな活動をするニューロンはいる。コロラリー活動というのは、自分の行動出力情報と入力した感覚情報を差っぴいているような振る舞いを示す神経活動とでも言ったら良いか。ミラーシステムのエッセンスは、内因・外因の成分を差っぴく神経システム、と極論すればそうか。

ちなみに、ここでのミラーシステムの話は、オリジナルな心の理論の議論で言われる「他者の気持ちを理解する」、とはちと違う(実際、ミラーシステム=他者の意図・インテンションの読み取り、という仮説そのものが最近揺らぎつつある)。

しかし、ここまで来ると、もとのenvyとは随分外れた議論のような気もしてきた。。。
envyはemotionの一つ。
これは良い拘束条件にはなる。

けど、そもそもemotionとは何?
emotionをどうくくったら良いか?その拘束条件そのものが弱い。。。

メカニズムに基づかずに定義され使われてきた言葉は、得てしてこういう問題にぶつかる。。。

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それにしても、envyをどう研究のネタにするか?

上述のように、envyは個人の価値観に強く依存する。必ずしも、他の研究者がネイチャー論文を出すことはenvyの対象にはならない。一方で、ビルゲイツにenvyを抱く人は多いか。。。ただ、成功が大きすぎたり、もともと手の届かないものに対する感情はenvyと違う気もする。相対的に他者の成功を評価しないといけない。その人が手の届きそうで届かない成功を実験的に再現できると良い実験ができそうか。「他者の成功」というパラメーターを操作できる実験をうまいこと考えないといけない。

それから、脳活動以外で如何にenvyを客観的に評価するか、という問題もある。もしそれができれば、脳損傷を負った人から何か糸口が得られるだろうし、ヒト以外の動物の研究へつながる。envyの結果生じる行動を探さないといけない。

横軸に「他者の成功指数」、縦軸に「envy指数」をとる。そして、格上の相手が成功した時より、うまいこと競合者が成功した程度の成功指数で「envy指数」が最大になれば、その実験はかなり良い線いってる気がする。

例えば、株取引のシミュレーションを題材にするのはどうか?(またか)
お金という生存に不可欠な要素を取り込んでるし。。。ルールとして、こっそりお金をパクれる、と設定してenvy指数を計算するもとにするとか。。。

そして、このゲーム中の脳活動を計測して、特定のイベントに関係した活動を見つけるとか。。。
研究としては楽しそうだけど、落とし穴がたくさんありそうな気がする。。。研究は楽しければ良いというだけのものではない。

長くなったことだし、またの機会に考えてみます。。。

長い文章読んでいただき、ありがとうございました。
いろんなご意見をお待ちしてます。

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参考にした情報源

wikipedia
envy
jealousy
心の理論
mirror neuron (wikipedia)
mirror neurons (scholarpedia)


文献
Brain. 2007 Jun;130(Pt 6):1663-78.
The green-eyed monster and malicious joy: the neuroanatomical bases of envy and gloating (schadenfreude).
Shamay-Tsoory SG, Tibi-Elhanany Y, Aharon-Peretz J.
他者のenvyとあざけりを読み取るのに前頭前野腹内側部が関わることを明らかにした。

Science. 2007 Nov 23;318(5854):1257.
Theory of mind is independent of episodic memory.
Rosenbaum RS, Stuss DT, Levine B, Tulving E.
脳損傷を負った二人を調べたところ、心の理論とエピソード記憶は独立に働きうることを明らかにした。その二人の損傷部位が異なる点も興味深い。

Nature. 2008 Jan 17;451(7176):305-10.
Precise auditory-vocal mirroring in neurons for learned vocal communication.
Prather JF, Peters S, Nowicki S, Mooney R.
ごく最近センセーショナルに発表された論文。鳥のHVCという神経核に、他の鳥の鳴き声を聞くときと、自分がさえずる時に全く同じように活動するニューロンがいて、それが高次の神経核へ連絡を送っていることを明らかにした。発見以前に、技術的な点でプロをうならせる研究。

Science. 2006 Jan 27;311(5760):518-22.
The cellular basis of a corollary discharge.
Poulet JF, Hedwig B.
昆虫にコロラリー活動(自分の行動出力情報と入力した感覚情報を差っぴいているような振る舞いを示す神経活動)を示すニューロンがいることを報告している。

Curr Biol. 2008 Jan 8;18(1):R32-3.
Action observation: inferring intentions without mirror neurons.
Kilner JM, Frith CD.
従来の、ミラーシステム=他者の意図の読み取り、という仮説の修正が迫られていることを簡潔にまとめた記事。

知性と感情は別モノか?

Nature Review Neuroscienceに面白い総説が出ていて、それについて簡単に。

その文献情報はこちら。
Nat Rev Neurosci. 2008 Feb;9(2):148-58.
On the relationship between emotion and cognition.
Pessoa L.

このエントリーのタイトルで「知性」というのは、いわゆる「前頭葉機能」。文献のタイトルではcognition(認知)という言葉が使われている。以下「認知機能」と呼ぶことにする。例えば、ワーキングメモリ、注意といった類の脳機能を指している。

一方、感情と情動は専門的には区別されるが、ここでは積極的には区別せず、英語で言うところのemotionを指すことにする。

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さてこの総説。一言で言えば、認知機能=前頭葉、情動=扁桃体という古い見方を捨てましょう・改めましょう、ということを謳っている。

その根拠として、前頭前野が感情に関連した活動を示したり、逆に扁桃体が認知機能に関連した活動を示すといった研究例をまず引き合いに出している。続いて、脳のマクロレベルのネットワークの話を持ち出し、脳回路という構造上、認知機能と感情を分けるのはもともと難しいと主張。

そして、脳領域と脳機能との間には多対多の関係があるんだ、と主張している。つまり、1つの脳領域は複数の機能に関わっていて、逆に一つの脳機能ですら複数の領域の活動に支えられている、ということを主張している。そして、「相互作用」重視で脳を理解していきましょう、ということを謳っている。

主張としては、ごもっともでこういう見方は大好き。

が、問題は、その考えをどう実験的に確かめるか?ということ。
その有効策は何も言っていないと理解した。確かに、いくつか研究を紹介してこういう方向の研究が望ましい的な主張は読み取れた。が、例えば、脳の領野間結合に基づいた研究は、解剖学的な結合の「重み」を軽視している傾向が若干ある。軽視せざるを得ない現状がある。

例えばこの総説の図2や3。
これだけ見れば、「なるほど、脳の構造上、認知機能と感情を分けるのはナンセンス」、というのがよくわかる。が、この図で同じ矢印で結ばれている結びつき方は、果たして同じなのか?もし、結びつき方の「重み」が違って、実は認知機能と感情を完全ではないにしろ区別可能なら、従来の説は間違ってないと反論できる。機能的結合を考えたら、解剖学的な結合では見えない関係が見えてきて、やはり古い見方は正しい、ということにもなりうる。主張としては良いのだが、そのあたりの問題を具体的にどう考えるべきなのか、もっともっとテクニカルなことを考えないといけない。

話は少し変わるが、こういうグローバルネットワークレベルに関しては、ひょっとしたらコネクトームなしでも、うまいこと考えてうまくいったりして?という気がしないでもない。いくつかのツールに+αをかませば、仮説を立てるような研究ができるかもしれない、という気が最近ちょっとする。そして、その仮説を脳機能画像計測で検証するという研究がひょっとしたら可能かも?という気がちょっとする。「気がちょっとする」ばかりではダメだけど、マカクザルは非常に良いモデル生物というのは間違いない。(けど、実際にやるのは、超大変なんやろなぁ。。。)

それはともかく、上の文章で、
「マカクザルは非常に良いモデル生物というのは間違いない」は前頭葉
「超大変なんやろなぁ。。。」は扁桃体
が言っている。
などと分けるのはNGだ、ということを今回紹介した文献では言っている。(ちと違うか)