2/02/2008

知性と感情は別モノか?

Nature Review Neuroscienceに面白い総説が出ていて、それについて簡単に。

その文献情報はこちら。
Nat Rev Neurosci. 2008 Feb;9(2):148-58.
On the relationship between emotion and cognition.
Pessoa L.

このエントリーのタイトルで「知性」というのは、いわゆる「前頭葉機能」。文献のタイトルではcognition(認知)という言葉が使われている。以下「認知機能」と呼ぶことにする。例えば、ワーキングメモリ、注意といった類の脳機能を指している。

一方、感情と情動は専門的には区別されるが、ここでは積極的には区別せず、英語で言うところのemotionを指すことにする。

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さてこの総説。一言で言えば、認知機能=前頭葉、情動=扁桃体という古い見方を捨てましょう・改めましょう、ということを謳っている。

その根拠として、前頭前野が感情に関連した活動を示したり、逆に扁桃体が認知機能に関連した活動を示すといった研究例をまず引き合いに出している。続いて、脳のマクロレベルのネットワークの話を持ち出し、脳回路という構造上、認知機能と感情を分けるのはもともと難しいと主張。

そして、脳領域と脳機能との間には多対多の関係があるんだ、と主張している。つまり、1つの脳領域は複数の機能に関わっていて、逆に一つの脳機能ですら複数の領域の活動に支えられている、ということを主張している。そして、「相互作用」重視で脳を理解していきましょう、ということを謳っている。

主張としては、ごもっともでこういう見方は大好き。

が、問題は、その考えをどう実験的に確かめるか?ということ。
その有効策は何も言っていないと理解した。確かに、いくつか研究を紹介してこういう方向の研究が望ましい的な主張は読み取れた。が、例えば、脳の領野間結合に基づいた研究は、解剖学的な結合の「重み」を軽視している傾向が若干ある。軽視せざるを得ない現状がある。

例えばこの総説の図2や3。
これだけ見れば、「なるほど、脳の構造上、認知機能と感情を分けるのはナンセンス」、というのがよくわかる。が、この図で同じ矢印で結ばれている結びつき方は、果たして同じなのか?もし、結びつき方の「重み」が違って、実は認知機能と感情を完全ではないにしろ区別可能なら、従来の説は間違ってないと反論できる。機能的結合を考えたら、解剖学的な結合では見えない関係が見えてきて、やはり古い見方は正しい、ということにもなりうる。主張としては良いのだが、そのあたりの問題を具体的にどう考えるべきなのか、もっともっとテクニカルなことを考えないといけない。

話は少し変わるが、こういうグローバルネットワークレベルに関しては、ひょっとしたらコネクトームなしでも、うまいこと考えてうまくいったりして?という気がしないでもない。いくつかのツールに+αをかませば、仮説を立てるような研究ができるかもしれない、という気が最近ちょっとする。そして、その仮説を脳機能画像計測で検証するという研究がひょっとしたら可能かも?という気がちょっとする。「気がちょっとする」ばかりではダメだけど、マカクザルは非常に良いモデル生物というのは間違いない。(けど、実際にやるのは、超大変なんやろなぁ。。。)

それはともかく、上の文章で、
「マカクザルは非常に良いモデル生物というのは間違いない」は前頭葉
「超大変なんやろなぁ。。。」は扁桃体
が言っている。
などと分けるのはNGだ、ということを今回紹介した文献では言っている。(ちと違うか)

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