2/02/2008

スーパー・ネタミ脳

「スーパー」というと二つのスーパーがこれからある。
明日に迫ったスーパーボウル。

そして、今回ネタにする火曜日のSuper Tuesday。「ツナミ火曜日」という別名もあるらしい。
これまで予備選挙をチビチビやっていたが、多くの州で一斉にやって、各党の候補者を一気に絞り込む。

ヒラリーか、オバマか?

研究室内の一部の人たちが大いに盛り上がっている。

アメリカ国籍がなくて投票できないのに熱くなるポスドク。
オバマのキャンペーングッズ(ポスター、バッチの類)をゲットして、バッチをして歩く研究者。
オバマかヒラリーか迷っている人を、如何に説得してオバマ票を投じさせるか戦略を練ったりしている大学院生。

候補者の演説をテレビで見てると、ロックシンガーがMCをしているような盛り上がりようである。大したこと言わなくてもヒューヒュー言ってくれそうな雰囲気すら感じる。

そういうのを見ていると、うらやましく思う。

日本の政治の場合、どこが政権を握ろうが、誰が総理大臣になろうが知ったこっちゃない、と思っている人が多い気がする。自分はそう。が、アメリカはまさに「意思決定」して票を投じようとする雰囲気がある。候補者の主張をよく知っている人が多い(本来はそうあるべきなのだろうが)。つい感化されて、Debatesの番組を見たりした。。。

そんな大統領選挙の盛り上がりを見ていると、うやらましい。。。

ところで、その「うらやましい」。ネタミといったら良いか。

そんなネタミを感じている自分の脳はいったいどうなっているか?
今回はそのネタミをネタにする。(前置き長すぎ)

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ネタミは、社会生活を送るヒトのおそらくほとんどが抱く感情。(ではないかと思われる)

大統領選挙でなくても、例えば、知り合いの研究者が「ネイチャー」や「サイエンス」に論文を出したり、独立職を得たりすると、多かれ少なかれネタミ的な感情を抱く。ネタミは、社会生活を送るヒトにとって、不可避的に起こる感情のような気がする。特に、昨今の激化した競争化社会、ネタミはさらに蔓延している気がする。

そんなネタミを感じている脳はいったいどうなっているか?

おそらく脳の中で相手の情報を入力として受け取り、自分の出力能力と比較していそうな気がする。意識的か無意識的かはともかく。とすると、何となくミラーニューロンがらみの議論があっても良いような気もしないでもない。(ミューラーニューロンに関しては、例えばこちら。英語ならこちら。プロ向けはこちら。)

そんな「ネタミ脳」の研究はあるのだろうか?

ネタミ。英語ではenvyと訳した方が良いか。
wikipediaで調べてみると、envyの定義は、


an emotion that “occurs when a person lacks another’s superior quality, achievement, or possession and either desires it or wishes that the other lacked it.”

とある。

自分には欠けている良い物事を他人が得た時に抱く感情で、自分もそうありたい、あるいはその得たものをその人が失って欲しいと思う感情、のようだ。

ジェラシーは、どちらかというと恋愛が絡んだネタミと考えた方が良さそうか。

そこで知ったばかりのウンチクを語ると、
アリストテレスはenvyのことを
the pain caused by the good fortune of others

と言っている。他の幸せに起因する痛み、とでも言ったらいいか。

シェークスピアのgreen-eyed monsterに関するウンチクもそこには記載されている。

しかし、科学関連のことは書かれていない。まともに研究されていないのだろうか?

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では、PubMedでenvy mirrorと叩いて論文を検索してみる。

No items found
またも自分の勘は外れたか。。。。

では、envy brainと叩いて論文を検索してみる。
確かに少なそうな雰囲気だ。そんな中で、Brainという雑誌に2007年に報告された論文がひっかかってきた。

ちょっと読んでみる。
腹内側部の前頭葉に損傷を負った人を対象に研究したところ、他者が抱いているネタミとあざけり(gloating)を理解するのに障害がある、ということがわかったようだ。しかも、右脳と左脳で違いがあるようだ。

面白い。

この論文では、「心の理論」を元に研究をスタートしている。ミラーニューロンと絡めるのはそうは悪くないか??

ちなみに、ネタミやあざけりの感情を”fortune of others” emotionsと呼ぶらしい。「他者の成功(不成功)」への感情。アリストテレスに源流があるか。

ただ、この研究をそのまま解釈すると、「前頭前野腹内側部」が関わっていそうなのは「他者のネタミ相手を理解する能力」、ということになる。というのは、この研究では、スクリーン上にキャラクターがいて、そのキャラクターがネタミを抱いている相手を4つの選択肢から選べ、という課題を用いている。前頭前野腹内側部に損傷を受けた人はこの課題の成績が悪かった。

だから、この研究は、キャラクター(他者)のネタミ相手を見つける機能を調べているのであって、ネタミそのものを感じられるかどうかとは別問題な気がする。

なので、ネタミを感じている自分の脳でも、ホントにそこが必要なのか、もう一つはっきりしない。

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そもそも、ネタミという感情は、自分の能力を評価する・していることが超重要ではないか。例えば、ネイチャー論文を連発しているAさんにとっては、Bさんが「ネイチャー・ニューロサイエンス」に論文を出しても、ネタミの気持ちは弱そう。ネタミには「自己評価」的な要素が重要。

「自己評価」は、少なくともこれまでの自分のエピソードに基づいているだろうから、エピソード記憶に関わる脳の場所も重要ではないか?とすると、いろんな場所が関わってきそう。

「心の理論」がらみで考えると、ネタミを感じるには、相手の気持ちを読み取らないまでも、相手が成功したかどうか理解する必要はある。だから、「心の理論モドキ」は必要か。

こう考えると、envyを理解する上で、「心の理論モドキ」と「エピソード記憶」というトピックが浮かび上がるか。

この線の話だと、例えば、「心の理論」と「エピソード記憶」は独立、という研究があったりもする。とすると、なるほど、心の理論とエピソード記憶は別物で、上で紹介した研究は前者重視でenvyを調べた研究と考えられるか。

逆に、ネタミには、心の理論とエピソード記憶の相互作用は不可避、と考えると、脳のいろんなところが関わることになる。それから扁桃体はどうか?も考えたい。

なかなか奥の深そうな問題である。。。

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ところで、ネタミの進化的意味はどうだろう?

競争相手が成功したかどうかを評価する能力はフィットネス向上につながるだろうから、その評価能力(の副産物?)としてenvyがある、と解釈しても良さそう。そして、ネタミはモチベーションにつながる。ネタミがきっかけで、自分も成功者になろうという気持ちにつながる。つまり、自分のフィットネス向上につながる感情とも言える。

一方で、ネタミが悪い方向へ向かうと、犯罪につながる。他人の財産を盗んだり、最悪その成功者を。。。諸刃の剣的な面もあるか。競争化社会でネタミが蔓延した結果、犯罪件数が増える、というのは大いにありそうだ。

それから、envyとjealousyは重複した部分を持つ言葉で、何となく脳活動も重複した部分がありそうな気もする。jealousyというと、恋敵に対して抱くenvyというニュアンスもあるか。とすると、恋するというか、子孫を残す生物のどこまでjealousyの起源をさかのぼれるのか、ちょっと興味がある。


ある動物は、モテモテのセレブな仲間を見て、嫉妬したりするのだろうか。。。

上のエピソード記憶と心の理論モドキの線で考えてみる。
エピソード記憶の研究なら、いろんな動物で調べられている。(と言ってそう間違ってはいない)

一方、心の理論モドキというか、ミラーシステムはどうか。
専門度が上がるが、ミラーニューロンの活動をコロラリー活動(corollary discharge)だと抽象度を上げて理解すれば、はもちろん、昆虫にだってそんな活動をするニューロンはいる。コロラリー活動というのは、自分の行動出力情報と入力した感覚情報を差っぴいているような振る舞いを示す神経活動とでも言ったら良いか。ミラーシステムのエッセンスは、内因・外因の成分を差っぴく神経システム、と極論すればそうか。

ちなみに、ここでのミラーシステムの話は、オリジナルな心の理論の議論で言われる「他者の気持ちを理解する」、とはちと違う(実際、ミラーシステム=他者の意図・インテンションの読み取り、という仮説そのものが最近揺らぎつつある)。

しかし、ここまで来ると、もとのenvyとは随分外れた議論のような気もしてきた。。。
envyはemotionの一つ。
これは良い拘束条件にはなる。

けど、そもそもemotionとは何?
emotionをどうくくったら良いか?その拘束条件そのものが弱い。。。

メカニズムに基づかずに定義され使われてきた言葉は、得てしてこういう問題にぶつかる。。。

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それにしても、envyをどう研究のネタにするか?

上述のように、envyは個人の価値観に強く依存する。必ずしも、他の研究者がネイチャー論文を出すことはenvyの対象にはならない。一方で、ビルゲイツにenvyを抱く人は多いか。。。ただ、成功が大きすぎたり、もともと手の届かないものに対する感情はenvyと違う気もする。相対的に他者の成功を評価しないといけない。その人が手の届きそうで届かない成功を実験的に再現できると良い実験ができそうか。「他者の成功」というパラメーターを操作できる実験をうまいこと考えないといけない。

それから、脳活動以外で如何にenvyを客観的に評価するか、という問題もある。もしそれができれば、脳損傷を負った人から何か糸口が得られるだろうし、ヒト以外の動物の研究へつながる。envyの結果生じる行動を探さないといけない。

横軸に「他者の成功指数」、縦軸に「envy指数」をとる。そして、格上の相手が成功した時より、うまいこと競合者が成功した程度の成功指数で「envy指数」が最大になれば、その実験はかなり良い線いってる気がする。

例えば、株取引のシミュレーションを題材にするのはどうか?(またか)
お金という生存に不可欠な要素を取り込んでるし。。。ルールとして、こっそりお金をパクれる、と設定してenvy指数を計算するもとにするとか。。。

そして、このゲーム中の脳活動を計測して、特定のイベントに関係した活動を見つけるとか。。。
研究としては楽しそうだけど、落とし穴がたくさんありそうな気がする。。。研究は楽しければ良いというだけのものではない。

長くなったことだし、またの機会に考えてみます。。。

長い文章読んでいただき、ありがとうございました。
いろんなご意見をお待ちしてます。

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参考にした情報源

wikipedia
envy
jealousy
心の理論
mirror neuron (wikipedia)
mirror neurons (scholarpedia)


文献
Brain. 2007 Jun;130(Pt 6):1663-78.
The green-eyed monster and malicious joy: the neuroanatomical bases of envy and gloating (schadenfreude).
Shamay-Tsoory SG, Tibi-Elhanany Y, Aharon-Peretz J.
他者のenvyとあざけりを読み取るのに前頭前野腹内側部が関わることを明らかにした。

Science. 2007 Nov 23;318(5854):1257.
Theory of mind is independent of episodic memory.
Rosenbaum RS, Stuss DT, Levine B, Tulving E.
脳損傷を負った二人を調べたところ、心の理論とエピソード記憶は独立に働きうることを明らかにした。その二人の損傷部位が異なる点も興味深い。

Nature. 2008 Jan 17;451(7176):305-10.
Precise auditory-vocal mirroring in neurons for learned vocal communication.
Prather JF, Peters S, Nowicki S, Mooney R.
ごく最近センセーショナルに発表された論文。鳥のHVCという神経核に、他の鳥の鳴き声を聞くときと、自分がさえずる時に全く同じように活動するニューロンがいて、それが高次の神経核へ連絡を送っていることを明らかにした。発見以前に、技術的な点でプロをうならせる研究。

Science. 2006 Jan 27;311(5760):518-22.
The cellular basis of a corollary discharge.
Poulet JF, Hedwig B.
昆虫にコロラリー活動(自分の行動出力情報と入力した感覚情報を差っぴいているような振る舞いを示す神経活動)を示すニューロンがいることを報告している。

Curr Biol. 2008 Jan 8;18(1):R32-3.
Action observation: inferring intentions without mirror neurons.
Kilner JM, Frith CD.
従来の、ミラーシステム=他者の意図の読み取り、という仮説の修正が迫られていることを簡潔にまとめた記事。

2 comments:

mm3 said...

ジャイアンツいい試合でしたね。おめでとうございます。私も、イーライがここまでやるとは、予想できませんでした。

ちなみに、我が家では相方がアンダーソン・クーパーを見るために、大統領選挙の討論会は欠かさずチェックしております。そしてなぜか、わが息子のミドルネームはアンダーソンになってしまいました。クープたんと比較されると、私などは品格が違いすぎてジェラシーすらおきません。切磋琢磨するには身近なライバルが必要なようですね。

Shuzo said...

いや~、やってくれましたね。イーライのフットボールDNA炸裂という感じでした。あの一家は、特別な星のもとに生まれているのでしょう。

来年はぜひ兄弟対決を!と行きたいところですが、NFLはそんな甘いものではないですよね。。。とりあえず、明日の優勝パレードを見に行こうと思ってます。