10/04/2008

シャンデリア細胞研究年表

PLoS BiologyにYusteたちシャンデリア細胞こんな形)に関するすばらしい解説記事を書いていた。その中で紹介されていた重要論文たちを備忘録としてまとめるついでに、シャンデリア細胞の研究年表を作ってみる。(この解説記事に基づいているので、文献そのもの、他の重要文献には当たっていないです。。。←手抜き)

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1974年
SzentagothaiとArbibが、シャンデリア細胞を発見

1975年
Jonesもほぼ同時期に報告
Szentagothaiは、シャンデリア細胞の軸索が錐体細胞の樹状突起(特に尖端樹状突起)にシナプス形成していると推測

1977年
Szentagothaiの弟子であるSomogyiは、師匠の考えは間違いで、実は錐体細胞の軸索(具体的にはそのinitial segment)にシナプス形成していることを電顕で示す

師匠に気を使ったのかよく知らないけど、Somogyiはシャンデリア細胞ではなく、axo-axonic細胞(軸索―軸索細胞?)と呼ぶ。

1980年代
Somogyiの発見が他の種でも確認され(Fairen & Valverde, JCN 1980; DeFelipe et al, JCN 1985)、axo-axonic細胞はシャンデリア細胞と同じだと提唱される(現在も、二つの言葉は等価なものとして使われている)。

90代~00年代前半
シャンデリア細胞の電気生理的な特性(つまり機能)を、in vitroBuhl et al, JNP 1994; Tamas & Szabadies, Cereb Cortex 2004)とin vivo (Klausberger et al, Nature 2003; Zhu et al, JNS 2004)で調べた研究が報告される。

2006年
げっ歯類とヒトの脳のサンプルを使った実験から、Tamasたち(Somogyiの弟子)がネットワーク内での役割を明らかにしサイエンスに報告する。そこで、他のGABA作動性ニューロンと違って、シャンデリア細胞は抑制性だけでなく、興奮性の信号も伝えることができると、提唱。(これに関してはまだ信じていない人もいる)

2008年
Tamasたちの説をさらに裏付ける分子基盤の研究が報告される(Khirug et al JNS 2008)。

ごく最近、Tamasのグループ(Molnar et al PLoS Biol 2008)は、シャンデリア細胞のネットワーク内での役割をヒト脳のスライス実験によって明らかにする(大雑把ですが)。


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後記

Yusteたちの解説は、基本的には同じ号に掲載されたMolnarたちの論文の解説記事。だけども、神経科学という大きな文脈の中での位置づけを見事にしていて、すばらしい記事だと思った。シャンデリア細胞という一つの細胞種を超えて、局所回路の動作原理や進化などに興味がある人のツボを刺激するのではないかと思う。ついでに、Molnarたちの論文の図2をもとに、synfire chain関連の議論も展開している。

それから、そういう書き方をしているのだろうけども(Yusteマジック?)、この記事を読むと、Cajal、Lorente de No、Szentagothai、Somogyi、そしてTamasと、「局所回路研究遺伝子」ともいえるものが脈々と受け継がれているのだなぁ、とわかって面白い。

ところで、来週はノーベル賞が発表される。今年はどんな研究遺伝子の生みの親が受賞するのか?

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