4/04/2008

カンファレンス・プレビュー

4月6日から9日まで、ジャネリア・ファームでスプリング・カンファレンスが開催され、参加する。
今回のエントリーはその予習が目的。(このエントリーの長さ、おそらく過去最長。)

カンファレンスのタイトルはNeural Circuits and Decision-Making in Rodents
げっ歯類を対象に、神経回路、意思決定や記憶・学習の研究に取り組んでいる人たちが集まるようだ。

ジャネリアのカンファレンスを知らない方のために、自分が知っている範囲で少し説明すると:

春と秋、特定の研究テーマに関するカンファレンスがいくつか開催される。そのテーマの分野でトップクラス、ホットな研究者がジャネリアに招待される。その招待スピーカーに加え、抽選でポスドクや学生さんも参加できる。全体で50~70人くらいのカンファレンスになるのだろうか?細かい雰囲気までは不明。

ちなみに、ジャネリアのカンファレンス、交通費は自腹だけど、宿泊費・食費などはすべてタダ。うわさでは宿泊施設もすごいらしく&バーあり!そんなところに3泊ほどしながら、朝から晩までインテンスなスケジュールで科学三昧&呑んだくれ、という超魅力的なカンファレンスとなっている。

ちなみに、自分のいるNJ州からジャネリアまでは、車で4~5時間の距離。

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と、前置きが長くなった。(と言いつつ、ここから相当に長いです、このエントリー。。。)

この会の詳細は多分クローズドだと思われるので、このエントリーでは、どんな人が招待されているか予習モードで調べてみる。(予習なら問題ないはず?)

ちなみに、いつも以上にまとまりがないです。。。
予習ということでご容赦を。。。

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まずはオーガナイザー二人。

ジャネリアのAlla Karpova

この人はSvoboda研時代、MISTなる可逆的にシナプス伝達を抑制できるツールを開発している。MISTはハエのシビレに似ている。彼女の総説はこちら。
Curr Opin Neurobiol. 2007 Oct;17(5):581-6. Epub 2007 Nov 28.
Rapidly inducible, genetically targeted inactivation of neural and synaptic activity in vivo.
Tervo D, Karpova AY.
この総説では抑制ツールがまとめられている。図が非常にわかりやすくて良い。
ちなみに、DICE-Kのアイデアも少し記載されているな。これ以上はノーコメント。。。

二人目は外部オーガナイザー。Zach Mainen
有名。Sejnowski研で超良い仕事をして、理論から実験的な嗅覚研究の最前線へ進出。嗅覚系に転向してからは、同じく招待者の一人である内田さんとげっ歯類の意思決定課題を開発。今は、マルチ記録などを組み合わせながら精力的に研究を進めている。

嗅覚系研究に関する彼の総説はこちら。
Curr Opin Neurobiol. 2006 Aug;16(4):429-34. Epub 2006 Jul 5.
Behavioral analysis of olfactory coding and computation in rodents.
Mainen ZF.
洗練された行動課題を使って、嗅覚システムの情報処理を深く理解していこう、という趣旨の総説か。

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続いて大御所第一弾として二人。

Trevor Robbins
超大御所。自分はげっ歯類やマーモセットの行動絡みの論文をいくつか読んだことがある。
PubMedで調べたら最近こんな論文(opinion)を出していた。
Trends Cogn Sci. 2008 Jan;12(1):31-40. Epub 2007 Dec 19.
Serotoninergic regulation of emotional and behavioural control processes.
Cools R, Roberts AC, Robbins TW.
セロトニンにまつわるパラドックス(セロトニンの伝達を抑える薬が抗不安薬で、セロトニンの伝達を亢進する薬が抗うつ薬だということ)を問題意識として、これまでのヒトのイメージングや動物の研究の情報をまとめて、そのパラドックスのなぞに迫ってるようだ。けど、Robbinsさんは、たくさんネタを持ってるだろうから、これはあまり関係ないかもな。。。

Peter Dayan
理論の大家。今回のトピックに関連する論文でよく引用される論文(総説)はこれか。
Science. 1997 Mar 14;275(5306):1593-9.
A neural substrate of prediction and reward.
Schultz W, Dayan P, Montague PR.
心理学的な導入部からドーパミン細胞の生理学的な振る舞い、そしていわゆるTDアルゴリズムと実際の実験データとの関係をまとめ、その時点での将来の課題についてまとめられている。

そういえばこの総説、修士のころジャーナルクラブで紹介したのを覚えている。いろいろ突っ込まれたおして、洗礼を受け、ほろ苦い記憶が残ってる総説でもある。。。罰という意味で逆の思い出か。。。

それからDayanといえば、ベイズ。例えば、こちら。
Neuron. 2005 May 19;46(4):681-92.
Uncertainty, neuromodulation, and attention.
Yu AJ, Dayan P.
この論文では、ベイズ的な学習・未来予測が脳で起こってるという発想で、そのプロセスの中で、アセチルコリンは期待される不確実さの情報、アドレナリンは期待してなかった不確実さの情報をそれぞれ運んでいる、というモデルを提唱しているようだ。

他ではポピュレーションコーディングがらみの話もしているし、ベイズ的なことが実際の神経系で具体的にどう起こっているか、という点にこだわりを持っている人、ととらえたら良いのだろうか。

Dayanの仕事は、銅谷先生のこれまでのお仕事、例えば最近書かれた総説ともリンクしそうだし、そちらも要チェックか。
Nat Neurosci. 2008 Apr;11(4):410-416.
Modulators of decision making.
Doya K.
強化学習の視点から、意思決定に関わる評価、行動選択、学習について理論的な側面がまずまとめられ、どんな脳内システム、特に神経修飾物質が関わるか、ということがまとめられているようだ。

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次に、CSHL揃踏。

Tony Zador
うちのラボと仲の良いコンペティター(圧倒的にトニーラボが上だけど、、、)。
最近、PLoS Bioにスパースコードの論文を発表したけど(聴覚研究者が読むと、いろんなところにトゲがちりばめられていることがわかる。Wangが次の一手をどう打つか楽しみ?)、今回のカンファレンスでは別のトピックを話すだろう。

Carlos Brody
Hopfieldのお弟子さん?
Hopfieldといえばごく最近、連合記憶モデルでSudokuが解ける、という論文を出しているな(Sudokuを解くことそのものがポイントではないと思うが、彼もSudokuフリークなのだろうか。。。)。

それはともかく、BrodyはRomoとも仕事をしてきて次の論文を発表している。
Science. 2005 Feb 18;307(5712):1121-4.
Flexible control of mutual inhibition: a neural model of two-interval discrimination.
Machens CK, Romo R, Brody CD.
相互抑制をモチーフとして、アブストラクトなモデルで、ロモがやってきた体性感覚刺激の周波数弁別課題、特にその遅延期間と意思決定のフェーズを統合的に説明できるという話。確かにエレガントだけど、アブストラクトすぎて自分の頭ではもう一つピンとこない。。。最近はどんな仕事をしているのだろう。。。

マルチな人には、相互相関解析の論文でも有名か。

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割と地味?、あるいは特定できなかった4人。

Howard Fields
この人は知らなかった。最近の論文を調べたら、こちら。
J Physiol. 2007 Nov 1;584(Pt 3):801-18. Epub 2007 Aug 30.
Cue-evoked encoding of movement planning and execution in the rat nucleus accumbens.
Taha SA, Nicola SM, Fields HL.
ラット側坐核からニューロン活動を記録したら、感覚刺激というより運動出力と関連した活動を示すニューロンがいたと報告しているようだ。

Shin-Chieh Lin
特定するのに苦労したけど(アジア人のデメリット)多分ニコレリス研の人。独立したのかは不明。
この人は、
J Neurophysiol. 2006 Dec;96(6):3209-19. Epub 2006 Aug 23.
Fast modulation of prefrontal cortex activity by basal forebrain noncholinergic neuronal ensembles.
Lin SC, Gervasoni D, Nicolelis MA.
という論文を報告している。こちらで紹介済み。この人はいろんなプロジェクトに関わっていそうな雰囲気だから、今回何を話すのかは不明。

Paul Philips
この人は特定できず。。。欧米人でもこういうケースもあるのか。。。
(予習になってない)

Peter Shizgal
この人は行動関連の人のようだ。最近の論文はこちら。
Behav Brain Res. 2008 Mar 17;188(1):227-32. Epub 2007 Nov 7.
Dopamine tone increases similarly during predictable and unpredictable administration of rewarding brain stimulation at short inter-train intervals.
Hernandez G, Rajabi H, Stewart J, Arvanitogiannis A, Shizgal P.
研究のロジックはこう:報酬のタイミングを予測できる場合とできない場合、その違いがもしドーパミン細胞の活動の違いとして反映されるなら、ドーパミン細胞のターゲットの場所でのドーパミン量が違うはず、もしくはその逆。そこで、脳内刺激(ICS)とマイクロダイアリシスを組み合わせて調べたところ、報酬のタイミングが予想できるかどうかは関係なく、どちらの条件でも同じような側坐核でのドーパミン量の上昇が見れた、と主張している。(立ち上がりが違うような気もしたり、採用した方法論の時間解像度が、問題意識に迫るのに適当だったのかは不明だけど。。。)

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感覚寄りな二人。

Dima Rinberg
ゴキブリの神経細胞は流体力学を「知っている」、というセクシーな仕事でネイチャー論文を出し、マウス嗅覚系へ転向。現在は、ジャネリアのフェロー。経歴もセクシーやな。。。

嗅覚系の仕事としてはこちらがまず重要か。
Neuron. 2006 Aug 3;51(3):351-8.
Speed-accuracy tradeoff in olfaction.
Rinberg D, Koulakov A, Gelperin A.
急いては事を仕損じる、ではないが、じっくり時間をかけた方がパフォーマンスの精度は上がる、というのは経験的に知っている。けど、嗅覚刺激で意思決定をする場合もそうか、というのは実は最近まで論争があって、それに決着をつけたのではないかと思われる仕事。内田さんの仕事では操作できていなかったニオイのサンプリング時間というパラメーターも操作して、嗅覚系もやはり時間と精度の間にトレードオフが成り立つ、ということをマウスで明らかにした。

論争がなければ驚きではないわけだけど、この分野の文脈上、良い仕事になる。

さらに、マウス嗅覚系で脳状態依存的なスパースコーディングの話を同じ月に報告している。(なんと生産性の高い。)
J Neurosci. 2006 Aug 23;26(34):8857-65.
Sparse odor coding in awake behaving mice.
Rinberg D, Koulakov A, Gelperin A.
マウス嗅球mitral細胞のにおい選択性を覚醒中とKX麻酔中に調べて比較した、というこれまた面白い仕事。というか、目の付け所からキレを感じる。論文の書き方もうまい。

この論文では、覚醒中がよりスパースだ、という主張している。が、自分が誤解していなければ、彼の報告している自発発火の変化は主張と完全に矛盾している、、、エネルギー効率という意味では逆に悪くなってないかい?サンプリング・バイアスが非常に気になるところ。ちょっと時間があったら聞いてみよう。ちなみに、この人はジャネリアのフェロー。

Don Katz
Nicolelis研時代、味覚研究にマルチ記録を組み合わせ良い仕事をし(総説)、ブランダイズ大で独立。いまや、味覚系研究者の中では広く知られているのではないだろうか。コンスタントにJNS前後の論文を出していて生産性高し。最近の論文はこちら。
J Neurosci. 2008 Mar 12;28(11):2864-73.
Learning-related plasticity of temporal coding in simultaneously recorded amygdala-cortical ensembles.
Grossman SE, Fontanini A, Wieskopf JS, Katz DB.
味覚皮質と扁桃体から神経活動を同時計測し、ワンショット学習のCTA学習に関連して、その二つの領域の協調的活動が増強するというなかなか良い仕事を報告している。ZIPと組み合わせたらどうなるか知りたいところ。

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モチベーションや目標指向的行動関連。

Yael Niv
この人はDayanのお弟子さん?
こんな論文(Opinion)を出していた。
Trends Cogn Sci. 2006 Aug;10(8):375-81. Epub 2006 Jul 13.
A normative perspective on motivation.
Niv Y, Joel D, Dayan P.
トピックはモチベーション。要旨を読んでも何を言いうてるかさっぱり。。。
と、避けたくなる文献だが、ちょっと重要そうなので、少し読んでみる。(読んで、書き方がかなり悪い、と思ったのは自分だけではない気がする。TICS読者には、これくらいどうって事ないのだろうか。。。それとも自分の知識不足なだけか。。。もう少し素人にもわかるように書いてもらわんと。。。)

モチベーションの効果、古くは二つ考えられていたらしい(デカルトにさかのぼるらしい)。第一に、directing effectと呼ばれる効果で、行動の目標(例えば、お金をゲットする、Aさんを助ける)を決める時に役立つ。第二に、energizing effectと呼ばれる効果で、行動を支える活力を生み出す時に役立つ。後者は、心理学者Hullの言ったgeneralized driveと近いらしい。


前者のdirecting effectとモチベーションの関係はいろいろ知られているそうなのだけど、後者については論争があるらしい。そこで、この論文では、上のモチベーションの効果二つを、今の研究の文脈でとらえなおそう、という提案。

まず、モチベーションは、行動した結果(outcome)からその効用(utility)への対応付けである、という標準的な見方に沿う。そして、directing effectは目標指向的行動(goal-directed behavior)に影響を及ぼし、energizing effectはルーチンワーク化した行動(habitual behavior)をドライブするもの、という説を展開している。

難しい。。。

つまりは、ルーチン化した行動のモチベーションはenergizing effectとリンクする、という考えなのだと思われる。無意識的なモチベーションがルーチンワークの文字通り原動力になる、とでも言ったら良いのか?その説をサポートする証拠はほとんどないらしいので、それを検証する方法も提案しているようだ。

これが、この文献のあらすじ。

この文献に関する基本的重要コンセプトを、自分なりにまとめる。

まずgoal-directed behavior
このエントリーを通して、目標指向的行動ととりあえず訳した。訳になってない気もするが、英単語をそのまま訳すとそう間違った言葉ではないか。行動の目標が内面的に設定されている行動、とでも考えたら良いか。例は以下に出す。

その対極がhabitual behavior。習慣化した行動、ルーチンワーク。これはわかりやすいか。

何かを学習する時、前者から後者へ移行していく、ということは広く知られている。例えば、歯磨き。子供の頃、親にしつこく言われ「歯磨きしよう」という明確な目標、目的意識をもってやっていたことが、今は何も考えずに毎日やっている。研究の現場、例えば分子生物学のラボなら、エタチン。学部生、修士学生の時は、次はこうして、ああして、と目標を明確に設定しながらこなしていたことが、今日のランチは何を食べよう、などと全然他のことを考えながらでもできるようになる。

これらの例えが良いか知らないが、そういう明示的な目的・目標を設定して行っている行動(goal-directed behavior)から、いわゆるルーチンワーク化した行動へシフトする。その脳内プロセスを知ろう、というのが現代神経科学の大きな柱の一つではないかと思う。今回のカンファレンスを通して、このトピックはよく顔をだす。

そして、この手の話で度々出てくるキーワードはutility
経済学で言われる「効用」という言葉に近いというかそのままなのだろう。何かアクションをして得られた結果の満足度とでも考えたら良いだろうか。抽象的な言葉だけど、おそらくそれほど間違ってないはず。(素人丸出しだけど)

目標指向的行動は効用に対して感度が高い、とこの論文の出だしにもある。例えば研究現場。新しい実験をした時、期待に見合ったデータが出てくれないと仮に実験そのものがうまくいっても、それはルーチンワーク化にはつながらない。なぜなら、逆に仮説どおりの結果がえられた時と、実験そのものができたというoutcomeは同じだけど、効用が低いから。一方、「エタチン」といったルーチンワーク化した「習慣化した行動」は、その行動結果の効用はあまり気にならない。

実際の研究では、reward devaluationという報酬量をさげてもその行動が続くか観察して、ルーチンワーク化したか区別するようである(誤解してるかも?)。研究者もそうか。初めての実験で一回目うまく行けば、それを続けてルーチンワーク化し、後に失敗が続いても、一回目の成功で味をしめてるから、失敗が苦にならず続ける?つまり、ルーチンワークでは、効用は関係ない。

さて、モチベーションとの関係に話を戻す。
目標指向的行動に関しては、この難しい実験をやってネイチャー論文を出す!、といった感じで、モチベーションとの関係は直感的にもわかりやすい。が、問題なのは、ルーチンワーク化した行動とモチベーションの関係。

で、Nivの文献では、効用お構いなしで行われていそうなルーチンワークを支えているのが、モチベーションのenergizing effectだ、ということを言いたいのであろう。

これはヒトを含め、いろんな動物行動を理解する上でムチャクチャ大事な問題な気がする。このネタを話すかどうか知らんが、このNivさん、要チェック。


Peter Holland
知らなかったけど、有名っぽい。たくさん論文出している雰囲気だし。
総説はこちら。
Curr Opin Neurobiol. 2004 Apr;14(2):148-55.
Amygdala-frontal interactions and reward expectancy.
Holland PC, Gallagher M.
扁桃体(特に基底外側核)と前頭前野(特に眼窩前頭皮質、orbitofrontal cortex)の相互作用、特に目標指向的行動を生み出す報酬期待に関する処理についてまとめてあるようだ。こちらのエントリーとも関連があるか?


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Doug Nitz
例えばこちらを報告している。
J Neurosci. 2007 Mar 28;27(13):3548-59.
Adaptation of prefrontal cortical firing patterns and their fidelity to changes in action-reward contingencies.
Kargo WJ, Szatmary B, Nitz DA.
マウス前頭前野内側部から神経活動を計測して、アクションの結果とそれに基づくアップデートに関連する活動を報告している。(こちらで紹介済み)
ノイズ相関の問題にも取り組むなど、マルチ記録ならではのなかなか良い仕事。

Simon Killcross
J Neurosci. 2007 Aug 1;27(31):8181-3.
Dopaminergic mechanisms in actions and habits.
Wickens JR, Horvitz JC, Costa RM, Killcross S.
以下に登場するCostaと一緒に書いたミニ総説。
ドーパミン細胞は学習初期には関わるけど、後期にはその関わりが減る、ということと、目標指向的行動からその行動が習慣化するのと平行なことだ、という主張を、皮質―線条体の回路に注目しながら展開しているようだ。この人自身は、薬理実験を絡めた行動実験をやっているようだ。

Matthew Roesch
Schoenbaumのお弟子さんか。良い論文をたくさん出している。最近の良い論文はこちら。
Nat Neurosci. 2007 Dec;10(12):1615-24. Epub 2007 Nov 18.
Dopamine neurons encode the better option in rats deciding between differently delayed or sized rewards.
Roesch MR, Calu DJ, Schoenbaum G.
これはドーパミン細胞と強化学習という点でmust readな論文(たぶん)。なので、少し詳しく。

この論文では、ラットを対象に、VTA(ventral tegmental area)というドーパミン細胞がいるところからニューロン活動を計測したら、サルで報告されていたように、予測誤差を運んでいるような振る舞いをすることがわかった。これだけなら、JNSかJNPどまり。

この論文がホントに面白いのは、その一年前Morrisらの論文で報告されたサルのドーパミン細胞とは違う振る舞いをすることを見つけた点。

つまり、論争勃発。ラットとサルのガチンコ。

まず、ドーパミン細胞が関わる強化学習のアルゴリズムとして3つ考えがあるらしい。V learning, Q learning, SARSA。それぞれのアルゴリズムを、誤解を恐れずに、偉そうに説明してみる。(この論文を読むまで知らんかったけど。。。)

まずV learningはvalueのV。ドーパミン細胞は、選択肢の平均的な「価値」を運ぶ、という考え。例えば、5個の報酬、1個の報酬が得られるという選択肢を与えられたら、その平均3、という活動をドーパミン細胞がするという考え。

二つ目のQ learningは、動物の行動出力ではなく、ベストな選択肢の価値を常に反映したような活動をする、という超クレバーなアルゴリズム。上の例なら、常に5、という活動をする。仮に動物が1の選択をする場合でも5。(最大価値に関する文脈情報を運んでいる、という感じ?)

最後のSARSAは、state-action-reward-state-actionの略。ひどい名前だが、そういうジャーゴンだから仕方ない。これは、動物の行動出力に結びつく意思決定確率を反映した活動をする、というアルゴリズム。上の例で、もし動物が5:1の比でオプションを選ぶなら、1という活動をしたら確かに1を選び、5という活動をしたら5を選ぶ、という感じ。つまり、ドーパミン細胞の活動を見たら、サルがどっちを選ぶかわかってしまう、という話。

Morrisらの研究ではSARSAというアルゴリズムが予測するように、ドーパミン細胞はサルの意思決定確率を反映したような振る舞いを示す、と報告。一方、Roeschらの研究では、Q learningをしていそうだ、という主張をしている。(逆に言えば、V learningの可能性は消えた)

Roeschの論文のdiscussionは濃くて勉強になった。

そのdiscussionで、両者の食い違いの理由をいくつか挙げている。が、最も説得力がありそうなのは、過学習の問題。これは、Morrisらの論文に対するNivらの書いたNews & Views、その最後で、するどい突っ込みをいれていたことと同じ。

つまり、Morrisらの論文では、記録中、サルは「学習」する必要はなく(すでに半年など長期間かけて学習したことをやるだけだから)、ドーパミン細胞が運んでいる信号は単なる副産物的なものである可能性があって、ドーパミン細胞が強化学習中どんなアルゴリズムに沿って活動しているか、実は問えていない、ということ。

一方、Roeschの論文では、常に課題がブロックとして変化するように設定していて、「アップデート」が要求される。(ラットの課題としては非常に洗練されているし説得力もある)

それから、VTAと黒質の違いもあるかも?とも考察している。
確かにMorrisたちは黒質緻密部(SNc)から記録しているようだ。一方、Roeschの論文では黒質からは2個しか記録できなかったようで、サンプルしたほとんどのドーパミン細胞がVTAから。ハッピーエンドとしては、単に記録しているドーパミン細胞が違っただけ、というオチ。が、とにかくこの問題は次の論文へ持ち越し。

ちなみに、両者の神経核の解剖が面白い。VTAは背側線条体、辺縁系へ出力(新皮質も含まれている気もする)。黒質は腹側線条体といった、上で言うところのルーチンワーク系?へ出力。いろいろ仮説ができそうである。。。

ただし、このRoeschらの論文のドーパミン細胞の分類法、ちょっと気になる。
彼らの言うドーパミン細胞は常にスパイクのSN比が悪いとすると、薬を投与した後の変化は、実は電極ドリフトでも説明できるような気もする。。。ノイズに埋没する確率が増えて検出スパイク数が激減という解釈。薬の効果が見えてしばらくしたら、発火率がリカバーする、ということも言えないとロジカルに弱い。(というか、同じリファレンスのとり方をしているのに、スパイクの上下が反転しているのはかなりあやしい。おそらく電極と細胞の距離が細胞種の分類にかなり効いている。とするとこの論文の分類法。。。)

究極的には、intra, juxsta, あるいはイメージングでしっかり検証しないといけないのだろう。とすると、サルの話と折り合いをつけて決着するのか?という不安もある。。。ヒトのイメージングでVTAとSNcを区別できるのだろうか?もしできるなら、それが一番手っ取り早いか?

とにかく、この話は以下のSchoenbaum自身のトークと合わせて、今回の一つのトピックになるやもしれん。

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Mark Walton
Cogn Affect Behav Neurosci. 2007 Dec;7(4):413-22.
Probing human and monkey anterior cingulate cortex in variable environments.
Walton ME, Mars RB.
マカクのACC(anterior cingulate cortex)研究についての総説。ACCは、今おかれている文脈から次の行動を選択するような状況で、得られた結果の情報を解釈するのに重要だ、と主張している。なんだかようわからん。。。今回の面子の中では異色な気もするけど、上のNitzの話とも近いし、種を超えたACC、あるいは前頭前野内側部の機能を議論するのに良いスピーカーなのかも?

Adam Kepecs
Mainenや内田さんと良い仕事をしている。もともとは理論系の人なのか?最近の論文はこちら。
J Neurophysiol. 2007 Jul;98(1):205-13. Epub 2007 Apr 25.
Rapid and precise control of sniffing during olfactory discrimination in rats.
Kepecs A, Uchida N, Mainen ZF.
行動論文。ラットが鼻をくんくんとやるsniffingと、におい弁別能力や行動パフォーマンスとの関係を詳しく解析している。以下で紹介する内田さんが筆頭著者の総説との絡みで、しっかりsiniffingをモニターして行動との関係を調べよう、というモチベーションの論文なのだろう。

Randy Gallistel
この人も知らなかったけど、我がラトガーズ大の人のようだ。キャンパス違うけど。。。
Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Sep 7;101(36):13124-31. Epub 2004 Aug 26.
The learning curve: implications of a quantitative analysis.
Gallistel CR, Fairhurst S, Balsam P.
学習曲線にまつわる話。徐々に変化が鈍りながら、上昇していく学習曲線は、グループ平均によるアーティファクトで、個々のケースを見ると、いわゆるシグモイド関数的に、一気に立ち上がるものだ、と主張している。

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ここから4人はマルチな人たち。

Loren Frank
海馬マルチ系。最近、
Neuron. 2008 Jan 24;57(2):303-13.
New experiences enhance coordinated neural activity in the hippocampus.
Cheng S, Frank LM.
という超クールな仕事を報告している。
学習初期にリップルのような短い高周波のオシレーションが発生し、その最中にニューロン集団の時間的協調活動が見れると報告している。おそらくこの活動はドーパミン細胞の活動ともリンクするやも知れないので、今回のキーパーソンの一人だな。要チェック。

Matt Wilson
最近の代表論文は逆リプレー?この人はunpublished dataを話さない人かと思っていたが、先日のコサインではそうではなかったらしい。なので、どんな話をするのか楽しみ。

逆リプレーなんかも、やはりドーパミン系とリンクがあるのだろうか?確かWilsonもそのNature論文でそんなことを言っていたような、いないような。。。忘れた。もしそうなら、Frankの仕事との関係も含め、注目すべき現象か。

David Redish
ちょうど最近、総説を出たところ。
Curr Opin Neurobiol. 2007 Dec;17(6):692-7. Epub 2008 Mar 4.
Integrating hippocampus and striatum in decision-making.
Johnson A, van der Meer MA, Redish AD.
意思決定をキーワードに、海馬と線条体を統合的に理解しようという超精力的な話(ざっくりまとめると)。これからげっ歯類でマルチをやる人は、避けて通れないトピックになる予感。意思決定や将来プランニングと海馬との関係は種を超えたトピックに発展するのではないだろうか。(勝手な予想)それにしても、線条体(特に腹側)と目標指向的行動との関係、今回読んだ文献でもいろんな立場があるような印象を受けた。もう一つすっきりせず。

Geoff Schoenbaum
この人も有名人。上で紹介したRoeschのボス。
Schoenbaumといったら眼窩前頭皮質、というのが自分の理解。
J Neurosci. 2007 Aug 1;27(31):8166-9.
What we know and do not know about the functions of the orbitofrontal cortex after 20 years of cross-species studies.
Murray EA, O'Doherty JP, Schoenbaum G.
という眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex、OFCと略)のミニ総説も出している。OFCが顔を出すパラダイムについてまとめ、次の20年の課題をまとめている。が、上の3人の文脈で考えるとVTAの話がメインと考えるべきか。だとすると、次の2,3年先の海馬周辺研究を占う上で、重要な4人ということになるな。。。海馬とVTAの同時計測を誰かやってないだろうか?ラット海馬研究の発想で、どんな時にドーパミン細胞が活動するのか、「とりあえず見てみる」というのは面白い気もする。なぜなら、Schoenbaumの研究も含め、これまでの研究はあまりにも「実験室環境」という側面が強くて、実際のリアルワールドでいつドーパミン細胞が活動するのか、必ずしも明確ではない気がするから。

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XJ Wang
理論の大家。アルフォンソ先生の先生。意思決定関連で言うと最近こんな仕事を出していた。
http://wanglab.med.yale.edu/
Wong K, Huk AC, Shadlen MN and Wang X (2007)
Neural circuit dynamics underlying accumulation of time-varying evidence during perceptual decision making.
Front. Comput. Neurosci. 1:6. doi:10.3389/neuro.10/006.2007
LIPを想定した回帰性回路のシミュレーションと意思決定。2005年のShadlenたちの論文がモチベーションになっているようだけど、詳細はフォローしてません。どうでも良いけど、このFrontiersシリーズはPubMedに登録されないのだろうか?良い総説も掲載されてたりするのに。。。

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Naoshige Uchida
自分がアメリカに来た直後、ホームパーティーにお邪魔させてもらったり、SFNでは自分のポスターまで足を運んでいただいたりと、何かとお世話になってます。数年前ハーバードでPIとして独立され、かなりあこがれ。。。
ちなみに、内田さんの総説はこちら。
Nat Rev Neurosci. 2006 Jun;7(6):485-91.
Seeing at a glance, smelling in a whiff: rapid forms of perceptual decision making.
Uchida N, Kepecs A, Mainen ZF.
主に心理物理を含めた行動データを視覚と嗅覚の実験を中心にまとめ、意思決定の過程、特に時間的な側面について考察されている。サッケードとスニッフィングをアナロジカルにとらえて、断続的なチャンク単位の感覚処理が行われる、という説は非常に面白い。神経オシレーションとの関係も興味があるところ。

このアナロジー、ヒゲもおそらく成り立ちそうだし、味覚も咀嚼のリズムなどがあるから良いかもしれない。時間スケールの問題はよくわからんが。では、聴覚はどうだろうか?音楽や言語という意味では確かにチャンクに分けられるだろう。ということは、音楽なり言語の「リズム」の進化的起源は?というのが問題になるな。けど、言語と音楽のチャンクは運動と連動して初めて出てきたものと考えると、「チャンク」のオリジンは結局は運動系にあると考えても良いか。では、音楽と言語を除いた運動と聴覚の連動はいかがなものか。。。耳たぶは動かなくても、聴覚は機能するしな。。。単に周波数という波がすでにチャンクと考えられなくもないが、高周波になるとそれは速過ぎて無理だな。。。壁にぶつかった。。。聴覚はかなり異質な感覚系ということになるのか。。。研究対象としては扱いやすいと思っていたけど。。。かなり脱線。。。

Adam Mar
候補者は挙がったが、特定できず。。。

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再び、マルチな人二人。

Mark Andermann
Moore研の人。シリコンプローブを使って良い仕事をしている。
Nat Neurosci. 2006 Apr;9(4):543-51. Epub 2006 Mar 19.
A somatotopic map of vibrissa motion direction within a barrel column.
Andermann ML, Moore CI.
2x2テトロードタイプのシリコンプローブを使って、バレル皮質2/3層と4層からニューロン活動を記録(同時ではなく、シーケンシャルに)。そして、ヒゲ刺激に対する方向選択性が2/3層ではじめてでてきそうだ、ということを見つけている。(自分の記憶が正しければ、Sakmannたちのイメージングの研究結果と食い違ってるところもあった気がする。)細かいところだけど、テトロードを使ってるのにスパイクソーティングしてなさそうなところが玉に瑕。。。なので、この結果は複数のユニットのスパイクが混ざっている。とすると、解釈というかデータの見方が変わってくる気もする。。。

Mark Laubach
この人はNicolelis研出身で、インパクトのある仕事はこちら。マルチのスパイク解析に独立成分分析を使ったりと、解析に強そうな人。独立後に
Neuron. 2006 Dec 7;52(5):921-31.
Top-down control of motor cortex ensembles by dorsomedial prefrontal cortex.
Narayanan NS, Laubach M.
という良い仕事を報告している。こちらで紹介済み(良い具合でジャネリアの記事ネタもあり)。
内容的に大学院生の仕事っぽい(実験3部構成)から、大学院生第一号の仕事なのだろう。ちなみに、うちのラボにいるアーターが少しお世話になっていた。

この二人、確かにマルチな人だけど、データを取った後の一つ目の壁であるスパイクソーティングにどれくらいプロフェッショナルな経験と知識を持っているか不明。。。Laubachはニコレリス一派だったからスパイクソーティングの問題には目を瞑っている可能性がありそう。。。

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Genetics系の若手二人。

Susana Lima
自分の知ってる人なら、Miesenbock研で有名な恐ろしい仕事をして、今トニーラボのポスドク。どんなプロジェクトに関わっているかも知ってる。。。こういう危険な人には逆らわず、仲良くなりたいところ。。。

Walter Lerchner
この人も多分若くて、以下に登場するAndersonのラボから
Neuron. 2007 Apr 5;54(1):35-49.
Reversible silencing of neuronal excitability in behaving mice by a genetically targeted, ivermectin-gated Cl- channel.
Lerchner W, Xiao C, Nashmi R, Slimko EM, van Trigt L, Lester HA, Anderson DJ.
という論文を報告した人。線虫が持っているClを通すグルタミン酸受容体を改変してivermectinなる分子で開閉するようにする。そして、その受容体をマウスの線条体に発現させ、腹腔内投与でivermectinを与えると、4時間から12時間で線条体の活動を抑えられ、4日後には元に戻る、ということを報告している。

同時期にNpHRの話が出たからちょっとかわいそうではあるが、このシステムもすごい系である。むしろこちらの方が普及しそうな気もする。なぜかというと、従来の破壊実験を比較的簡単に(?)細胞種特異的な破壊実験に応用できそうだから。

LEDで脳を照らさずとも注射を打つ要領で活動抑制できてしまう簡単さ。もちろん、キャリブレーションの問題は残るが、従来のムシモール実験のバージョン2.0として超魅力的なシステムな気がする。さらなる工夫次第で、数箇所の抑制を組み合わせることも将来可能になる気もする。(と書いてはみたが、最近の総説などを読むと、いろいろ難題を抱えていそうか。。。)

けど、NpHRといい、Clが細胞内に流入しまくるとどうなるのか、その副作用がちょっと気になるところ。自分が知る限りNpHRの続報はまだ出てないし、副作用のチェックがいろんなラボで行われているのだろうか?

ところで、最近報告されたPALも相当にやばいな。あとはtwo-photonで操作できるケミカルかタンパク質の登場を待つばかり?というか、ケミストリーの記述にもついていけるように、勉強だけはしないといけないなぁと思う今日この頃。論文すら理解できなくなりそう。。。神経科学、心理学、数学・物理系、そして化学。。。意思決定の研究するなら、経済学の一部もか?必要な情報を光で脳に高速インストールできるようなツールを誰かに開発して欲しいと願う今日この頃。。。

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線条体がらみの二人。

Bernard Balleine
この人はラットをモデルに、前頭前野内側部と背側線条体を中心に意思決定と目標指向的な行動からそれが習慣化する過程について研究しているようだ。今回目を通した文献でよく引用される論文を書いているようだし、有名なのだろう。上のNivさんとも関連が強そうでキーパーソンの一人か。
最近で言えば、
J Neurosci. 2007 Aug 1;27(31):8161-5.
The role of the dorsal striatum in reward and decision-making.
Balleine BW, Delgado MR, Hikosaka O.
というミニ総説を彦坂先生と出している。背側線条体が意思決定に直接関わって、しかも種を越えた共通性がありそうだ、という議論を展開している。

Rui Costa
この人もニコレリスのお弟子さん。(確認できただけで今回4人もニコレリスの弟子がいる。ニコレリスは教育者としても一流のようだ。)ちなみに、この人の研究は、上で紹介したKillcrossさんのところで紹介したミニレビューでも名を連ねている。
ニコレリス研では、
Neuron. 2006 Oct 19;52(2):359-69.
Rapid alterations in corticostriatal ensemble coordination during acute dopamine-dependent motor dysfunction.
Costa RM, Lin SC, Sotnikova TD, Cyr M, Gainetdinov RR, Caron MG, Nicolelis MA.
という仕事をしている。ポイントは、線条体へのドーパミンは、皮質―線条体の協調的活動に重要、ということ。

研究では、ドーパミントランスポーターを欠損させたマウスの背側線条体と一次運動野からマルチ記録をしている。ドーパミンが過剰なhyperdopaminergiaから、AMPTなるドーパミンを欠失させるドラッグを投与して、akinesiaにした時の発火頻度と時間的な協調性の変化を調べている。

どちらの状態も発火頻度という点では同じだけども(遷移過程で一過的に発火頻度が上昇する、というのが非常に面白い。おそらくホメオスタシス的なことがシステムレベルで起こってるのではないか?)、協調性という点では違っていたらしい。hyperkinesiaでは非同期、akinesiaでは同期が上昇。ドーパミンは皮質―線条体の同期を妨げる方向に効いていると単純に解釈したらいいのか?パーキンソン病とDBSとの関係などがどうかよくわからないが、なかなか面白い。

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ここからはスーパースターのオンパレード。

Gyorgy Buzsaki
我がCMBNから、ギューリー先生。
間違いなくunpublished dataを話すだろう。
ネタは先日のシンポジウムと同じか。

David Anderson
Axelのお弟子さん?この人の仕事はフォローしてないけど、ハエのgeneticsを使ってinnate behaviorのシステム研究をしている人、というのが自分の理解。けど、上のivermectinの系はマウスでやってるし、とにかくgeneticsを使ってシステム研究してやろう、という人なのだろう。ちなみに、最近のハエの論文はこちら。
Curr Biol. 2007 May 15;17(10):905-8.
Light activation of an innate olfactory avoidance response in Drosophila.
Suh GS, Ben-Tabou de Leon S, Tanimoto H, Fiala A, Benzer S, Anderson DJ.
GAL4システムでChR2をab1cニューロンに発現させ、「バチバチ」やって、ハエの逃避行動を再現している。謝辞でNadasdy(ブザキ研出身)にラスターの描き方を手伝ってもらった、とあるから、神経生理学はど素人なのだろうか。。。(細かいツッコミ)

Karl Deisseroth
「神経科学業界の山中先生」とでも言ったら良いか。
きっとおそろしいunpublishedネタを話してくれるのだろう。
聞きたいような、聞きたくないような。。。

Karel Svoboda
今回のカンファレンスの文脈でどんなネタをトークするのか、予測不能。シナプス可塑性の話はちょっとピントがずれそうだから、in vivoのChR2ネタの続報か?AndersonからSvobodaまでは光まくりそうだな。。。バチバチ。

David Tank
この人もたくさんネタをストックしてそう。
個人的にはこちらの続報を聞きたいところ。

以上。ふー。。。
(もしもここまで読まれた方がいらしたら、ホントお疲れ様でした。。。)

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何を学ぶ?

豪華かつ充実な顔ぶれ。最後の5人は、意思決定が絡まなくてもヤバイ人たち。。。ギューリー先生は別次元でもヤバイか。。。

こうしてみると、ポスドククラスの若手からテニュアトラックの中堅、そしてベテランから大御所まで、非常にバランスが取れている。面子を見て思ったが、理論から実験の最前線へ、あるいは分子生物学からシステム研究へ進出している人たちが確実に頭角を現しているなぁという印象を受ける。マルチな人の層の厚さもさすが米国。あと、こういうミニ学会で、カルテル的なコミュニティーが形成されるのだろうなぁという気もするようなしないような。。。大人の世界か。こういう壁はウェブが発達しても取り除けない壁のような気がする。う~ん、いろいろ考えさせられる。。。

ただし、面子は確かにすごいけど、回路という意味ではちょっと物足りない気もしないでもない。(おいおい。。。)genetics系の人と、バリバリシステムな人とのギャップをかなり感じる。例えば、スライス実験で意思決定の問題に迫るなんてぶっ飛んだ研究はできないだろうか?意思決定を、二つの状態のうちどちらかへ遷移する過程、ととらえることができるなら、in vitroの系へ落とせる気もする。アブストラクトなレベル、あるいはメカニズムを考える上で、そういう研究から学べることは多そう。

逆に言えば、回路の問題と意思決定の問題の融合というのは、安易な発想かもしれないが、ごくごく近い将来、げっ歯類ならではの研究トピックになるやもしれない。コアなツールはかなり揃ってきた気もするし。そのあたりを含め今後の方向を模索するのも、今回の趣旨の一つなのかもしれない。

とにかく、げっ歯類で、これから実験方法論にこだわりを持ち、さらには理論も絡められるものなら絡め、できるだけ良い行動系でDecision-Makingなどの認知機能の研究をしたい、という場合にはかなり魅力的なカンファレンスと予想される。自分の目指したい方向もこちらなので(こう見えても)、ちょっと時間をかけて、つぶやきモード爆裂で、予習してみた。

予習をやってみて、招待された人がなぜ招待されたのか、その意図が自分なりに汲み取れて、招待者同士のリンクもちょっと見えて、すでに交通費分はもとを取れた気もする。

ちなみに、自分はポスター発表をする。自分の発表内容、かなり浮くな。。。テクニカルな質問が多いのか、それとも優秀な人が多そうだから、やはり鋭いツッコミをどんどん受けてタジタジになるのか、楽しみではある。

とにかく、たくさん知り合いができるよう、気合をいれて発表したります!
職探しに役立つコネ作りになるやもしれんな。。。(結局これ)

2 comments:

Anonymous said...

Andersonは神経発生や神経分化の大御所ですね。MASH1もこのグループではないでしょうか。間違っていたらすみません。

Shuzo said...

ありがとうございます。全然知りませんでした。。。ということは、ここ最近手を広げてきたということなのですね。
これからもよろしくお願いします。