4/26/2008

大小の意思決定

意思決定 強化月間中。
ブレーンストーミングとして、脳と距離を置いてみた。

小さな意思決定:細胞の運命決定
アインシュタインが

I, at any rate, am convinced than He does not play dice.
と言って、量子力学支持者と論争を繰り広げたのは有名。

生命科学という意味でも、アインシュタインの「神はサイコロを振らない」という洞察は、正確ではなかったようだ。最近サイエンスに、細胞の運命決定の確率的な側面に関してまとめた総説が掲載されいた。すばらしく面白い。

バクテリアから哺乳類の網膜まで、サイコロを振るような不確実な確率的な過程が、細胞の運命決定にどう貢献するか、現時点での理解がまとめられている。

ポイントだと思ったのは、ノイズとその増幅。
「ノイズ」が、細胞の意思決定を左右するけど、それだけでは不十分で、そのノイズを「信号」にする増幅機構が本質か。

この総説で紹介されていた具体例は、バクテリアのベット・ヘッジング的戦略、嗅覚系や視覚系の感覚受容細胞レベルでのエコノミカルな戦略としての確率的遺伝子発現、線虫やハエの発生中の細胞間側方抑制による細胞運命決定、が取上げられていた。

この総説、次のように締めくくられていた。
in conrast to Einstein’s view of the universe, she also knows how to leave cerain decisions to a roll of the dice when it is to her advantage.
規律に厳格な神、気まぐれな女神。

文献
Science. 2008 Apr 4;320(5872):65-8.
Stochasticity and cell fate.
Losick R, Desplan C.

最近のニューヨークタイムズの記事もきっとこの総説にインスパイアされてる気がする。


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大きな意思決定:動物集団のコンセンサス

次は、動物のグループとしての意思決定。
Couzin研究は、以前も少しだけ取上げたけど、やはり面白い。

個体同士が相互作用する時、どういうルールで自分の動く方向を決めるか、ごくごくシンプルなルールだけを仮定する。そして、動物がグループとしてどのように意思決定するか、シミュレーションで調べている。

各動物の動きの決め方に関するシンプルなルールだけで、情報(行き先を知っている個体の進行方向の情報)が伝播していき、自己組織的に集団の行動が決まる。

ごく少数の個体(リーダー、ボス)が行くべき方向を知っているだけで良く、残りの大多数は、近視眼的に、他者と衝突しないように協調していくだけで良い。

もしリーダー同士の競合がある場合、リーダーの好みの方向にフィードバックをかける仕組みをいれると、妥協的な意思決定ではなく、どちらかのリーダーの方向にコンセンサスが得られるようになる。

「リーダーの好みの方向にフィードバックをかける仕組み」
これはまさに、ノイズとその増幅。

細胞レベル、動物個体レベルでアナロジーが成り立つなら、その中間のレベルもアナロジーを当てはめて良い気がする(もちろん、さらに上?のヒトのグループ行動についても)。

地に足はついていないけど、真剣に考えて良い気もする。

文献
Nature. 2005 Feb 3;433(7025):513-6.
Effective leadership and decision-making in animal groups on the move.

Couzin ID, Krause J, Franks NR, Levin SA.

Trends Ecol Evol. 2005 Aug;20(8):449-56. Epub 2005 Jun 2.
Consensus decision making in animals.

Conradt L, Roper TJ.
エコロジーの総説だけど、動物集団の意思決定、特に二つ以上の選択肢がある状態(conflict of interest)からどちらかにコンセンサスを得るような集団行動について、包括的にまとめられている。上のCouzinの研究は、そのコンセンサス意思決定に自己組織的な要素があることをモデルで示した研究、という位置づけになるか。

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