1/13/2008

なぜ多様性が必要か?

If we’re in an organization where everyone thinks in the same way, everyone will get stuck in the same place.
(みんな同じ考え方しかしない組織にいたら、みんな同じところで行き詰るだろう。)


これはScott E. Pageというミシガン大の人のコメント。
ニューヨークタイムズ紙に彼の記事が掲載されていた。この人は複雑系の研究者で、「多様性(diversity)」をキーワードに経済、政治、社会科学に関連した問題に取り組んでいるようだ。

彼はThe Differenceという本を出版していて、この記事はそれに関するインタビューとなっている。自分はこの本はまだ読んでいない。けどこの記事によると、この本が扱っている問題は、なぜ多様性が組織にとって重要で、多様性はどのように組織としての生産性を高めるか、ということのようだ。

インタビューのコメント、示唆に富んでいた。上のコメントは、最も印象に残ったコメント。多様性が必要な理由。

脳科学の文脈で考えると、少なくとも二つの点で参考になるかも?と思った。
まずは研究を進める上での話。研究戦略の話。第二は、研究対象の脳の働き方。

前者の研究戦略について考えてみる。
(脳を知るには研究戦略が大事だから。神経科学に限らない話な気がするから)

ようは、異なるバックグランドを持った人材を動因して一つの大問題に取り組むことが重要、という言うは易し・・・的なことなのだろう。

確かに、仮に同じバックグランドを持った人で構成された研究チームだとすると、例えば、統計処理をどうしたら良いのかわからなかったり、とある実験をどうすれば良いのかわからなからなかったりしそう。一人でもその道のプロがいたら、いとも簡単に解決するような問題に、無駄に時間と研究費を浪費しそう。

今の脳科学、少なくとも自分の分野はとにかく総合力が問われる。実験をするだけでも、神経科学の知識はもちろん、プログラミングというソフトから計測装置のハードの知識、そして電気ノイズというわけのわからないものに対する知識・経験がいる。解析となると、統計の知識が不可欠。そういう意味では、多様性を持った研究チームというのは、研究を潤滑に進める上で非常に大事な気がする。

実際上の問題は、如何にそんなチームの構成要員になるか?そして、如何にそんなチームを構成するか?

前者に関しては、最近は例えば物理系のバックグランドを持った人が確実に神経科学へ移ってきているので、そういう多様な人たちがいる研究室、そういう人を積極的に採用している研究室へポスドクなり大学院生として加わる、という道を探ることになりそう。自分が知っている範囲でも、日本にもそういう研究室がある。

後者に関しては、自分が今いる研究室は悪くない見本か。(成果という点ではまだだけど。。。)
ボスは物理系出身で、実験をしたことない。一方、自分の物理の知識は高校生レベルでスタック中。。。けど、実験のことなら、少なくともボスよりは知っている。でないと困るか。

他のメンバーを見ると、物理・数学系の出身者が他に2人。神経生理学のプロが一人。さらに、工学系出身のポスドクに、コンピューターサイエンス出身の大学院生。。。

よくもこんなに多様な人材を集めたなと思う。
なぜ集まったか考えるに、ようはボスが独立する前に非常に良い論文(いわゆるCNSクラスの論文)を出していることがクリティカルな気がする。実際、自分が今のラボを選んだのはそれによるところが大きい。結局はハイディフィニションな論文が、多様な人材を集めるための一つの必要条件ということにはなりそう。。。

一つのロジックはこうか:
多様な人が読む良い論文を出す→PIになる→多様な人材を集める努力をする

もちろん、PIとしての人間性も非常に大事だから、他のロジックもあるとは思う。

多くの研究者に読んでもらえる良い論文を書くまでは、安易にPIにならない方が良い気がする。多くの人に読んでもらえる論文も書かずに、下手にPI職について、例えば5年というタイムリミットをスターさせたとする。その場合、

多様な人材を集められない→単純な問題でスタック→生産性低下→予備データを得られない→グラントがあたらない→研究費ゼロ→ファイア

という容易に想像できる道を歩むだけな気がする。
PI職、確かに給料が少しはアップして、「独立して自分の裁量で研究ができる」という魅力にあふれてはいるが、その前の重要なステップをすっ飛ばすのは逆にリスクを上げるだけ。

だいぶ話がそれた。。。

話は、多様な組織。
多様性に加えて思うことがある。

それは柔軟性

例えば、昨夜のNFLのプレーオフ(またか)。ニューイングランドのオフェンスを見ていても、ワイドレシーバー以外のいろんな人がレシーバーとして働いていた。多様な仕事・ポジションに加え、柔軟性を発揮する人材も揃えば、確実にタッチダウンを奪える無敵チームを編成できるのかも。

多様性にフォーカスを当てているPageさんのThe Difference、日本語訳の出版が予定されているそうだ。

4 comments:

takezo said...

確かに、多様性と柔軟性って必要ですね。私のボスもそんな感じですが、やはり多様性に富んだメンバーを引っ張るには、強いリーダーシップと研究能力が必要なんだろうなぁと思います。
ちなみに、僕はペイトリオッツに頑張ってほしい派です・・・ブレディに魅了されてNFL好きになったので(すいません)

Shuzo said...

ペイトリオッツ、強すぎです。。。
仮にジャイアンツがスーパーボウルに進んでも、恥ずかしい試合をするだけのような気がして、次も勝ってほしいやら、もう少し期が熟すまで待って欲しいやら、、、という心境です。

Anonymous said...

はじめましてmm3といいます。時々ブログを覗かせていただいていました。ちなみに私は、先週ペイトリオッツに敗れたチームのホームタウンで、細々と脳研究をしています。バックグラウンドは医師ですが、大学院でコテコテの分子生物学ラボで修行して、今やっと脳研究の入り口に立ったところです。
分子生物学にしても脳科学にしても複雑なものを解析する方法論のブレークスルーが数学など別の分野から出てくるのではないかと期待し、ウェブを散策している途中でこのブログに出会いました。このブログのエントリーについては、まだまだ内容をフォローできるほどの知識も持ち合わせていませんが、漠然とですがshuzoさんが話題にされている内容は、私が常々挑戦してみたいと思っていたことと重なることが多いように感じ、半ば嫉妬しながら楽しませていただいております。

さて、今回の多様性というテーマですが、残念ながら今のラボは、そういった意味での多様性には乏しいですね。ひとりで様々なことを網羅するようにがんばったとしてもたかが知れていますので、やはり各分野の専門家が共通の目標にむかって集うというスタイルが理想的な気がします。
今後もブログのエントリーを楽しみにさせていただきます。

ちなみに、今日はプレスタイルが似ているチャージャーズを応援していたのですが、あえなくペッツにしてやられましたね。申し訳ありませんが、相方が昔ウィスコンシンにいたことがある(made in Japanです)ので、いまはパッカーズを応援しています。

Shuzo said...

mm3さん、はじめまして。
コメントありがとうございました。

> shuzoさんが話題にされている内容は、私が常々挑戦してみたいと思っていたことと重なることが多いように感じ、半ば嫉妬しながら楽しませていただいております。

ブログのエントリーにしている内容のほとんどは、私の現在の研究テーマとは直接関係のないことが多いです。ですので、私も嫉妬しながら勉強してはエントリーを立てているしだいです。。。嫉妬されるような研究を自分の手でしてみたいものです。

ところで、ジャイアンツ、勝ってしまいましたね。ファンの自分でも、「新生」Eliが半信半疑だったりします。レギュラーシーズンの彼を知ってるだけに。。。けど、ジャイアンツのディフェンスは安定感があるので、ブレイディーのperfectionを止めて欲しいと願っております。

それはともかく、今後もよろしくお願いします。