1/05/2008

エクササイズと脳

エクササイズは身体だけでなく、心にも良いか?

トレーニング・エクササイズphysical exercise)をすると、何となくすっきりした気分になる。エクササイズをする時、もちろん脳も働いているわけで、脳科学との接点も大いにありそう。今年はオリンピックイヤーだからか、昨年末から「エクササイズと脳」をテーマにした論文を目にする(気のせいか?)。何でも「脳」をつけたら良いわけではないけど、「オリンピック脳」とでも言ったら良いかもしれない。

そんな安っぽいタイトルの本が出版されるのに備えて、脳とエクササイズとの関係を扱った論文のうち、最近発表されたものを簡単に調べてみようと思う。ちなみに、この分野は全くの無知で、本文はしっかり読んでおりません。。。(まさに安っぽい?)

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エクササイズは脳を活性化するか?

エクササイズの脳に対する効果について、幅広い内容をまとめた総説が出ている。
この分野の歴史から、人・動物の研究、行動レベルから細胞・分子レベルの研究まで包括的に扱っているようだ。「エクササイズは、認知機能・脳の働きに有益である」という説を様々な角度から裏付ける証拠は確かにあるようだ。

生涯にわたってエクササイズを続けることは、心身の健康維持に結びつき、ひいては病気による経済損失を軽減する効果も期待できるのでは?といったことを主張しているようだ。


文献
Nat Rev Neurosci. 2008 Jan;9(1):58-65.
Be smart, exercise your heart: exercise effects on brain and cognition.
Hillman CH, Erickson KI, Kramer AF.


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エクササイズ生理学

新着のJournal of Physiologyでは、「エクササイズ生理学」の特集が組まれている。
もちろん、脳とエクササイズのテーマも含まれている(以下参照)。こちらがこの特集のアウトラインで、一般的なエクササイズというよりは、まさにオリンピックレベルのアスリートを対象にしたエクササイズ生理学を扱っている印象。いわば「オリンピック生理学」か。

上で「オリンピック脳」とは言ったが、エクササイズには脳以外の体の部分も大いに関わるので、その記事にもあるように、より広い範囲で「システム」を扱う分野だ、ということになる。なるほど。確かにこの分野は歴史ある「システム」を扱う研究分野だ、というのが伝わる。

文献
J Physiol. 2008 Jan 1;586(Pt 1):9.
Exercise physiology and human performance: systems biology before systems biology!
Joyner MJ, Saltin B.


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The Olympic Brain??

同じくその特集号に、まさにオリンピック脳」というタイトルの論文が掲載されている。ただし、タイトルとは裏腹に、この論文では、運動制御に関わる運動野と脊髄の可塑性を比較的地味にまじめに扱っている。オリンピックという究極の運動制御との溝はまだかなり大きいか。

ちなみに専門的になるが、この文脈では、最近報告された論文は関わりそう。その研究では、運動野の神経細胞の活動と筋肉活動の関係は柔軟で、その柔軟性を支えているのは、特定の神経細胞の単純な活性度ではなく、筋肉活動の「文脈」や神経細胞たちの時間的な協調性だということを明らかにしている。非常に面白い研究。


文献
J Physiol. 2008 Jan 1;586(Pt 1):65-70. Epub 2007 Aug 23.
The olympic brain. Does corticospinal plasticity play a role in acquisition of skills required for high-performance sports?
Nielsen JB, Cohen LG.

Science. 2007 Dec 21;318(5858):1934-7.
Rapid changes in throughput from single motor cortex neurons to muscle activity.
Davidson AG, Chan V, O'Dell R, Schieber MH.


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エクササイズと脳と遺伝子とうつ病予防

エクササイズによって脳でどんな遺伝子が働き出すか、という視点で研究した論文が年末に出ている。

マウスに運動させた後、どんな遺伝子が働きだしたか海馬で調べた。そして、働き出した遺伝子群の中のVGFという神経成長因子に注目して研究。すると、そのVGFは抗うつ剤投与時に働くと知られていた遺伝子群と関わっていそうだ、という意外なことがわかった。つまり、うつ病予防・治療の新しいターゲットとして、VGFが新たな候補として挙がったことになる。

ちなみに、この論文は英語版wikipediaでもすでに引用されていた。wikipedia恐るべし。。。ちなみに、そのwikipediaのエントリーには他にも情報源を示しながら脳とエクササイズの関係が少し紹介されている。

文献
Nat Med. 2007 Dec;13(12):1476-82. Epub 2007 Dec 2.
Antidepressant actions of the exercise-regulated gene VGF.
Hunsberger JG, Newton SS, Bennett AH, Duman CH, Russell DS, Salton SR, Duman RS.


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おまけ~ゴルフパット中の脳内リズム

最後に紹介する研究はこうだ。
ゴルフエキスパートのパット精度と、脳内リズムとの関係を調べたところ、前頭葉のα波が小さくなるほどパットの精度が良い、と主張している。

実際のデータを見ると、上級者かどうか疑わしい一人の「上級者」の影響が出ているようにも思えなくもない。。。研究はイタリアで行われたようで、イタリアらしい楽しげな研究ではある。(ゴルフはメンタルスポーツだから、その関係で詰めていっても面白いかも?専門的にはongoing activityとの関係。)

文献
J Physiol. 2008 Jan 1;586(Pt 1):131-139. Epub 2007 Oct 18.
Golf putt outcomes are predicted by sensorimotor cerebral EEG rhythms.
Babiloni C, Del Percio C, Iacoboni M, Infarinato F, Lizio R, Marzano N, Crespi G, Dassù F, Pirritano M, Gallamini M, Eusebi F.


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何を学ぶ?

この病んだ世の中の救世主的な研究分野という気がちょっとした(大げさだが)。ゲームやバーチャルワールドにはまってないで、もっとエクササイズしろ!、と一見時代錯誤とも思える主張を、科学的な根拠を持ってできるすばらしい研究分野だという気もする。

とにかく、この分野注目しておこう。そして、この分野の成果をもとにWii2.0的なツールたちが出てくることを期待したい。脳の念力だけで世の中生きようというThe Matrix的方向は、おそらく間違っている。

一方、冒頭で「安っぽいタイトルの本が出版されるのに備えて」と書いたが、確かに簡単に本を書けそうな危険な分野でもある気もした。。。脳はお金の素。。。

もしも本を出すなら、「今年は運動不足解消!」と張り切っている人が多そうな今がベストか。間に合わないなら夏頃か??

北京オリンピックは8月。

頑張れニッポン!!

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