2/14/2009

愛の神経生物学

バレンタインデーにちなんだ「愛」あふれる話題、ということで。。。

少し前、Larry Youngがネイチャーにエッセーを書いて、新聞でも話題になった。

著者のLarry Youngは、ハタネズミの一種、プレーリーハタネズミ(prairie vole)の「一夫一妻制」を、遺伝子レベルから研究していることで有名。

そのエッセーでは、「愛」をテーマに、母親と子供、あるいは女性と男性の「愛」に関わる脳内メカニズムを簡単にまとめ、それを応用したドラッグの話へ話題を展開しながら、「愛の神経生物学」の現状と将来を語っている。

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ここでキーワードになるのはオキシトシン(oxytocin)とヴァソプレッシン(vasopressin)。今回の文脈で言えば、「愛ホルモン」としての顔を持つホルモン、とでも言ったら良いかもしれない。

オキシトシンとヴァソプレッシンは、メスとオスの本能的な社会行動との関連がそれぞれわかってきている。エッセーでは、ハタネズミの研究でわかってきたこと、ヒトとの共通点が簡潔にまとめられている。

例えば、オキシトシンは脳内のドーパミン報酬系回路とも関係があることや、ヴァソプレッシンの受容体AVPR1Aという遺伝子の違い(多型)が、男性の父性本能的な行動(結婚生活も含む!)の違いに結びつきそう、とする最近の研究も紹介されている。

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エッセーの後半では、オキシトシン関連商品のEnhanced Liquid Trustといったドラッグ(スプレー)の話題にうつり、研究成果と現実社会とのリンク、その将来について語っている。

例えば、そのスプレーの効果は、ユーザーの自信を高揚する以外何もしないだろう、としながらも、オーストラリアではそのオキシトシンスプレーが心理療法の一種、家族(夫婦)療法に効果があるか実際調査中だとも書かれている。

将来、遺伝子診断でパートナー選び、という可能性にも触れ、最後にこう書いている。

recent advances in the biology of pair bonding mean it won’t be long before an unscrupulous suitor could slip a pharmaceutical ‘love potion’ in our drink. And if they did, would we care? After all, love is insanity.
研究成果を利用した悪徳商売が世に出ようが、別にいいではないか。結局、愛は心の病なんだし、とやや挑戦的なコメント(オチ?)で締めくくっている。

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参考・関連文献

Nature. 2009 Jan 8;457(7226):148.
Being human: love: neuroscience reveals all.
Young LJ.
今回紹介したエッセー。

以下の二つは、Youngたちが書いた総説。
Science. 2008 Nov 7;322(5903):900-4.
Oxytocin, vasopressin, and the neurogenetics of sociality.
Donaldson ZR, Young LJ.

Nat Neurosci. 2004 Oct;7(10):1048-54.
The neurobiology of pair bonding.
Young LJ, Wang Z.

ちなみに、Youngの研究室のホームページがなかなか充実していて、一見の価値ありです。

Advances in Vasopressin and Oxytocin - From Genes to Behaviour to Disease (Progress in Brain Research)
という本はこの分野をフォローするのに良さそうです。

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