8/23/2008

無意識下の行動から将来の意思を予想する

オバマ?マケイン?どちらを応援するか?

もしまだ意思決定していない人がいたら、その人のautomatic mental associationなるものをテストで測れば、その人が将来どちらを応援するか、票を投じるか、高い確率で予測できるかもしれない。それに近いことを、GaldiとGawronskiたちの共同研究グループが新着のサイエンスに報告している。

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その論文では、大統領選挙ではなく、イタリアVicenzaの住民129人を対象に、米軍基地拡張の賛否に関する意思決定をテーマに調べている。

テストでは主に3つの情報を参加者から集めている。
基地拡張の賛否(choice)に加え、アンケート形式で米軍基地に関する意見(意識的に思っていること、conscious beliefs)を聞き、そしてautomatic mental associationを測るための単純なテストを行ってもらう。

choiceconscious beliefsautomatic associationsの3つの情報を集める。

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automatic mental associationというのは、二つの事柄が、無意識のうちに、意図とは関係なく結びついていること、結びつくことを指すようだ。例えば、人によって、米軍基地と悪が無意識のうちに結びつきやすいようなことを想像すれば良さそう。

そのautomatic mental associationを測るために、Single Category Implicit Association Testというテストを行っている。このテストの狙いは、米軍基地と良いことがautomatic mental associationを起こしやすいか、それとも悪いことと起こしやすいかを測ること。

具体的には、正と負のカテゴリーに分けられる言葉(例えば、楽、幸せ、危険、痛みなど)と、米軍基地に関連した写真を参加者に見せる。そして、言葉、写真がコンピューター画面に映し出されるたびに、右か左かのボタンをできるだけ早く正確に押して答えてもらう。

実際のテストは3つのブロックからなっている。
第一ブロックは練習。正負いずれかの単語が表示されるので、正のカテゴリーに入る単語だったら左、負だったら右のボタンを押してもらう。

第二ブロックからが本番。
その第二ブロックでは、単語の正負のカテゴリー分けのルールは同じ。さらに、その単語の間に米軍基地関連の写真が表示される。もし写真が表示されたら正の言葉と同じ左を押してもらう。

第三ブロックでは、写真だったら負の言葉と同じ右を押してもらう。

そして米軍基地に関するautomatic mental associationをDアルゴリズムなる方法で測るそうだ。

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研究では、このテストの1週間後に再び参加者に来てもらって、全く同じことをやってもらう。choice、conscious beliefs、automatic associationsの3つの情報を再び集める。

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その結果わかったことは次の通り。

まず1週間前にすでに意思を決めていた人について。
1回目のconscious beliefsの結果から、1週間後2回目のautomatic associationsの結果を、統計的に有意という意味で、予測できることがわかった。当然ながら、1回目のconscious beliefsの結果から、2回目の意思(choice)を非常に高い確率で予測できた。

続いて、意思を決めていなかった人について。こちらが興味深い。
1回目のautomatic associationsの結果から、1週間後2回目のテストのconscious beliefsの結果を予測できることがわかり、さらに、1週間後の意思を約70%の確率で予測できることがわかった。

つまり、まだ意思決定していない人がいても、その人のautomatic mental associationを調べれば、将来の意思決定を高い確率で予測できる、ということになる。

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今回の研究、automatic mental associationを測ることそのものが、将来の意思決定にどれくらいバイアスをかけるのか、非常に気になる。実験としては、米軍基地と正負の言葉との連合のバランスを表面的にはとっている(2つのブロックでテストしている)。が、そのバランスをとる実験デザインが、逆にバイアスを助長しないのか気になる。好きなもの同士を結びつけるのは簡単だけど、嫌いなもの同士を結び付けるにはパワーがいる。

例えば、福田首相の写真と、好きな言葉を結び付けろ、と言われたら、「少し嫌い」だった福田首相が「とても嫌いな福田首相」になる気がする。

それから、automatic mental associationと呼んでいるのは、ホントに無意識下のものを測っているのか、気になった。データを見れば、conscious beliefsとの関係が弱いから、無意識下のものを測っていると解釈すべきなのだろう。しかし、政治に関する意思決定は、一度には意識にはのぼらせることが無理なくらい相当多くの意識的な情報を総合した結果下されるだろうから(その意味では、エビデンスを積み重ねて閾値に達するまでの道のりが遠い)、どこまで意識下のものでどこまでが無意識下のものか、非常に判断に困るし、個人差も非常に大きい気がする。そのあたりの詳細までこの研究をフォローしてはいないが、気になった。

今回の結果、確かに面白いけども、今後いろいろ論争を巻き起こしそうな印象を受けた。脳活動計測を絡めながら議論しないといけない問題なのだろう。

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文献情報

Science. 2008 Aug 22;321(5892):1100-2.
Automatic mental associations predict future choices of undecided decision-makers.
Galdi S, Arcuri L, Gawronski B.

ポドキャストではGawronskiさんがインタビューを受けて、研究のアウトラインを説明してくれています。
Perspectiveとして解説記事あり。

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