ここ数ヶ月、ブログの更新頻度が低下してます。
すみません。。。
セルフプロモーション的エントリーばかりで自分でもウンザリ気味です。
すみません。。。
一方で、右のガジェットコーナーでは宣伝していたので、気づいていた方も多いとは思いますが、数ヶ月前からtwitterを始めてます。
最近、自分なりの使い道が少し見えてきた気がするので頻繁にtweetするようにしています。
神経科学をまじめに考えたい・勉強していきたい人たちとネットワークを作れれば良いなぁ、なんて思ってます。
英語でtweetしてたりもしますが、twitterは日本語の強みを活かせるソーシャルメディアだと思っているので、このブログでもあえてエントリーを立ててみました(って、またセルフプロモーションしてるし。。。)。
twitterではセルフプロモーションは控え目ですので、ウザいと思わずぜひフォローしてやってください。
11/15/2009
11/11/2009
自発活動と聴覚応答の層構造
大脳皮質で感覚の情報を処理する「感覚野」という場所があるけど、そこは感覚情報だけを処理しているだけでなく、感覚入力がない時でも活発に・自発的に活動(活性化?)している。
Neuronに掲載された論文によると、聴覚野で起こる自発的な活動と音に対する応答を神経細胞集団レベルで調べてみると、空間的な活動パターンには似た点があるけど、時間的な活動パターンは違うことがわかった。
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寝ている時や、ボーっとしている時でも脳は活発に活動している。
一般に、感覚入力や運動出力に直接起因しない脳活動を「自発活動」と呼び、それは脳が働く様々な場面で重要な存在だとわかってきた。
例えば、少し前に出版された池谷さんの単純な脳、複雑な「私」の中でもこの自発活動のことが、非常にわかりやすく、いろいろな視点から語られている。
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さて、その自発活動の研究分野で注目されているトピックの一つは、自発活動と感覚応答の類似性。
例えば、自発活動を脳(視覚野)の表面から見ていると、視覚入力で起きる神経活動と区別できないことがある。以前のエントリーでも紹介したように、視覚野だけでなく、聴覚野や体性感覚野でも似たことが起こっている。
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では、自発活動と感覚応答の違いは何か?
今回の研究では、大脳新皮質が6層構造を持つことに注目して、ラットの聴覚野で神経集団活動を計測し、その「層構造」を解析している。そして、自発活動と聴覚応答の似ているところと違うところを調べた。(*自発活動の中でもup状態と呼ばれるイベントに注目している。)
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自発活動と感覚応答の違いは、活動伝播の仕方。
自発活動は、深い層から浅い層へ縦方向に活動が生じて、水平方向にはウェーブのように比較的ゆっくり伝播していく。
一方、感覚応答は、視床からの入力線維がたくさん集まっている層から始まって他の層へと縦方向に伝播。水平方向には、ウェーブというよりはフラッシュのように広い領域でほぼ同時に活動が現れる。
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けれども、自発活動と感覚応答はやっぱり似ているところもある。
どう似ているかというと、神経集団のうちどれくらいの細胞がイベントに参加するか、という「スパースさ」が似ている。
脳の表面から浅い層(2/3層)の錐体細胞は、抑制性細胞や深い層(5層)の錐体細胞よりも少ない数の細胞しか活動していない。この傾向が、自発活動と感覚応答で似ていた。
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まとめ:
聴覚野内での自発活動と感覚応答は、空間的な活動パターンは似ていても、時間的な活動パターンが違う。
今回報告された活動伝播の違いは、もしかしたら、脳が自分で作り出した自発活動と感覚入力とを区別する一つのメカニズムになっているかもしれない。
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文献情報+アルファ
Neuron. 2009 Nov 12;64(3):404-18.
Laminar structure of spontaneous and sensory-evoked population activity in auditory cortex.
Sakata S, Harris KD.
(*Neuronのサイトから期間限定で論文PDFダウンロード可。フリー。こちら。)
長い記述的な論文で、読むのは大変かもしれません。が、どうか読んでやってください。。。ポイントとなる図は、全部、です。メッセージは図9ですので、それだけでもぜひお願いします。
図9のメカニズムと機能については、Discussionのセクションで議論してます。
ありがたいことに、Petersenたちがレビューを書いてくれてます(重要な関連論文を引用しながら、おそろしいくらいにこちらの意図を簡潔にまとめてます)。
ちなみに今回の論文では、テクニカルには、シリコンプローブと呼ばれる多点電極と、juxtacellular記録という神経活動(スパイク)を記録した細胞を解剖学的に特定できる方法を組み合わせていて、麻酔実験で得たデータの傾向を確認するために無麻酔の状態でもマルチニューロン記録をしてます。解析に関しては、情報量計算以外はややこしいこと・真新しいことは特にやってません。
ウェブ上にあるSupplemental Dataには16個の図があります。
ちなみに、同時期にNature Neuroscienceに発表された理研BSIの磯村さんたちの研究では、運動野という出力部分の大脳皮質で、似た実験方法を、しかも実際に課題をこなしている動物に応用されていてます。
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On the Cover
幸運にもカバーストーリーとして選ばれました!
冒頭の図はその原稿画像。
モチーフとしたもとの五重塔の画像にはこちらの写真を利用させていただきました。羽黒山五重塔です。コラージュしているニューロンたちは、僕が実際に計測・再構成した細胞たち(のコピー)。
コンセプトは、五重塔(塔の屋根を1層とみなす)と6層構造の大脳新皮質とのアナロジーです。
最後に、自発活動を脳全体で見たらこんな感じ?
なので、今回の論文は、脳のごくごく一部の活動を測りながら、少しだけ細かいことを語ったという位置づけになると思います(一方、細かい局所回路レベルの話という点でも解像度は非常に粗い)。
なので、巨大な脳という森の中にある五重塔、を少しだけ調べてみました、というくらい。脳全体のこと・もっと精密な回路について議論するには、まだまだいろんな技術的問題を抱えていて、いろんな人たちが参入してブレークスルーを起こす必要があると思います。
10/25/2009
SfN2009
シカゴの学会に行ってきました。他の方のブログでもすでにいろいろ触れられているので、できるだけ短く。
今回印象に残ったのはやはりoptogenetics。欧米で完全にブレークしてる印象で、ツールの充実ぶりが増し、アイデア次第でいろんなことができる・実際にやってる印象。Natureクラスの発表がたくさんあった。
他にはKandelせんせいのトークも印象的だった。あのお歳(もうすぐ80歳)であのパワーはホントにすごいの一言。ライフワークを教科書的なイントロから最新のネタまで1時間にまとめてジョークもいれつつ話した。おそるべきご老人。。。せっかくなら、最終日にトークをセットして、あの大観衆を最後まで残す戦略を運営サイドが取ってくれたら、最終日の発表になってももっと実りあるものになる気がする。
他には今年初めて気づいたけど、いわゆるCareer Development系のセッションが毎日何かしら開催されていて、論文や教科書を読むだけでは身につかない、サイエンスのやり方・サイエンティストとして生きていくスベをタダで学ぶ機会もあった。
最後に僕の発表について。オーディエンスは、このブログを見ていただいている方や知り合い2割(いつもありがとうございます)、ボスの名前で来た人4~6割、残りは、通りすがり的あるいはキーワード検索的に来られた方、という印象で、結果的には予想より忙しい4時間でした。ブログ上でいつもお世話になってるvikingさん、potasiumchさんにも来ていただき、vikingさんとは少しだけ日本語で四方山話も。。。
ただ、ここ数年一貫している傾向は、日本人女性には来てもらえないこと。。。う~ん。。。
それはともかく、シカゴは、街も会場もナイトライフも良い感じで、これからも開催し続けて欲しい場所でした。
10/14/2009
聴覚野でのポピュレーションコーディング
うちのラボの論文がEuropean Journal of Neuroscienceに出たので速報として。
この論文では、長い純音の情報は聴覚野のニューロン集団によってどう表現されているか、という問題に様々な解析をしながら取り組んでます。
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文献情報(*追記的情報更新)
Eur J Neurosci. 2009 Oct 14. [Epub ahead of print]
Population coding of tone stimuli in auditory cortex: dynamic rate vector analysis.
Bartho P, Curto C, Luczak A, Marguet SL, Harris KD.
全体的にネガティブなトーンの論文になってはいますが、複数のニューロン活動を扱ったデータ解析に興味のある人には参考になるのではないかと思います。
10/04/2009
神経系の進化
新着のNature Review Neuroscienceは神経系の進化の特集号になっていてる。
以下、各総説と関連記事・書籍へのリンク集を。(リンクだけで内容はないです。。。)
掲載されている総説は次の通り:
The origin and evolution of synapses
Tomás J. Ryan & Seth G. N. Grant
Nature Reviews Neuroscience 10, 701-712 (2009)
Considering the evolution of regeneration in the central nervous system
Elly M. Tanaka & Patrizia Ferretti
Nature Reviews Neuroscience 10, 713-723 (2009)
Evolution of the neocortex: a perspective from developmental biology
Pasko Rakic
Nature Reviews Neuroscience 10, 724-735 (2009)
Chordate roots of the vertebrate nervous system: expanding the molecular toolkit
Linda Z. Holland
Nature Reviews Neuroscience 10, 736-746 (2009)
Sleep viewed as a state of adaptive inactivity
Jerome M. Siegel
Nature Reviews Neuroscience 10, 747-753 (2009)
MicroRNAs tell an evo–devo story
Kenneth S. Kosik
Nature Reviews Neuroscience 10, 754-759 (2009)
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Science. 2009 Jul 3;325(5936):24-6.
Origins. On the origin of the nervous system.
Miller G.
サイエンスのダーウィン特集の一貫として掲載されていた「神経系の起源」の研究分野の現状を紹介した記事。これは読みましたが面白かったです。ポドキャスト。
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書籍
Principles Of Brain Evolutionという本では脊椎動物の脳の進化が比較解剖学的な観点からまとめまれている。少し前に出た本だけど、後半でネットワーク理論を絡めた議論もあったりと非常に洞察にあふれた本。ちょうどGilles Laurentの記事でも、彼がお薦めする一冊として紹介してます。
進化一般を学ぶための教科書としてはEvolutionは良い雰囲気(パート1だけ読んで挫折中。。。)。最後のパートなんかはすでに大きく書き足さないといけなくなった感じか。。。