10/20/2007

心トレ:パート1


先日、ダライ・ラマ14世がブッシュから賞をもらって話題になった。

実は最近、マンハッタンのラジオ・シティー・ミュージックホールで講演会を開催していたそうで、ニューヨークタイムズ紙によると、このほかにもこっそりマンハッタンを訪問しているとか。

実は、ダライ・ラマは、脳科学にも絡んでいる。
今回はそれをネタのきっかけにしてみる。

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神経科学者の自分にとって、最も記憶に残っているダライ・ラマ関連の出来事は、おそらく2年前、ワシントンDCで開催された学会の講演会。チベット仏教のトップが、アメリカの神経科学学会に登場した。なかなかすごいことだ。

少し調べてみると、実は、その前から神経科学者と絡んでいることがわかる。

4年前のサイエンスに掲載された記事によると、MITで開催されたミーティングで、ダライラマが登場している。そのミーティングでは、神経科学者とダライラマを含む仏教徒が参加して、今後の「心の科学」について議論を繰り広げたようだ。

この記事でも少し紹介があるが、少なくともこの頃から、仏教、瞑想(meditation)が超まじめな研究対象になりつつある。

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ということで、瞑想と脳の関係を調べた研究をいくつかピックアップしてみる。

仏教の修行僧と普通の人の脳の働き方はどう違うのか?
普通の人が瞑想に取り組むと、どんなメリット(御利益)がありそうか?

そんな問題に取り組んだ科学的な研究が、いくつか見つかる。
今回は、前者の修行僧の脳に関する話。

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修行僧の脳活動~高まるガンマ波

瞑想のベテランの脳活動を凡人と比較しよう、という研究がある。
Richard J Davidsonの研究グループが、2004年2007年に論文を発表している。

いきなり横道にそれるが、このグループにMatthieu Ricardが共同研究者として参加している。実はこの人、上のサイエンスの記事によると、分子生物学で博士号を取った後、「出家」。その後チベット仏教徒になったそうだ。つまり、仏教徒と神経科学者(Davidson)の強力なリンクとなっている。

「余剰」な博士号取得者を抱えている昨今、研究者をやめて出家したり、全く別の業界へ進路を変える人が増えるのは、実は、数十年後に全く新しい科学とリンクができる種になったりするのかもしれない。。。大きく脱線。

話を戻す。

そのDavidsonたちの2004年の論文では、瞑想中の修行僧から脳波を計測している(宗教家がヘッドギアをつけている様子をイメージすれば良い?)。すると、瞑想中、凡人より強いガンマ波が観察されたそうだ。

研究では、1週間だけ瞑想トレーニングを行った一般人とガンマ波を比較している。ちなみに、修行僧の強いガンマ波は、前頭葉と頭頂葉で観察された。さらに、瞑想の修行期間が長いほど、そのガンマ波が高まることも明らかにしている。

一般的に、ガンマ波は、寝てる時でも多少発生する脳のリズムだが、特に、注意、知覚など、いわゆる脳が高度なことをやっている時に強く発生すると考えられている。そんなガンマ波が、修行僧では瞑想と同時に強く発生しているようだ。そして、修行を重ねるほど、そのガンマ波は強くなる。

修行僧は、瞑想中、高レベルの集中ができていて、それに合わせて強いガンマ波が出ている、と理解すればよいか。

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修行僧の脳活動~修行による省エネ化と不動心??

最近発表された2007年の論文では、MRIを使って脳活動を計測している。

まず、修行僧と瞑想未経験者との脳活動を比較している。これは上の研究と近い。

さらに、もう一グループの一般人の脳活動も調べている。そのグループでは、特定の脳領域を活動させることができた人、その上位者には賞金が与えられる。瞑想中のモチベーションを高めるためらしい。(修行僧のモチベーションとは全然違いそうだが。。。)

そんな3つのグループで瞑想中の脳活動を調べると、集中力を維持する時に活動するとされる脳の場所のうち、一部の活動が修行僧で高まっていることがわかった。面白いのは、修行僧を、修行期間の長さによって、「熟練者」と「未熟者」に分けて調べたときの結果。意外にも、熟練者の脳活動は、凡人のそれに近いことがわかったようだ。

つまり、集中力維持に関わる脳の活性度と、瞑想の修行時間との関係の変化は、逆U字型になる。修行時間と共に、活性度が上がって、下がる、ということになる。

もっと噛み砕くとこう(*正確な表現に欠けています。)、

修行フェーズ1:はじめ、なかなか脳を活性化できない。集中できない。
修行フェーズ2:脳が活性化する。集中力も高まる。
修行フェーズ3:無駄な労力(脳活動)を省いて集中力を維持できる。

この研究ではさらに、瞑想中に、音を鳴らして、脳がどう反応するかも調べている。結果は込み入っているが、扁桃体の反応だけ取り上げてみる。扁桃体は不安・恐怖などどちらかというと負の感情と密接に絡む場所。

不安をあおる音を鳴らした時の扁桃体の活動は、修行僧の方が一般人より低いことがわかった。さらに、修行期間が長いほど活動しなくなるようだ。特に、右半球の扁桃体でその傾向が見つかった。

解釈は難しいが、例えば、扁桃体は学習にも関わるので、修行が足りない人ほど活動した、という解釈は一応矛盾はしない。

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研究の問題点

この二つの研究、いろんな問題を抱えていて、荒削りな感じ。なので、どこまで信用して良いかは、今後の研究を待たないといけない。

例えば、修行時間と脳活動との関係を調べたデータ。
修行時間が長いということは、それだけ高齢ということにもなりそう。
とすると、修行時間が長いと、どこどこの脳活動がどうこう、というデータ、ひょっとしたら、単に加齢による脳活動の変化でしかない、という可能性もある。その可能性を全く排除できていない。

他には、どの(誰の)脳活動と比較すべきか、という問題もありそうだ。
長年修行を続けた人は、一般人とは全く違う環境で生活してきたわけで、年齢をそろえて比較すれば良い、という単純な話ではないかもしれない。特に
MRIで計測している信号は、血流の変化と直接的には結びつくだろうから、長年の食文化の違いなど、粗を探せばきりがない気もする。

今後は、そういった問題もクリアしながら、何が本当で何が間違っているか、はっきりさせていく必要がありそうだ。

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二つの論文から学ぶこと

最後に、結果を真に受けて、少し想像力を働かせて考えてみる。

上の二つの研究では、脳波計測、MRIという異なる方法を採用している。

今仮に、脳波は、神経細胞たちのリズム・協調性を反映していると考えてみる。
一方、
MRIで計っている脳活動は、脳の何らかのエネルギー消費量を反映していると考えてみる。

前者の2004年の研究では、「悟り」に近い(修行時間が長い)程、高いガンマ波が見れ、後者の研究では、エネルギー消費量はむしろ少ないという結果を得ている。脳は活動するほどエネルギーを消費しそうだから、一見、矛盾するような気もする。

けど、ひょっとしたら、「高いガンマ波」とは、神経集団の協調性が非常に高まっている状態かもしれない。とすると、「悟り」に近い修行僧の脳では、相当の省エネ化が進んで、意図的に脳を高効率で働かせることができるようになっているのかもしれない。もしそうだとすると、二つの結果は矛盾しないように思える。

さて、そんな「スーパーエコノミー脳」を作るには、どれくらい修行が必要か?

論文によると、平均で44,000時間の瞑想トレーニングした修行僧で、「省エネ化」が見られている。ということは、寝食わずで5年強修行すれば良いことになる。一日2時間のトレーニングを毎日続けるとしたら、なんと60年。出家しろ、ということらしい。。。

それはともかく、修行僧は内観能力に長けている気もする。とすると、一人称的な主観的報告と、脳活動という客観的データとの対応関係を掘り下げて調べていく研究として、なかなか魅力的な研究のような気もする。今後の研究に注目しておきたい。

次回は、スーパーエコノミー脳にならなくとも、瞑想が一般人にどんな御利益をもたらすのか、それを科学的に調べた論文を読んでみる。

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参考文献

Science. 2003 Oct 3;302(5642):44-6.
Buddhism and neuroscience. Studying the well-trained mind.
Barinaga M.

ダライラマも参加したMITで開催されたミーティングの紹介記事。今回紹介したDavidsonRicardの研究も登場する。なかなか示唆に富んでいて面白い。

Ricardによると、世捨て人は実験に参加したがらないそうだ。。。わかる気もする。とすると、実験に参加している人は、修行が足りない??

Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Nov 16;101(46):16369-73. Epub 2004 Nov 8.
Long-term meditators self-induce high-amplitude gamma synchrony during mental practice.
Lutz A, Greischar LL, Rawlings NB, Ricard M, Davidson RJ.

2004年の脳波計測の論文。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Jul 3;104(27):11483-8. Epub 2007 Jun 27.
Neural correlates of attentional expertise in long-term meditation practitioners.
Brefczynski-Lewis JA, Lutz A, Schaefer HS, Levinson DB, Davidson RJ.

今年発表されたごく最近の論文。上で紹介した他にもいろんなデータを記載している。

James H Austinの本2冊。
Zen-Brain Reflections: Reviewing Recent Developments in Meditation and States of Consciousness

Zen and the Brain: Toward an Understanding of Meditation and Consciousness

2冊ともまだ読んでいない。けど、禅と脳科学との関係を議論した本として有名なので一応紹介しておく。前者の本は、昨年出版された本で、後者の第2版的な内容になっているようだ。

5 comments:

阿頼王 said...

Shuzoさんへ
瞑想と脳波の研究は日本でもかなり昔からされているようです。脳科学者では無く、電子系の科学者がやっていた(確か、著書もあったと思います)で、その中では“ミッドα波”(本当に脳科学上、そういう領域のα波が有るのかは知りません)が増えると言う事です。
ところで、“瞑想”って一言で言っても、色んな種類の“瞑想”があります。チベットの仏教は密教ですね。確か、日本の研究者の研究していた“瞑想”者は“禅”だと記憶しています。禅宗もチベット密教も大乗仏教ですね。最初、わたしはチベット密教は、お釈迦様の教えをそのまま今に伝えている小乗ビ仏教だと勘違いしていました。“禅”の瞑想では“呼吸を数える”数息観がメインではないでしょか。“禅”で「悟り」に達するのは非常に難しいと言います。

ところで、もともとのブッダの瞑想は、慈悲の瞑想とヴィバッサーナ瞑想です。ヴィパッサナーでは、自分を観察します。そして、それに対して反応を起こさないように、ただ観察し“気付き”を入れて行きます。自己を観察し、観察しきる。この方法でお釈迦様はブッダになられたと言われています。ブッダは全ての“業”を滅されて“涅槃”に入られ、もう二度と生まれ変わって来ない境地に達されたのです。その状態が果たしてどういう“状態”であるのかは想像も付きませんが、その観点から言えば、

>「悟り」に近い修行僧の脳では、相当の省エネ化が進んで

と言うのは肯ける結論です。「悟り」とは、何物にも囚われない“心”を作ることだからです。因縁果の輪から事由になる事によって、輪廻の輪から自由になることだからです。
自分はとてもそんな境地でないので良く解りませんが、そういう事だとテーラワーダ仏教(ブッダの教えをそのまま現在に伝えている仏教)の長老さまは仰っています。
“瞑想”も手段や目的(本当は「悟り」なのでようけど)が違うような気がしますので、その辺の関連も調べてみたら面白いかもしれませんね。

Shuzo said...

阿瀬王さん、コメントありがとうございます!私の勉強不足の点をサポートしていただいて感謝しています。

「ミッドα波」という言葉ははじめて知りましたが、1960年代頃から瞑想中の脳波を調べた研究はあるようですね。確かに日本では禅、海外ではYogaを対象にしているケースが多いようです。これまでのα波の研究に対し、今回紹介した研究では、もっと早いリズムのガンマ波にも変化が見れた、という位置づけになりそうです。

さらに、ご指摘と関連しますが、瞑想の種類(慈悲か特定の物へ集中するか)によって、脳活動が違う、ということを報告している論文もあるようです。(まだしっかり確認していませんが)

いずれにせよ、この研究分野、歴史はあるようでも、わからないことがまだまだたくさんありそうで、今後の発展に期待をもてそうです。

ut said...

ガンマ波と神経活動の相関は、普通にそうだろうと思ってしまうのですが、解析では偽の相関を示すことが多々あると聞きます。ガンマ波の時に発火頻度が上がる場合とか。それを踏まえているように非常に注意深く書かれていると思えるのですが、どうなんでしょうか?

Shuzo said...

utさん、こんにちは。
そこまで深く考えていたわけでもないですが、それを汲み取っていただいて感謝します。

おっしゃるとおり、ガンマ波といった脳のリズムが強く出ることと、神経細胞の発火頻度が上昇することは、必ずしも相関するわけではないです。

空想でしかないですが、ガンマ波が強い場合、一つの可能性として、発火頻度そのものは一定(もしくは減少)でも、発火リズムの一致具合が高くなっている、ことも考えられます。もし発火頻度が減少した場合、エネルギー消費量は少なくなると思われますので、「高効率な脳」になる、という解釈もありえます。

アナロジーです。例えば、今ある会場に、拍手をしている人たちがたくさんいたとします。会場の外にその拍手の音をより大きく聞かせる場合、一人一人がたくさん拍手する、というのが第一感です。一方で、みんながリズムをそろえて拍手しても、大きな音として会場の外にも聞こえます(たぶん)。その場合、拍手する数は少なくても良さそうなので、高効率、といえそうです。

Teru Sun said...

はじめまして、Shuzoさん。

独学の範囲で瞑想や宗教関連の物事を調べることしているTeru Sunといいます。本職はIT系のデザイナーをしておりますが。

Shuzoさんの書かれた記事は2007年のものですがマチウ・リカール氏やその他の農家学者たちとの共同研究成果などにも期待しております。

以前、頭部に計測機器をつなげたリカール氏の画像を見つけそれらを紹介したことがありますが、もしよろしければ参考にどうぞ。
http://teruterulog.jugem.jp/?eid=219

瞑想でのγ波などの影響など、脳科学、意識科学の発展を心待ちにしております。ブログのブックマークもさせて頂きたいと思います。

よろしくお願いします。