5/09/2009

局所回路の活動を操作してガンマ波を出す

神経細胞たちはいろんなリズムを刻む。
その中でガンマ波(30Hz前後から80Hzまで)は、この20年くらい多くの神経科学者の注目を集めてきた。

ブザキの教科書「 Rhythms of the Brain」の9章では、騒がれ始めた当時の様子も紹介されていたりと、このリズムのことが詳しく説明されている。

そのリズムは、何かに集中した時に強く出たり、統合失調症の患者さんではこのリズムに異常があることもわかっている。一部の人は「意識」と絡めて議論したりもしている。

さらに、実験や理論的な研究から、そのリズムが発生する仕組みもよくわかってはいた。

しかし、まだ欠けたピースがあって、それをMITのMooreの研究グループがエレガントな実験で埋めた。

大脳新皮質の特定の神経細胞(fast-spiking細胞)の活動を光で操作して、その神経細胞の活動がガンマリズムを生み出すのに十分であることを実験的に証明した。

その論文は、ネイチャーのオンライン版に出ている。


---
もう少し詳しく:

研究では何をやったかというと、まず、チャネルロドプシン2(ChR2)(藻由来の陽イオンチャネルで青色光が当たると開く)を、マウス脳の2種類の神経細胞にそれぞれ発現できるようにしている。

その2種類は、パルブアルブミンを発現する細胞とαCamKIIを発現する細胞。

前者は、fast-spiking(FS)細胞と呼ばれるGABAを伝達物質として放出する抑制性ニューロンの一種。
後者は、興奮性の細胞である錐体細胞(一部?)。

つまりはFS細胞か錐体細胞の活動を青色の光で操れるようにする。

光をあてるとChR2によって神経細胞の活動がコントロールできることを生きた(麻酔した)脳で示した後に、今回のポイントとなる実験をしている。

そこでは、青色フラッシュを8-200Hzの周期で脳に当てた時に、回路全体がどのような周期で活動するか調べた。すると、FS細胞でChR2が発現している時はガンマリズムの帯域で、錐体細胞でChR2が発現している時は低周波で、それぞれ最もよく回路が応答することがわかった。

つまり、ガンマリズムという点に注目すると、FS細胞の活動を40Hzくらいで駆動させてやると、回路としてもその40Hzで振動するようになる、ということ。

つまりは、FS細胞の活動はガンマリズムの生成に十分、ということ。

さらにMooreたちは、感覚刺激の処理とガンマリズムとの関係を調べていて、ガンマリズムの一サイクルのうち、ちょうど真ん中のフェーズでネズミのヒゲを刺激すると、ヒゲの感覚情報を処理する「バレル皮質」の神経細胞の活動精度が上がり、リズムの異なるフェーズによって、感覚情報の処理が変わりそうだということを示した。

最後の実験はともかく、この論文は、ガンマリズムの生成にはFS細胞の活動で十分、という理論からの予測をオプトジェネティックスという最新の実験方法を応用して証明した。

---
個人的な感想

この話、cosyneで直接Mooreさんにポスターを説明してもらった
その場で、一緒に聞いていた人が、
もう論文は投稿した?
と聞いて、
うん。
とMooreさんが答え
どこに?
とその質問者が聞いたら
そりゃ言えん。けど、最終段階。
と言っていた。

まさかネイチャー、しかもアーティクルとは、、、。

論文はめちゃくちゃわかりやすく書かれていて、実験・解析も非常に直感的で、新しい情報も付け足して、オプトジェネティクスというセクシーさ、だからアーティクルなのだろう。

「十分性」ということだけにこだわるなら、脳幹刺激をすれば大脳新皮質でガンマリズムは出せることは50年くらい前からわかってたわけなので、コンセプチュアルな新しさは、「FS細胞でも十分だよ」ということなのかもしれない。

ちなみに、そのポスターの時に、
浅層しか見てないから、他の層はどうかわからないのでは?
と聞いた。そしたら、
確かに。
とも言っていた。

浅層できれいなガンマが出る(出やすい)のは良いとして、大脳新皮質でこれまで見られてきたナチュラルなガンマが、果たしてホントにこの実験でおきているのかは、まだわからない気もする。

たぶん、彼らは知覚や行動と絡めて行くのだろうけど、結局、回路としてどうなのか、その辺をしっかり押さえるのも、地味かもしれないけど大事な気がする。

それにしても、すごい勢いでオプトジェネティクスのポテンシャルが示されてきてます。。。

---
参考文献&補足情報

Nature. 2009 Apr 26. [Epub ahead of print]
Driving fast-spiking cells induces gamma rhythm and controls sensory responses.
Cardin JA, Carlén M, Meletis K, Knoblich U, Zhang F, Deisseroth K, Tsai LH, Moore CI.

今回紹介した文献。
NeuroPodもぜひ。

ちなみに、ChR2を神経科学ではじめて応用したDeisserothさん、最近スパークしてます。。。

Nature. 2009 Apr 23;458(7241):1025-9. Epub 2009 Mar 18.
Temporally precise in vivo control of intracellular signalling.
Airan RD, Thompson KR, Fenno LE, Bernstein H, Deisseroth K.

Science. 2009 Apr 17;324(5925):354-9. Epub 2009 Mar 19.
Optical deconstruction of parkinsonian neural circuitry.
Gradinaru V, Mogri M, Thompson KR, Henderson JM, Deisseroth K.

Science. 2009 Apr 23. [Epub ahead of print]
Phasic Firing in Dopaminergic Neurons Is Sufficient for Behavioral Conditioning.
Tsai HC, Zhang F, Adamantidis A, Stuber GD, Bonci A, de Lecea L, Deisseroth K.

Nature. 2009 Apr 26. [Epub ahead of print]
Parvalbumin neurons and gamma rhythms enhance cortical circuit performance.
Sohal VS, Zhang F, Yizhar O, Deisseroth K.

ブログのエントリーのような感覚でネイチャー、サイエンスに論文出せたら、そりゃ、ノーベル賞とるわ、って感じです。。。

負けじとBoydenさんたちも
Neuron. 2009 Apr 30;62(2):191-8.
Millisecond-timescale optical control of neural dynamics in the nonhuman primate brain.
Han X, Qian X, Bernstein JG, Zhou HH, Franzesi GT, Stern P, Bronson RT, Graybiel AM, Desimone R, Boyden ES.

アメリカの東西で競争が激化中。。。

---
ちなみに、これに少し関連して、ニューヨークタイムズの「注意(attention)」に関するすばらしく良い記事が盛り上がっている。最近出た Rapt: Attention and the Focused Lifeという本にオプトジェネティクスのスパイスを絡めながら、注意についての話題を展開している。

この記事のライターのブログの記事
あのDesimoneさんが読者の質問に答えたりと、プロでも楽しめる感じになってます。


最後に
Optogenetics: Circuits, Genes, and Photons in Biological Systems

9月にMiesenbock自ら教科書を出すようです。


No comments: