7/11/2009

逆引き統計学

「逆」引き統計学―実践統計テスト100
Gopal K. Kanji (原著), 池谷 裕二 (翻訳), 久我 奈穂子 (翻訳), 田栗 正章 (翻訳)

この本は、100 Statistical Testsという100の統計検定法が収められた、とてもとても実践的な本の訳本である。

訳者の一人である池谷さんは訳者序文でこう書かれている:

「一般に、統計の本は難解な専門書か、あるいは逆に、初心者向けの教科書がほとんどで、大多数の人が期待するような実践的で“使える”解説書はほぼ皆無でした。」

「この本は教科書ではありません。専門書でもありません。」

「実践現場で統計学検定が必要になってから、それに相応しいテスト法を探すという、いわゆる「逆引き」としての活用法が、本書の最大の特徴です。」


例えば、
1.統計の基礎知識をある程度身につけてはいる。
2.普段、統計テストを行うことがある。
3.手持ちのデータでどの統計テストを行うべきかわからないことがある。
そういう人にはピッタリの本である。

また、
1.初心者向けの教科書すらまともに読んだことない。
2.いまさら、読んでる暇もない。
3.とにかく今あるデータから統計的な結論を引き出せ、と上司にプレッシャーをかけられている。
そういう人にもお薦めできるかもしれない(危険だが)。
なぜなら、この本の冒頭にある訳者序文と「統計的検定について」という導入部分をしっかり理解した上で、100のテストから適切な統計テストを探しだし、それを行えば良いから。

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この本ではまず、「統計的検定について」で統計テストの心得が説明され、「検定の分類」というすばらしい表が用意されている。

そのテーブルでは、いわば統計テスト早見表である。

手持ちのデータの性質と、テストしたい統計量をもとに、どの統計テストが候補になるか探し当てられる。(「手持ちのデータの性質」とは、正規分布に従うのか、標本はいくつかといったこと、「テストしたい統計量」とは、例えば平均値や分散などのことである。)

それ以降のページは、ひたすら100の統計テストが紹介されている。こんな方法もあるのか、と驚くくらいたくさんある。一生使わんぞ、というテストまで網羅されている。

各統計テストの説明では、テストの目的、制約、方法、そして用例と、非常にわかりやすい構成になっている。

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この本は全て読む必要はない。本棚か手元に置いておくだけで良い。

早見表の使い方さえ理解すれば、必要な時に本棚から取り出し、早見表で必要な統計テストを探し当て、テストの性質・方法を学び、必要によってはgooglebing両方にセカンドオピニオンを聞いて、統計テストを行えば良い。

とにかく、これ以上実践的な参考書はない。

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コンピューターの性能が向上して、新しい統計テストもよく使われるようになってきた。この本ではそのような新しい統計テストまでは網羅されていない。例えば、ブートストラップクロス・ヴァリデーションといったリサンプリングの統計技法を、ここでは意識して言っている。

しかし、この本に網羅されている統計テストで事足りることが実際の現場では多いわけで、この本はこれからも有用であるのは間違いないだろう。

訳は久我奈穂子さんが担当されたそうで、これだけの質と量の仕事をこなされたのはただただ驚きで、さらに修士課程の学生さんというのだから、世の中には池谷さん以外にもすごい人がたくさんいてるわけである。。。

ちなみに、僕はボスに教えてもらって100 statistical testsを数年前に買った。つまりは、物理系出身の人も推薦する本でもある。

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参考情報

池谷さんのホームページにさらに詳しい紹介があります。


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