4/17/2009

HOPEミーティング

HOPEミーティングという、ノーベル賞受賞者と時間を過ごせる機会が日本でもあるとのことです。
Lindauのミーティングの日本版に近いのではないかと思います。

以下、HOPEミーティングに関する情報です:






HOPEミーティングは、アジア太平洋地域の若手科学者を一同に集めて、数名のノーベル賞科学者を交えた交流の機会を提供するという合宿形式のイベントです。

アジア・太平洋地域から選抜された優秀な大学院生を対象として、科学者としてより広い教養の涵養と人間性の陶冶を図り、将来のアジア太平洋地域の科学研究を担う研究者として飛躍するとともに、同地域の科学技術コミュニティの基礎となる相互のネットワークを構築するような機会を提供することを目的としています。そのため、大会中のプログラムは、ノーベル賞受賞者などの世界の知のフロンティアを開拓した人々との対話、寝食を共にしての参加者同士の交流、さらには人文社会・芸術分野の講演やコンサートといった幅広いものとなっています。











募集期間:2009年4月13日(月)~4月24日(金)
開催日時
: 2009年9月27日(日)~10月1日(木)

会場
ザ・プリンス箱根

テーマ
: Art in Science

対象分野:
化学及び関連分野(物理学、生物学等)

主催:
(独)日本学術振興会

使用言語:
原則として英語

>>参加するには?

4/04/2009

意思決定と初期感覚野の活動~NienborgとCummingの論文

意思決定(知覚的な意思決定)のプロセスの考え方として、次のような考えがある:
感覚刺激から「証拠」を集めて、「意思変量」が閾値を超えたら、意思を決定する。
ここで意思変量とは、例えば、青を選ぶか、赤を選ぶか、そのこころの揺らぎをあらわしているようなもの・変量だと考えたら良いか。

脳との対応で考えると、(刺激から)証拠を集めるのは初期感覚野、意思変量の表現は例えば頭頂連合野、が担当しているという話がある。

これまでの研究では、その初期感覚野の活動がランダムにゆらいだ結果が、意思変量の動きに貢献して、意思を下しているのでは、という説があった。(この初期感覚野の活動のゆらぎが行動と直接因果関係がありそうだともわかっているので「因果モデル」という)

けれども、最近ネイチャーに報告された論文によると、そのノイズ的な活動のゆらぎを採用した因果モデルだけでは説明できない活動が、初期視覚野のV2というところで見つかった。

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研究ではマカクザル2頭に、視差弁別課題なる課題をトレーニングしている。

その課題は、高速で連続的に変化する視覚刺激に、近く見える刺激が多かったか、遠く見える刺激が多かったか区別する課題。つまり、サルに3D的な視覚刺激を見せて、刺激が基準点よりも近く見えたか、遠く見えたか答えてもらう。

刺激は、基準点から遠い刺激、近い刺激が、次々に高速で変わるから、一連の刺激(2秒間)から判断して、どちらが多かったか答えることになる。

その2秒間の刺激セット5つのうち、一つのセットに、遠い刺激、近い刺激を同数示すようにする。つまり、この刺激セットが出たら、近いか遠いか区別できない。けど、サルは近いか遠いか答える。報酬をもらうために。

今回の研究では、そんなどちらとも答えられない刺激セットを示している時の、2秒間の二次視覚野(V2)のニューロン活動とサルが下した選択との関係を詳しく解析している。

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テクニカルな説明を端折って説明するのは難しいですが、解析の結果、従来の因果モデルでは説明できない次の3つの発見をした:

1.選択と刺激のシーケンスとの関係の時間経過と、ニューロン活動と選択との関係の時間経過が食い違った。(*因果モデルからの予想では、両者の時間経過は一致していないといけない)

ここで、「選択」とは遠いか、近いかの行動レベルでの選択結果。「選択と刺激のシーケンスとの関係の時間経過」は、サルがどのタイミングの刺激に基づいて選択していそうかを表している。「ニューロン活動と選択との関係の時間経過」は、ニューロン活動のどのタイミングの活動が選択結果の違いをより区別しているかを表している。

2.選択の種類によってニューロン活動を解析してみたら、ニューロン活動の(視差)選択性に関する「ゲイン」が選択の種類によって違っていた。そして、たくさんのニューロンで傾向を見てみたら、そのゲインの大きさと「選択確率」とが相関していた。しかも、それは因果モデルを過程した時よりも大きい効果が見れた。
(つまりは、因果モデル+アルファな効果を考えないと説明できないことになる)

ちなみに、ここで選択確率(choice probability)とは、大雑把にいうと、ニューロン活動の大きさからサルの選択結果をどれくらい区別できるか表す指標のこと。

3.報酬量を大きくしたら、成績が良くなったが、選択確率はむしろ減少した。(因果モデルからの予測とは逆だった)

難しい。。。

が、とにかく、従来のモデルでは説明できない神経活動をとらえたことになる。

論文の著者たちは、いわゆるトップダウンの信号が、初期感覚野V2のニューロン活動に影響を及ぼして、従来のモデルでは説明できない現象が現れたのでは?と推測しているようだ。(別の可能性も否定はしていない)

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個人的な感想

非常に良くデザインされた研究だし、解釈はともかく、データそのものはきれいだと思った。論文の書き方という点でも勉強になる。この研究、注意と意思決定というコンセプトを、神経活動に基づいて議論するきっかけになるのではないかという気がする。

ちなみに、論文のsupplementary informationがなかなか充実していて、一読に値する内容となっている。そこでは、サルの行動ストラテジーに関する考察(ここは特にお薦め)と、神経活動のデータ解釈(トップダウンか否か)の考察があり、最後に神経集団レベルの活動(ノイズ相関)に関して、最近のNewsomeラボの論文について少しだけコメントされていて楽しめた。

個人的に気になった点をいくつか(ここからは大いに誤解している可能性大):
この論文での主要な解析法(psychophysical kernel、subspace map、choice probabilityの3本柱)、この分野の文脈上採用したのはわかるけど、この分野になじみのない人からしたら、非常にややこしい解析をしていて、理解するのが大変。単一ニューロン活動を扱っているのに、直感が非常に働きにくい。比較的単純なデータを扱っているのだから、もう少しわかりやすい解析法で同様の結論を導けなかったのか、別の視点から考え直す余地もあるかもしれない。

個人的によくわからないのは、行動。
論文中の図2aはポジティブな結果なのか、ネガティブな結果なのか、解釈が分かれる気もした。どういう意図で2秒という刺激呈示時間を設定したのかよくわからないけど、このパラメーターは、この論文のデータを用意するという点では重要だろうけど、実際の意思決定という点で考えた時、このパラメーターは果たしてどうか、非常に気になる。

反応時間課題的に課題を設定しても、確度(accuracy)という点で全く同じ行動パフォーマンスを残すとしたら、刺激後期の活動は何を見ているのかよくわからなくならないか。

少なくとも注意しなければいけないであろうことは、サルは過訓練されている、ということか。論文を2回くらい読んだ浅い理解でこのエントリーを書いている人間とは違うレベルでサルは課題をこなしている(はず)。

おそらく、5つある刺激セットのうち、信号が多いかゼロかの区別は、はじめの数百ミリ秒でできてしまっているのではないか、という気がする。今、それが行動としてあらわれているのがその図2aではないかと解釈してみる。とすると、刺激の弁別そのもの、特定の選択へのコミットメントという点での「より高次」なプロセスは、その初期フェーズで行われてしまっているのではないか、という気もする。

だとすると、そのフェーズ以降で見えた「choice probability」の上昇はいったい何を表しているのか、非常に解釈に困る。もし著者たちが主張する注意によるゲイン上昇なら、図3で、時系列によってそれが変化することも示すべきである(それを示してくれないと彼らの解釈は信用できん)。

図2の結果は、単なる解析上のアーティファクトではないか?という気すらする。彼らは個々の神経活動の変動は大きいと書いているが、決してそのデータは示してはいない。もしかしたら、そこに解析上のアーティファクトかどうか判断する重要な手がかりがあるような気もする。

それから、図4も報酬量の違いによって試行を分けて解析しているが、3回続けて正解したら高報酬試行に突入するデザインになっている。けど、5セットの刺激のうち1つは自信を持って選択できない刺激が入っているわけだから、ここでの「高報酬」という意味はいったいサルにとってどういう意味を持っていたのか、これまた解釈に困る。

一応、行動レベルで、高報酬時はパフォーマンスが良かったらしいから、彼らの解釈はたぶん間違っていないのだろう。けど、この辺は、実際にこの課題をやってみて、研究者ではなく、サルの立場に立ったら、解釈が変わるかもしれない。

また、僕が理解した限り、彼らが解析したニューロンたちは、おそらくそれなりに高頻度で発火するニューロンだけにバイアスがかかっているように思える。とすると、実際の脳で起こっていることと全く違う議論を繰り広げている、という批判をして悪くない。この辺の問題は、データ解析、実験デザインの現実的な壁があるにしろ、できるだけバイアスの低い計測法、解析法で、実際の脳で起こっているであろう事をとらえなおしてみるのも一興のような気もした。

最後に、この論文は、以前pooneilさんがこちらで議論されていたこととも少し関連するように思ったのですけど、どうなんでしょ?今回のpsychophysical kernelの解析をランダム・ドット・モーションの課題に応用してみるとこれまで見過ごされていた事が見えてこないのだろうか。少し気になった。

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文献
Nature. 2009 Mar 8. [Epub ahead of print]
Decision-related activity in sensory neurons reflects more than a neuron's causal effect.
Nienborg H, Cumming BG.

関連エントリー
GoldとShadlenの総説を読んで

関連書籍
今回のトピックはperceptual decision makingですが、decision makingというトピックで広くとらえるなら、
Neuroeconomics: Decision Making and the Brain

神経経済学を軸に神経科学からとらえた意思決定の研究分野を広く深くおさえるのに超お薦めです。(といっても、全部は読んでませんが。。。例えば、第一章は経済学の基礎知識を身につけるのにも役立ちます。)

How We Decide
教科書ではなく最近出版された一般向けの本。専門家には各章の導入部分が冗長といえば冗長ですが、非常によく書かれている本だと思います。
update: Natureに掲載されていた書評


3/14/2009

ニューロン集団活動と復号化と情報理論~Quian QuirogaとPanzeriの総説

脳の情報処理を細胞レベルで知りたい場合、従来から行われている方法はこう:

1個のニューロンの電気活動(スパイク)を計測しては、その活動と刺激入力や行動出力との対応を調べる。そして、例えば1年以上かけて、100個分のニューロン活動のデータを集めたら、そのデータを統計解析しては、脳でこんな情報処理をしている、といったことを議論する。

この方法は大成功をおさめて、脳の理解は深まったし、今でも重要な情報を提供し続けている。

一方で、20年くらい前から、次のような方法論も普及してきた:
たくさんのニューロンたちの活動を「同時」に計測して、その集団の活動から脳の情報処理を議論する。(この場合、1日の実験のデータ解析に1年以上かかることもある。。。)

と違う方法論ではあるけれど、きっと多くの人は、
ニューロンは集団として情報を処理している
と考えているはずである。

とすると、研究現場では、集めたニューロンたちの活動データから何とかして情報を抽出しないといけない。(でないと論文が書けない)

そんな情報を抽出する時の方法論をわかりやすくまとめた総説Nature Review Neuroscienceに掲載されている。

(*と、今回も非常にテクニカルな話題です。。。すみません。。。)

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著者のQuian QuirogaとPanzeriは、この総説の言葉を借りればneurostatistician(にゅーろすたてぃすてぃしゃん)。

神経統計学者。

非常に頭が良さそうな研究者の響きがする。

限られた量のニューロン活動データから情報を抽出する場合、従来の統計学+アルファの知識やノウハウが必要とされる。そのために新しい統計学の方法論を開発する必要も時にはあるから、そのような分野を「神経統計学」という耳慣れない言葉で表現するのだろう。

それはともかく、この総説では、ここ数年よく使われるようになってきた、ベイズ的な方法に代表される復号化(decoding)と、(シャノンの)情報理論について、神経統計学的な観点からまとめられている。

それぞれの基本的な発想とお互いの相補性、さらには実際に応用する時の注意点、限界なども説明されている。そして、著者の研究を主に紹介しながら、復号化と情報理論の応用例をまとめている。そして最後に、次元圧縮法や相関活動の扱いという技術的な問題を強調しながら、今後の課題・方向性を議論している。

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僕は神経統計学者ではないけど、研究分野としては非常に近いし、個人的な感想を書いてみる。

この総説は、神経集団スパイクデータの解析法としての、復号化と情報理論に関する基礎知識と重要文献が非常によくまとめられていて、必読文献だと思う。クロスバリデーションや情報量計算時のバイアスの問題なども言及されていて、実用上気をつけるべき情報も提供されている。

ただ、マルチニューロン活動計測をするかしないかの一つの本質であるノイズ相関のことは比較的軽目に扱われていたのは残念。これに関する重要文献の一部は参考文献として挙げられている。

また、Bialekたちの貢献があまり評価されていなかったように感じたのは気のせいか。ちなみに、Panzeriは情報理論で有名ではあるけど、最近の方法はともかく、一昔前の、しかも多くの人が使ってしまった相互情報量の計算法は、一部のわかっている人には評判は悪い。それがなぜかは、Panzeri自身が書いた総説を見ればよくわかる。

それから、このような総説を読んでいつも思うのは、テクニカルな議論になればなるほど、「脳との乖離」を感じる。

この総説にあるように、
1.計測
2.スパイクソーティング
3.スパイク解析
という3つのステップが研究上のプロセスなわけだけども、3の方法論的なことを深く考え進めると、どうしても1の部分、特に生物学的な視点がおろそかになる気がする。この総説を読みながらもそう感じた。常に、生ものを扱っているという視点を失わないようにしながら研究していかないといけない。(理論ではなく、あくまでデータ解析なんだし)

回路のごくごく一部のエレメントからしかニューロン活動を計測していないわけだから、解析の方法論を開発するのも重要な一方、回路のどのあたりからデータを得ているか、そういうことを考慮にいれながら、データを解釈していく必要もあるように思う。

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文献
Nat Rev Neurosci. 2009 Mar;10(3):173-85.
Extracting information from neuronal populations: information theory and decoding approaches.
Quian Quiroga R, Panzeri S.

3/07/2009

柔軟な脳の柔軟さ

以下の本のレビューです。

京都大学学術出版会
脳の情報表現を見る
櫻井芳雄
1,890円

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The problem of understanding behavior is the problem of understanding the total action of the nervous system, and vice versa.
-D.O. Hebb (1949)


脳はどのように働いているか?この謎はまだ解けていない。脳が働くのに大事な神経細胞(ニューロン)は、シナプスを介して複雑な回路を作っている。

とすると、一個一個ニューロンを調べていくのではなく、ニューロンが集団・回路としてどのように働くか調べないと、脳がどのように働くか、そして広い意味での行動を、理解できそうにないのは自明のように思える。

このように考えた時、カナダの心理学者ヘッブが、ちょうど60年前に提唱した「セル・アセンブリ」、そして「フェーズ・シーケンス」というコンセプトは、後世の研究者に大きな影響を与え続けている。

今回紹介する本の著者である櫻井教授の言葉を借りれば、そのセル・アセンブリとは、「同時に活動するニューロン間の機能的シナプス結合が強化されることで作られていく機能的なニューロン集団」(p32)であり、そのセル・アセンブリが特定の情報表現のために次々と形成されていくことをフェーズ・シーケンスと呼ぶ。

このヘッブのコンセプトを支持する実験データは、計測技術の発展に伴い、過去10~20年くらいでしだいに増えてきたが、日本で早くからこの本質的な問題に、真正面から取り組んできた研究者が著者の櫻井教授である。

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「協調的かつ柔軟に働く神経集団」に注目した脳研究の現状を知りたい時、この「脳の情報表現を見る」という本は良い本である。櫻井教授自身の過去と現在の研究、そして将来の研究方向、さらには研究フィロソフィーを知るのにも非常に良い。また、脳が如何に柔軟にできているか知る研究例がいくつも紹介されている。

自身も認められているように、一部の章でニューロン活動計測に関する専門的な話が登場する。が、これは裏返せば、実際の研究現場を知れる貴重な本とも言える。また、一貫して簡潔で平易な表現で書かれており、本全体を通して非常に読みやすい。

本ではまず、櫻井教授の研究フィロソフィーが述べられ、導入として上述のセル・アセンブリのことが説明されている。そして、15年以上にも及ぶ自身の研究戦略とその成果が紹介され、この数年間精力的に取り組まれているBMIことブレイン・マシン・インターフェースの研究分野、その過去と未来が簡潔にまとめられている。

そして後半の第6章からは、それまでのトピックからは少し離れ、脳の情報表現とそれを支える神経回路、そしてその柔軟性に関するトピックがわかりやすく紹介されている。

脳は如何に柔軟にできていて、働いているか、それが幅広い観点から議論されている。

特に最終章では、一部の脳機能が一旦損なわれても、年齢を問わずその機能が代償される例が紹介されている。これは、柔軟な脳の基盤とも言える「神経可塑性」の潜在能力を如実に現している例とも言える。

この本の一つのメッセージは、脳は柔軟にできているのだから、その脳を研究する人も頭を柔らかく使え、だと肝に銘じた。

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上述のように、この本は簡潔にまとめられた良い本である。もちろん、世の中に完璧な本はないので、気がついた問題点をフェアに指摘しておく。

まず、紙面の都合もあるだろうが、欲を言えば、文章の根拠となる参考文献がもう少し充実していればなお良かった。一部、まだ研究者間でコンセンサスが得られていないのに、一つの反例だけから、従来の説があたかも完全に否定されてしまったと誤解される表現もあるように思う。そのような誤解は、根拠となる参考文献をバランス良く充実させることで、少しは回避させられるだろう。

また、記憶の分類について、同じコンセプトを示しているのに、前後の章で異なる呼び方がされていた。これは、一般読者に混乱を招くかもしれない。とはいえ、これらの問題点はマイナーであり、この本の価値が損なわれるものではない。

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最後に、僕は「あとがき」に強く共感した(もちろん全体的に共感しているわけではあるけれど)。その前半に、一般社会への「脳」の氾濫に対する警鐘が書かれている。おそらく、まじめに取り組んでいる神経科学者だけでなく、この本を読まれるであろう賢明な一般読者の多くも、このあとがきと同じ意見を持たれているのではないだろうか。

これに関わらず、櫻井教授が書かれる批判的な文章のするどさにはいつも勉強させられる。その意味では、自然を学んでいく上で重要な、批判的姿勢を身に付ける上でもこの本は一読の価値がある。

その批判的な姿勢を磨いていくには、柔軟な脳を柔軟に使え、ということなのだろう。

コサイン

Cosyne 09へ行ってきました。

このミーティングは今回初参加だったので感想などを。

メインミーティングワークショップに分かれていて、今回は前者だけ参加したので、ワークショップ(露骨にスキーリゾートで開催される)のことはわかりません。

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そのメインミーティングはソルト・レーク・シティーのダウンタウンで開催され、そのあと、スキーリゾートへ移動し、2日間、ワークショップが開催される。ワークショップもなかなか良いらしい。(昼間スキー用の時間が、これまた露骨に設けられたりするし。。。)

参加する前は計算論的な話が多いのかと思ったら、意外と実験データを見る機会が多かった。いわゆるシステムズ・ニューロサイエンス、といったら良いのか。システムとして実際の脳を研究している話が多かった。実験の方法論は、電気生理はもちろん、fMRI、それからオプトジェネティクスなどなど。

アメリカからの参加者が大半だった印象は受けたけど、日本、ヨーロッパからの参加者もおられた。規模は全体で500人くらいだろうか。ホテルの「大宴会場」に全員入る規模で、みんなで朝から夕方までトークを聞いて、ポスターを夜から深夜まで見る、というスケジュール。なので、すべての発表演題を、みんなでシェアできる。

トークは2時間くらいのセッションに分けられ、まず招待講演者がトークをし、その後、参加者の中から選ばれた人が15分だけトークする。トークの質はなかなかハイレベルだった。ほとんどの人が未公表データを話した。

ポスターは全部で300演題で、1日100ずつ発表。
今回は採択率が80%くらいしかなかったそうで、ポスターも質の高いものが多かった。それだけ密度が濃い。

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メインミーティングに参加して、SFNのミーティングと強く感じた違いは、同じ人と何度も接触する機会に恵まれること。あらかじめ約束してなくても、知り合いと会えるし、新しい知り合いを増やす機会にも恵まれていた。

SFNはでかすぎて、、、と思っているシステム寄りの研究者にはなかなか良いミーティングだと思った。

ただ、ミーティングの初っ端に、オーガナイザーが、
参加者は年々増加しているけど、採択演題数はこの数年頭打ちにしている
と言っていた。

その結果として、演題採択率は年々減少しているらしい。今後、Cosyneが巨大化していくのか、演題数は保ったまま「質」にこだわるのかは注目。

それから、オーガナイザーが他に言っていたこととして、演題を募集してからミーティングが開催されるまで、数ヶ月の時間差しかない、ということ。SFNの場合、半年くらいの時間差がある。

という感じで、未公表で質の高い情報を効率良く収集するには良いミーティングだと思った。

ちなみに、会場のソルト・レーク・シティは、思ったほど寒くなく(平年より暖かめだったから?)、レストランも会場周辺にいくつかあって、少なくとも数日間の滞在には悪くないところだった。ホテルの値段もSFNのそれに比べたら格安(1泊100ドル強)。

という感じで、できれば(お金と時間があれば)参加し続けたいミーティング。

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以下、気になった演題とつぶやきを。
(アブストはすでに公開されていて、引用可能な論文冊子として出版されているので、ブログで少し書いても良いはず。。。たぶん。。。)

Internal representations of the olfactory world, Richard Axel
梨状皮質の神経集団活動をtwo photonで見ていた。マップがない知覚はいったいどうなっているんだろう?、と素朴な疑問を持った。

Multiple-electrodes, brain rhythms, and cognition, Earl K. Miller
「スポットライト」のシフトは面白いと思った。またトップジャーナルでお目にかかれそうなデータか。ただ、テクニカルな点として、Millerさんのトークに限らず、LFPで集団活動をある意味ごまかすのはあまり良くないかもな、と今回フラストレーションを覚えた。

State-dependent cortical processing: Cholinergic modulation of visual responses, M Goard, Y Dan
脳状態と視覚情報処理の話で、ネタ的にうちとかなりかぶっておった。。。やはり解析は、ごちゃごちゃワケのわからんことをして自分の頭を混乱させるより、自分の頭に合ったストレートフォワードな方がわかりやすくて良いよな、と痛感。。。(論文になるまでの「工程」を考慮にいれても。。。)

Selevtive in vivo activation of fast- or regular-spiking barrel cortex neurons with channelrhodopsin, J. Cardin, et al.
論文は最終フェーズとのこと。Mooreさん自ら説明してくれたけど、はじめにラボのヴィジョンを話した後にポスターの内容を説明してくれ、感銘を受けた。Moore研はコンスタントに良い論文を出し、テクニカルにも新しいことを次々に取り入れていて、非常に良いラボ。

Bayesian reconstruction of perceptual experiences from human brain activity, J. Gallant, et al.
現在、「ハイブリッドモデル」で視覚イメージの再構築(reconstruction)を試みている模様。単なる復号化というセクシーなところだけでなく、脳の情報処理について学べるデータも出してくれるところは、さすが、と思った。ただ、質疑応答でもあったけど、「再構築」と言われると、何となく違和感を覚えてしまう。あと、ベイズって、ホントに脳で行われていることなのだろうか。もしそうなら、現象を超えたメカニズム的な部分が気になるところではある。それはともかく、ジョークもうけていて、今回の招待講演者の中で最も印象に残ったトークの一つだった。

Synaptic mechanisms of whisker sensory perception, C Petersen, et al.
暴力的なデータのオンパレードでかなりdepress。。。最後に話した未公表データ、部分的にかぶってたし。。。やはり、良い理論ができるまでは、実験家が目指すべき方向は彼のような方向だな、と再認識。理論にしろ実験にしろ、中途半端が一番ダメ。トークもすばらしく良くまとまっていて、ベストトークの一つだった。

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ちなみに僕はポスター発表

いろんな人に来ていただき、いくつか良いフィードバックをいただきました。
それにしても英語をもう少し何とかせんといかんなぁと、いつものように痛感。勢いで出てくる英語が、後で考えるとワケのわからない文章(文法)だったりしたケースが多々あった。我慢して聞いてもらっている感じなので、いい加減改善させないとこの業界で生きていけない。。。

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ちなみに今回、なぜかフェローシップをもらえた(ラッキー!)。旅費サポートとして500ドル。

アメリカのフェローシップというと、何ページもアプリケーションを書いて、、、と大変なイメージがあるけど、今回のフェローシップは、演題登録時にレターを1ページ、オーガナイザーのCarandiniさんへ送っただけ。CVも推薦書も必要なし。

もしラボから複数の人が参加して、自分が発表するなら、応募資格を満たせる。今回、僕はポスターでもオーラルでもどちらもOK、として演題登録した。結果、オーラルにもスポットライトにも選ばれなかったから、必ずしも演題の質の高さは関係ない気がした(もちろん、自分の研究にはプライドを持ってます!、とは言いますが。。。)。

むしろ、申請したモン勝ち的な印象を受けた。(といっても、来年は知らんから、無責任なことは書けんが。。。)

それから、出したレターも、ボスやネイティブスピーカーに添削してもらわなかったから、日本人でも取りやすいフェローシップな気がした。ちなみに、そのレターでは、資金不足の切実さ、自分の研究をミーティングで発表する重要性を「かなり」強くアピールした。できるだけエモーショナルな部分を重視した。。。

とにもかくにも、Cosyneは、こじんまりとしつつも、システム寄りの質の高い話を聞け、友達を作りやすいミーティングでした。でかすぎるミーティングは、、、と思っている人にはぴったりなミーティングの一つな気がします。