個人的に必読と思った最近の論文を三つ。
覚醒中の脳状態と神経集団活動
ネイチャーのオンライン版から。スイスのPetersenグループの論文。
ネズミ(マウス)の「覚醒状態」といっても、ヒゲを活発に動かしている時と、大人しくしている時がある。バレル皮質2/3層ニューロンの膜電位の揺らぎを調べたら、その覚醒状態の違いによって、ニューロン同士が同調していたり、してなかったりすることを明らかにしている。
ヒゲを活発に動かしている時は、非同期的で、膜電位の揺らぎ方が小さくSN比が大きくなることがわかった。(ちなみに、その膜電位の揺らぎはヒゲからの感覚情報ではなく、脳の内部で生み出されているものである、という主張)
この論文は技術的にも、コンセプト的にも新しく、ネットワークレベルの活動と脳状態を考える上では必読。in vivo patchもついにマルチの時代へ。。。
文献
Nature. 2008 Jul 16. [Epub ahead of print]
Internal brain state regulates membrane potential synchrony in barrel cortex of behaving mice.
Poulet JF, Petersen CC.
Nature. 2008 Aug 14;454(7206):839-40.
Neuroscience: State-sanctioned synchrony.
Cruikshank SJ, Connors BW.
Connorsたちによる解説記事。
昔から脳波レベルで同期状態と非同期状態は知られていたから、コンセプト的には新しくない、ガンマ波が見れないのはおかしい、といった批判的論調。一方で、自分が理解した範囲では、Petersenたちの論文の図4の重要性には触れていない(このデータこそが重要なのに。。。たぶん)。と、かなりバイアスのかかった解説記事という印象を受けたので、あまりお薦めできません。。。
ちなみに、PetersenがFENS(ヨーロッパの神経科学学会)で受けたインタビューをNeuropod7月号で聴けます。
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なぜニューロンは多様か?
サイエンスに掲載されていたKlausbergerとSomogyiによる総説。
こちらも、神経ネットワークから情報処理を考える上で必読文献。海馬CA1に焦点をあて、なぜニューロンは多様なのか?という問題について、Klausbergerたちの一連の研究をまとめながら考察を展開している。この総説はニューロンの多様性に興味がない方にも超お薦めです。
文献
Science. 2008 Jul 4;321(5885):53-7.
Neuronal diversity and temporal dynamics: the unity of hippocampal circuit operations.
Klausberger T, Somogyi P.
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海馬の腹側と空間
サイエンスに掲載されていたMoserグループからの論文。
表面的には、海馬CA3の腹側のニューロンは、背側より広めに空間をコードしている(逆に言えば、論文のタイトル通り、限られた広さの空間を表現している)、という発見。論文の図だけ見れば、何がポイントかわかってしまうという、さすがMoser、という良い論文。個人的には、海馬のスパースコードの解釈を考え直すきっかけになって刺激的だった。Hasselmoが書いたレビューもお薦め。
文献
Science. 2008 Jul 4;321(5885):140-3.
Finite scale of spatial representation in the hippocampus.
Kjelstrup KB, Solstad T, Brun VH, Hafting T, Leutgeb S, Witter MP, Moser EI, Moser MB.
7/26/2008
脳状態、多様性、情報コード:最近の必読論文
posted by Shuzo time 21:56
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