4/01/2008

ウソと脳とGoogle頼み

エイプリルフールネタのフォロー?としてウソ発見器ネタ。
(意図的なウソはないはずです。たぶん。。。)

最近、MRIをウソ発見器として使おうという話がある。それに対する議論がTrends in Neuroscienceで繰り広げられているようだ。(すべては読めていません。。。)

まず、Sipという人たちが、従来のウソ発見器で指摘された問題は、例えMRIを使っても持ち越される問題が多く、被験者の意図と嘘発見器にかける前後の文脈をしっかり考慮にいれないとNG、と警鐘を鳴らしている。
その論文では、ここ最近の研究分野をまとめながら、彼らの意見をまとめている。次世代ウソ発見器に否定的というより建設的な意見を繰り広げているようだ。

それを受けて、Haynesという人(「脳活動読み取り」研究の権威?)が、異を唱えている。最近の洗練された統計処理技術(特に分類法、classification-based decoding methods)のポテンシャルを甘く見てもらっては困る、と。ひとつの脳領域に注目するだけならそりゃ問題やけど、脳の広い活動で考えるとかなり精度はえぇぞ、と強烈な批判を加えている。

それを受けてSipたちは、確かにそれは認めるけど、実験室を超えたリアルな状況ではまだまだ難しそうだ、質問の仕方に工夫するなどの改善が必要である、と的を得ているのか得てないのか、とにかく、以前の主張はあくまでも変えないぞ、という頑固さを見せている。

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さて、何を学ぶ?

次世代ウソ発見器、たとえ広まっても、その信憑性にクレームをつける人はおそらく絶えないだろう。専門家でも意見が割れているのだから。。。中には、自分がわからん処理をゴチャゴチャやって出てきた結果は信用できん、などと本末転倒というか、別の次元の問題を持ち出す人もいそうな気もする。。。

例えば思ったのは、「神は存在する?」という質問に対する答えの真偽を、脳活動の計測データだけで単純に判断できるか、自分にはよくわからん。他の質問との比較で、ウソ寄りの脳活動をするかどうかで分類できるのかもしれないが、ホントにそれで良いのか?という気もする。

その人のそれまでの人生を踏まえて真偽を判断せざるを得ないことも世の中に存在してるのは確かだし、過去の人生がすべて今そこにある脳活動に反映されるか?それをMRIで検出できるか?というとちょっと難しい気もする。(あまり的を得ていないか?)

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ウソ発見器はともかく、個人的に興味があるのは、「分類法(classification)」がどこまで通用するか?という点。

Haynesさんは分類法の有効性を強く主張している。
確かに、ウソ発見器の課題は、ウソ・ホントという2つのカテゴリー分けと単純に考えれば、それで十分な気もする。一方で、人がつくウソはホントに単純な2つのカテゴリーに分けられるような脳活動に還元できるのか、よくわからん。意図的なウソ、意図的でないウソを区別できるのか?分けるカテゴリーをあらかじめ増やせば、それで良いのか?
(と書いていたら、ちょうどvikingさんのエントリーで紹介された論文は関係するのかも?)

それから、分類法というのは、技術的にもいろんな問題がありそうな気もする。少なくとも、ウソのカテゴリーの問題に対しては、Haynesさんも慎重なコメントをしていると理解した。

個人的には、ウソをつく脳内アルゴリズムがもっとよくわからないと、精度は高まらないだろう、という気がする。もし最近話題になったKayたちの研究potasiumchさんvikingさんのブログに詳しい)のロジックでいくと、分類法よりもポテンシャルを持った方法論もありそうだ。

そうだとして、もし脳が実際にやってそうな処理方法に基づいてモデルを立てないと結局はダメだとすると、高精度の嘘発見器の実用化にはまだまだ相当の時間がかかる気もする。

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話はガラッと変わるけど、もっともっと身近な、ブログなり、ウェブページのためのウソ発見器を誰か開発してくれないかなぁ、と強く思う。人を診断するのではなく、文章、画像などがウソかどうかを診断するツール。現時点では、ウィキペディアのように、ヒトがウソ発見器の役割を果たしているが、それに変わるものがないかなぁ、と思う。

Googleにはそれができる気がする。
Googleで働いている人にぜひそんなツールを開発して欲しい。
膨大な世の中の情報を整理するついでに、その整理した情報から統計的な情報を抽出して、各ページの内容の信憑性を計算し、ホント度、ウソ度のようなランキングをつけて、どれくらいウソっぽいか、わかると良いのにと思う。

少なくとも、ブログを読む人はもちろん、ブログを書く人にとっても、非常に有用なツールになる気がする。

(そのツール機能を4月1日にアップされたページだけ解除するとか。。。)

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文献
Trends Cogn Sci. 2008 Feb;12(2):48-53.
Detecting deception: the scope and limits.
Sip KE, Roepstorff A, McGregor W, Frith CD.
Frithたちが、次世代ウソ発見器の開発上の課題をまとめている。

Trends Cogn Sci. 2008 Feb 26 [Epub ahead of print]
Detecting deception from neuroimaging signals - a data-driven perspective.
Haynes JD.
HaynesがFrithに噛み付いた。

このHaynesは
Nat Rev Neurosci. 2006 Jul;7(7):523-34.
Decoding mental states from brain activity in humans.
Haynes JD, Rees G.
というBrain Readingに関する総説を書いている。

Trends Cogn Sci. 2008 Feb 26 [Epub ahead of print]
Response to Haynes: There's more to deception than brain activity.
Sip KE, Roepstorff A, McGregor W, Frith CD.
Frithたちの反論。Frithたちが再三強調しているのが、次の論文。

J Appl Psychol. 2003 Feb;88(1):131-51.
The validity of psychophysiological detection of information with the Guilty Knowledge Test: a meta-analytic review.
Ben-Shakhar G, Elaad E.
PDF
Guilty Knowledge Testというのがウソ発見のための有用な方法らしい。詳細は調べていません。。。

Nature. 2008 Mar 20;452(7185):352-5. Epub 2008 Mar 5.
Identifying natural images from human brain activity.
Kay KN, Naselaris T, Prenger RJ, Gallant JL.
classification-based decodingを超えて、、、ということで、いろんな分野の人に非常にインパクトを与えそうな研究。

自然刺激を人工的な視覚刺激に分解して、それをもとにモデル(実際の神経情報処理に根ざしたモデル)を立てる。そして、モデルを立てるときには見せなかった新規な自然刺激を見たときの脳活動を、モデルを使ってしっかりディコードできた。すごい!

potasiumchさんvikingさんのエントリーで詳細に説明されています。

聴覚の研究をしている自分としては、聞いている音のディコーディングができるのか?と素朴な疑問を持った。(時間解像度の問題)
例えば、聴覚系の一部の神経核でもウェーブレット的なことをやっているという話もあるので、そうやって成分分解した人工刺激をもとに組み立てたモデルを使って、今ガンズの「ウェルカム・・・」を聴いている、とか、クラプトンの「いとしのレイラ」を聴いているとか、そんなことまでディコーディングできると、ホントにすごいと思った。そのためには聴覚生理学者が視覚研究者ばりにもっと頑張れよ、とつっこまれそうではあるが。。。

ちなみに、最近掲載されたNature NeuroscienceのNews&Viewsも非常にわかりやすくてお勧め。
Nat Neurosci. 2008 Apr;11(4):384-5.
What's in your mind?
Wandell BA.
この分野はウソ発見器云々をおいといても、一大分野になるのは間違いなさそう。
MRI2.0?

*引用しまくったのに、TB機能がなくてすみません、vikingさん、potasiumchさん。。。

4 comments:

Anonymous said...

Shuzoさんへ
“脳活動から解析するウソ発見器”
面白いアイデアですね。
今の、“ポリグラフ(ウソ発見器)”は、“心電図、心拍数、血圧”や多分“筋緊張”や“発汗”などから“判断”するようになっていると思いますが、当然、これらの“機能”は脳がコントロールしている訳で、それらがどのように統合的に“ウソを判断”するのか興味のあるところです。
“ウソ”“本当”の判断自体、確かに難しいですよね。

>人がつくウソはホントに単純な2つのカテゴリーに分けられるような脳活動に還元できるのか、よくわからん。

です。女性なんか(女性蔑視ではないです)、どういう脳構造をしているのか、自分でついている“ウソ”を“本当”だと心の底から思い込めるようですし……。
第一、これは“記憶”にも関係してくるのだと思いますが(女性の場合に特に多い=あくまで女性蔑視ではないです)、“自分の記憶を、自分の都合の良いように変える事が出来る”という“特技”を持っている人が多いような気がしますが、そうなると、
「何が“本当”で何が“ウソ”なのか」
解らない状態になってしまうような気がします。
これも、“まともな記憶力と判断能力を持った脳”の所有者の方には適用できても、それ以外の“脳”の所有者には適応は難しいのではないでしょうか?
でも、確かに、面白いですよね。“音響”の専門家に言わせると、“ウソ”をつくと、喉の筋肉が緊張状態になるので、声が“上ずる”って事になるし、これも、脳のどの部位が“筋緊張”をコントロールしているかですね。スペシャリストになると、“声”とその時の“態度”だけで、ウソを付いているかどうかある程度判断できるそうです。
Shuzoさんのアイデア、

>ブログなり、ウェブページのためのウソ発見器を誰か開発してくれないかなぁ

って、行けるかも知れませんね。ブログやウエブページだけではなくて、“文章”の“コンテキスト”と、“語彙”、そして“どのような立場の人物か”位を“基礎条件”とすれば、なんか出来そうな気がします。
これって、もし出来たら“ネット詐欺”の抑止効果も期待できるし、良いですね。
ホント、Googleさん、作ってくれないかなぁ。きっと利用者、すごく多いですよ。

Shuzo said...

こんにちは、阿瀬王さん。
ウェブのウソ発見器、とりあえずは閲覧者頼りで良いなら、googleがプラグインのレポートツールでも作ると良いかも?ですね。
「このページは胡散臭い」と閲覧者が思ったら、5段階評価か何かしてボタンをおすだけで、googleで集計。そして、そのウソ度を検索結果に反映させるとか。

ウソ発見に限らず、閲覧者のフィードバックを集計してそれを検索結果に利用するのは良いアイデアな気がしてきました。ビジネスになりますね。。。

けど、できるだけ多くの人から集計しないといけないから、googleくらいの影響力を持ったところが集計しないとダメですかね。。。

Anonymous said...

> 引用しまくったのに、TB機能がなくてすみません、vikingさん、potasiumchさん。。。

 いえいえ、リンクありがとうございました。でもblogger(blogspot)にTB機能がないというのはちょっと驚きですね・・・。


 あと話は変わりますがエイプリルフールのエントリで引用してしまってすみません! 

Shuzo said...

そうなんです。引っ越して後悔したことの一つです。。。Googleはブログにはあまり力をいれていない感じです。

> あと話は変わりますがエイプリルフールのエントリで引用してしまってすみません!

とんでもないですよ。おかげでアクセスが増えましたし。これからもよろしくお願いします。