5/31/2008

BMI:ニューロン活動でロボットアームを操作して食事する

Schwartzグループ論文がネイチャーに出た。マスコミ(こちらこちらこちらなどなど)、ブログ(こちらこちらこちらこちら)でも話題になっている。

サルが自分のニューロン活動を使ってロボットアームを操作して、餌を食べれるようになった、という報告。

研究者からの視点で書くと:
サルの一次運動野のニューロン活動を計測する。そして、その活動をリアルタイムで解読し、そのサルの肩近くに置いた多関節ロボットアームを操作させ、アームの先にある「グリッパー」で餌を取って食べるようにトレーニングできた、がアウトライン。

この論文はいわゆるブレーン・マシーン・インターフェース(BMI)の最先端研究。

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さて、この論文の新しいところは何か、自分の理解した範囲で書くと:
1.ロボットアームと動物がBMIを利用して(接触・摂食するという意味で)物理的に相互作用できた
2.ポピュレーションベクトル法で複数の関節を持つロボットアームを動かせた
か。

BMIでできることを少し広げたという点が評価されてネイチャーに掲載されたのだろう。

ちなみに、ニューロン活動でロボットアームをリアルタイムかつ遠隔操作した例はすでに報告されていて、ロボットアームの指を動かすことは、ヒトの臨床研究ですでに示されている。という感じで、コンセプトレベルでの新規性はないと言ってしまえばないのかもしれない。確かにこの論文の要旨では、新規性のアピールに苦労のあとが伺える。

実用化へ一歩前進、と言えるのは間違いない。
けど、ニューロン活動の計測方法を根本的に考え直さないと、BMIの本当の実用化にはまだまだ遠い。自分が知っている範囲では、数年、数十年というヒトのライフスパンに耐えるだけ、ニューロン活動(スパイクという意味でのニューロン活動)を計測し続けることに、現時点では見通しがしっかり立っていない。センサーを数ヶ月に一回取り替え、では相当の負担とリスクが伴う。

実用化につながるホントのブレークスルーは、脳にやさしいニューロン活動計測法の開発か。

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文献
Nature. 2008 May 28. [Epub ahead of print]
Cortical control of a prosthetic arm for self-feeding.
Velliste M, Perel S, Spalding MC, Whitford AS, Schwartz AB.

関連エントリー(自分のブログの過去ログのみです)
BCI/BMI特集
脳とコンピューターをつなぐ

関連情報
ブレイン・マシン・インターフェース最前線
日本でのパイオニアである櫻井先生たちによる本。

Brain-computer interface (wikipedia)

2 comments:

Anonymous said...

いつも拝見しております。
素人質問で申し訳ないんですが、、、、ポピュレーションベクターで解釈可能(decording)出来たって事は、それ自体が情報を担っていると考えてはイケナイのでしょうか?それ意外にも情報をコードする方法が有りうるという事を議論する余地はあるのでしょうか?
ちなみに自分もこのビデオ他のソースで見ましたが、自分のやってる実験と比べると天と地の差を感じました。。。。

Shuzo said...

tomiさん、こんにちは。
(私の知ってるtomiさんだったら、「ハイ」と言ってください。。。)

脳が実際に採用している情報処理のことを聞かれていると理解しました。

> それ自体が情報を担っていると考えてはイケナイのでしょうか?

そう仮説を立てるのはイケなくないです。

ポピュレーションベクトル法(population vector algorithm)は、ニューロンの発火頻度の線形加算が基本だと私は理解しています。けど、私見ですが、この研究だけからは、この方法をホントに脳がやっているかどうか議論するのは難しい気がします。

というのは、
1.研究者が毎回線形加算する時の重みなどのパラメーターを計算している(と理解しました)
2.ポピュレーションベクトル法による変換に、サルの脳が「適応」したかもしれない
という2点が気になります。

1では、いわゆる「オーバーフィッティング」の問題が気になります。つまり、この餌取りという動きに最適化されてしまって、どれくらい柔軟に他の動きもできるのか不明です。
もし柔軟性をもった情報を抽出できないとすると、脳内の情報処理うんぬん以前に、実用上も非常に問題です。
(キーボードを叩きたいのに、餌をとる運動をされては困りますし。。。サルが数日でロボットアーム使いになったといっても、一個一個の動作を数日かけてトレーニングし続けないといけないなら、1個の動作につき数日というのがホントに早いのか微妙な気がします。)

2の可能性はあると思いますが、実際に脳がやっている情報処理を知りたいという問題意識の場合、事情がかなり複雑そうで厄介な気がします。脳ができることを知りたい場合にはすごく魅力的な結果だとは思いますが。


> それ意外にも情報をコードする方法が有りうるという事を議論する余地はあるのでしょうか?

もちろんあると思います。今回の論文のロボットアームの動きは実際の手のそれに比べたら不完全ですし。
細かいですが、彼らが使っているニューロンの活動は、いわゆるsingle-unitとmulti-unitがごちゃ混ぜになっているようですので、実際の情報コーディングの問題を考える場合、かなり慎重にこの論文を解釈をする必要がありそうです。


> 自分のやってる実験と比べると天と地の差を感じました。。。。

けど、テトロードなどの高密度電極で記録をしているなら、別の点で彼らの剣山電極よりは良い研究だと思いますよ。少なくとも基礎研究という意味では。
(もちろん、リアルタイムでここまでやってるところがすごい、というのはよくわかりますし、私も差を感じてます。。。)

「素人」と書かれましたが、素人ではないと思いながら、回答してみました。
私の知っているtomiさんでなかったらすみません。。。